「それにしても意外です。クリスさんが人様の為に働こうとするなんて」
アンがしれ~と失礼をぶっこく。
「いや、私は人助けの為に冒険者を目指している位なんだよ」
「そうなんですか? 私はゆくゆくは国家転覆位狙っているのかと思ってました」
買い被りすぎだわ......
ここは私達の常宿のレストラン。今日はアンがエリスちゃんの件の事もあり、相談の為来てくれていた。
「あっ! 何も頼まないのはお店に悪いから紅茶を一杯」
「はい。かしこまりました」
「クリスさん。意外とまともに接客するんですね」
私をなんだと思っているのかしら?
オーダーを厨房に入れに行こうとすると、店の奥に新しいお客様が座った。
「ごめんね。あの人のオーダーも承らなくちゃ」
「頑張ってね」
私は奥の客に近づいた。いつもの常連のキモめんだった。
「今日はどうするの?」
「こ、紅茶を一杯」
「はぁ? 紅茶だけ? 何、みみっちぃ事言ってるの? そんなの迷惑でしょ?」
「わ、わかりました。ケーキのセットもお願いします」
「わかったわよ。それで勘弁してあげる」
私が厨房に振り向くと、お冷をブーと吐き出してしまったアンが目が入る。多分、この店のシステムを理解してないな。私がおかしいと思われる。この店はそういうプレイが目的の店なのだ。
厨房への通りすがら、アンに声をかける。
「大丈夫? 盛大に吹いたみたいだけど」
「ク、クリスさん。大丈夫なのですか? お客さんにあんな事言って?」
「大丈夫よ。あの人はいつもの事だから......私に罵られたいだけみたいだから」
「何なんですか? そのシステムは? この店、レストランじゃないんですか?」
う~。限りなくレストランから遠ざかったアウトな店だな。
「みんなアルが悪いの......」
「あっ! 何となく事態の察しがつきました」
良かった。わかってくれた。
それにしても、店のキモい客は私だけではなく、アンにも注目を集めた。アンは美少女だ。それも正統派の。ライバル出現かしら? というか、アルに気づかれたら、アンも引きずりこまれそうな気がする。まっ! いいか!
厨房に入ってオーダーを伝えると、ちょうど、エリスちゃんが納品にやって来た。しかし、新しいお客様が来て、私はすぐに接客に戻った。帰ってくるとアルが真剣な表情で言った。
「まずい。エリスちゃん。おそらく、今日、初めてを散らされてしまうと思う」
「ど、どういう事?」
「エリスちゃんの目、あれは儚く初めてをイジイに蹂躙される美少女の目だった」
どんな目だよ! だけど、アルの良くわからない女の子を見る目の信頼度は高い。根拠はさっぱりわからないけど、私も不安に襲われた。
「ちょうどいいから、エリスちゃんをつけよう」
アルはそういうけど、店は?
「アル、お店のアルバイトが?」
「今はそんな事を言っている場合じゃないよ。それにちょうど、代理にうってつけの人がいるじゃないか?」
ああ、アンね、やっぱり......
それで、アンに命令して、ごほんごほん、お願いして、私の代わりにキャスト、ごほんごほん、ウェイトレスを代わってもらった。店長もアンを見て、
「採用!」
と、鶴の一声だった。アルは今日はお休み扱いにしてもらった。
こうして私達はエリスちゃんの後をつけた。エリスちゃんの帰路は察しがついている。私達のお店が一番最後の納品の経路なのだ。だから宿から彼女の米問屋に向かう道を通る事になる。しかし、
「あれ、エリスちゃんが道を曲がった!」
不思議だった。米問屋へは真っすぐ行った方が早い、それをわざわざお店の人と別行動で、違う道へ進むのは何故?
「まずい。あっちはエロホテル街だ」
なんでアルはそんな事知ってるのかな? 利用した事あるのかな? 誰とだ?
「とにかく後をつけましょう」
アルの事を詮索したい気持ちはあるものの、今はエリスちゃんの方が大事だった。
そして、エリスちゃんはいかがわしいホテルの前で待っていた。誰かを......
女の子がこんな処で待たされるなんて......多分、凄く恥ずかしくて、すぐにでも何処かに行ってしまいたいに違いない。
しかし、優に30分は待たされて、男が来た。あからさまにいかがわしそうな小太りの男性。キモい、優に50歳は越えているだろう。それが僅か14歳のエリスちゃんに対して! よくそんな気持ち湧くわね!
