何度やり直しても無理なんです! ~悪役令嬢に転生した私だけど、やっぱり悪役にしかなれない~

何度転生しても最後は処刑。どうかお嬢様に幸せな日々を!
緋色
緋色

二十五話 ごめんね、二人とも

公開日時: 2022年7月1日(金) 10:11
文字数:2,682

「これより、罪人アンスリア・リオ・ヴェロニカの裁判を執り行う。陪審員は前へ」


 これは五回目の断罪の記憶だ。

 ここは王都にある時計塔広場だった。その前に建てられたのは、魔女と呼ばれた忌み人を磔にする処刑台。それは広場ここに集う観衆の誰もが傍観できるよう、四階建てのビル程の高さもある。

 その頂点に、私は磔にされていた。

 そう。ここは私を焼き殺す為の演壇ステージ


「それでは最初の参考人、証言台へ」


 証言台に立つ見知らぬ人達は皆、決まってこう発言した。

 アメリナの殺害に使おうとした毒薬の調合。何人もの人間を負傷させた強大な魔力。善良な人々の心を誑かし、自らの手先へと変えさせた洗脳。

 それが私の犯した罪なのだと、口を揃えて言う。その全てが偽証だとは、誰も疑いはしない。


「陪審員による多数決により、アンスリア・リオ・ヴェロニカの有罪が可決。よって焚刑に処す」


 何の感情も無く、そう判決を下す裁判官。最初から決まっていたかのような台詞。機械に内蔵されていたような定型文テンプレート

 そして大歓声の中、処刑執行人が私の足元へと近付いてくる。赤々と燃える松明を片手に携えて。


「魔女アンスリア、何か言い残す事は?」


「……さっさとやりなさい」


「……執行せよ!」


 視界が真っ赤に歪み、全身に針を刺されたような痛みが走る。

 暴走した私の魔力が、地獄の業火を更に激しく盛らせた。決して私の死の間際は、誰にも見せてはあげない。

 一晩、一日、一週間。この身が灰となるまで、燃え続けてあげるわ。


 ━レーゲンブルク城・薔薇園跡━


「ごめんね、ごめんなさい」


 今私の瞳に映るこの情景は、あの時の観衆と一緒だ。炎で焼かれた私を見ている観衆と。

 ただ見ているだけで、何もしない。何もできない。


 魔法で消せば良い。水路から水を汲めば良い。そんな事はわかっている。でも、身体が動かなかった。

 燃滓となって消えていく薔薇の花弁。きっとあの時の私も、こんな風に消えていったのだろう。


 ━翌日━


「なぁ、メア、この薔薇って何て名前なんだ?」


「えっと……確か……クイーンジェノサイ・・・・・、だったかな?」


「えっ、マジ? すげえ物騒な名前……」


 誰かの話し声に起こされ、ふと目を覚ました。白い長椅子に横たわる私の上には、何故か薄いブランケットが一枚。

 少しずつ甦るのは、昨夜の記憶。

 そうだ。あの後私は、意識を失ってしまったんだ。どうやら酸欠になってしまう程煙を吸ってしまっていたらしい。


「二人共、全然違うわ。正しくはクイーンゼノヴィア・・・・・よ。大量虐殺ジェノサイドなんて名前、薔薇に付ける訳無いでしょう?」


 怠い身体を起こした私は、ゆっくりと立ち上がった。

 昨日の出来事が嘘のように広がる景色が、一瞬にして頭を冴えさせる。何故なら、焼失した薔薇も焼け焦げた石畳も、その全てが元通りになっていたのだから。

 悪い夢から目覚めたのかと、そう思ってしまうほどに。


「あっ、お嬢様、お早うございまーす!」

「お早うございます、アンスリアお嬢様」


 元気に手を振るメアと丁寧にお辞儀をするリヒト。黒い煤と土まみれになっている酷い姿で。と言う事は、きっとこの二人が修復してくれたのね。

 ……いいえ、太陽の位置から察するに今はまだ昼頃。例えリヒトとメアと言えども、たった二人でできる筈がない。だとしたら、一体どうやって……。


「アンナさんとクロエですよ。つい先程まで、ご助力頂いておりました」


「……そう」


 私が何を考えていたのか、見透かすようにそう言うリヒト。

 それにしてもアンナとクロエが手伝うだなんて、どういう風の吹き回しかしら。そもそも勤務中に薔薇園の手伝いなんてできる訳がない。もしやろうものならアイザックとエヴリンが許す筈がないもの。

 だから二人が手伝うとしたらそれは、休憩時間か休息日。何の給金も利益も無いのに、どうして……。


「時にアンスリアお嬢様、不躾ながら一つお聞きしても?」


 真っ直ぐに私を見つめるリヒト。その真剣な眼差しから、不思議と視線を逸らせない。


「……何かしら」


「何故お嬢様は何も言わないのですか? 卑劣極まりない仕打ちをされているのにも関わらず、ただ我慢しているだけのようにお見受け致しますが」


「……。」


 いつかは言われると思っていた。

 今までは敢えて何も聞かず、ただ助け続けてくれたリヒトとメア。私がレオニード公爵に手を上げられた時もそう。心配してくれて、手当てなんかもしてくれて。

 だからこそ疑問だったのだと思う。意気地の無い態度に苛立ったのだと思う。

 何もしない、何も言わない私に。


「ねえ、お嬢様、せめて私達にだけは本音を言ってくださいよ。頼りないかもしれないけど、精一杯お手伝いしますから」


 私の手を握るメアは、まるでお姉さんぶったように諭してくる。ほんの一歳だけしか変わらないのに、なんて生意気なのだろう。

 でも……。


「ありがとう、二人共。私は平気だから」


 そう、私は大丈夫。今はまだ。


「さあ、もうすぐ昼食の時間よ。こんな端たない格好では叱られてしまうわ。貴方達も着替えて来なさい」


「……畏まりました」


 どうにも腑に落ちない様子のリヒトとメア。

 差し出した救いの手を払い除けられたのなら、誰でもそうなるわね。

 でもごめんなさい。今の私は、どうしたら良いのかわからないの。


 ━本邸・食卓の間━


 その後、すぐに昼食を摂る為に一同が集まった。珍しくリヒトとメアも立ち会い、他の使用人達と整列している。

 そんな沈黙の中、カートを押して料理を運んでくるアンナとクロエ。一皿ずつ丁寧に食卓へと並べていく。

 食前酒、前菜と続き、アメリナ達の会話が弾み出す。


「こちらは九種の野菜とコルチェスター産の豚肉を使用したスープ、ミネストローネです」


 そうアンナに説明され、目の前に置かれた赤いスープを見つめる。

 これはあの時と同じものだ。遠い昔、毒を盛られたあのスープ。

 そして私は、ある事に気が付いた。

 それは隣に座るアメリナのスープの色。赤みがかった中に、螺旋状に広がる緑色の液体。パセリやバジルなんかではない。

 過去に見たままのものだ。だとすれば、あれはきっと……。


「メア、アメリナのスープを下げなさい」


「へっ? あっ、はい」


 訳もわからず、言われるがままに皿を下げるメア。クロエの前にあるカートに乗せ、アメリナにお辞儀をする。

 私の記憶が正しければ、あの緑色の液体は毒物。そう。過去に私のスープに混入させられた毒茸、ヴェレノキオディーニだ。

 もしあのままアメリナが口に入れてしまっていたなら、確実にアンナとクロエが疑われてしまうだろう。それは最早解雇どころの話ではない。殺人未遂で投獄、或いは国外追放。

 でもそんな事にはさせない。


 だって私は、本当の犯人を知っているのだから。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート