バイトで”悪魔狩り”始めました。

最強降魔術師の助手のバイトを始めた女子大生エマのお話
さまー
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Case.10「こういうことがあるからバイトにも報告はすべき」

公開日時: 2020年10月18日(日) 21:13
更新日時: 2021年1月24日(日) 03:13
文字数:6,679

 スズメの元には、釘塚からの連絡が入っていた。『高虎エマを本部に連れてきなさい』と。

 

「ごめんエマちゃん、ミツハ……ちょっと後ろで話しててくんない? ハンズフリーかけるから」

 

 

 

 そう言ってコンビニの駐車場に車を停めると、エマを後部座席へ移動させた。無線と携帯電話を同期させる。

 

 

 

「もしもし、釘塚さん……はい、都内差し掛かってます」

 

 エマは、“釘塚”という男の名を、今初めて聞いた。

 

『それじゃあ、そのまま……本部連れてきなさい。そこからなら……ざっと30分ほどかな』

「……真っ直ぐ向かえば……20時ごろには着くと思います」

『それじゃあ待ってるよ』

「……一つ、一つだけ……約束してください」

 

 スズメの声色の変化に、釘塚は一瞬黙った。

 

『どうした?』

「降磨竜護がどこで戦っているのか、私知っています。19時35分になってもコウマから連絡が無ければ、人員を斡旋してください」

『君の口からそんな言葉が出るとはねえ……もしかして、かわいい妹の頼みか?』

 

 スズメのハンドルを握る手に、力が入る。

 

「……関係ありません。私の意志です」

『うん、そうだね。俺としてもコウマ死なせたくない。暇してる段持ち何人か派遣するよ』

 

 ふとあることに気づく。コンビニを出発したぐらいから、黒いボックスカーが後ろをずっと尾けていることに。

 

――意地の悪いことをするよね。

 

 スズメはアクセルを踏む足を強めた。

 

「エマちゃん、悪い知らせと、とっても悪い知らせがあるけど、どっちから聞きたい?」

「えっ?」

 

 突然のスズメからの質問に困惑するエマ。

 

「こういうのって、良い知らせか悪い知らせの二択じゃないんですか?」

「場合によっては、良い知らせね。例えば、うん……カーチェイスは好きかしら?」

「え、えっと……」

 

 エマが返答に迷う間にも、黄色信号を強引に直進する。ほぼ赤色に変わるだろうと言うタイミングで、後ろの車もついてくる。路地に左折で入り込む。それにも、ついてくる。

 

「ビンゴね」

「カーチェイス……したことないので、わかりません」

 

 ここでエマが返答する。バックミラーに写るスズメの不敵な笑みを見ながら。

 

「それじゃあ良い知らせだわ。今宵、初めてのカーチェイス体験に招待してあげる」

 

 次は強引に右折、そして細い路地を突き進む。大きなボックスカーなら、普通は通らないような道だが、それでもついてくる。

 

「姉さん、私たち、どうして追われてるの?」

「隠し事したのがよく無かったのかもね」

 

 ミツハの質問にも、不透明な答えしか返さない。

 

「その隠し事についてだけど、悪い知らせを言うわね」

「はい」

「はい、姉さん」

 

 ハンドルを切りながらなので、歯切れの悪い話口調になるのも仕方がない。

 

「今から、釘塚さんに嘘ついて、コウマが戦っているところへと向かいます」

 

 後部座席の二人は、話の意味がよくわかっていない。特にエマは、先ほどコウマに『女の子と飲みに行ってくる』と聞いていたので余計にだ。

 

「……コウマさんって、合コンに命懸けてるタイプの人なんですか?」

「エマちゃん、それってどういう意味ですか?」

 

 エマの言葉に疑問符しか浮かべることのできないミツハ。スズメは運転席でため息と苦笑いを同時に出す。

 

「やっぱし……変な男ってこういうときにカッコつけたがるんだよねえ。ほんと、不器用なんだから、あのゴミクズ」

 

「は、はあ……、とりあえずコウマさんは愚魔狩りに行ってるってことですよね?」

 

 訳はわかっていないが、エマはとある男に連絡を取ることにした。『ビッグニュースがあります』とメッセージを添えて。

 

 車内では、スズメ一人がすべてをわかっている。コウマがエマについた嘘も、エマが釘塚に狙われているという事実も、自分が今、釘塚の命令違反をしているということも。

 

 

 


◇ ◆ ◇ ◆


 

 

 

 浅葱閻魔あさぎえんまに距離を詰められ、右腕を高く、薄藍うすあい色の空に振りかざしている。このまま振り下ろせば、おそらくコウマの頭は潰され、死に至るだろう。しかし、この状況――右脾腹ひばらと右肩に痛手を負っている状況で、コウマは不敵な笑みを浮かべた。

 

「言うたやろ……一瞬の予断も許してくれへんのやなって……」

 

――『紅蓮閻魔ぐれねんま』と『蜥蜴魔少女ウィッチィ・オブ・リザード』!!

 

 降魔の剣こうまのつるぎを大きく開かれた鬼の口に差し込んだ。

 

 

 

ぜろッ!!」

 

 

 

 紅蓮閻魔による地獄の炎が、浅葱閻魔の凍結の能力を相殺する。言わばイーブン。降魔の剣は浅葱閻魔の口腔内に切先をわずかに刺し込んでいる。この状態で放たれる、蜥蜴魔少女の爆発――巨大な爆発音が、冬の静寂すらも思わせていた河川敷に響く。

 

 

 爆風に従って後ろに吹っ飛ばされつつ距離を取るコウマ。鼓膜がバカになっているのか、周りの音は全く聞こえない。爆風の後に遅れてやってくる熱風は、寒さの中ではやたらと際立つ。煙は……ほぼ黒に近づいている空の中では見えづらい。

 

「頭にあれくらったらさすがに持たへんやろ……」

 

 そう信じたかった。しかし、コウマも薄々気づいている。あの手応えでは、決定打にはなり得ても完全に倒せてはいないということに。まだ刀を構える手を緩めはしない。

 

 

 真っ黒な煙の中から、白い吐息が見えた。コウマの口から変な笑い声が出る。

 

「ははッ……全然効いてねえのかよ」

 

 正しくは――効いている。しかし、真っ暗な中にほぼ聴覚を失った状態でたたずむコウマにはその情報を感じ取れるものが無い。浅葱閻魔は顔周りの原型を留めてはいない。しかし、それは鬼自身の吐く息の白さと、爆風の余韻がもたらす煙で誤魔化されている。

 

 

「……どうすりゃいいんだ……」

 

 追撃のタイミングが、無い。寝てしまった紅蓮閻魔。これでも長持ちした方だ。蜥蜴魔少女だけでは若干心許ない。時計は19:45を表示している。

 

――くそったれ……。長丁場になるほど不利だってのに……。

 

 もう、一時間と20分が経過しようとしていた。寒さでコウマの身体の限界も近い。

 

「降魔術ッ! 『愚龍グーロン』!!」

 

 愚龍を降魔してきた。浅葱閻魔は、ゆっくりではあるが、近づいてきている。

 

「ヴォ、ッヴォおおおお!!」

 

 叫びだした――否、コウマの聴力が時間と共に回復してきていたのだ。

 

――来るッ!?

