今日も冒険者ギルドの教習が終わって、バイトのレストランのウェイトレスを実践中だ。私のウェイトレスは自分で言うのもなんだが、見かけはOK、内容は最低である。
何故なら基本塩対応である。だが、それがいい人という人が多いようで......キモい......
「白飯にお漬物ですか? 宜しいのですか? そのような粗食で?」
「い、いや.....そ、その......」
多分、持ち合わせが少ないんだろうな。うん。わかってる。でも、そこをあえて責めるのがクリス! 私だ! 嗜虐的な笑みを浮かべながら!
「白飯にお漬物だけ一丁!」
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! こんなに愉快な気持ちになれるなんて!!」
大声で、レストラン中に響く声で叫ぶ。
「い、いや、アジの開きもお願いします」
「かしこまりました!」
今度は叫ばないで、袖に引っ込んでから厨房にアジの開きの小さな声でオーダーを入れる。
さっきのお金が無さそうな男性は泣きそうな顔だ。これでいいのだ。最初からそうすればいいものを......彼にはいい教訓となったであろう。
次のお客様にオーダーをもらいに行く。
うわぁ~キモメンだぁ~。見るからに臭そうな太り気味の男性。何故か常連だ。
「いつもどうも。今日はどうするの?」
一応聞くけど、この人いつも同じなんだよね。
「いつもので、お願いします」
ああ、とうとう、いつものとかいいだしちゃったよ。私はまた躊躇なく、大声で、
「白飯にお漬物だけ一丁!」
そう言った。しかし、今日のこのお客さんいつもと様子が違った。何故かはぁはぁしてる。そして、こう言った。
「あと、ポイント1個なんだ、えへ♡」
何のことかわからないけど、悪寒が走った。私は心当たりがあった。あくどくて、私に被害が及ぶ事を考える人間が一人、身内にいる。どうも不思議だったのだ。私のこの塩対応で、何故か首にならず、むしろお客様が増えているのだ。それもキモいのばかりが......最近、ここ本当にレストラン? と思う位おかしくなってきた。どちらかというと怪しいエッチな店とそのキャストみたいな感じ。それって風俗じゃん!
「クリスちゃん。今日も可愛いね!」
「は、はいありがとうございます!」
あなたは今日もキモいですね。と心の中で毒づく。
私は途中で客をスルーして、心当たりに直接聞いた。
「ねぇ、アル! お客様がポイントがどうとか変な事言ってるんだけど、何か知ってる?」
私はアルに聞いた。このレストランの層が明らかにキモい人ばかりになった。原因は私とアルとしか思えなかった。しかし、アルは厨房で皿洗い。原因は普通に考えれば私だが、いくら美少女でも、それだけで特殊なお客様が増えるとは思えない。アル! 何かしたでしょ?
「んん? 言ってなかったっけ? 1回レストラン利用で1ポイント、10ポイントで、君と握手ができるんだよ」
「はぁ! 何言ってんの? そんなの聞いてないわよ? 私そんな小悪魔みたいなアイドル目指してないわよ!
「そんなの聞いてないわよ。契約違反よ」
「契約違反じゃないよ。君はちゃんと契約書にサインしたじゃないか?」
そういえば、アルがアルバイトと言ってもきちんと契約をしなければいけないと、珍しく真面目な事を言って、契約書にサインさせられた記憶がある。まさか?
「アル、そのまさかと思うけど、この間のレストランの契約書って?」
「そうだよ。君の専属契約の契約書だよ」
「はぁ!?」
何それ? そんなの聞いてないよ?
