冒険者の花形の仕事はやはり魔物討伐だ。私達は意外と早く、この魔物討伐の訓練を受ける事になった。理由はアン・ソフィさんだ。
アン・ソフィさんは冒険者ギルドの剣士試験に合格して、後は登録さえすれば正式なFクラス冒険者になれる。
冒険者はFクラスからAクラスの6段階ある。Fクラスは最低クラスで、最上位クラスがAクラス。そして、更に上にSクラス、SSクラス、SSSクラスの上位クラスがある。Sクラス以上は国家の管理下におかれ、戦時や災害クラスの魔物発生時には国家より招集を受ける特別クラスだ。Sクラス以上は税の免税など特典が多いが、その代わり、国家に従う騎士に近い存在だ。それで、あえてSクラス以上に上がらない冒険者もいる。一般的にはAクラスが冒険者の最上位とされるのはその為だ。
アン・ソフィさんは魔物討伐訓練のカリキュラムがあった。彼女は既に1か月の教習を受けており、残り2か月の間に、数回魔物討伐訓練を受ける事ができる。その機会に私達を誘ってくれたのだ。魔物討伐訓練はギルド教習講師が随伴する為、危険は少ない。講師は最低Cランクの元冒険者で、討伐経験豊富だ。それにもちろん教習を危険な魔物が発生する地点で行う事はない。私達にとって、経験を積むチャンスだ。
「クリスさん、アル君。それで、私の一時パーティのメンバーとして、協力して欲しいのですが? 駄目ですか?」
「やだなー。アン・ソフィさんの為なら嫌な訳無いじゃないですか!」
私は微笑みながら、アン・ソフィさんの提案に返した。アルは......
「アン・ソフィさん、正解です。もし、他の人にパーティを組もうと言っていたら、今頃この世にいなかった事でしょう......」
「止めて――――、やだ、やめ――――あぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!
か、かんべんぢてくなさい……あ、あ……だれか、たすけてっ! たすけてくらひゃい!!」
何故かアン・ソフィさんはギャン泣きした。どうもアン・ソフィさんは情緒不安定らしい。
そして今日の日を迎えた。私はちょっと興奮していた。魔物討伐は趣味と言ってもいい。それがこんなに早くできるなんて、思ってもいなかった。
魔物討伐は講師と教習生各1名に教習生のパーティが2人まで同行が許された。参加条件は冒険者もしくは冒険者教習中の者だ。基本、討伐訓練は講師と教習生にて行う、同行者は基本見学だ。もちろん、見学に徹するつもりはない。魔法の一発? 位お見舞いしてやるつもりだ。
討伐訓練の場所はケルンの街から北へ歩いて1時間位の「赤の森」だ。この森は深く、最深部ではAクラスの魔物が出る事もある。
講師は剣士のシモンさんが引率してくれた。私達も既に何回か指導を受けた事がある。
私はパーティの最後尾で懐かしく旅を楽しんだ。私は前世でアクイレイア王国で生まれた。あの頃、このケルンの街は広大な魔境に接する激戦地だった。その為、ケルンには何度も行き来していた。
今は魔境の大半はアウクスブルク帝国の領地となっていて、以前とはかなり趣が異なるが、木々や山々の景色は当時と変わらない。前世の思い出に想いをはせる。
森の入り口に到着するとシモン先生は私達にポーションを一人一本ずつ渡してくれた。回復魔法ヒールに相当する薬だ。ポーションは薬草を煎じたものに回復魔法の魔法を込めて作られた薬で、回復速度が薬草とは段違いだ。少々の怪我が数秒で治癒しるのだ。その威力は絶大だ。しかし、私は辞退した。だって、たくさん持っているから。
「あっ! 先生、私たくさん持っていますから、いらないです」
「ポーションをたくさん持っている? 君は随分金銭に余裕があるのだな?」
「いえ、違いますよ。自分で作れるのです」
「君、製薬のスキルがあるのか?」
「はい、ありますので、ポーションは10本持参しました」
「それは助かる!」
私はポーションを辞退した上で、先生にポーションを2本差し上げた。アルとアン・ソフィにも2本ずつあげたが、二人共先生のポーションを辞退しなかった・・・私のポーション信じてないな!