男とエリスちゃんが何かを話して、ホテルに入りそうになる。
「ちょっと、待ちなさいよ。あなたまさかその子とこのホテル入るつもりじゃないわよね?」
私は男に単刀直入に突っ込んだ。
「なんだ貴様らは? 私はこの娘の主人だ。奴隷に何をしようと私の自由だ。他人からどうこう言われる筋合いはない」
「お前、元番頭のアルフだろう?」
「失敬な、元は番頭だが、今は米問屋の主人だ!」
「あなた、元の主人の娘のエリスちゃんに手を出すなんて、よくそんな酷い事できるわね?」
「そんなものは弱者の戯言。私は力あるものなのだ」
にやり、元番頭のアルフは笑った。これは何かあるな?
「お前が強盗を装って米問屋の夫婦を殺害し、店を乗っ取ったのは明白、大人しく、エリスちゃんを手放せ。そして、裁きを受けろ!」
あれ? アル、それは私もそうだと思うけど、それ、何処に証拠が?
「いかんなー。何を根拠にそのような......何処に証拠がある?」
「ここにある」
はぁ? アル何言ってんの? しかし、アルは懐から書類を出した。
「そ、それは?」
「お前の部屋から盗んだ。米問屋の裏帳簿だ。お前の悪事の証拠だ。それと、エリスちゃんの奴隷登録! インチキじゃないか! エリスちゃんは公式には奴隷じゃない!」
アルは更に書類を元番頭のアルフに一枚の書類を突き付けた。
「ちっ! どうやってそれを! 貴様ら、生きては返さん!」
元番頭は手で合図を送り、自分は後ろへと下がった。入れ替わりに、
「……何してんだよ、テメエら」
脇道から一人の男が現れた。用心棒か? 剣を一本、それに皮鎧。典型的な冒険者姿!
「俺は、Bクラス冒険者バルタサール。冒険者パーティ『銀の鱗』のメンバーだ」
ふふっと男が笑う。なんかムカつく!
「たかがBクラスの冒険者が何を偉そうに!」
私達、冒険者見習いなんだけどね。ちょっと恥ずかしくなってきた。
「その隣の女、お前の女か? その女を置いていくなら許してやってもいいぜ?」
上から目線で、何故か私達が観念したとでも思ったのか、この男はニマニマと嗜虐的な笑みを浮かべながら私の体を要求した。ああ! 目線が私のBクラスの胸を舐めまわす。
ちょっと、寝取れる感じに気持ちが昂るが、
「待ってください。この人達は関係ありません。私、約束通りに! だから、この人達は見逃してあげてください!」
「そうはいかないわよ!」
「ダメです。この冒険者、悪名高いパーティ『銀の鱗』のメンバーなんです。関わりにならない方がいいです」
これ……明らかにヤバい案件よね?
私……頑張った……エリスちゃん、ごめんね……
「なぁ、お前さっきから女の後ろに隠れやがって……恥ずかしいとか思わねーのかよぉ?」
「え? 全然思わないけど?」
アルだった。さっきから私の後ろに躊躇なく隠れている。いきなり斬りつけられた時に私を盾にする気だな!
「お前なんか簡単にやってけてやるよ。クリスがな!」
「えぇ……?」
困惑することしかできなかった。私なの? それ、男の子の役割じゃない?
私、女の子よね?
「クリス、こいつをバラバラに刻んでやれ!」
アル、勝手に何を? しかも、命令の内容が非常にバイオレンス。
いや、確かに悪い奴なんだろうけど、バラバラ殺人は限度越えているだろ?
「先生、お願いします」
「あの、アル、私......女の子よ、ここはアルでしょ? あと、先生は止めて。私は天才美少女冒険者よ」
「はい、大先生!」
「人の話聞いてる?」
「止めてください。私の為に、いいんです。私が我慢すればいいだけですから、だから!」
エリスは冒険者に飛びついた。そして、冒険者の噛みついた。私達を逃がす為に、
「この……っ! 奴隷風情が……この俺様に喧嘩売る気か!!」
「ぃ……いだっいだいいい! やめて、殴らないで……蹴らないで……」
エリスちゃんが冒険者に殴られ、蹴られ、鼻から血を出している。鼻だけじゃない、殴られ、顔が腫れ上がっている。私は我を忘れた。
「あなた、生きてきた事を後悔させてあげる!」
私は静かに、言葉を吐いた。既に|闘気《プラーナ》は限界まで、集めている。|魔素《マナ》も最大容量まで、取り込んでいる。もう、我慢ならない。この時私は怒りのあまりに自分がLv1な事を忘れていた。
「お前、『銀の鱗』のBクラス冒険者を舐めてんのか?」
「でもBクラスでしょ?……弱いんじゃないの」
「なんだと!?」
もう、血を見るしかないだろう。
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