 

 白い吐息をコウマめがけてぶつける。コウマは飛びのけようとしたが、足先に凍て付く何かを感じ取る。

 

「ちぃ! よけきれねえかッ!!」

 

 右足の神経が凍った。感覚は0に等しい。右肩、右脾腹、右足――絶体絶命の満身創痍だ。浅葱閻魔は先ほどの攻撃を学習してか、むやみに距離を詰めてはこない。右足を引きずってでも、脇腹の痛みに立てなくてはいつくばってでも、動かなければ次の攻撃が当たる。

 

 

 時計は――19:47を表示している。

 

――釘塚のおやっさん、人員斡旋する言うて全然寄こしひんやないか。二番目にアカンパターンやで。

 

 浅葱閻魔は、ボロボロの顔面――裂け切った口元から凍て付く吐息を出そうと、息を吸った。そのとき――遠くからパン、パンと手の鳴る音がする。

 

 

 

「鬼さん、こっちだ。手の鳴る方へ!」

 

 コウマにとって、聞き覚えのある声だった。音のする方を向く浅葱閻魔。そこには――蜂野姉妹の妹、蜂野ミツハが立っている。

 

 そのブルーの瞳に吸い込まれ、意識が完全に遠くへ向いた愚魔。そこへ――明らかに無理をさせているエンジン音がする。何事か、とコウマが河川敷の方を向くと、一台の軽自動車が、堤防を下ってきていた。

 

「……はぁ!!?」

 

 驚いたのも束の間、ライトに照らされていたコウマの唖然とする顔。運転手はドリフトを切り、後部座席の少女がドアを開けた。そのままコウマを車の後部座席に引きずり込む。社内は、初夏の車の中とは思えないくらい暖かい。

 

「まったく、こっちは滝のように汗掻いてるんだよ」

 

 運転手が小言を吐く。自分を引きずり込んだ少女は、ケガした箇所を触らないようにそっと優しく撫でる。

 

「お、お前ら……」

 

 コウマが見たのは、暖房がガンガンに効いた車内の、運転席に座る蜂野姉妹の姉、スズメと、後部座席に乗る少女、エマの姿だ。

 

「お、お前らが派遣されたんか!?」

「そんなわけないでしょ。アナタのかわいい助手のために、減俸覚悟で来てやったのよ」

 

 言葉の意味を理解する前に、スズメがアクセルを強く踏んだので、なすがままに後部座席のシートに張り付けられる。

 

「……コウマさん、なんで私の目の前でカッコつけてくれないかなあ」

 

 エマからも小言を言われ、ふてくされるコウマ。

 

 

「……なんで来たんや」

「……コウマさんが戦ってるのに、助手の私が何もしないわけには行かないですよね」

「アホか。来いなんか一言も言うてへんわ」

 

「死にかけではいつくばっていたくせにでよく言うわぁ」

 

 運転席から横やりを入れるスズメ。このままドリフトをかけながら、浅葱閻魔と一定の距離を保つ。幸い、今浅葱閻魔は、ミツハのブルーの瞳の虜だ。

 

 

「説明はあとでいい?」

「ああ……でも正直、一番アカンパターンの奴やでこれ」

 

 

 なぜなら、浅葱閻魔は“餌魔えま”の味と匂いを知っている。極上の食材を目の前に、ミツハの能力が効かなくなるのも時間の問題だ。そして、エマを狙ってこの車が狙われれば、いわゆる一網打尽というやつである。

 

「……アンタの中での理想はなんだったの」

 

 スズメが問う。コウマは身体が温まってきたのか、傷口がうずくらしい。傷口を抑えながら言う。

 

「……釘塚さんが適当に何人か愚魔狩を送ってきて、スズメが釘塚さんの命令に従ってエマを保護してくれよるもんや思てたわ」

「残念だけど、あたしたちの上司ってもっと狡いやつなのよ。私たちを強引にさらった挙句、コウマがボロボロになるまでギリギリ待って、数少ない人員を斡旋し、鬼型討伐の横取りをする魂胆こんたんだったんでしょう」

 

 スズメの愛想笑いに、エマは固まる。

 

「……そんな……コウマさんはすでに死にかけだったし、もう約束の時間すぎてるのに!」

「そうよ。だからこの時間を狙ったの。先に約束を反故ほごにしたのは、釘塚サンの方なんだから!!」

 

 

 コウマが「ふしゅー」と辛そうに息を吐く。横でエマは心配している。

 

「……」

 

