バイトで”悪魔狩り”始めました。

最強降魔術師の助手のバイトを始めた女子大生エマのお話
さまー
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Case.22「スーパースターの普通な一面がもはや特別」

公開日時: 2021年2月11日(木) 21:20
更新日時: 2021年3月7日(日) 23:32
文字数:7,116

 慌ただしいのは、日愚連の本部。1階の入り口一番手前に位置している警備部警備課のオフィスだ。

 

「部長、人事部長の釘塚くぎづかサンからお電話です」

 

 スーツを着た男が、一番上座の席に座る初老の男に話しかける。彼こそ、愚魔狩連盟警備部長の鳥羽嗣道とば つぐみちである。

 

「釘塚の馬鹿野郎め。ようやく人材派遣の許可が降りたか」

 

 受話器を手に取り、内線番号7番を押す。電話の向こうから飄々ひょうひょうとした声が聞こえる。

 

『もしもし、鳥羽さんですか。ああ。はい……小隊2つ向かわせる許可降ろしました。しかし、真愚魔2体いますので、最悪の場合も考慮して、都内にいる段持ち全員向かわせることも考えております。あ、あと……大常磐おおときわさんの出陣も』

 

「馬鹿者が。あの人は最終手段だろう。となると、我々も向かわねばならんのではないのか?」

 

 鳥羽は警備部のトップにして愚魔狩としても7段の実力の持ち主。釘塚も同様である。

 

『……まあわかんないです。あくまで“考えている”段階です。だって……』

 

 釘塚が受話器の向こうでため息をついている。鳥羽は耳を澄ませた。

 

『……もう降磨竜護こうま りゅうごが着いてるんです。現場に』

 

 

 

 ◆

 

 

 弓矢の真愚魔と格闘の真愚魔、そしてコウマが対峙している。その光景を、一人へたり込みながら見ている順和一緒すな いちお

 

――この人が、降磨竜護。最強の愚魔狩って呼ばれている……。

 

 その背中は、そんなに大きくない。しかし、構える地味な色の日本刀が、日光に反射して、白く――輝いていた。

 

「エマに聞いたで。一人でよぉ頑張ったな」

「こ、コウマさん……ですよね、高虎たかとらエマが……?」

 

 動揺するスナに、コウマは笑いかけた。

 

「安心せえ。ちゃんとエマに頼まれてるねん。スナとかいう同期を助けてくれってな」

 

 降磨は一歩、そしてまた一歩と二人の真愚魔へと距離を詰めていく。

 

 

「降魔術――浅葱閻魔あさぎえんま!」

 

 周囲が一気に氷点下まで冷え込む。その余波は、森に生える草木に霜を降ろす形で現れた。そして、真愚魔二人の身体にも――

 

「えっ!?」

「どうしたアルチッ!」

 

 弓矢の真愚魔の驚きに、格闘の真愚魔が視線を向ける。弓を構えるはずの左腕が凍らされている。

 

「お、おい!」

「やられたッス」

 

 至って冷静に、右手で持っていた弓の先で左腕を落とす。凍り付いた左腕だったもの――漆黒の肉の塊が転がった。

 

「……今までの手練れとはレベチですね」

 

 弓矢の真愚魔が冷や汗を一筋。そんなものこうものなら一瞬で凍ってしまうので首を横に振って汗を飛ばした。

 

「……目的の手練れとは違うかもしれないが、ここで殺しておく必要がありすぎるな」

 

 格闘の真愚魔の言葉に、弓矢の真愚魔もうなずく。

 

「腕、再生させます」

「その間、俺が引き受けよう」

 

 格闘の真愚魔が前に立つ。コウマは息を吐く。

 

「降魔術――灯籠蟷螂とうろうかまきり

 

 日本刀を媒介として、飼っている愚魔の魂を召喚し、具現化する――降磨竜護の降魔術によって出現したカマキリの姿をした愚魔。

 

「お前の相手はこいつや」

 

 コウマはそう一言吐き捨てると、格闘の真愚魔を飛び越え、弓矢の真愚魔へと刀を差し向ける。

 

「させんッ!!」

 

 格闘の真愚魔は振り向いて右腕を伸ばした。

 

――ダイナマイトストレイト!!

