私は少々思案した。ぎりぎり保ってはいるものの、私の存在はヤバい女の子になりつつある。ここは何とか、対処を考えないと......
考えついたのが、木を隠すなら森の中。ヤバい女の子はヤバいヤツらに紛れこませればいい。それには、アンとアルをヤバい人にすればいいのだ。特にアン、見かけはアルと同様いいし、性格もいい。アルよりかなり隠れ蓑になる。
根本的な解決になっていないような気もするが、やっちゃおうっと!!
「という訳で、魔法自主練するわよ。今日!」
「えっ? 今日2回目の魔物討伐教習じゃ?」
「お休みにしといたわよ♡」
「へぇ?」
「いつもマイペースだな。クリスは......」
お前役立たずだろ? 何カッコつけてんのかな?
「いや、アルにも魔法を学んでもらおうと思って、どうもパーティ組む時、前衛は私とアンで組む必要があるから、アルは後方支援よろしくね!」
「へぇ? 僕も戦うの?」
そこから否定するのか?
「みんなで、特別な秘密の特訓をしようと思うの」
「結構だよ。って......いや、その秘密の特訓ってなんだよ?」
「あれ、断っておきながら興味津々のようね。初めから、喜んでお願いします。クリス様! と言ってくれればいいのに♡」
「いや、全く、これっぽっちも! 全然興味のかけらもない! ただ、君を野放しにするのは危険すぎる気がしてた」
「同感です」
アンがコクコクと頷く。
「はぅ。そんなにディスらなくてもいいでしょ? 後、私の事をディスった上、危険物扱いとはさすがに酷くなくない? いくら、アルとの仲でも許せないわよ!」
「僕ら......そんな関係?」
そこも否定? こいつ、(´・д・`)ヤダ
「じゃあ、アルは戦闘中何するつもりなの?」
「......」
「まさか私達のヒモになる気?」
「ヒ、ヒモの方向でお願いしてもいいかな?」
「「......このクズ!!」」
珍しく、アンと意見が合う。
「わかった。家事とか二人を誉めたたえるから! それなら僕でも......」
それでも男か! このヒモ野郎! 明日奴隷として売ってやる!
「役立たずは奴隷として売り飛ばそうかな?」
「「......」」
あれ、アンとアルが沈黙、マジと思われた?
「それは脅しか!? ああ、もう、なんで僕がこんな目に! 幼馴染がヤバいし、常識なくてサイコだから。クリスはもっとヤバい事を自覚してくれ! それに、普通、幼馴染を奴隷商に売り飛ばすか!」
「あなたが同じ立場ならどうする?」
「あ!? そだね。僕もクリスなら売り飛ばす。アンなら売り飛ばさないけど」
なんだと!?
てな訳で、ケルンの街から歩いて1時間、赤の森の入り口周辺。この辺はあまり人はいない。魔物もいない。訓練にはもってこいの場所。
「じゃ、ここいらで自主練やりましょう!」
「頼むよクリス」
「じゃ、先ずはアンから」
「ちょっと待ってください。アル君の訓練でしょ? 私はもうこれ以上は......」
「これ以上は何なの?」
「人じゃなくなるような気がして......」
その論法だと私、人じゃないの? アンはアルに毒されたのかな?
それに、アンにはこれっぽっちも拒否権ないのにどうしてわかってくれないんだろう?
「アンに拒否権無いって言ったでしょ?」
「そんなの聞いてないです」
……口には出して言ってなかったな。
ていうか空気読んで欲しいな? 普通わかるでしょ?
「まずは|魔素《マナ》からね」
「あの、私の抗議無視ですか?」
「|魔素《マナ》も|闘気《プラーナ》と同様で、感じられると魔法が数倍強くなるわよ」
「あ、すいません。私には拒否権ないんですね......」
アンも段々理解してきたようだ。
「ねえ、クリス、この世の中には、たとえ強者でも、やっちゃ駄目な事ってないか?......。ちょっと、話しあいしようか?」
「......私が悪いの?」
なんか興奮を抑えきれなくなって氷属性中級魔法を無詠唱でついぶっ放してしまった。さすがにアルもアンも黙り込んだ。
「やっぱり、話しあいは必要ね♡」
「脅しておいて良くいうよ」
「まさか、クリスさんがこんな人とは思わなかったので、残念です!」
ひどいな。アン、これもあなたを騎士にする為なのよ。だからちょっとヤバい人になる事位我慢して欲しい。私の為に!
「アン、お願い! わかって、このままだと私だけヤバい人だと思われる!」
「私はヤバい人になんてなりたくありません!」
「もう遅いわよ。既に人外よ。だって、アンのレベルいくつ?」
「剣士はLv3ですけど?」
「Lv3の剣士がCクラス冒険者の先生、つまり剣士Lv90台の人と互角なのよ。既にじ・ん・が・い・☆」
「ひぃ......! あぐっ......や、やめっ......!」
「毒を食らわば皿までって諺があるじゃない!」
「ごめ゛んなざい! ごめ゛ん゛なざい! ゆるじでください!! だからもう、私に構わないでください!」
「「......」」
困ったなぁ~、でもアンはアルと違ってお人よしそうだから。
「アン、どうしても嫌なら、いいわよ。今の|闘気《プラーナ》を使った剣だけでも冒険者として成り上がって、騎士になれると思うわ。でも、私達の事はもう忘れて何処かに行ってしまうの? 私、アンの事、友達だと思ってるのよ!」
ホントは手下としか思ってません。アルを誘惑しそうだし。
「ごめんなさい。私が間違ってました。恩人に報いず自分の事だけ、考えてました。わかりました。もう、私、クリスさんの為にヤバい女の子になります」
「ありがとう。アン......」
私は目頭に力を入れて嘘泣きをする。頬に涙が零れる。これで、解決♡
「ああ、なんかもう地雷臭しか感じないんですけど。仕方ありません」
地雷臭? 私の事か?
「じゃあ、先ず、私の手を握って」
「はい。こうですか?」
「うん。じゃ、私がアンに|魔素《マナ》を送るわ大量に」
「はい」
「どう、何か感じた?」
「何かが入って来たような気がします」
「それが|魔素《マナ》よ。今度はそれを一か所にまとめて、魔法にするわよ。私がアンの中の|魔素《マナ》で魔法を発動するから、良く感じていて」
「は、はい」
「フリーズ・ブリット!」
ドカーン!
私がアンを通じて魔法を発動させる。
「今の、私の魔法なんですか?」
「正確には違うけど、アンの感じたのはアンが魔法を発動する感覚と同じよ」
「今の感覚が魔法を発動する感覚?」
「そう、|魔素《マナ》を感じて集める処から一度やってみて」
「はい」
アンは、|魔素《マナ》を感じ、集め始めた。まだ、要領は掴みきっていないけど、段々アンに|魔素《マナ》が集まっていく。そして、僅かな魔力と|魔素《マナ》によって魔力回路が構成される。そして!
「フリーズ・ブリット!」
アンの攻撃魔法が発動した。
「やったー! 私、初めて攻撃魔法が発動できました!」
「良かったわね。アンは中々器用ね。これだけ簡単に習得してもらえると楽だわ」
「ありがとうございました。私、百人に一人の魔法使いになれたんだ!」
百人? 百人に一人? 私の頃は誰でも使えたわよ? 向き不向きはあったけど。今世は驚く程魔法使いの知識が失われているのか?
「じゃ、アンはフリーズ・ブリットの魔法で練習していて。休みながら行うのよ。連発し過ぎると、マインドダウンするから気をつけて。魔力を使うと精神披露が起きるから、疲れるの、そして、疲労すると魔力も下がるから気をつけてね」
「はい、わかりました!」
アンは元気に返事をするとがんがんフリーズ・ブリットの魔法を唱え始めた。多分、マインドダウンするな。私も初めて魔法発動出来た時はそうだった。でも、それは仕方ないだろう。幸い、ここには魔物はいない、出て来てもせいぜいゴブリン位だろう。それなら私一人でも倒せる。それにマインドダウンする感覚は早目に感じておいた方がいい。自身の限界を早めに知っておいた方がいいのだ。戦闘中のマインドダウン。それは死を意味する。絶対避けなければ。
「じゃ、次はアル」
「うん、頼むよ。僕にも魔法を教えて」
「じゃ、私と手をつないで」
「ああ」
「……アル、これ、なんのつもり?」
アルは恋人つなぎをしてきた......
「やだな~。昔、君が教えてくれたじゃないか?」
「それはそうだけど。わかったわ。とにかく魔法をアルを通して発動するからね」
「フリーズ・ブリット!」
「感じ掴めた?」
「うん、結構簡単そうだ」
ホントかな? 普通、何度かやらないと初めての魔法発動は難しい。アンはかなり才能アリなのだ。でもアルが才能アリなの?
「じゃぁ、やってみて」
「フリーズ・ブリット!」
驚いた。アルは簡単に魔法を発動した。それに|魔素《マナ》の巡りが完璧だ。初めてでこれ程うまくできるなんて! 私はアルにドキドキときめいた。そして、恋人つなぎをアルに教えた時の事を思い出した。初めての恋人つなぎ、そして、10才の私とアルはキスをした。私が無理やりキスをさせた。おませな私はアルのお嫁さんになるとまで言ってしまった。
黒歴史だわ……でも、あの時は興味本位で……今はアルにときめいている。私はアルの事は好きだけど、愛しているのか? わからない。愛した事がないから、良くわからない。アルは大事な人。だけど、幼馴染として。恋人として愛しているかどうかは自分でもわからない。
こうして二人は氷魔法のフリーズ・ブリットと魔法の軌道修正まで学んだ。これだけでも十分だろう。次回は水の回復魔法と防御に便利な地の防御魔法を教えよう。
私が感慨に耽っていると、いつの間にかアンもアルも魔法連発し過ぎて、マインドダウンして失神していた。これ? どうすればいい?
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