このヴァンパイアガールは思春期が爆発しているッ!

異種間の青春はちょっとエッチで甘酸っぱい。
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9話目 甘酸っぱい感じですが、ボクサーパンツになって、もっこりに「ふぉぉぉ」と叫んでいた美少女ヴァンパイアです。

公開日時: 2020年9月5日(土) 16:28
文字数:3,243

 紗々萌はそのもっこりを見た瞬間、顔が一気に熱くなるのを感じた。


 ドクドクとヴァンパイアの血が沸騰していることにも気づいた。


 見ていることが恥ずかしいとも思った。


 慌ててきびすを返し教室から出ると、保健室に行って体育を欠席した。


(あの日から一週間、まともに眠れなかったんだよね……)


 眠ろうとすると、彼のボクサーパンツが瞼の裏に浮かんで、いざ寝付いたとしても、夢の中までボクサーパンツがやってきて、うなされる。


(あのもっこりが、わたしを寝かせてくれない!)


 その不眠は解消したけれど、モヤモヤはずっと残っていて。


 紗々萌はその悩みをいつか解決したいと思っていた。

 

(もし、あのもっこりの正体を見ることができれば、このモヤモヤはなくなるのかな)


 それであんなお願いをしたら、親切な彼はこちらの無理難題に応えてくれたのだ。


 もし、自分が男の子で、特に仲がいいわけでもない異性にそんなお願いをされたとしても、絶対に引き受けないだろう。


 それどころか、その後、学校ではなるべく顔を合わせないようにする可能性だってある。


 こんな薄情な自分と違って、彼はとても気の良い奴なのだ。



「いい人だな、青隈くん」


「……そ、そのいい人を置いて逃げるな……」


「あ! 青隈くん!」



 紗々萌は、公園の入り口に目を向ける。


 入り口にあるポールに手をついて、ぜえぜえと肩で息をしている青隈くんがいた。


 紗々萌は苦笑した。


 青隈君を置いていったことに対してというより、彼の裸を見てしまったことへの罪悪感によって。


 けれども、ボクサーパンツは目も耳もないと言う設定がある。


 気取られないようにしなければと、心を引き締めた。



「ごめんね。まさかあんなことになるなんて。もっと気をつければ良かった」


「い……いや、俺も迂闊だったよ。というか、あの場所を指定したのは俺だし、謝るのは俺の方だな。ごめん!」


「え、あ、それなら変なこと言い出したのはわたしの方だし。……あの、水に流すってことはできないでしょうか?」


「あー、うん。了解。水に流すってことで」


「ありがとう、青隈くん! 君っていい奴だな、やっぱり!」



 そう言って何気なく笑うと、青隈くんは口を真一文字にして、そっぽを向いてしまう。


 それは、一年生の頃から変わらない彼のリアクションだった。


 このまま見つめていれば彼は立ったまま寝たふりをするのだろうか、と興味が湧いて、紗々萌は彼をジッと見つめ続ける。


 しかし、さすがに立ったまま寝たふりはしてくれなかった。



「な、なに?」


「え、あ……ううん! 今日はありがとうってだけ!」


「うん」



 青隈くんはちょっと残念そうだった。


 なにかして欲しいことでもあるんだろうか。


 罪悪感の塊となった今だったら、どんなことだって叶えてあげられそうだった。


 彼が望んでいること……望んでいること……。


(あ、お礼だ!)



「青隈君、ジュースおごってあげるね!」


「え? 白粉さん、喉渇いているの? じゃあ、俺が買ってくる」


「それじゃダメだよ。お礼なんだから!」


「それこそ俺のほうがしなきゃ」


「ほぇ? どして?」



(ボクサーパンツをはいてくれたのは、青隈くんの方だよ)


 紗々萌は小首をかしげる。


 すると、彼はまた視線を外して、頬をかいた。



「えっと……今日来てくれたお礼……っていうか……。い、いいからさ、座ってて!」


「え、青隈くん!?」


「待っててよ、そこの自販で買ってくるから!」


「あれま、行っちゃった」



 お礼しなくちゃと思ったのはこっちだったのに。


(もしかして女の子にお金は出させないでござる的な、あれかな? んー青隈くんって、けっこう硬派なんだなぁ)


 紗々萌はベンチに座り、その後ろ姿を見つめる。


 二歳の時に亡くなった父親のことを思いだした。


 といっても、病弱な父とは、一緒にどこかに行ったという思い出らしい思い出はない。


 ただ、背中が大きくて、その背におぶってもらった記憶だけはおぼろげにあった。



「お父さんって、青隈くんみたいな人だったのかな?」



 そんなふうに感じた。


 青隈くんは、ペットボトルのお茶と缶ジュースを手にして戻ってきた。



「お待たせ。これで良かった?」


「あ、うん。ありがと」



 お茶を受け取り、キャップを外して一口飲むと、ほのかに苦みが広がった。



「白粉さん。その、隣り座っていい?」


「ん、ごめん、気が利かなくて。どぞ」



 腰をずらして端によると手で指し示す。


 紳士的な青隈君は、位置を探るようにゆっくりと腰を落ち着けた。


 座った後、彼はしばらく固まっていた。


 と思いきや、口の辺りをふにゃりと和らげてにやける。


 その瞬間、唇を引き締めた。硬い表情のままジュース缶のプルタブを起こして一気に飲み、ごほごほとむせていた。



「大丈夫、青隈くん?」


「うん、平気平気」


「気をつけてね。人間は体が弱いんだから」


「ヴァンパイアだったね、そういえば」


 

 忘れていたかのようにそう言って、彼は怖がるでもなく笑った。


 なぜかその笑顔が残像のように残って頭から離れない。


 なんでだろうな、なんて考えていると、いつのまにか会話がなくなっていた。

 


「あ」


「どうしたの?」


「俺、鞄、学校だ」


「わたしもだ! 忘れてた!」


「ま、俺は基本置き勉だからいいけどさ」


「んー。わたしは夜の学校に忍び込むかな。あそこの妖怪さん達にも久々に挨拶したいし」


「学校の妖怪……。やっぱりトイレの花子さんっているの?」


「トイレにいるのは静香さんだよ。優しいお姉さん」



 静香さんにも最近会えていないなと言ったら、青隈くんは目を点にしてしまっていた。


 その顔が面白かった。


 まるでワンちゃんのかわいい仕草の動画を見ているみたい。


 犬みたいなんて言ったら、彼は怒るかな。


 どんな顔をするんだろう?


 ちょっと怖いからやめておこう。


 紗々萌は日和って、男の子が食いつきそうな話題を話すことにした。


(男の子って、『おっぱい』好きなんだよね)


 

「静香さんね、おっぱいすごい大きいんだよ! すごいよ!」


「え! 大きいんだ……」


「あー、やっぱり男の子っておっぱい好きなんだ。大きいのがいいの?」


「いや、俺は、べつに、女の子がその……胸だけじゃないと思っているし」


「ふふっ。いいんだよ。わたしも静香さんのおっぱい好きだもん。良い匂いがするんだよー。あれは天国だね」


「天国……っ」


「あはっ、生唾飲み込んだ~」


「いや、違うよ。そういう意味じゃないから!」



 地域放送をするスピーカーから懐かしい音楽が聞こえてきた。


 気づけば午後五時になっていた。


 影が伸び始め、公園で遊んでいた幼稚園くらいの男の子がお母さんに手を引かれて帰って行く。



「そろそろ帰らないと!」



 立ち上がり、青隈くんを振り返る。


 つられたように彼も立ち上がったが、その動作は緩慢だったし、どこか帰りたくなさそうな気配もあった。


 もしかしたら、もっと話していたかったのかな、なんて紗々萌は調子に乗ってしまう。


(いかんいかん……調子に乗りすぎだぞ、わたし~ッ)


 そんなわけないかと紗々萌は歩き出し、彼もついてきた。


 二人揃って公園を出て、商店街を香御山の方向に歩き出す。


 チェーン店のラーメン屋と小さな本屋が隣り合っているところで、



「俺、こっちだから」


「じゃ、また明日だね」



 紗々萌は青隈君に笑いかける。


 しかし、彼は浮かない顔だ。



「うん。あのさ……」


「ん? どうしたの?」


「……いや、なんでもない。また今度言うよ」


「そう?」



 紗々萌は、もしかしたら今日呼び出したことなのかなと、なんとなく思った。

 

 友達は「告白だよ」と言っていたが、紗々萌は「ありえない」と断言した。


 だって、彼とはあまり話したこともなければ、目を合わせても寝たふりをされてしまうくらいの仲なのだ。


(好きになる以前の話でしょうが)


 それに、紗々萌は、面と向かって告白なんて今まで一度もされたことがなかった。


 一年生の時に、上級生からメールで告白されたことがあったくらいだ。


『面と向かって言えないなら返事はNO』と返信したら、あっさり引き下がっていった。


(好きなら直接言いに来て欲しいな、くらいの気持ちだったのに……)


 噂に反して、白粉紗々萌は、恋に縁遠い女の子だった。


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