先生に攻撃魔法への突っ込みを受けてヤバい事案となったが、ここは天才美少女冒険者クリス。単なる天才のなせる技という事にしようと思い、先生に説明した。
「見ていてください。......フリーズ・ブリット!」
私は先生の前で氷の攻撃魔法を披露する。そして、私の魔法は大きく軌道を変えて曲がり、ほぼ90度の木の目標に着弾する。
「私、別に変わった事してる訳じゃないくて、ただ、魔法の軌道を変えて命中させていただけなんですよ。凄く簡単で誰でもできますよ」
「「「できるかぁ!!!!!」」」
一斉に三人の突っ込みを受ける。
「私、天才美少女冒険者クリスですから♡」
できるだけ可愛く言ってみた。
「お前、怖いわ!」
「はうっ!」
ちょっと傷ついた。怖いだなんて言われると傷つくんですよ。酷いよ。
「まぁ、先生、クリスは非常識なので、許してやってください」
「そうです。それにクリスさんはヤバい方なので、あまり関わると命に関わりますよ」
アルとアンがフォローしてくれるが、アンのフォローはますます私をヤバい女の子に仕立てているように聞こえる。私としては愛される天才美少女冒険者を目指しているので、ヤバい女の子のイメージは御免こうむる。
「まぁ、天才というのが本当なら、非常識なのもそうなのかもしれない。しかし、命に関わるってなんだ?」
「聞くと私と同じように、何時、明日自分の命が無くなるかわからない存在になります」
「クリス、怖ぇ......」
「はい、怖いです。私も逃げたいのですが、逃げたら、命が無くなりそうで......」
はらりとアンが涙を流す。いや、そこまで追い込んでるつもりは無いです。ごめんなさいです。
「いや、アン・ソフィさん別に私達から遠ざかっても、そんな事になりませんよ」
「えっ! じゃ、私、逃げてもいいんですか?」
「それは駄目です!」
「なんでー!」
アンが涙目で訴えるが、そこは無視だ。
「とにかく、周囲に魔物がいなくなったようなので、軽食とりません?」
「私の事は無視ですか?」
「・・・・・・」
「あ。はい、わかりました。無視なんですね」
判れば宜しい。
軽食を食べ終えた後、再び魔物を求めて森を彷徨った。
何度かゴブリンやオークに接敵するが、少し、控えめに魔法を使う様にした。
先生はもう投げたのか私の魔法の事は突っ込まない。いや、ホントに命に関わると思ったのかな? ホント、叔父様のおかげで、私、かなりヤバい女の子になっちゃった。
森の中で2時時間程戦っただろうか? おそらくそろそろ討伐訓練は終わりだ。1日4時間のコースだから、そろそろ森から引き返さないと時間オーバーだ。私はほっとしていた。無事訓練を終えた。そんな気の緩みが出た時が一番危ない。それは前世での経験でわかってはいたが、いつしも人間は安易な方に考えてしまう。
「何か強い魔物が接近して来る!」
シモン先生が大声で注意を促す。おかしい!? 今まで先生は注意を促さなかった。先生はおそらく探知の魔法かスキルを使っている。でも、今まで魔物が接近していても、あまりそれを言わなかった。できるだけ突然魔物に襲われても心構えができるようにする為だろう。それに強い魔物と言った。それはもしかして、先生にとっても強い魔物という意味では?
『探知スキル』
反応はない。私の探知スキルはLv1だ。魔物は隠蔽の魔法を使っているのかもしれない。
カチン
「先生、魔物はどこに?」
私は聞いた。だって、先生は剣を抜いたのだ。
「真正面からもうじき来る! お前ら、戦闘態勢に入れ! アル君はクリス君を守れ! クリス君は攻撃魔法で、魔物をたたいてくれ! 多分魔物は霊体型の魔物だ!」
カチン
カチン
アンとアルが剣を鞘から抜き払った。
私も魔力を高める。そして、周囲の|魔素《マナ》を集める。周りの|魔素《マナ》がどんどん集まってくる。今まで、|魔素《マナ》の力は借りていなかったが、今回はそうもいかないかもしれない。もし、Cランク冒険者のシモン先生でも脅威になるような魔物なら、全力でいかないと、命に係わる。
「あれは?」
「スペクターです!」
私は魔物の正体がわかった。やっかいな魔物だ。先生の言う通り、霊体の魔物でCランクの魔物だ。魔物も強さに応じてクラス分けがなされる。おおまかにいうとCランクの冒険者が4人で余裕を持って倒せるのがCランクの魔物だ。今、Cランクの冒険者は先生だけ。それにしても何故こんなところにスペクターが? こんな強い魔物はかなり森の奥にいかないと出くわさない筈。
それにしても、まずい、先生は戦術を間違えている。先生は私の攻撃魔法を主力に戦うつもりだろう。そして、先生とアンが囮となり、魔物を足止めして、スペクターを倒すつもりだ。その作戦は成立しない。何故なら、スペクターは霊体なのだ。つまり剣が役に立たない。先生もアンも足止めはできないのだ。
思いがけない強敵との遭遇、それ自体は絶えず想定しなければならない事だ。だが、今一番大きな問題は指揮官である先生が有効的な指揮をとれていない事が問題だ。
