バイトで”悪魔狩り”始めました。

最強降魔術師の助手のバイトを始めた女子大生エマのお話
さまー
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Case.17「社畜の居場所はなんやかんやで仕事場」

公開日時: 2021年1月17日(日) 12:03
文字数:7,013

 大学の入り口付近。スズメの軽自動車の裏に隠れている生井なまいダイトと楠山担くすやま かつぐ

 

「生井さんでしたっけ? 記者の……」

「……うん、それより楠山くん……ありがとう。君のおかげで……あの悪魔は……」

 

 倒せる、とは言い切れない生井。それくらい戦闘に向かう前のコウマたちの顔は引きつっていたからだ。その様子に楠山も思わずうつむいてしまう。

 

「ちょっと!」

 

 蜂野はちのスズメの声がした。ここまで戻ってきていたのだ。

 

「……今、男の人ここ通らなかった?」

 

「え?」

「い、いえ……」

 

 生井も楠山も首をかしげ、お互い目を見合わせる。

 

「なんでまたそんなに慌ててるんですか?」

 

 生井の質問にスズメは目を泳がせた。

 

「……となると、真愚魔たちが多少遠くへ行ったとは言っても、エマちゃんをあの場に待たせたのはまずかったか?」

「まずくないよ、スズメ。君はよくやってくれた」

 

 この声は――生井の声でも楠山の声でもない。スズメは声の方をさっと振り向く。

 

釘塚くぎづかサン……」

 

 声の主は、釘塚=クリストフ=天智てんじ。電撃の真愚魔討伐隊の隊長を担っていた人物である。スズメが驚いているのは、彼が無傷で大学のあたりをうろついているからである。

 

「釘塚サン、討伐隊はどうしたんですか?」

「思ったより電撃の真愚魔が強くてね。別に誤算ってわけでもないさ。討伐隊には話していないCプランに移行しなきゃいけなくなったってだけさ」

 

 顔をしかめるスズメの横でぽかんとしている楠山と生井。

 

「そういう意味ではスズメがコウマとつながる窓口となってくれたのは大きかったよ」

「……あ、ありがとうございます」

「あ、そう……記者さん、良いモノ撮れるぜ。ついてこいよ」

「……あ、はい」

 

 

 スズメの頭に手をポンと置く釘塚。その笑みが何を意味しているのかは、スズメにはわかりかねた。困り果てながらもついていく生井とスズメ。楠山にはとりあえず車内で待ってもらうことにした。

 

 

――誤算は、あの大学生と記者だが、まあやむを得ないか。消すわけにもいかん。もう一つは、高虎エマに情が湧いて橘が先に殺される、守るところまでは予想ができたが、その情がきっかけで高虎エマがまだ戦場に残ってることだ。こっちは嬉しい誤算だがな。

 

 釘塚は歩いていく。その方向は……今まさにコウマたちと真愚魔が戦っているところなのだ。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 芳泉透里ほうせん とうりは痺れて倒れており、召喚した愚魔――燈籠蟷螂とうろうかまきりは敵である電撃の真愚魔によって倒されてしまっていた。1対1となったコウマにジャンプしながら近づく真愚魔の左腕。強烈な電流をまとっているのが、一目でわかった。

 

――やばい。

 

 この攻撃を受ければ、痺れと火傷で全く身動きが取れなくなる。即ち敗北。即ち死。さすがのコウマも、死を覚悟したそのとき、割って入る一人の少女の影。

 

「せっかくのご馳走ちそうが丸焦げになんぞ!!」

 

 ああ、そうだった。こいつはこういうやつだった。自分は守られる側だとタカをくくって隅で泣いているような少女ではないことなど、コウマはずっと前から気づいていたではないか。

 

 突然コウマと真愚魔の間に入るエマ。それを見て咄嗟に電流を纏うのをやめ、足でエマを蹴り飛ばす。空中で蹴り飛ばした体勢かつバランスを大きく崩した彼は転ぶ。

 

「いったぁ~。ふん、まあ……私を喰うつもりならそんな野蛮やばんな攻撃はできないでしょって! 読んでたんだから!!」

 

 蹴り飛ばされて植え込みに身体を突っ込みながらも叫ぶエマ。それを見てコウマは笑った。

 

 

「馬鹿野郎ッ! せやけど、助かったで!」

 

 対して電撃の真愚魔は怒っている。

 

「ほんと……バカだ。お前はァ!! ゆっくり食べるのはやめだ! 先にお前を喰う!」

 

 左腕だけで身体を支え、すぐに立ち上がる真愚魔。一目散にエマを食べようと走り出す。しかし、その身体は一瞬で止められる。傷口のある右肩から背中にかけて太刀を浴びる。

 

「ぐっ……かぁ!」

「せやから言うてるやろ。俺の助手エマに触んなって」

 

 電撃の真愚魔の漆黒の面にも、苦しさが垣間見えた。

 

――クソッ……愚魔界の頂点に立つ真愚魔という存在。その中でも俺は強い方だと自負していたのに。魔力が尽きかけている。ちまちまと回復しながら戦ったのがまずかったか!

 

 走る体力はほとんどない。身体を守る強固な皮膚も、残魔力量ざんまりょくりょうとぼしさ故に耐久力が低下している。

 

「くそぅ……エマァ……お前を……お前を喰いさえすればァ……」

 

 それでもエマの方をめがけて歩くのは、執着からだろうか。コウマは一切の慈悲を見せることなくもう一太刀浴びせた。

 

 見苦しいねん、と一言。電撃の真愚魔は振り返ることなく倒れ込む。

 

――思えば、あの電撃の効かないアンドロイドと戦わされているときからちまちまと魔力を削られていたのか……くそぅ……あのデブのカウンター爆撃さえ喰らっていなければ、スーツの刀使いに時間稼ぎされていなければ、変にこだわらずにエマをすぐに食べていればァ……。

 

「強者は自分が強いがゆえのおごりがある。これが厄介だよなァ」

 

 声がした。コウマの声でも、芳泉の声でもない。スズメのような女性の声というわけではない、低い、あざけるような声。エマは思わず身震いがした。そう、この状況でこんな飄々ひょうひょうとしていることに、いきどおりを感じたからである。

 

「……まあ、これで終わりやな、電撃の真愚魔」

 

 釘塚くぎづかは小走りで真愚魔に近づき、倒れている真愚魔の右肩部分に、魔爆弾ボマーを埋め込んだ。

 

「コウマ、離れておきな」

「おいてめえ……漁夫の利なんかさせへんで」

 

 コウマの挑発的な態度に釘塚は“やれやれ”と首を横に振る。

 

「……釘塚サン、こんなになるまで何してたんですか?」

 

 遠くからエマの声がする。

 

「……ああ、生きてたんだ。良かった……全滅したんじゃないかって、一瞬心配したんだよね」

 

 その言葉も無視し、コウマが釘塚を押しのけ、電撃の真愚魔の首元へと行く。

 

「……エマ」

 

 電撃の真愚魔の最後の言葉――ささやくような細い声を、コウマは目をつむったまま聞いていた。

 

――さいなら、岩城陽介。

 

 首に刀を差し、息の根を止めた。

 

 

 

――やったったで、ヒバナさん。

 

 空は、明るみ始めていた。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「おい、釘塚……よくも俺の助手をラチってくれたな」

 

 コウマの矛先は、次に釘塚に向く。

 

「拉致……まあそうだね。でも、君は鬼型と戦うに当たって彼女の保護を望んでいたのでは?」

「……俺が望んでたんは保護や」

「そうです! そもそも私は釘塚のことは一切信用してません! この作戦も……いろんな人がいなきゃ……私……」

 

「……でも、まあ……よくやってくれたよ。ね、生井ダイトくん?」

 

 釘塚の言葉に反応し、草葉の陰から出てきたのは、生井ダイト。ビデオカメラを構えていた。

 

「……や、やあ……実際に生で見ると、本当なんだってのがすごいよくわかってしまうもんなんですね」

 

 生井の声は震えていた。臨場感あふれる愚魔狩の様子に、興奮冷めやらぬと言った様子である。

 

