「もう一回言うぞぉ。……謝るんなら今のうちだぞ、テメエ!」
私は呼吸を整えると自分の考えを伝えた。
「謝る? 何故? 私が考えているのは、蹂躙、ただ、それだけです。他の事は何も考られません!」
「じゅ、蹂躙だと? 貴様、舐めてんな! 殺してやる! 殺して犯つてやる!」
「まぁ、そうですね……できるなら、やってみせなさい」
「キサマ!」
ぎりりと剣の柄を持ち、剣を冒険者バルタサールが抜き放つ。久しぶりの命と命のやり取り。何故か懐かしさが浮かんだ。気がつくと私の頬には笑みが浮かんでいた。
「こいつ、頭いかれてんな!」
「失礼ね。命のやり取りの場で、無粋ね!」
「こいつ、マジか?」
「ええ、10秒、あなたが立っていられたら、負けにしてもいいわ」
「何だとテメエ!」
嘲り、この男はした事は頻繫だろうが、された事はあまり無いのだろう。血管浮き出てるよ。そうそうに決めないとね。10秒しかないからね。
「安心して、あなたと違って、弱い者苛めをするような事はしないわ」
「テメエ! 何だよ、その弱い者苛めとかいう台詞は! 何だ? 俺が弱いとでも言うのか!」
「はぁ? 自覚ないんですか?」
素で驚いた。彼我の差が把握できないようでは......そうね、この世界は|闘気《プラーナ》も|魔素《マナ》も感じられない人しかいない。しかし、驚いたように聞き返す私に、この冒険者はマジキレした。
「なんだと! 俺は本来はAクラスでもおかしくない実力だ。パーティ『銀の鱗』のメンバーはランクが上がりにくいだよ。悪さが多いからな! 俺は強いぞ? 嘘じゃねぇ!」
「いえ、そんなに必死に言われても、かえって弱そうにしか見えないから……」
「ふざけんんなあっ!」
私の選択した言葉に、顔を赤くして激怒いて叫ぶ護衛の冒険者。
「それじゃ、そろそろ雰囲気も良くなってきたようなので……」
「テメエ、わざと煽ってんだろ!」
当たり前だろ、エリスちゃんの顔を殴り、蹴った罪、たっぷり、のしを付けて返してやる。で、どうやっていたぶろうか? 私は一つの考えが浮かんだ。
「もう、勘弁ならねぇ! 死ね!」
独創性の無い叫びを上げて、私に向かって、突っ込んで来る冒険者! 私が魔法使いだという事を考えていないのだろう。
「フリーズ・ブリット!」
いつもの1/10の威力に抑えた魔法を発動する。
「げふっ」
男が崩れ落ちる。だが、加減はしている。本来なら、死んでいる。1/10に威力を下げてあるので、痛いだけだ。最も、かなり痛かったろうが......
「ち、チキショー! 魔法使いか!」
私はかつての悪役令嬢時代の顔を作った。さぞかし、悪い顔だろうな。
「私、寛容な性格なの、一回位じゃマグレかもしれないわね。もう一回チャンスをあげるわ」
「ち、チキショー! テメエ後悔させてやるからな!」
冒険者バルタサール彼は奥の手を使うつもりだろう。それが何かはわからないが、彼の血走った目は勝利を諦めた顔ではなかった。
「スクロール! ゴーレム!」
冒険者バルタサールの最期の切り札。それはスクロールだった。魔法を込めた、令呪だ。一枚の紙に魔法陣が描かれ、持ち主の要請に答えて一度だけ力を発する使い捨ての魔道具。そのゴーレムが現れた。
「ひっひっ! さあ、どうする? いくら魔法使いでも、ゴーレムは10秒で簡単に倒せないだろう? 俺の勝だ!」
「フリーズ・ブリット*6!」
グシャン*5
本来のフリーズ・ブリットの魔法を5個同時に発動する。そして、ゴーレムを粉砕した。
「な!、そ、そんな、ゴーレムが一瞬で、そんな馬鹿な......」
「フリーズ・ブリット!」
私はまた、1/10の魔法で、再びこの冒険者を倒した。そして、
「その程度で、私のとの差が埋まるわけがないでしょう?」
それは、圧倒的強者からの、無慈悲な言葉だった。
ききき気持ちいい! 前世の記憶より、今世の私の悪役令嬢の頃の悪い癖。人を虐げる事への快感! しかし、私があと10回位虐めようとしたとき、遮る者が現れた。
「クリスティーナ穣、今日はそれ位でご容赦願います」
気がつかなった。私の探知のスキルには反応しなかった。誰? だが、彼らの身分は簡単にわかった。忠誠を象徴する青を基本に銀や白の差し色の入った制服。それは騎士の出たちだった。二人はあっさり私との距離を縮めると。騎士の令嬢への礼を行った。私のスカートの裾に口づけをする。
「危険が迫れば、助けて差し上げようと思っておりましたが、お見事です」
「我ら騎士団にもそれだけの魔法の使い手はおりません。感服致しました」
えーと、話が見えないのだけど......