先生のいいつけ無視しちゃおうっと♡
「先生! 先生とアンの剣にヒールの魔法を付与します」
「なんだって?」
「いいから、今、すぐに付与しますから。黙って戦ってください」
「聖なる癒しのその御手よ 母なる大地のその息吹 願わくば 我が前に横たわりしものに今一度の力を与えんことを! ヒール!」
私は完全詠唱の魔法の言葉を紡ぎ、マナの力を借りて、ヒールの魔力を先生の剣に付与した。
続けて、アンにも。
「ヒール!」
二人がスペクターと戦い始めた。
「こ、これは!」
「スペクターが剣を怖がっています」
当たり前だ。治癒魔法のヒールはアンデッドのスペクターにとっては致命傷となりかねない魔法なのだ。そのヒールの魔法を宿した剣で斬られれば、霊体のスペクターとはいえ、ただでは済まない。スペクターは剣に宿った光魔法の気配を感じているのだろう。
「二人共、殺っちゃってください」
「わかりました」
「理由はわからんが、剣が有効という事だな?」
「そうです!」
二人が戦い始める。しかし、その間に私は次の準備を進めた。スペクターはCランクの魔物だ。先生とアンでほぼ互角となったとは思うが、未だ、大きな脅威に違いない。私はアルの剣にもヒールの魔法を付与した。
「聖なる癒しのその御手よ 母なる大地のその息吹 願わくば 我が前に横たわりしものに今一度の力を与えんことを! ヒール!」
アルの剣にヒールの魔法を付与する。アルの顔色は悪い。当然だろう。これだけ、強力な魔物に突然襲撃されたら、私だって、前世の記憶が無ければ泣いていたかもしれない。
「アル、お願いね!」
「ひぃぃ‼ ひぃぃいいいいいい!」
あれ?
「ア、アル?」
「くるなぁ、やだ、やめ――――あぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
やばい。アル、あれだけ私の事守るとか言っておいて、まさかの役立たず? 明日、奴隷として売り飛ばそうかしら?
「先生! スペクターの目が赤くなったら、魔法を使います。気をつけてください」
「なんだって? そんなの聞いた事が無いぞ!」
「先生、黙ってクリスに従いましょう」
「わかった!」
スペクターの目が赤く光る。おそらく、魔法がくる。
『吹き過ぐ風の精霊達よ 我に従い力となれ』
耳障りな声が聞こえる。スペクターの声だ。この魔法は!
「風の刃の魔法です。スペクターの赤い目が消えたら発動します。発動した瞬間逃げてください」
「わかった!」
「はいっ!」
スペクターの赤い目が消えた瞬間、先生とアンは咄嗟に体術を駆使して逃げる。
ザリザリザリザリザリザリザリザリ
風の刃が空を切り裂く音が聞こえる。!?
「しまった!」
私は不覚をとった事に気が付いた。スペクターは私に気づいていた。間違いなく。魔物は自然に最も驚異のある存在を攻撃してくる。このパーティの要は私だ。光魔法が使える私はスペクターにとって、一番脅威だ。しかし、先生とアンの二人の壁を抜けるのは難しい筈だった。後は私が隙を見て、ヒールの魔法をスペクターに与えれば、大ダメージを受けて。スペクターは敗北するだろう。そう思っていた。しかし、
「しまった。クリス君! アル君! 気をつけろ!」
「アル君お願い!」
先生とアンの声がこだまする。スペクターが二人の前衛を突破して急進する。しかし、肝心のアルは......
「ごめ゛んなざい! ごめ゛ん゛なざい! ゆるじでください!! あ、はっ、はあっ、うわあぁぁああ! た、たずげ……たずげでぐれえぇぇぇぇぇっ!」
アルは使いものにならなかった。スペクターは先生とアンの二人を突破すると真っすぐに私に向かってきた。アルは役に立たない。私が戦うしかない!
丹田に|闘気《プラーナ》を集中させる、体中に|闘気《プラーナ》を巡らせる。|魔素《マナ》を感じ、大気中の|魔素《マナ》を集める。そして、魔力を剣に集中させる。
スペクターが私の剣に魔力が宿った事に気が付いた。だが、もう遅い!
「昇竜剣!」
スペクターに瞬速で近づくと下段から上段に向けて、ジャンプしながら剣を薙ぐ!
『がっ、ああぁぁあああ!』
冥界の亡者の塊が枯れる様な声でスペクターが呻く! 強烈な異臭が私を襲った。
スペクターは消滅間際だ。私の最大量の魔力を込めた剣で真っ二つにされた霊体は復活できなかった。私は止めをさした。
「聖なる癒しのその御手よ 母なる大地のその息吹 願わくば 我が前に横たわりしものに今一度の力を与えんことを! ヒール!」
スペクターを金色の粒子に包まれたヒールの魔法が包む。スペクターは滅んだ。
「まず、どこから、突っ込もうかな?」
「ごめ゛んなざい! ごめ゛ん゛なざい! ゆるじでください!! だからもう、そっとしておいて……何も聞かないで……」
「アルの真似をしても誤魔化されないぞ!」
ケッと心の中で思ったが、何処がおかしかったのかしら?
疑問しか残らなかった......
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