 本当に、満身創痍なのだ。最強と呼ばれる降魔術師の愚魔狩でさえ、この有様。

 

「私、餌魔を食べた愚魔を初めて見たんだけど、どれぐらい強いの?」

「星を手にした配管工くらいには強なる」

「無敵じゃないの」

 

 スズメも悩む。ガソリンにまだ余裕はあるが、いつこの車を標的に変えてもおかしくないこの状況。ミツハの能力が切れたとて、ミツハが狙われるわけではないものの、それ即ちエマが狙われることになるからだ。

 

「……あ、そういえば」

 

 ここで、エマが何か思い出したかのように呟く。

 

「どないしたんや」

「いえ、餌魔の力って、コウマさんが使役している、“降ろしてきた愚魔”にも有効でしたよね」

 

「それがどうしたんや」

 

 本筋を見せない言葉にいら立つコウマがぶっきらぼうに問う。エマはスズメの方に寄って行った。

 

「スズメさん、爪切りありません?」

「爪切り?」

 

「汗舐められるだけで分裂したり、猛スピードを手に入れたりと“発達”する愚魔。それこそ、爪の垢煎じて飲ませる――通り越して、生の爪を切って食わせるくらいのことをすれば、あの青鬼とも戦えるのでは……と思いまして」

 

「!!」

 

 スズメも、コウマも……今気づいた。

 

「くそったれ……なんで気づかへんかったんや」

「その手があったわね」

 

 スズメはハンドル片手にポーチから爪切りを取り出し、エマに渡す。

 

「コウマさん、この状況で一番戦える愚魔は?」

 

 エマなりに、コウマのことは信用している。ここまで粘って戦ったのだ。そういうカードがいないわけがないという圧倒的な信用がある。

 

「あの青鬼の片割れ……赤鬼『紅蓮閻魔』がおる」

 

 

 後部座席の窓を開け、降魔の剣を伸ばす。

 

「降魔術――『紅蓮閻魔』!! お前にはもったいないくらいのご馳走ちそうが来たで!!」

 

 それこそ、ふて寝する子どもを無理やりたたき起こすように、コウマは刀身を無理やり赤くした。そして、紅蓮閻魔を具現化させる。エマは、その口めがけて自分の切った爪を投げ込む。何枚も、何枚も……。

 

『ギャオオオオオアオオオオアア』

 

 紅蓮閻魔の雄叫び。完全に目覚めた。

 

「身体も温まったことやし、行ってくるわッ!!」

 

 窓から飛び降りるように後部座席を出て行ったコウマ。刀身は真っ赤に、その先に紅蓮閻魔が両腕を胸の前で組んでいる。餌魔を食べた浅葱閻魔と、ほぼ同じ大きさだ。

 

 

 

――爪しか食うてない分、効果は一時的かも知らへん。でも、これなら十分決定打与えられるッ!!

 

 

 

「『獄烙浄土ごくらくじょうど』! 超えて……『獄烙焦土ごくらくしょうど』!!」

「ギャアアアアオオオオオアア」

 

 紅蓮閻魔が、口から炎を吐く――そう、それはエマを助けたあの日と同じ、真っ赤な紅蓮の炎。地獄の炎と思わず形容してしまうような、そんな色、形、燃え盛る轟音――

 

「ヴォオオオアアオオアアアア」

 

 浅葱閻魔も、負けじと冷気を吐く――これも、ある意味では地獄なのだろう。万物を凍て付かせる摂氏マイナス273℃、絶対零度の吐息。

 

 二つがぶつかり合う。相殺、相殺、相殺――ぶつかり合うたびに炎は冷気にその熱を奪われ消える。そして冷気は炎の熱に凍て付かせたものを溶かされる。先に勢いが弱まったのは、顔に深手を負っていた浅葱閻魔の方だった。

 

 

「す、すごい……1級愚魔同士の戦いってこんな感じなのね」

 

 軽自動車を離れたところに止め、遠巻きに2体の戦いを見ているスズメ。エマもその光景を眺めている。その少女を見ながら、スズメは思案する。

 

――餌魔を捕食した愚魔と、餌魔の爪だけを捕食した愚魔。これは……愚魔界のパワーバランスが崩れるという釘塚さんの見解も頷ける。こんな強力な愚魔の魂を、暴走させずにコントロールできるのは……術師がコウマだから?

