異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

52話 悩みの種と新たな可能性 -3-

公開日時: 2020年11月20日(金) 20:01
文字数:2,137

「四十区は木こりギルドの本拠地だからね」

「木こりギルド?」


 初めて聞く名だ。

 まぁ、薪が生活に欠かせないこの街において、木こりは必要不可欠な職業だろう。木造の家も多いしな。


「木こりギルドは街の外の木に対する大きな権限を持っているんだ。さすがに『許可なく木を伐るな!』とまでは言ってこないけどね。不測の事態もあるから」


 森での活動において、必要に迫られて伐採することはあるだろう。

 それにいちいち許可が必要だというのなら、森での活動など出来ない。最悪、命に関わるような出来事だってあるのだから。臨機応変に対応できなくなるような決まりは作るべきではない。


「ただし、樹木の大量伐採に関して木こりギルドはそれを糾弾する権利を与えられている。これは、自然環境保護の観点から、かなり強い強制力を持つ権限なんだ」


 どこかの領主が薪代をケチるために外壁の外の木を大量に伐採し領内へ持ち込んだりした場合、木こりギルドがその領主を糾弾し、以降相当きつい制裁を加えることが出来るのだそうだ。……それってかなりな特権じゃないか?


「木の独占じゃねぇか」

「まぁね。でも、彼らはプライドの高い職人たちだからね、職権乱用に走る心配はあまりされていない。ただ……」

「ただ?」

「さっきも言った通り、木こりギルドが拠点を構える四十区以外の入門税が高過ぎるんだよ。それにも一応、環境保護という理由はつけられているけど……正直、不満も出ている」

「まぁ、権力を使って利益を独占してると思われても仕方ねぇわな」


 エステラが補足したところによれば、木こり以外の者がいたずらに木を伐採しないように制限するための措置なのだそうだ。森のバランスはマクロな視点で捉える必要があり、一部でも滅茶苦茶にされると生態系が狂ってしまうのだとか。

 住処を壊された獣が他の場所へ移動し、元からそこにいた獣を追いやってしまう……みたいな悪影響を考えてのことだろう。


「ただ、木こりギルドの人間がいればどの門を通っても税金は限りなく安くなる。その区の領主も木こりギルドとは懇意にしておきたいからね」

「夜、寒いもんな」

「木がなければ料理も出来ないし、家も建てられないからね」


 木こり最強説が浮上してきたな。


「んじゃ、木こりを呼んで木を伐ってもらうしかないってわけか」

「そうしたいんだけど……」


 エステラの表情が冴えない。

 そんなものはとうに検討したと言わんばかりの諦め顔だ。


「高いのか?」

「技術職だからね。それに、彼らの多くは木こりギルドに義理立てして、四十区の街門以外は使わないんだ。そうなると輸送費もかかる」

「なんだよ、義理立てって……」

「四十区の領主が木こりギルドのおかげで潤えば、領主は木こりギルドを優遇するだろう?」


 そのために、ギルド構成員は四十区の街門だけを使ってるってのか?

 オタサーの姫が「あたしぃ、春のパンのお祭りの点数集めてるのぉ~」と言ったら、サークルメンバーがこぞって点数シールを献上しに来るような構図か?

 なんだ、そのご機嫌取り……


「それに、自分の腕前や成果を見せつけたいとも思っているようだよ」

「ギルドの偉いさんにか?」

「偉いさん……と言えばそうだけど」

「違うのか?」

「ギルド長にはとても美しい一人娘がいてね。たしか今年で十八歳だったかな」


 それで、猛アピールしてるってのか、その『花婿候補(自称)』どもは。

 ……まんまオタサーの姫状態じゃねぇか。


「彼女は美しいものが好きみたいでね……そのせいか、ここ最近市場に出回る木材は傷も少なく反りもほとんどない美しいものばかりらしいよ」

「丸太の美しさで求婚してんのか? どうかしてんだろ」

「もちろん、それだけで決まりはしないだろうけどね」


「まぁ、綺麗な丸太っ! 結婚してっ!」って。……そんな女がいたらこっちから願い下げだけどな。


「けどよ、全員が全員そんなヤツばっかじゃないんだろ?」

「もちろん、効率優先で他の門から入る木こりもいるよ。主に、妻子持ちや昔気質の職人さんなんかがね」


 つまり、若い連中は木こりの国のお姫様に夢中ってわけか。


「んじゃ、ジジイをメインに仕事を依頼してみるか」

「けど、四十区に比べて高い税金と輸送費は相当痛手だよ。老齢のベテラン木こりを雇うのもお金がかかりそうだし……」

「外で加工するのはどうだ? 森で木を伐って、その場でおがくずにしちまうんだ。丸太を持ち込むより税金は軽くならないか?」

「外でおがくずに…………いや、無理だ」

「なんでだよ?」

「あんな魔獣が跋扈する森の中で、誰がおがくずなんかを作るのさ。丸太を切り刻むのだって相当時間がかかるはずだよ」

「狩猟ギルドの連中でも護衛に付けて……」

「余計に高くつくよ」

「…………だな」


 実に面倒くさい話になってきた。

 この街に住む以上、入門税と輸送費はどんなものにも絡んでくる。

 それが物の値段の半分くらいを占めていると言っても過言ではない。


 どうにかして入門税と輸送費を節約できないものか………………あっ、そうか。


「あるじゃねぇか。簡単な解決方法が」

「えっ!? な、なんだい!?」


 ググッと身を乗り出してくるエステラ。目がキラキラしている。相当頭を悩ませていたのだろう。ま、でなきゃ俺に相談なんかしないよな。

 ならば、そんな悩めるエステラに天啓を授けてやろう。


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