 

「どういうつもりだ、釘塚」

「……この一件が世間に知れ渡れば……愚魔狩としても活動がしやすくなると思ってね」

 

 コウマの怒りにたいしても、柳のようにゆらゆらとした態度でかわす釘塚。

 

「それより、無線どっか行っちゃったからさ、無線貸してくれないか?」

 

 この場にいる唯一の討伐隊メンバーであるエマに話しかける釘塚。無愛想な様子で無線を投げるエマ。

 

「おっと……まったく……君は野蛮だ」

 

 無線をつけ声をかける。

 

「釘塚だ。驚かないで。術を使って生き延びていたんだよ。作戦終了だ。繰り返す。作戦終了だ」

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 5時間たった翌朝、日愚連の本部に来ていたエマとコウマ。入口にて、蜂野スズメと芳泉ほうせんトーリと合流する。

 

 あくびを吐くコウマに対し、芳泉が気を遣って声をかける。

 

「……バスの中は眠れたか?」

「ぼちぼちな」

 

 スズメと芳泉は目を見合わせる。

 

「関西人は“わりとあてはまる”という意味で“ぼちぼち”と使うと聞いたが、本当なんですかね?」

「知らないわ。こいつのことだし、どうせどんなに寝たって寝足りないわ」

 

 コウマの隣の少女も、寝ぼけまなこをこすっている。

 

「ふああ……そういえばスズメさん……ミツハちゃんは一緒じゃなかったんですね」

「まあね。だいぶ危険な現場だと思ったし。それにしても、よく生き残ったわねエマちゃん」

 

 うつむくエマ。地雷を踏みぬいたことを心配するスズメ。

 

「……はい。ほんとに、奇跡みたいなもんです」

 

 その表情にまだ温かみを感じたスズメはとりあえず一安心した。

 

「……中で釘塚サンが待ってる。総本部への報告会だそうだ」

 

 芳泉が二人を中へと案内する。眠たそうな二人はそれについていく。

 

「ったくジジイどもの朝ははええんだよ」

「……もう九時ですよ」

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 釘塚=クリストフ=天智(7段)を討伐隊の隊長とした電撃の真愚魔討伐作戦は、途中参加した降磨竜護こうま りゅうご(8段)の手によって討伐したことにより成功という形で幕を閉じた。尚、成功報酬として作戦の指揮を執った釘塚と実際に討伐したコウマにA級報酬が出た。

 

鯨間げいまくんってまだ高校生なんだよね、よくもまあ2段まで」

「……この対魔力と術のおかげっす。あとなんかよくわかんないけどこういうメカ作ってくれる親戚の愚魔狩のおかげっす。田場さんはどうでした?」

 

 鯨間カノン(初段→2段)……電撃の真愚魔討伐の主戦を担ったことによるB級報酬

 

「俺は大したことなかったよ」

 

 田場麻丸たば あさまる(初段)……討伐隊メンバーの治療にあたったことによるC級報酬

 

「でも……結局報告会出れたのって、俺たち二人と高虎エマと釘塚サンだけっすもんねえ」

「代償はデカいよな」

 

 美濃実乃美みの みのみ(初段)……3級愚魔討伐によるC級報酬。重傷。一時は意識不明にまで陥ったそうだが、今は快復傾向にあるそうだ。

 

 神生鈴凪かみう すずな(初段)……5級愚魔多数討伐によるC級報酬。検査の結果両腕を骨折しており、復帰までは2か月ほどかかると思われる。

 

 楯山守望たてやま もりもち(初段→2段)……電撃の真愚魔に大ダメージを与える決定打によるB級報酬。全身に火傷があり、しばらく入院しなければならないそう。

 

 風見山大吉かざみやま だいきち(3段→4段)、橘勇青たちばな いさお(5段→6段)……殉死じゅんしによる特進。遺族には保険金等に加え、風見山には電撃の真愚魔討伐における主戦をサポートしたことによるB級報酬相当、橘には2級愚魔討伐及び電撃の真愚魔討伐における主戦を一時担ったことによるA級報酬相当の殉死手当が支払われるらしい。

 

 

 

 

 報告会が終わってすぐ、高虎エマは神生が入院している病院に来ていた。蜂野姉妹と芳泉も同行している。

 

「エマちゃんが神生にうちの妹を紹介したいって名目なのに、運転手の私ならまだしも、なんでアンタがついてくるわけ?」

「……護衛ですよ護衛! 女子三人で病院なんてアブナイアブナイ」

「一応自衛できるくらいの力は職業柄たずさえてるんだけど。っていうか病院のどこがそんなに危ないのよ」

 

 鼻息を荒立てて周囲を見渡す芳泉トーリだが、彼にもコウマのサポートをしたとしてC級報酬が出ており、呆れている蜂野スズメにも、釘塚ら作戦隊と降磨竜護を繋いだ橋渡しの役目によって同じくC級報酬が出ていた。

 

「あれ? コウマさん……神生さんのお見舞いですか?」

 

 神生の病室の前に立っていたのは、降磨竜護だ。特別不思議がる様子のないエマに対し、他三人は首をかしげている。

 

「いや、ちょっとな……助手が世話になったとなれば、俺があいさつしいひんわけにもいかへんしな」

「そんな義理堅い人でしたっけ? もしかして神生さんがかわいい女子高生だからこれをきっかけに仲良くなろうなんて魂胆こんたんじゃないですよね……最低」

「ぶはっ……」

 

 

 エマの軽蔑けいべつの目に思わず笑ってしまうスズメ。コウマは一切の動揺を見せない。

 

「アホか。んなわけあるか」

 

 

 

――ほんまに感謝しとんや。あとは……橘サンとヒバナさんに線香あげたらんとな。

 

 

 病室の扉を開けようとするコウマ。それを止めるスズメ。

 

「ところでコウマ……ヒバナさんの仕事片付け終えたし、敵討ちも済んだみたいだけど、これからどうするの?」

「さあ……俺に仕事はしばらく振ってけえへんやろ。また大常盤おおときわのジジイの目の敵にされたみたいやし」

 

 それもそうか、と頷くスズメ。芳泉も残念そうな顔をしている。

 

「A級報酬が出てるのに9段に昇格しないんだもんな」

「……まあな。幹部経験ないと9段なられへんらしいし。7段なれてんのも8段なれてんのも特別らしいし」

 

「それって、コウマさんが実力で周りを黙らせてきたってことじゃないですか」

 

 エマが笑う。

 

「大丈夫ですよ。今の愚魔狩界にはコウマさんは絶対に必要です。仕事なんて気づいたら降ってきてますよ」

 

 コウマも笑った。

 

「……それもそうやな」

 

 意気揚々と病室に入っていくエマとミツハ。それを外から見守る成人組三人。

 

「エマちゃん、いい子だな」

 

 芳泉が呟く。

 

「ずっと私の推しよ。でしょ、コウマ」

 

 スズメに話しかけられ、コウマは病室に背中を向けた。

 

「……アイツ、めっちゃ自己肯定感低いで」

「えっ……そうなの?」

「……それもまたいいな」

 

 驚くスズメと、あごに手を当てる芳泉。

 

「すぐに自分の存在価値とか意義とか考えてまうんやろな。せやから、餌魔えまの特性を持ちながら生きていくのは随分辛い思う。今回の件やって、友だちが真愚魔やったとか、そのせいで他の友だち危険にさらしてもたとか、いらんこと考えてるねんきっと。それを見せへんようにしてるけどな」

 

 言葉が出ない二人。コウマは続ける。

 

「まあ一旦関係ない話挟むけどな……堅海かたみの担当はヒバナさんやってん」

 

「は、はあ……」

 

 突然だった。自分のかつての上司の話に困惑する二人。

 

「堅海の愚魔発生率は18年前くらいからえげつなかったらしいねん」

「まあ確かに、ヒバナさんたくさん仕事持ってたしね」

 

 スズメも頷いた。

 

 

「お前らは釘塚サン派かもしれへんけど、一応エマのことに関しては信用できる。せやから言うとくわ」

 

