悪役令嬢が最強! 伝説の魔法使いが悪役令嬢に転生。いろいろやらかして追放されるので贖罪をしながらのんびりスローライフを満喫します。でもこの悪役令嬢あまり懲りてないみたい。

懲りない悪役令嬢の冒険譚
島風
島風

どうも叔父様に餌付けされている様です。

公開日時: 2020年9月6日(日) 08:07
文字数:3,231

冒険者教習2日目は私と先生、いや叔父様の決闘で、カオス状態になったけど、叔父様と入れ替わりに本来の先生が来てくれた。まともだった。良かった。私の天才美少女冒険者にも笑って対応してくれた。何故か叔父様は忌々しい顔をしていた。叔父様は用が出来たと言って途中で退席した。良かった。みんなあの叔父様の事怖いみたい。 


そして、冒険者教習3日目、本来の先生の教習はやはりとても普通だった。それに剣技だけでなく、座学も多く取り入れていた。確かに、冒険者に必要なのは情報と知識だ。それが無いと高位の冒険者でも簡単に命を落とす。それを、僅かな受講料で教えてくれるこの教習はとてもありがたいものなんだろう。もっとも私にはあまり必要ない。前世であまたの魔物、魔族を倒した私にとって、冒険者の先生の教えはあまりにも初歩的過ぎた。 


今日は座学だけで、ややダレたけど、教習が終わると意外な人物がいた。 


「よう!」 


叔父様だ。いや、心配してくれるのは嬉しいのですが、同級生がビビってどうしようも無いのです。早々に立ちさって下さい。正直迷惑です。 


だが、敵もさるもの、叔父様は秘密兵器を持ってきていた。それはサンドイッチだった。 


ごくりと喉が鳴る。草原で食べたサンドイッチは美味しかった。 


「そ、それは?」 


「差し入れだ。お腹減っているだろう?」 


私は叔父様のイェスタとサンドイッチを交互に見た。結局サンドイッチの魅力に屈した。 


「た、食べていいんですか?」 


「もちろんだ。みんなで食べよう」 


私は少し、目頭が熱くなった。正直、みんなが怖がるから迷惑なのだが、私の為にわざわざサンドイッチを買ってきてくれた事には感謝が絶えない。多分、偶然みかけたサンドイッチを見て、買ってきてくれたのだ。私なんかの為に......この気持ちは? そう喜びだ。長い間忘れていた気持ち。自分の事を想う人が自分の為にしてくれる事はたまらなく嬉しい。最後にこんな喜びを覚えたのはいつだろう? お母様が亡くなってから、一度もなかった様な気がする。いや、おそらく本当はあるべきだったのだろう。自分の為にしてくれた行為。でも、私はそれに気づきもしないで、こんな素晴らしい喜びを感じる事もなかったのだ。 


「みんなというと?」 


「アル君とアン・ソフィさんかな? お前のお友達なんだろう?」 


いや、アルはそうだけど、アンは友達という程の関係ではない。確かにお友達にしたいけど......ちょうどいいから、彼女を誘おう。私はアン・ソフィさんに声をかけた。 


「アン・ソフィさん。一緒の早目の夕ご飯如何ですか?」 


「えっ? あ、はい、ご一緒させて下さい」 


私はサンドイッチの入った紙袋を受け取ると、その場にしゃがんで、紙袋をごそごそと...... 


「待て、ここで食う気か?」 


「へっ? そうですけど」 


「お前は全く、これだからお嬢様は」 


「お嬢様?」 


アンが不思議そうに聞く。 


「聞かない方がいいわよ」 


「ああ、明日は命が無いよ」 


「・・・・・・クリスさんとお付き合いするって、命懸け?」 


「まぁそうだね」 


アルが的確に答える。ヤバい。折角人の好さそうな友人を失くすかな? 


イェスタ叔父様はギルドの応接室を借りてくれた。そして、持参したランチョンマットを一人ずつに引いて、事務的な応接室が綺麗なダイニングに変わった。 


「これだから、お貴族様は・・・・・・」 


「嫌味か?」 


「嫌味です」 


思いっきり嫌味を言ってやった。どうせ私は何もできないお嬢様ですよ。不衛生だなんて思わなかった。食べたいから、すぐそこで食べようと思った。以前なら、メイドや従者がテキパキと対処してくれたんだろう。私はこの種の事を自分で考えた事はなかった。前世では、即・食・ゲプっ......だった。 


サンドイッチをはむはむと食べると、サンドイッチは想像以上に美味しかった。令嬢時代はスタイルに気を使って、サラダばかり食べていた。お菓子も我慢していた。意外と食生活は豊かではなかった。全ては王女に相応しくなる為、必死で我慢していた。 


叔父様は更に黒胡椒の小瓶を用意していた。 


「このサンドイッチと良く合うらしい」 


「ありがとうございます。黒胡椒は大好きなので、嬉しい」 


叔父様が小瓶をいともたやすく開ける。そして、持参した小さなスプーンを黒胡椒の瓶に突っ込む。私は黒胡椒の瓶を見つめた。美味しいに決まっている。黒胡椒のいい香りが鼻孔をくすぐる。私は思わず、ゴクリと生唾を飲み込んだ。 


「ほら」 


「ありがとうございます」 


黒胡椒を受け取り、振りかけると、サンドイッチの香りは数倍美味しそうになった。我慢できずに、パクリとサンドイッチを咥える。 


「!」 


驚く程美味い! 続けてはむはむと食べる。想像以上の味だ。 


「こら、お前は、みんなにも渡して」 


「あ! はい、ごめん、みんな」 


「はは」 


「クリスさんって結構可愛いのね?」 


アンに可愛いと言われて、頭からぷしゅーと湯気が上がるけど、かまわず、はむはむとサンドイッチを食べ続けた。ちろりと叔父様を見ると複雑な顔で見ていた。はしたない姪に呆れているのだろうか? 


叔父様は早目の夕食を終えると用があると言って、帰っていった。見送った後、私はアン・ソフィさんと小1時間程喋った。貴族時代にお友達と言えるのはアルだけだった。そのアルとも12歳までの付き合いだった。時々顔は合わせたけど、アルに暴言を吐いて以来それ程話した事は無い。私はこのアン・ソフィさんとどうしても友達になりたかった。 


だから、叔父様が帰った後も私達は応接室に残りおしゃべりを続けた。 


「あなた達の事は詮索しないけど、私の素性は話しておくわね」 


アン・ソフィさんは自分の事を説明してくれた。これはもうお友達OKって事だよね? 


アン・ソフィさんは300年前から騎士爵の家柄だったらしい。騎士爵は1世代のみの貴族だ。その為、彼女の家系は代々その子息は騎士となり、家を貴族として維持してきた。騎士には領地など与えられない。騎士となる以外に食っていく方法は無い。 


しかし、彼女の代で困った事が起きた。それまで、男の子が産まれないという事態はなかったのだが、アン・ソフィさんの代では子供はアン・ソフィさんとお姉さんの二人の女の子しかいなかった。 


「それで、私が騎士となるしかないって事になったんだけど、私、才能が無くて」 


「才能ですか? 訓練では一番鍛錬できているように見えましたが?」 


「当たり前よ。私、騎士学園の生徒だったんだから!」 


「もしかして、エルミネートですか?」 


アルが発言した。エルミネート? 何それ? 


「そう、私、騎士学園の2年生の昇級試験で不合格になって......退学になったの」 


「・・・・・・」 


アン・ソフィさんは意外と大変な人生を送っていた。一家を一人で背負っていた。 


「お姉さんは、どうされたんですか?」 


「姉も私と一緒で才能無くて、騎士学園を途中で退学になりました」 


「騎士学園の進級試験は難しいからね」 


「あ、あの、アルさんの事聞くのはOK?」 


「僕の事は大丈夫ですよ。ヤバいのはクリスだけですから」 


その言い方酷いな。私がヤバい人みたいじゃん。 


「アル君、あなた騎士学園にいた事があるのですか?」 


「ええ、1か月前までは、少々事情があって、僕も退学したのですが」 


私のせいじゃないよね。知らないふりをしよう。 


「クリス、今、自分は関係ないって思ったでしょ?」 


「な、なんで? そんな事思った事ないわ」 


「嘘だね。目が泳いでいる。クリスは嘘つけないんだから、丸わかりだよ」 


「いや、それはもういいって言ってくれたから、もういいかなって?」 


「思ってても言っちゃダメなやつじゃない? それ?」 


「痴話喧嘩する程仲がいいのね。羨ましいわね......」 


「「はい。ありがとうございます」」 


恥ずかしくて少し、頭から湯気が出る。だけど、私はこのアン・ソフィさんはいい人そうだから、人肌脱ごうと思った。彼女は冒険者として名をあげ、騎士になるつもりだから、彼女を強くしてあげればいい。それは簡単な事だった。私にとっては...... 

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