青春は疾走だ!
(おかしい、俺は、しっかりと白粉さん(ボクサーパンツ)を穿いたはずだ!)
では、彼女はいったいどこに消えてしまったんだ。
さらに目を下にやると、地面に横たわる白粉さん(人型)を発見した。
「えっ」
彼女は鼻血を出し、目を回していた。
さらに困ったことに、彼女は何も身につけていなかったのだ。
まさしく生まれたままの姿で横たわっている。
「な……」
現実の女子の裸なんて見たこともなかった達哉は、そのあまりの光景に、自分も目を回しそうになってしまった。
(いや、落ち着け、俺! 目を回している場合じゃない! こんな状況、誰かに見つかったらそれこそ言い訳もできないぞ)
と落ちているセーラー服の一式をまとめて拾うと、まだ倒れている彼女に呼びかける。
「白粉さん! これ着て」
「ふぇ?」
ようやく回復したのか、白粉さんは痛がるように頭を抑えて上体を起こした。
咄嗟にだろう、バッと手で自分の大事なところを押さえた彼女は遅れて、
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ、はな、鼻血、ち、血がぁあああああああ」
「いや、叫んでいる場合じゃないでしょ! 早く、これ着て!」
「う、うう」
彼女は涙声になりながらも、差し出されたセーラー服を受け取った。
達哉は白粉さんの着替えを覗かないように注意を払いながら、手探りで落ちているズボンを見つけて、はく。
あとは、パンツを見つけなければ、と焦っていると、
「おい、こっちから悲鳴聞こえなかったか?」
「部長、あっちッスよ。格技場の裏」
柔道部が帰ってきたのだ。
こちらに近づいてくる声に焦って、冷や汗がたらりと垂れる。
思わず、背後の白粉さんを振り返ってしまい、目が合った。
まだ半脱ぎ状態だった彼女も真っ青になっていた。
達哉は、ともかく早く服を着ようというアイコンタクトを送る。
意図が伝わったのか、彼女は素早く頷いた。
「青隈君、そこのフェンスを越えてここから脱出しよう」
ブラウスのボタンがチグハグでスカートは土まみれという、犯罪の匂いがするようなボロボロの格好だったが、切り替えの早い彼女はすでにフェンスへ走っていた。
結局、パンツが見つからず、ノーパンでズボンをはいた達哉もそれを追いかける。
三メートルはあるフェンスに飛びつき、死にものぐるいで駆け上がるとその頂上から飛び降りた。
着地に失敗して、つんのめる。授業で練習した前回り受け身だ。
あまりうまく決まらず、アスファルトに肩をしたたか打って痛めたが、今はそんなこと気にしていられない。
柔道部に気づかれる前に、この場から逃げなければいけないのだ。
白粉さんを気遣おうとして彼女を探したら、プロのスプリンター紛いに疾走していた。
「早っ」
追いつこうと全速力で走るのだが、男子高校生の足を持ってしても、彼女に追いつくのは不可能だった。
なにせ彼女は疲れることを知らず、なおも速度を上げて走っていくのだ。
これがヴァンパイアの身体能力かと納得する。
牙を見せられた時よりもなによりも今が一番、彼女のいう『ヴァンパイア』を意識した瞬間かもしれなかった。
「ま、待ってくれ!」
その声はきっと届かなかっただろう。
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