女子高生クレーマー・ナノカの悪魔的ツンデレ推理ショー!

正義の叱り屋少女が挑むは、ちょっと不思議で奇妙な青春の謎!
夜野舞斗
夜野舞斗

12話 派手にやっちゃいましょうか

公開日時: 2020年9月6日(日) 17:13
更新日時: 2020年9月7日(月) 20:46
文字数:3,225

 ……真実の流れが分かった。困っている人がいる事実も理解した。となると、やるべきことはもう一つ。

 相手が聞いてくれるステージを用意しないと、ダメだ。ついでに犯人があの大切な意味を持つ手紙を持ってきてくれるだろうか。


「ううん。ナノカ。あの手紙を普通に犯人に頂戴って言っても……」

「しらばっくれるに決まってるじゃない。それに、今の犯人がまともに話を聞いてくれるかしら? ねえ、理亜ちゃん」

「無理だろうな。この時間、絶対『帰りましょう』って言われて翌日には証拠隠滅がオチなんだよな……一応、証拠があるが、絶対的なものではない。否定されてから『今日はもう遅い! 帰ろう!』って逃げられたら……って何で最初私に聞かなかった。情真」

「いや、つい、近くにナノカがいたから」


 突然、子供みたいにすね始める理亜。彼女は「そうか。じゃあ、私はこの近くにあるスナック菓子か花火にでも話し掛けりゃ、いいのか?」とぶつぶつ呟いている。ナノカは呆れ顔で彼女の肩に手を付ける。


「今、そこじゃないでしょ」

「……いや、そこだ……」

「はっ?」


 ナノカは理亜の発言をおふざけだと思ったのだろう。しかし、違う。


「怒るなナノカ。彼女は彼女で何か、考えがあるんだ……」

「えっ!? そうなの!?」


 理亜が今見せている顔は至って真剣そのもの。思い付いた行動を絶対に成し遂げてやろうという表情だ。これだけ恐ろしい少女の姿などそうそうないぞ……!

 で、一体何をやろうと言うんだ。こういう時の理亜は身の安全など保障しない。

 僕とナノカは内心、自分たちが危険なことをやらされないかとハラハラしながら彼女を見守っていた。


「折角、事件が解決するんだ。その前に一発花火でも打ち上げて祝ってこうぜ!」


 


 こうして、野球部も帰った無人の校庭に出て。花火に点火することとなったのである。理由は一切聞かされていない。理亜はただ、「説明している暇はない。ナノカも分かってるだろ。これは人助けのためだ。違うと言うのなら、後で話を聞こう」と言っていた。

 理亜はナノカの怒りも弁舌で回避して、僕を引きずっていく。

 ……これが教師や他の人に見つかって、騒ぎになったらどうするのか。ふとそこからネガティブな考えを思い起こしてしまったが。ナノカが「チャッカマン貸してくれない? こういうの点けるの一番手慣れてると思うから」なんて言ってたり、理亜が「大丈夫だ。他の先生には言ってある」との趣旨を話していたりして、気が緩んでいく。


 何か高校生の雰囲気だ(やってることはかなり不良気味だけれど)。

 

 そんな僕たちの上空で花が咲く。花火から噴き出された光が四方八方に飛び散って、その残光が輝いている。

 犯人をおびき出す作戦とか、どうでもよくて。これはこれで幸せなのかもしれない。好きな人や大切な仲間と一緒にふざけたことができるのだから。バカができるのだから。

 こうやって、バカできるのが生きてる証拠なんだよな。

 実感できる幸せを僕以外の人にも届けないと。この幸せはここにいる三人だけで味わってはいけない。いこう。

 こちらに向かってくる犯人の影を理亜が真っ先に捉えていた。


「さて。そろそろ事件の黒幕がやってくる」


 一歩一歩。相手はこちらに近づいてきている。

 そこでチャッカマンを地面に置いたナノカが花火を背中にして、神聖なる言葉を紡いでいく。

 

「……そのままでいいの? 貴方はそのまま終わっても何の悔いもないのかしら?」


 ついでに犯人が逃げないように、一歩詰め寄ってもう一言。その姿は世界一不思議な美少女クレーマー。


「神様の話だから、聞かないことなんては許さないわよ!」


「……ちょっと待って。何の話かしら……。悔いがないって、後悔するのは貴方たちでしょ。こんなところで花火なんかして! ナノカちゃん。真面目な子だと思ってたのに……こんなふざけたことをするなんて……!」


