異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

89話 特別なもの -2-

公開日時: 2020年12月25日(金) 20:01
文字数:1,638

 早朝のバタバタした一件が終わり、朝の日課を済ませた後、陽だまり亭は本日もオープンした。

 

「大丈夫かなぁ……ちゃんと受け取ってもらえるかなぁ? ウチの旗……」

「まぁ、そう心配すんなって」

 

 教会で合流したエステラは、今日も今日とて不安そうな顔をしていた。

 こいつ、メンタル弱いなぁ。

 まぁ、ドーンと構えとけよ。たぶん、うまくいくからよ。

 

 晴れていようが雨が降ろうが、エステラが沈んでいようが、時間というものは等しく同じ速度で流れ、そして、この街の人間の生活サイクルもまた規則正しく、ほぼ毎日、同じような面々が飯を食いに来る。

 

「はぁぁぁん! マグダたん今日も今日とてマジ天使ッスー!」

 

 と、関係ないヤツのことは今回はスルーして。

 なんだかんだと忙しなく働いているうちにランチタイムが終わり、そしてこの時間がやって来た。昨日の親子連れが続々と集まってくる。

 

 さぁ、勝負の時だ。うまく食いついてくれるかな……っと。

 

「ようこそ陽だまり亭へ」

 

 来店した母子に、ジネットが接客を開始する。

 

「それじゃあ、日替わり定食と、この子にはお子様ランチを」

「かしこまりました。マグダさん!」

「……かしこまり」

 

 ジネットに呼ばれ、マグダが大きな箱を持ってジネットのいるテーブルへと近付いていく。マグダと入れ替わるようにジネットは厨房へと下がる。

 

 マグダが持ってきた箱は、段ボールを立てたような大きさで、下部に大きな取り出し口がついており、さながら小さな自動販売機のような形をしている。

 というか、こいつはまんま自動販売機を小さくしたようなものなのだ。

 

 内部の構造が複雑で、さすがにベッコにコピーさせるのは酷かと思い諦めかけていたのだが……情報を漏洩した罰と言って作らせてしまった物だ。昨日半日かけて、かなりいい物が出来た。

 

 小型自動販売機には三つのレバーがついており、そのうちのどれかを引き下げることで、下の取り出し口に旗が落ちてくる仕組みになっていた。

 今あるガチャガチャよりも、昔あったコスモスというガチャガチャに近しい。

 

 今後はこの小型自販機を使って、お子様ランチを注文した子に旗を選んでもらう仕組みに変えるのだ。

 

「……押して」

 

 マグダに促され、ガキが小型自販機のレバーを引き下げる。

 すると、取り出し口にケースに入った旗がぽとりと落ちてきた。ほら、一応ピラフに差すものだからな。衛生的にしておかないと。

 ちなみに、このケースは可能な限り回収させてもらう。経費削減だ。

 

 さて、どこの旗が出たのかな……

 

「あっ! …………うぅ……」

 

 ガキの表情が曇る。

 ガキが引き当てたのは、領主の旗だった。

 ドンピシャだ! 偉いぞガキ!

 

「……大当たりー!」

 

 カランカランと、マグダがハンドベルを鳴り響かせる。

 

「へ? え!?」

 

 突然の状況に、ガキはあたふたと周りを見渡す。

 昨日まではなかった出来事に戸惑っているのだろう。

 そんなガキが、すぐに次の動きを察知して、「あっ!」とそちらへ視線を向けた。

 

 ガキの見つめる先には、ロレッタがいた。

 ハンドベルの音を聞いたロレッタは、小さな袋がたくさん入った箱を持ってガキの座るテーブルへと歩いていく。

 今度はロレッタがマグダと入れ替わりテーブルの前に立つ。

 

「領主様の旗は大当たりです! おめでとうです! この中から好きな袋を一つプレゼントするです!」

「ホントッ!?」

 

『当たり』と言われて喜ばないガキはいない。

 店内の視線……特に他のガキどもの視線が当たりを引いたガキに集中している。

 みんな袋の中身が気になっているのだろう。

 

「じゃあ、これ!」

 

 一つの袋を手にしたガキが誇らしそうに、その袋を頭上に掲げる。

 他の客のガキがわらわらと群がってくる。

 

「中見ーせーてー!」

「はやくはやく!」

 

 急かされて、当たりを引いたガキは小袋の口を開ける。

 

「――?」

 

 中から出てきたのは、ベッコ作成の四角い蝋製の型と、セロンが開発した固まりにくい子供用粘土だ。

 

「これなぁに?」

 

 当たりを引いたガキが小首を傾げてロレッタに尋ねている。

 まぁ、遊び方が分からないのだろう。

 ここで、俺の出番だな。

 

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