 突然話が行ったり来たりするので、芳泉は困惑していた。なんとなく話の意図が読めているスズメは落ち着いていた。

 

「……堅海が愚魔大量発生スポットなのは、おそらくエマのせいや」

「ってことはやっぱり、あの子の餌魔えまとしての特性のせいってことよね」

 

 スズメの言葉にうなずくコウマ。

 

「大常盤のジジイどもがそれに気づかへんわけがない」

 

「え? ってことはエマちゃんどうなるの?」

「わかるでしょ普通」

 

 芳泉の問いをスズメが止める。

 

「第二の釘塚が現れてもおかしくないってことや」

 

「……」

「……」

 

 病室にて、神生、ミツハ、エマが三人仲良く談笑している。そう、エマも愚魔狩にこそなったが、普通の少女なのだ。コウマには、この想いが一段と強かった。

 

「あいつのことはまだ助手としておいとく。愚魔狩にさせたんも俺やし責任はちゃんと持たなあかんわな」

 

 コウマはエマをもう一度見た。

 

「あいつが自分で勝ち取った居場所やからな。俺はその居場所を守ったるだけや」

 

 

 高虎エマ(3級→2級)……作戦において索敵・誘導および一般人の救出に尽力。最後まで戦線を維持したことによるB級報酬が出た。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 生井ダイトの持っていた愚魔狩の動画は、SNSにアップしたところ拡散され、大手マスコミからの『番組で使いたい』というダイレクトメッセージが来るほどまでになっていた。このことについて、人気の少ないカフェにて話しているのは、当事者である生井ダイトと、その場に共にいた楠山担。そして楠山やエマの友人で、電撃の真愚魔の正体であった岩城の友人でもあった鷹津奈緒子たかつ なおこだ。

 

「ひやあ……これ大丈夫なのかなあコウマさんたち……俺消されたりしないよね?」

「俺たち消されるならあの場で消されてるはずです。あのサングラスの人が動画撮らせてくれたのも、こういう意図があってのことなんじゃないですか?」

 

 楠山は冷静に生井をさとす。それもそうか、とほっと胸を撫で下ろす生井を見て、鷹津は口元をやや緩めた。

 

「でも、この動画がひろがってくれてよかったです……。ほんとに……私だけ何も知らなかったから。エマちゃんが危険な目に遭っていたことも、クッスーもやばかったことも。ヨースケが死んだって知らせも、実はその……マグマ? っていう悪魔だったっていうのも、この動画とか諸々の話が無かったら信じられてなかったと思うし」

 

「でも……まだこれだけじゃ愚魔の存在を危険視する人は少ないだろう。いまだに冗談だと思っている人だって、きっと少なくない」

 

 生井は思い出す。コウマが確か言っていた、『世間も愚魔を認知すべきだ』という旨の言葉。

 

――当分この仕事はやめられそうにないな。

 

 

 電撃の真愚魔の死は、愚魔狩界にとっては安堵の知らせとなった。しかし、世界にいる愚魔たちにとっては些細なことだった――はずだった。

 

「おいおい、堅海で餌魔を狙ってた真愚魔、死んだらしいぞ」

「……え? あいつってかなり強いって噂されてなかったっけ?」

 

 ネットカフェにて会話する二人の男性――否、この二人は真愚魔である。

 

「愚魔狩に息まかれて勢いづかれても困る。俺たちも息ひそめるばっかじゃいけないかもしれん」

「マジかよ。電撃の真愚魔も霧の真愚魔も……捕食に熱上げるようになって組織抜けたから愚魔狩にマークされるようになったんだぞ。俺らみたいに戦わずに上納金払って安定して食糧にありつける今の方が絶対にマシだって!」

 

 

 一人の真愚魔の慌てようを、もう一人は制した。

 

「いや、組織全体でかかればいける……。上には電撃の真愚魔よりも強いのがゴロゴロいるらしいし」

「……そうなのか、組織様様……だな」


 そう、岩城陽介――電撃の真愚魔の死によって、何かが確実に動き出していたのだ。

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