歩いて30分程、意外と早く接敵した。
「出たぞ!」
先生のシモンさんが声をあげた。
現れたのはオークだった。顔は豚さんで、体も豚さん的な人型のキモい魔物だ。ちなみに女の子はされちゃうから要注意だ。最も男の子は食べられちゃうけどね(笑)
チン
シュッ
シモン先生とアン・ソフィさんが剣を抜く。オークは2匹だから、戦力差はない。しかし、私はここで、自分のスキルを展開した。スキルとはジョブやタレントのレベルアップと共にもらえる魔法の様なものだ。違いは魔法と違い、魔力も魔法詠唱もいらない。女神様からの直接の加護が得られる優れものだ。先日、教会で、ジョブをもらってきた。アーネ先生は魔法のジョブをもらってこいと言っていたが、それより必要なものがあった。そもそも私には虚数魔法使いのタレントがある。魔法には最大級の加護があるのだ。魔法使いのジョブを取る必要がない。だから私は実用的なレンジャーのジョブをもらった。実際の戦闘ではありがたいスキルがたくさんもらえる。レンジャーLv1の私は早速、探知のスキルがもらえた。フィールドでの戦闘で、魔物より先に敵を探知できるのは極めて有利だ。魔法でももちろんできるが、この種の魔法が使える様になるには高レベルになって魔力が上がらないと難しい。アルとアン・ソフィさんは剣士のジョブを既にもっていて、私がジョブを選ぶならレンジャーの一択だった。
『スキル探知』
心の中で呟き、探知のスキルを展開する。すると!
「先生、アン・ソフィさん! 右の茂みに2匹何か隠れてます!」
「何!?」
「わかりました!」
二人は右に注意を払いながら戦闘を続ける。先生は圧倒的に強い。オークが倒されるのは時間の問題だ。だが!
ガサガサ!
アン・ソフィさんが右の方に追い詰められた時、二匹のオークが襲ってきた。
「フリーズ・ブリット!」
私は氷の攻撃魔法を発動した。新たに襲ってきたオークの先頭に着弾する。氷の弾丸はオークの胸を貫通していた。そして、シモン先生は一瞬で、目の前のオークを倒し、
「アン! お前は右のオークと戦え! 私はアンの敵と戦う!」
場面は変わった。先生は手を抜いていたようだ。目の前のオークをいともたやすく倒した。そして、アンが戦っていた敵と戦い、アンに新たに現れた残りの敵と戦うよう指示した。つまりは全てはアンの教育の為だ。おそらく先生はオークを一人で全員瞬殺できる。それにしてもアンの剣はいまいちキレがない。おそらく初めて魔物と対峙して、緊張しすぎて普段の実力が出ていないのだろう。さっきから|闘気《プラーナ》がブレまくっている。
「アン頑張って!」
私がアンを応援すると、
「ありがとう!」
そういうと、アンは普段のアンに戻った!
斬!
先ほど迄と違って、アンの動きが良くなった。アンは一瞬でオークを倒した。続いて先生も。
「良くやった。アン、それとクリス君、探知のスキルか?」
「はい。先日レンジャーのジョブをもらったので!」
「随分渋い選択だな?」
「実用的ですよ?」
「まあ、確かにな・・・」
その後、ゴブリンやオークに何度も接敵した。私は我慢できなくなってきて、魔法を連発した。面白いようにゴブリンやオークが私の魔法に倒された。もちろん、アンと先生の分は残した。私はちゃんとわかっている子なのだ。
「フリーズ・ブリット!」
何匹目かわからない程の魔物を倒した後、先生が突然言い出した。
「あー! もう、森を出てから突っ込もうと思ったんだが! 何で君はそんな事ができるんだ?」
「へっ?」
私は意味がわからなかった。確かに少々魔法を連発したが、常人が消耗しきる程、連発はしていない。私は素人である事を前提に魔法の威力は抑えた。回数も減らした。魔法発動のインターバルも十分とった。魔力を回復する時間は十分考えた。それなのになんで突っ込まれてるの私? 何を間違えたの?
「とぼけるな! なんで君の魔法は百発百中なんだ?」
「???????」
理解不能の突っ込みにアンが教えてくれた。
「あの、クリスさん。普通、攻撃魔法は小型で動きの早い魔物には滅多に当たらないものなんですよ。どうしてクリスさんの魔法は全部命中するんですか?」
「あ……あ、あぁぁぁあああああああああ!」
私は見当がついた。攻撃魔法の基礎。魔法の誘導。多分、魔法が廃れたこの世界では、失われた技術なんだ。
「お、おかしいですか? 私?」
「おかしいも何も・・・ありえない・・・」
「クリスさん非常識もほどほどにお願いします」
アルがコクコクと頷く。
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