 彼女に対するは、僕たちが推測していた存在……深森瑠奈先生だった。


「ぐっ!」


 先生からの注意は優等生からして、かなり痛い出来事であろう。僕は何も言えず、彼女を憐れんだ。って、僕も一緒に怒られてるんだけれどね……。


「ナノカちゃん、後の二人も反省文の前に……そこにあるチャッカマンを没収させてもらうわよ」


 理亜が後ろから「耐えろナノカ。反論をしろ」と先生に叱られて精神攻撃を食らっているナノカに容赦ない指示を出す。ナノカも理亜を信頼して、苦い顔をしながらも口を開けていた。


「ダメです」

「えっ?」


 ナノカが言った。


「先生が三枝先輩の持っていた大切な手紙を燃やしてしまうでしょうから、絶対にダメなんです!」

「えっ!? 手紙っ!? 手紙を盗んだのは、それは五万円を狙ってた犯人なんでしょう? 何で、私が手紙を取ったことになってるの?」


 彼女の言葉を当然のように否定する。そこでナノカが追撃だ。


「ああ……すみません。その推理は訂正させてください。三枝先輩は『次期キサラギ駅長』のことをお金を狙ってる人とは考えていなかったのかもしれません」

「何で? って言うか、キサラギ駅長の正体すら分かってないじゃない! キサラギ駅長って誰なの?」

「先生、違います。キサラギ駅長でなく、『次期キサラギ駅長』です」


 その指摘に深森先生は非常に渋い顔をする。彼女自身も分かっていたようだ。次期キサラギ駅長の正体に。

 黙り込む先生の隣にいつの間にか理亜が忍び寄っていて。隣から如何にも怪しい顔で解説を始めている。


「『次期キサラギ駅長』、今回の事件に散りばめられた……キサラギ駅にいるなんて、ふざけたメールなどなど……キサラギ駅の要素を出ていて他の人たちには分からなかった。そう三枝先輩は」


 そう。キサラギ駅に隠された本当の意味を三枝先輩は……。


「そうそう。かものペペロンチーノしてたってわけだね」


 あれ、自分で口に出してみたものの違うことは一瞬で分かった。ナノカが横からツッコミ。


「カモ・フラペチーノよ! ……あれ」


 最後に理亜が僕たちを少々睨みながら、言葉を訂正してくれた。


「ややこしくするな! お腹すいてんのか!? カモフラージュだ! 三枝先輩はキサラギ駅の怪異の方を部員や私たちに想定させて、本物の人物だけ、怪異以外の真実を伝えようとしてたんだ。そう『次期キサラギ駅長』に、な」

「理亜ちゃん……怪異以外って何なのよ!?」


 深森先生の疑問にそう焦るなと小声で告げる理亜。


「指示だ。『次期キサラギ駅長』……に指示を……おっと。その前にその『次期キサラギ駅長』が誰だかを言わないとだよな。分かるよな。弥生さん? なあ、弥生さん?」


 深森瑠奈、イコール弥生。理亜や僕たちはそう考えている。以前、先生が違う女性の名前で三枝先輩に呼ばれたと言っていたが。きっと、これだ。

 

「や、弥生……! 何でそんな……」

「簡単な連想問題だ。苗字のいの漢字は『』と読むことも可能だ。そして、名前の瑠奈ルナっていうのはローマ神話に出てくる月の女神であり、ラテン語でそのままを意味している。だから、まず、この言葉が連想される。三月みつきとな!」


 ……そうか。椨木先輩は三枝先輩がその名前を口にしていたのを、そのまま真似したのかもしれない。それがだんだんと訛って、いつしかミキになっていた……。

 たぶん、深森先生はこのロジックが分かっていた。理由は後にして。それを隠したかった。だから、彼女に「ミキ」の名前の由来を口止めしたんだろう。それ位なら物理を教えている間にちゃちゃっとできてしまうし。


「で、三月……十二月だと先生が走る時期ということで師走という別名があり、三月は弥生。二月は如月キサラギ! そっ。弥生の渾名を持つ、深森瑠奈先生が如月の次、『次期キサラギ駅長』だと私たちは推測した!」


 そこまでバレていることに対し、相当困惑しているのであろう。深森先生は両手をこちらに出し慌てて、反駁はんばくする。


「ちょっと! で、三枝くんは私がキサラギ駅長だと考えていたとして! 私がお金を狙っていたって、告発したかったの!? 私がそんな人間に思われてるの!? ねえ、ちょっと!?」



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