異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

127話 大食い大会四十二区代表者選考会 -4-

公開日時: 2021年2月3日(水) 20:01
文字数:2,354

「準備が整いましたよ」

 

 ナタリアから合図をもらい、いよいよ、大食い大会選考会大人様ランチ部門開始だ。

 高らかに鐘が打ち鳴らされ、参加者が目の前の料理に食らいつく。

 ……ベルティーナ、誰よりも早く一皿目を完食。

 ジネットの顔色が真っ青に染まっていく。

 三枚いったら強制終了させてやる。

 

「すごい食べっぷりを披露する選手がたくさんいますね。みんな気合い十分です!」

 

 拳を握り、ネフェリーの実況にも熱がこもる。

 観客席から声援が飛び、選考会は大いに盛り上がる。

 軽快に飛ばす者、ペース配分に気を付けてマイペースを貫く者、周りの選手を意識し過ぎて流される者……いろいろである。

 

 ただ一つ、全選手に共通していることがある。

 

「美味いっ!」

「おいしい!」

「やべぇ! マジパネェ!」

 

 どの選手も美味そうに食っているってことだ。

 俺も味見してみたのだが、自信を持って勧められる、高水準な料理だった。

 

「考案者の関係者として、負けるわけにはいかないです!」

 

 ロレッタが変なプライドを持って健闘している。

 何より、美味そうに食っているのがいい。好ポイントだ。

 

 枠が余ったらあいつを入れておこうかな。四十二区の料理のターンで投入すればいい宣伝になるかもしれん。

 

「ねぇ、ヤシロ。イメルダも参加してるよ」

「マジでか!?」

「……何やってんだろうね、立場的に大食い大会には出られないだろうに」

 

 参加者の中に、金髪を片手で押さえつつ優雅に食事をするイメルダがいた。

 あいつは立場上四十二区の代表にはしにくいのだが……なにせ、身内が四十区の有力者なのだ。裏取引みたいなきな臭い工作を疑われでもしたらつまらんので、四十二区の代表には選出しないと伝えているはずなんだが……まぁ、選考会くらいはいいか。

 

「勝つ気は一切ないようだな」

 

 イメルダは、実に優雅に、小さな口に入るよう細かく切ったソーセージをもぐもぐ食べている。

「あら、なかなかですわね」なんて、口を手で押さえて目を丸くしたりして……普通に飯を食べてるだけにしか見えない。

 

「特に注目する必要もなさそうだね」

 

 俺もエステラの意見に賛成だ。

 そっとしておいて、お腹いっぱいになったらお引き取り願おう。

 

「あと、レジーナも参加してるわよ」

「マジでかっ!?」

「どこだい!?」

 

 イメルダよりもビックリなヤツが出てきたもんだ。

 ネフェリーの指さす先を凝視する俺とエステラ。

 

「……アカン……人に見られてたら、ご飯食べられへん……」

 

 レジーナは、観客の視線を避けるようにテーブルの下にもぐり、一切料理には手を付けていなかった。

 ……何しに出てきたんだよ、あいつは。いや、マジで。

 

 ベルティーナ、マグダ、デリアの順で三皿目を平らげ、三強は早々にリタイアをする。……強制的にさせた。

「まだ行けますよ?」

「……四十五分間を体験することの有意性に関し話し合いたい」

「なんだよぉ、まだまだこれからなのにさぁ!」

 などと不満を漏らしていたが、……他のヤツが二皿目に行くかどうかの時点で三皿をペロリと平らげる連中には早々に退場してもらわなければいけない。

 もう、お前らはぶっつけ本番で十分だろう。

 

 その後、ウーマロも一皿を食べ終えて「今日のオイラは適度なんッス」とリタイアをした。

 まぁ、マグダのかかっていない状態のウーマロはこんなもんだろう。こいつは覚醒させてナンボだからな。

 

 確定している四選手を省き、残りの連中で選考会を続ける。

 これから四十五分の長丁場、どんなドラマが生まれるか……見せてもらおうか!

 

 

 

 

 

 ……で、四十三分が経過したわけだが。

 

「もう、食えない」

「……Zzz」

「おいしかったねぇ」

「また食べに行こうよ」

「この旗、もらってっていいのかい? いや、ウチのせがれがさぁ……」

 

 どいつもこいつも、腹が膨れた途端手を止めやがった。

 これじゃ普通のランチじゃねぇか! 屋外で食べると美味しいねぇ~って、言うてる場合かっ!

 

「こんなことなら、ベルティーナたちをリタイアさせるんじゃなかったぜ」

「そうしたら、三強がいい感じで食べて、料理番も練習になったのかもね」

 

 料理番たちは余裕の表情を見せている。

 二十分を過ぎたあたりからほとんど注文が入らなくなっていたからな。

 とりあえずロレッタが今でも食べ続けているが……まぁ、見られたもんではないな。

 

「カンタルチカのソーセージは……空腹時には最高なんですが、満腹時には……看板娘さんみたいにくどくてしつこい感じがするです……」

「ちょっと、ロレッタ!? それあたしのことでしょ!?」

 

 辛うじて食い続けている。

 そんなレベルだ。

 

「選考会としては、失敗だったかもね」

「かもじゃなくて、完全に失敗だろうが」

 

 エステラの激甘な評を訂正しておく。

 これじゃ、残り二枠を埋める選手を選ぶなんてことは出来ない。

 

「まぁ、前もって申告する必要はないんだし、状況を見てってことでもいいんじゃないかな?」

「まぁ、三強で三勝……ダメでもウーマロで決める予定だからな」

 

 別にロレッタでもネフェリーでもパウラでもいいわけだ。

 

「じゃあ、今回は……」

「まぁ、大人様ランチの受けがいいってことは分かったから、よしとするか」

「派手な宣伝だったね……」

 

 結局、四十二区の新メニューお披露目会ということになってしまった。

 まぁ、いいか。

 

 高らかに鐘が鳴り、四十五分の激闘が終了する。

 ……なんともまったりとした戦いだった。

 本番ではこうならないようにペース配分を考えてもらいたいものだ。

 

「お兄ちゃ~ん! あたし、一番食べたですよ~!」

 

 と、六皿という、普通に考えればすごいのだが大食い的にはイマイチというなんとも微妙な記録を残したロレッタが優勝ということになった。

 う~ん……やっぱりアレだよなぁ。

 ロレッタが絡むと、いつもこう……

 

「普通だよなぁ」

「酷いですっ! こんなに頑張ったですのにっ!?」

 

 残りの二枠は、状況を見て選出するとしよう。

 

 

 

 

 

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