「アル、まさかその中に握手のポイント券の事書いてあったの?」
「そうだよ。ちゃんと書いてあったよ」
「なんで? 知ってたんなら、なんで教えてくれないの?」
「知ってたら、サインした?」
「しない」
「だからだよ」
……このクズ。
私が心の中で散々毒づいていると、あの子が来た。最近気になるあの子。その子はレストランにお米を卸す米問屋の娘だ。どうして私が気になっているかというと、その子は以前はとても元気な子だった。でも、最近は全然元気が無い、それがとても気になっていたのだ。
その子の名前はエリス。紫の目に亜麻色の長い髪の米問屋の一人娘。見習いと言って、いつもうちのレストランへお米を卸す手伝いに来ている。
「いつもありがとうございます。お米200kgお持ちしました」
「ありがとうございます。そこに置いてお......」
私の声は途絶えた。あり得ないものを見てしまったから.....奴隷の首輪。それは奴隷の象徴として、奴隷に架せられた印。この国には奴隷制度がある。しかし、この子は有力な商人の娘。そんな筈がある訳がない。
「エリスさん。あなた!?」
「お気になされずに、これの事でしょ?」
彼女は自分の首の輪を指さした。
「お父さんの経営がうまくいかなかったから、でも、すいません。プライベートな事なので......」
「あ、ご、ごめんなさい」
私は慌てて謝った。しかし、解せない。経営がうまくない? 米問屋が? 彼女の家はこの辺では有力な米問屋だ。扱っているものが時事のものなら浮き沈みもある。だが、米は絶えず必要な主食なのだ。経営に困る事などあり得ない。私の王女としての教育の中に社会や経済の教育も含まれていた。ありえない。それが私の結論。そして、何か悪の匂いがする。
私はあくる日、直ぐに動きだした。基本引きこもり気味の身だが、頑張って、お出かけして、情報収集した。外の方へお出かけするのはあまり好きではない。キラキラとしている人を見るのがあんまり好きじゃないから。何かムカつくから。
アンとアルにも協力を仰いだ。アルは握手券の件を不問にする事で協力してくれる事になった。アンは、
「あ、あの、私を見逃してください......という選択肢はないんですよね?」
私はにっこり笑って、
「もちろんあるわよ」
と言った。だが、彼女は、私の笑顔(ゲス顔)を見て......
「わかりました。私が馬鹿でした。協力させて頂きます......」
泣き目で、そう言った。どういう意味?
「……もうやだ。おうち帰りたい……」
アンは何故か実家に帰りたくなったらしいけど、命が惜しいのか頑張って手伝ってくれた。
そして、色々な事がわかった。エリスちゃんの米問屋は2年前に強盗に入られ、両親が殺された。その後、赤字経営が発覚、そしてつぶれた。しかし、不審な点があまりにも多い、何故ならエリスちゃんの米問屋は今も営業中だ。商標を変え、主を変えて。今の主はエリスの家の番頭だった。そして、その番頭の背後には貴族の男爵家、ホルシュタイン家の存在がおぼろげに見えてきた。
そして、番頭はエリスちゃんを借金のかたに奴隷に落とした。だが、不自然極まる。そもそもエリスちゃんの家が赤字経営とは思えず、経理を担当していたのが他でもなく、その番頭なのだ。その番頭が現在の主? おかしすぎるだろう?
「僕が手に入れた情報によると更に最悪だよ。番頭はロリコンだ」
「ロリコンって、幼女趣味?」
「そうだよ。つまり、番頭は未だ14歳のエリスちゃんを......」
許せない。あんなけなげで幼い可愛い女の子を!
ちなみにアルの情報はこの街の商店の女性店員多数から手に入れたものだ。顔が良くて口がうまいから、みんな騙される。実は私は軽く引いている。
「まさか、彼女をそういった欲望の吐け口に使っているの?」
「いや、未だな様だ。おそらく、すぐにではなく、少しずつ時間をかけて苦しんでいるところを見たいんだろうな」
「何故わかるの? アル?」
「やだな、僕ならそうするよ」
......この鬼畜!
「それに初めて未だな子って、何んとなくわかるじゃん」
私とアンは顔を見合わせて、頬をうっすらと赤く染める。それって、私達の事もわかってるって事だよね? なんでアルはそんな事わかる訳?
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