冒険者になりたいのですが、冗談がわからない人が多くて困ります。
私はケルンの冒険者ギルドに登録する事にした。冒険者ギルドに入り、登録できれば他の街への出入りが自由になる。通常は入場税を徴収される。冒険者はこの世界で優遇されていた。魔物を討伐する騎士団の人数には限りがある。その為、魔物を討伐できる冒険者はどの国も優遇していた。正式な騎士を多く雇うより遥かに安価だからだ。私の王女の為の教育の結果の知識。こんな形で役に立つとは思わなかった。
朝、起きて、アルと食堂で朝食を済ませる、私は早速冒険者ギルドへ向かおうとした。
「アル! じゃ、冒険者ギルドへ行くわよ!」
「へぇ? 冒険者か、じゃ行ってらっしゃい」
「はぁ?」
アル、何言ってのかな? 昨日冒険者になる事了承したでしょ?
「行ってらしゃいじゃないでしょ? アルも行くのよ!」
「な、なんで? 僕は冒険者にはならないよ、怖いから」
「なんで、昨日冒険者になる事了承してくれたじゃない」
「うん、クリスが冒険者になる事は了承したよ。だけど僕はやだよ。危険だし、怖いし」
何? その理屈? 女の子一人に危険な冒険に行かせる気?
「アル、じゃ、あなたは何するの? 剣で生きる位しか道無いでしょ?」
「うん、だから、クリス。僕の代わりに働いてお金稼いできて。あっ! もちろん家事は僕がするから安心してね。聖女だし、僕よりたくさん稼げるだろ?」
「……アル、殺すわよ!!」
私は問答無用でアルの手を握ると無理やり引っ張った。
「あれ、クリス? どうして急に僕の手を握るの? 生暖かくて気持ち悪いんだけど?」
何だと、コイツ!?
「がるるるるるるるるぅっ!!」
私は腹がたったから、唸って、力強く引っ張って行った。
「ちょっ、待っ……離してよ! クリス、何トチ狂っているの!? ちょっ、本当に……やめてぇっ!!」
「ははははははははははははっ!! 逃がさないわよぉっ、アルぅっ!!」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇっ!! 離してぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 離せぇぇぇぇぇぇぇっよぉぉぉぉぉぉお!!」
あはははははっ! 逃がすわけないでしょう! 三食昼寝付き? 私がそのポジション欲しいわよ!
アルから殺意に満ちた目で見られるのだが、それがこんなに気持ちいいことだなんて……知らなかった♡。
冒険者ギルドに到着すると、やり取りを全てアルに投げた。当たり前よね? アルは男の子なんだから。
死んだ目のアルが冒険者ギルドの受付穣とやりとりをする。私はニマニマと笑みを隠しきれない。そして、やりとりをただ、黙っ聞いていた。しかし、死んだ目をしながら受付穣から詳しく面倒くさい説明を受けるアルを見ていると……ふふ、本当に愉快ね!
受付嬢のお姉さんの話だと、私の前世の頃と違って、冒険者になるには教習が必要らしい。夜にバイトがあるから、お昼のまったりコースしかないわね。
「あの、すいません。僕達、夜のお仕事があるので、お昼に受講できるまったりコースでお願い! い、痛ぃ!」
私は思いっきりアルの足を踏んずけた。嫌いな殿方にダンスパーティで、ワザと足を踏んずける要領だ。全く、アルはその言い方だと、私達の職業がどんなものと想像されるか考えて欲しい。アルは男の子だからまだいいけど、私は女の子なのよ。この年で、夜のお仕事、夜の蝶と思われたくない!