 

 

 そして、ついに均衡が破れる。地獄の炎が、浅葱閻魔の身体を包んでゆく。

 

「ヴォオオオオアアアア!!」

 

「さすがにもらったやろッ!!」

 

 炎に包まれ、苦しむ鬼の元へ、コウマはゆっくりと歩いていく。

 

「……てめえの魂、降魔の剣の中にいれたるわ」

 

 消し炭となりかけの身体に刀を差し込む。枯れた大木のように、表面の堅さこそあるが、一度入ってしまえば奥まで刃が通る。

 

なんじの魂、この降魔の剣と共に、御魂永久みたまとわにあらんことを」

 

 

 

 

 

 

 

 スズメも、エマも、ミツハも、遠巻きにその光景を見ている。

 

「た、倒したんだ」

 

 エマが呟く。両脇に立つ姉妹はエマの方を一瞥した。

 

「え、餌魔を捕食した愚魔を……?」

「コウマさん、すごい……」

 

 堤防を下るエマ。冷え切った大気は、陽光無き今暖まることはないが、そんな寒さも忘れるほど――霜が降りて固まった芝生を踏み、駆け出した。

 

 

 

 

 

「コウマさん!!」

 

 コウマの元へと走る――コウマはエマの方を振り向いた。

 

「……エマ」

 

 エマは走り込んでコウマを抱きしめた。その力に、なし崩しになりながらも、強い体幹でなんとか受け止めることができたコウマ。

 

「ははは……お前のおかげや。ほんまにありがとう」

 

 エマの頭を抱きかかえ、コウマは礼を言った。

 

「……お前は餌魔や。せやけど、それ以上に俺の助手として優秀やわ。ありがとう……お前を助手にして……正解やったわ」

「コウマさん……」

 

 途端に、抱きかかえていた力が抜けているのがわかったエマ。

 

「こ、コウマさん!? え!?」

「……アカン、もう疲れたんやと思う」

 

 そのまま抱きかかえられた身体をエマに預け、そのまま眠るように目を閉じた。

 

「ちょ、コウマさん!? コウマさんッ!!」

 

「寝てんのよ! エマちゃん、あなたの腕の中で!」

 

 遠くからスズメの声がする。エマはその声の方を向きながらも、困った顔を向ける。それを見つめる蜂野姉妹の顔が綻んだ。

 

「姉さん、やっぱりエマちゃんってかわいいですよね」

「……ミツハ、あなたほどじゃないけど、私も割と早く気づいていた方だと思うわよ」

 

 そう言うと、軽自動車のカギを開け、エンジンをかけた。

 

「ちょっと待ってな! 車回すわ」

 

 ミツハを助手席に乗せ、堤防を降りようとアクセルをゆっくり踏んだ。そのとき――ボックスカーが後ろから走り込んできた。

 

「えっ!?」

「うそでしょ!?」

 

 ミツハとスズメが目を見開き、思わずブレーキを踏む。クラクションを鳴らしながら、エマとコウマの二人を隠すように車を停めた。

 




「まずい……追ってきたやつだ!」

 

 車の窓を開ける――が、開けた瞬間に聞こえてきたのは、エマの断末魔にも似た叫び声。すぐにドアがバタンと締められる音。瞬時に走り去るボックスカー。コウマはそこに寝転がっている。

 

「エマちゃんが攫われたッ!!」

 

 スズメが即座に気づき、とりあえずコウマのところへ車を走らせる。

 

「……ったく、先に約束を破ったのはアンタだろうが!!」





 怒号を響かせ、アクセルを強く踏む――ボックスカーはもう、遠くへ行っていた。

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