「不信に思われるかとは思われますが、私は第一騎士団副団長クリストフと申します。あなた様の叔父上、イェスタ団長からの指示であなた様の動向を見守っておりました」
「私はクリストフより魔法通信を受け、ただちに参上いたしました。騎士団憲兵隊ダニエルと申します。そこの米問屋と下級貴族の結びつき、我が憲兵騎士団でも問題になっておりました。幸い、この機会に全てを明るみに出す事ができると思われます。かたじけなく思っております」
え? 叔父様まさかのマジストーキング? しかも騎士団まで動かして。私、絶えず監視されてたの?
「騎士様、よろしくお願いいたします。証拠の書類は全て僕が持っております」
「おお、確かに! よくこれだけの資料を入手できたな!」
「いえ、米問屋の娘奉公人達に頼んだら簡単でしたよ」
アルだ。こいつ、女たらしの素養あるわね......
地面に倒れた冒険者を冷たい目で見下し、私は息を吐き出し。そして、慈愛の笑みを浮かべ、エリスちゃんの方を見た。そう、見た目は常に優しく慈愛に満ちた、勇気ある冒険者でなければならない。私は天才美少女冒険者なのだから。
でも、ホントは……うあああああああぁぁぁーーーーーーーーんんんんん!! 怖かったあああああああよぉぉぉぉぉぉぉお!!
アルめふざけないで欲しいわ! 何で私だけであんな怖い冒険者と戦わないといけないのよ!! 普通男の子のアルの仕事でしょ? 魔物と違うんだから何とかなるでしょ? 幸い、今世の冒険者激弱だから良かったけど、500年前だったら、私、今頃あの冒険者の慰み者よ!
「アル、次回はちゃんと加勢してね(お前、ふざけんなよ! 二度とこんな事しないよう、こっちに引きずり込んでやるからね……!!)」
「クリス、僕に力があればいいのだけど、僕は知性派なんだ。ごめんよ。君にばかりに頼って(馬鹿が。僕が汚れ仕事なんかする訳がないだろう。絶対引きずり込まれるものか!!)」
アルとアイコンタクトを交えて話す。周りの人が内容見たら、ドン引きするだろうな。普通いいところ、でも、二人の間では修羅場だ。
「お前と、そこの悪徳商人、お縄についてもらうぞ!」
「「大変申し訳ございませんでした。」」
意外と二人共、あっさり捕縛された。まあ、騎士団にたてついたらどうなるか? て、考えたら当然だろう。憲兵騎士団のダニエルさんが二人を引き連れていく。そして、第一騎士団副団長クリストフさんは、
「ここは一旦、下がりますが、ご安心下さい。影から、ちゃんとストーキング、ごほんごほん、見守らせて頂きます」
あれ、この人ストーキングって言っちゃったよ。自覚あるんだ......
二人の騎士と悪者二人が、その場を去ると。私はエリスちゃんに向かって。
「エリスちゃん。ご両親の事は守れなかったけど、あなたは守れたわ。女神様はきっといるのよ。だからあなたと私を引き合わせてくれたんだわ」
「(見捨てようとしてたくせに......)」
アルの曇った目がそう言っていた。ちっ、気がついてやがったか。
「エリスちゃん。今日は私と一緒の馬小屋泊まらない? 馬小屋で申し訳ないのだけど」
「とんでもないです。お言葉に甘えていいですか? 正直、今、家に帰ったらどうなるのか、私も良くわからなくて......」
そうなのである。騎士の方々。悪人は捕まえてくれたけど、エリスちゃんの事放置だから。これだからお役人は困るのよ。下々のことがわかっていない。まず、犠牲者のエリスちゃんの身の安全を確保すべきだろう。親玉は捕まったものの、他にも悪人はたくさんいるに決まっているのだ。
「ホント、クリスは外面がいいね。これから色々な人の目があると思うけど……頑張れな」
「う、うん(ア~ルウゥゥゥゥゥゥゥゥウ!! 少しは手伝え!!)」
……不治の病にかからないかな、こいつ(死ねとは言っていない、ただ、不治の病で一生苦しんで欲しい。)
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