 

 背中から爆風を感じるコウマは振り返り、刀で受け身を取る。背後からの視線にも気づいていた彼は、そのまま弓矢の真愚魔の攻撃を受け止める。

 

「ちっ!」

 

 弓矢の真愚魔は、赤い光でできた弓を短刀のように扱って、片腕でも戦っている。

 

――再生させる時間は与えへんッ!

 

 五体満足の真愚魔二体を相手に戦うのは、愚魔を召喚して戦うことができるコウマにとっても骨が折れる。なんなら分が悪いとさえ思えていた。つまり、コウマにとっての生命線は、弓矢の真愚魔の片腕がない状態で、押し切ってしまうことだった。

 

「ふんッ!!」

 

 日本刀で弓矢の真愚魔に斬りかかる。背後からの格闘の真愚魔の攻撃も避けつつ、腕がなくてガードがとれない左側を執拗しつように狙う。

 

「しつこいやつだッ!!」

 

 格闘の真愚魔がもう一度右腕を伸ばそうとしたそのとき、首元に殺気を感じた。

 

「!?」

 

 咄嗟とっさにしゃがんで殺気を避ける――鋭い鎌の形状をした灯籠蟷螂の前足が頭上を通り過ぎていた。油断する隙も与えないまま灯籠蟷螂の追撃が来る。

 

「ぬぉ!?」

 

 足下、そしてジャンプして避けた後の着地間際、着地後のひざ。的確に、合理的に攻撃を続けるその愚魔を前に、格闘の真愚魔は不気味な印象を抱いていた。

 

――まるで愚魔を相手にしている感じがしないッ! 鍛え抜かれた暗殺者の動きじゃねえかよ!

 

「だろ?」

 

 後ろからコウマの日本刀が首を狙っている。その切っ先をすんでの所で躱す格闘の真愚魔。

 

「ちっ、手負いのアルチだとギリ手に負えんのか!?」

 

 かといって格闘の真愚魔自身も、このカマキリ型の愚魔を相手しながらコウマの洗練された一撃をかわすのは少々手こずる。

 

 

「……」

 

 灯籠蟷螂に背を向け、コウマに右腕を伸ばした。

 

「うおらっ!」

 

 格闘の真愚魔は標的をコウマに切り替えた。

 

「ダイナマイトストレイト!!」

 

――爆発するパンチッ!

 

 コウマもこの技への警戒心があった。故に、即座に避けようと後ろに飛んだところだった。

 

「ああああッ!!」

 

 背後で弓矢の真愚魔が右腕を振りかざしている。コウマは頭上に刀を構え、右腕の先の弓を受け止める。

 

 そこに詰め寄ってきている格闘の真愚魔。背後から灯籠蟷螂が追いかけてきているが、一切意に介していない。

 

「ダイナマイトストレイト!!」

 

 やむを得ない、と直撃を避けようとする方に案を切り替えたコウマ。刀で弓を弾き、伸びてきた右腕に刃を向けた。

 

――かかったな。

 

 格闘の真愚魔がにやりと笑った。その表情を確かに視界の端に捉えたコウマだったが、この体勢を切り替えるには時間が足りなかった。

 

「コスモアウトアッパー!!」

 

 右腕がピタリと止まり、左腕が視線のずっと下から迫ってきていた。完全に“引っかかってしまった”のだ。

 

――お前、フェイントとかせえへんタイプやったやろ絶対に!!

 

 先ほどまでの真っ向勝負がむしろブラフだったのだ。あごに重い、重い一撃を受けるコウマ。まるで空に投げ出されるかのように高く、高く弾き飛ばされた。

 

 顎の痛みよりも、次どうするかがコウマに取っては大事だった。二人の真愚魔は追撃をしようとこちらから視線を外さない。

 

――もう一発まともに食らったら多分立てへん……。地面一帯に攻撃ができるやつを召喚や!

 

 コウマは空中で刀を構えた。

 

「降魔術! 紅蓮閻魔ぐれねんま!! 獄烙ごくらくじょ――」

 

 突如、降魔術を繰り出そうとしたコウマの両肩に矢が刺さる。弓矢の真愚魔がこちらを見上げて笑っている。左腕は復活している。

 

――くそったれがッ!!