「あ! とにかく受講させてください。まったりコース」
「ふふふっ。わかりました」
受付嬢のお姉さんは早速事務処理をして、受講にあたって、色々説明をしてくれた。そして最短で受講できるのが来月の初日からだつた。受講は月の始めからしか受講できなかった。他のギルドも同じそうだ。幸い、来週の半ばから新しい月に入る。タイミングは良かった。
こうして、私達は冒険者ギルドに入った。そして、新しい月がやってきた。私とアルは冒険者ギルドに併設された武道館に入った。そして先客がいた。
「こんにちは、クリスといいます」
「こんにちは、アルベルトといいます」
「こんにちは! 私はアン・ソフィ・ヴァーサ宜しく!」
私は固まった。この人、貴族だ。そう、性を名乗れるのは貴族だけ、私は貴族の身分は剥奪されている。アルは良くわからないけど、多分私に合わせてくれている。
「あ、あの? 貴族様なのですか?」
「あっ! 気にしない! 気にしない! 冒険者は歳も身分も性別も関係ないわ!」
「そ、それはそうでしたね」
私は前世の記憶を思い出す。私も前世で冒険者時代が少しあった。その頃と精神は同じらしい。少し安心した。それにこの女性の貴族は笑顔が眩しい。中々いい人そうだ。
「よ! よろしくお願いいたします」
「ご指導、よろしくお願いいたします」
アルも慌てて挨拶する。
そして、他の受講生も集まった。総数10人。だが、皆集まっても、なかなか先生が来なかった。
「今日は突然担当の先生が変更になったらしいの」
「そうなんですか?」
「ええ、時々あるの。先生は三人で、ローテーションしてるけど、家庭の事情とかいろいろあるんでしょう。時々あるの」
「そうですか。ありがとうございます。初めてで、緊張していて、色々教えて頂けると助かります」
アン・ソフィが説明してくれたが、そうこうしている内に先生が来た。中々の長身に筋肉質の引き締まった体。整った顔立ち。冒険者ってこんな感じだっけ? 私は少し、疑問を感じた。前世の冒険者は荒くれ者が多かった。だけど、今はこんな冒険者もいるのだろう。何せよ、500年前に私が魔王を倒し、魔物の力は弱っている。だからそんなに荒くれ者の集まりではないのかもしれない。そもそも、冒険者になるのに研修がいるというのも、ある意味冒険者の数を制限する考えだ。その一方で、前世で、初期に死に至る初級冒険者がどれ程いたか? そのほとんどが知識不足からきていた。今の冒険者は唯の荒くれ者集団ではなく、それなりに洗練された組織なのかもしれえない。
「私は冒険者ギルド教員イエスタ。今日は遅れて済まない。早々に始めよう。いや、その前に、今日は新人が入ったんだな。自己紹介を頼む」
私とアルベルトの事だ。私の冒険者としての第一歩だ。デビューなのだ。ここは一発決めないと。私は前世と同じ要領で、事故紹介した。
「はい、先生! 今日から新しく入りました天才美少女冒険者クリスといいます!」
私は元気よく答えた。掴みはばっちりの筈だ。大抵はこれでうまくいく。心配なのは、私が本当に美少女なので、感じ悪く思われないかが心配だ。
「・・・・・・お前頭おかしいのか?」
「はうっ!」
いきなり出鼻をくじかれた。今まで(前世でだけど)こんな事はあまりなかった。この人感じ悪い。絶対この人サイコさん!
「・・・いきなり教師に喧嘩売ってくるのか?」
明らかに狼狽している美少女新人に更に畳みかけるこの人、絶対この人重症サイコさん!
「あの、まだもう一人新人がいますので早くしましょう」
「・・・・・・」
私は前世の冒険者時代に身に着けた処世術を酷使し、何とか切り抜けた。
「し、新人のア、アルベルトです。趣味はおままごとです」
「趣味は聞いてねぇ!」
わー、アル、先生に凄い突っ込みを受けてる、良かった私じゃなくて、ほっ。少し、自責の念は感じた方がいいのかしら?
「いいか、みんな聞け! 冒険者は命がけの職業だ。ふざけた根性でやってると死ぬぞ! 真剣にやれ!」
「「「「「はいっ!」」」」」」
私とアル以外はいい返事だ。私は心の中で「ケッ」と思った。
「なあ、美少女冒険者クリス、お前、心の中で「ケッ」と思ったろ?」
「えっ? なんで私の心が読めるんですか?」
「やっぱり思ってやがったか!」
私は目が泳ぐ。うまく切り抜けなければ、このサイコ野郎から逃げ切らないと多分しんどい。
「大丈夫です。私、天才ですので、大丈夫です!」
「・・・・・・少しでいい、真面目に話してくれ
少しでいい、冗談がわかって欲しいです。
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