 

 

 

 悔しがる間など惜しいはずだった。しかし、油断していた自分自身に対して、唯一の勝算を失ったことに対して、悔しがらずにはいられなかった。

 

 格闘の真愚魔が――右腕に力を込めていた。

 

「ダイナマイトぉ……」

 

 

 

 

 終わった。

 

 

 

 

 コウマは目を閉じる。

 

――あっけない敗北や。

 

「ストレイ――」

風陣ふうじんッ! 奥義……虚空斬域こくうざんいき

 

 瞬間、高速で刀を振り回す少年の姿が見えた。自由落下していくコウマは、彼がスナイチオだとすぐに気づく。

 

 

「スナ!!」

 

 コウマが叫ぶ。視線の先のスナは、格闘の真愚魔、そして弓矢の真愚魔に無数の斬撃を浴びせていた。

 

「コウマさん! 俺も戦力として数えてもらっていいですか!?」

 

 さっきまでへたばってたくせに……と、コウマは笑う。実はスナとて、何もせずに今まで寝ていたわけではない。

 

 奥義である虚空斬域は大技ゆえに視界に映るものすべてを無差別に攻撃してしまう。そのため、コウマが視界から外れた瞬間をずっと息を殺して待っていたのだ。そう、つまり――一瞬の隙を突いた攻撃。弓矢の真愚魔も、格闘の真愚魔も、確かにダメージを受けていた。

 

「風陣……螺旋らせんッ!」

 

 弓矢の真愚魔に斬りかかるスナ。着地したコウマもその後ろをついていく。

 

「ぐっ……かはっ!」

 

 走り出したはずだったが、吐血とけつしたコウマ。その場に片膝をついてしまう。スナは立ち止まり、振り返る。

 

 

「コウマさん!?」

 

 

――なんや!?

 

 格闘の真愚魔の攻撃のダメージだ。腔内こうないに知らず知らずのうちに溜まっていた血が嗚咽おえつのように吐き出されたのである。

 

「……コスモアウトアッパーのダメージを受けているようだな」

 

 不敵な笑みに腹が立つ。

 

「ちっ……厄介な攻撃を受けてしもたな」

「コウマさん! 無理しちゃだめです! ここは俺が……!」

 

 スナが駆け寄る――が、コウマは手を払いのけた。

 

「あかん……お前みたいな向上心の塊かつ才能の塊の同期は、助手アイツの仲間として、好敵手として、絶対に必要なんや。こんなところで命張らんでええ」

 

「そ、それを言ったら……あなたは……電撃の真愚魔討伐に一役買った最強の愚魔狩でしょ!? こんなところで命張っちゃだめなのはあなたの方ですよ!」

 

 スナの言葉にコウマは笑う。

 

「……確かにそうか……。俺が死んだ方が困るのか? いや、わかんねえだろ。ま、とりあえず……稼がなあかん時間は稼いだで」

 

 

 

 

 

 遠くの方から足音がするので、スナは振り返る。格闘の真愚魔も、弓矢の真愚魔も、何事かと音のする方を見る。

 

 

「いやぁ……ごめんね遅くなってしまって。ハンコ制度ダンコ反対……なんつって」

 

 飄々とした声が先頭となって聞こえてくる。

 

「く、釘塚7段!」

「……けっ、お前かい」

 

 声の正体は釘塚くぎづか=クリストフ=天智てんじ。その後ろには、警備課から派遣されてきた精鋭小隊が2つ。

 

「さて、真愚魔諸君、少々分が悪いと思うんだけど、戦う?」

 

 

 釘塚が無策でただ人を集めてきただけとは思えないコウマは一安心した。

 

「……スナ、なんとかなるで。まあなんとかなる」

「……そうですか」

 

 

 囲まれた真愚魔二人はささやきあう。

 

「アルチ、プランCだ」

「プランCですね」

 

 走り出した二人の真愚魔。警備課の小隊が含魔銃ガンマガンを一斉に構えるが、発砲はしない。

 

「逃げるようだね……。まあ、やりやってもけが人増えるし、とりあえず今日のところはこれでいいんじゃないかな」

 

 釘塚の声に、全員が銃を下ろした。彼はそのまま、コウマとスナの元に歩いてくる。

 

 

 

「お疲れ様、二人とも。ほか11人の新人の無事は確認できた。善積よしづみ初段も一命はとりとめている。井龍いりゅうくんはさっき派遣した捜索部隊から発見したと連絡が来たから安心してくれ」

 

 ほっと胸をなで下ろすスナ。

 

 

――よかった、誰も死ななかった。

 

「……にしても、コウマ。新人研修会に張り込みしてまで……そんなに例の助手が大事か?」

 

 釘塚の疑問はコウマに向いている。コウマはぷいっと首を横に向け、釘塚の疑問には答えない。

 

「いえ、でも……コウマさんがいなかったら俺……」

「わかってるよ。今回の件でコウマがどうこうなることはない。もちろん、コウマの嫌いな大常磐さんにも計らっておくよ」

 

 

 スナの言葉をさえぎって釘塚は二人に手を差し伸べた。

 

「……ふん、お前は胡散臭うさんくさいねん」

「雰囲気だけはどーにもできないからね」

 

 コウマはあきれ顔で立ち上がった。差し伸べた手を無視して。

 

「行くでスナ……まだ話があんねん」

「は、はい……」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 二人とも軽傷ではなかったため、病院に来ていた。日愚連と提携している唯一の病院である。スナはそこでコウマにこれまでの経緯を話した。

 

 

「そうか、お前の師匠、風見山のおやっさんやったんか」

 

 コウマは病院のベッドに座り込んだまま横のベッドで横になるスナの方を向いた。真っ白なシーツに包まれながらスナは丸まっている。

 

「どうやったらコウマさんみたいに強くなれますか?」

「ん? 俺? 俺なんか?」

 

「はい……」

 

 コウマは考えた。

 

「俺、別にお前みたいなのから尊敬されるようなやつちゃうからな」

 

 腕を組む彼は病院の真っ白な天井を見ている。

 

「……コウマさん、俺の話、聞いてもらってもいいですか?」

「……えっ、さっきお前の師匠が風見山で、作戦部隊のこと全部知ってて、エマが餌魔えまってことも全部知ってるって話聞いたとこやで? まだ話すことあるんか?」

 

 冗談めかして笑うコウマだが、乾いた笑いが一つ病室に響くだけだった。

 

「……ほな、聞こか」

 

 まるで予定調和のように、耳をスナの話に向けるほかなかった。

 

「……俺、早く段がほしいんです。真愚魔と単独で戦える実力身につけて、あなたみたいに8段手に入れて、自由に仕事ができる立場になりたいんです。真愚魔を全部全部ぶっ潰したいんです」

 

 いきなりまくし立てるように話すスナ。こいつ話苦手やろ、とコウマは顔をゆがめた。

 

「風見山さんが真愚魔に殺されたから、その復讐もそうなんですけど、俺は弱い自分が嫌いなんです。だから……」

 

――そうか、せやから“弱いはず”やのに“2位”やったエマを敵視してたんか。

 

「目的なんか二つあっても大変や。まずは自分にできそうなモンから一個一個叶えていき」

 

 コウマは静かに言った。そして続ける。

 

「あと、復讐はおすすめせえへん。これでも二回……あ、あれも含めたら3回復讐に成功してはおるけど、それを目的にしてもたらしょうもない人生になるで」

 

 その言葉に、スナが問う。

 

「今、コウマさんは何を目的にしてるんですか?」

 

 

「ある尊敬しとった愚魔狩の人がおってな。その人の言葉に『大切な人のことをいつでも助けられるわけやない人がたくさんおる。俺たちはその人のために、今日も知らへん誰かを助ける』ってのがあってやな」

 

 コウマはスナの方を向いて笑った。

 

「せやけど、最近揺らいでもうてるねん」

 

 そんな高尚な目的が、どうして? とスナは疑問になる。

 

「……そういうつもりで、毎日無心で愚魔を狩り続けてきたんや。でも気づいたら……自分の周りを大切にしてしもてる自分がおるねん。何回も喪失って、その度に立ち直って、その度に復讐に燃えて、その度に虚無感に苛まれて……けど、その虚無感を埋めてくれる存在を見つけてもてな。今はそいつをなんとかせなって思いでできることをしてる感じや」

 

 コウマは続ける。

 

「俺は多分、お前らみたいな新人が思ってるようなスーパースターやない。せやからお前も、自分の守りたいもんから守れるようになったらええと思う。それが自分のプライドなら、プライドを守るために強くなればええし、大切な人なら、大切な人に降りかかる困難を全部弾き飛ばすために強くなればええし」

「……」

 




 

 沈黙が流れる病室、ふとその瞬間に、ガラガラと病室の扉が開いた。





 

「コウマさん! お疲れ様でーす。あ、スナもいるじゃん」

 

 扉を開けたのは、高虎エマ。スナの同期で、コウマの助手である。

 

 

「スナ……その……ありがとうね。あんたがいなかったら、みんなやばかったと思う。私が善積さん助けなきゃって思えたのも、一番強いあんたがいたから。感謝してる」

「……いや……」

 

 スナは否定しようとした。確か、自分が一番に動けたわけではなかった。恐怖に包まれていた、自信を崩壊させるのが怖かった自分を突き動かせたのは、エマの行動があったからだった。

 

「俺は……確か、俺にできることをしようとして……それは、お前がまず、自分に何ができるかを考えて行動を率先してくれたおかげなんだ。俺の方こそ、感謝してる」

「……」

 

 エマは困惑していた。出会って二日目でこんなに態度って豹変するものなのか、と。

 

「……コウマさん……」

「どしたんや」

 

 涙すら浮かべる彼女に、スナもコウマも困り顔だ。

 

「私、同期の友だちできましたぁ……」

「よかったやないか」

 

――えっ、今ので友だち認定された? 俺が?

 

 

 コウマは困り顔から急に笑顔に変わった。

 

――とりあえず、エマには同期っていう心強い仲間ができたわけやし、今日出張でばった甲斐はあったな。うん。

 

「あ、そういえばコウマさん、スナとどんな話してたんですか?」

 

 エマの興味が移ったのを見て、スナは咳払いを一つ。

 

 

「コウマさん」

「ん?」

 

 コウマとエマはスナの方を向く。

 

「俺を、弟子にしてくれませんか?」

 

「えっ」

 

 

 コウマとエマは目を見合わせる。

 

「……弟子……か」

「助手ならここにいますけど……弟子はいない……ですよね?」

 

 

 予想外の言葉に二人とも固まっていた。

 

「この人……風見山さんほどできた人じゃないよ? 女遊びするし、給料酒に溶かすし、部屋汚いし、不労所得大好き野郎だし、セクハラまがいの言動目立つし」

 

 エマの辛辣な指摘に、言い返す言葉もないのが悔しいコウマ。

 

「かまいません! 俺はあなたくらい強くなりたい!!」

 

 

 

 

 ◆

 

 釘塚は、本部の会議室前で警備部長の鳥羽と話をしている。

 

「明日幹部会があるでしょ。ちょっと話が厄介になりそうだよ」

「どういうことだ?」

 

 釘塚はとある書類を鳥羽に見せた。

 

「とある無派閥の2段の愚魔狩からのリーク。アングラ界隈に真愚魔が潜んでいて、徒党を組んでいる説が流れていてね」

「確かに暴力団の用心棒や暗殺業者なんかは、真愚魔にとってはもってこいの働き口だ」

 

「あの大常磐さんのことだ。大規模な作戦部隊を組んでアングラ界隈にガサ入れおよび殲滅せんめつ作戦に出ると思ってな」

「確かに……それは厄介だ」

 

 鳥羽は顎に手を当てる。

 

「ただでさえ強い“真愚魔”が、徒党を組んでいるとなると、愚魔狩側の戦力が少ない気がしないか?」

「だから尚厄介なのさ。大常磐さんはその辺の戦力見誤る人じゃないけど、ここで無理に大規模作戦に出て戦力疲弊させちゃうのはね」

 

 確かに、と鳥羽はうなずく。

 

「んでさ、一個お願いしたいことがあるんですよぉ」

 

 釘塚の態度に、含みがあるので鳥羽は無言で続きを待つ。

 

「……警備部隠密課の隠密行動部隊、調査に使いたいから貸してくんない? 幸いこの件は俺とあんたとリークした愚魔狩しか知らない。会議に出さなければ大規模作戦になることはないが、隠してたことがばれると責任問題になるからね。水面下で動いていたことにしたい。お願いしてもいい?」

 

 

「もちろんだ」

「恩に着るよ」

 

 鳥羽の二つ返事に、釘塚は不敵な笑みを浮かべて頭を下げた。

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