バイトで”悪魔狩り”始めました。

最強降魔術師の助手のバイトを始めた女子大生エマのお話
さまー
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Case.16「現場経験のあるヘルプが最強」

公開日時: 2021年1月17日(日) 10:19
文字数:6,864

 ここは週刊ダイナマイツのオフィス――から少し離れた駐車場。蜂野スズメが自身の軽自動車のエンジンをかけた。

 

「早く乗ってッ!」

 

「やばいッ! 電話切れましたッ!」

 

 週刊ダイナマイツの記者、生井ダイトが後部座席に転がり込みながら叫ぶ。

 

「どっちでもいいわ! とりあえず行かなきゃいけないでしょ……堅海大学!!」

「ああ」

 

 助手席に座るのは――降磨竜護こうま りゅうご。最強と噂される8段の愚魔狩だ。まだケガは残っているが、彼なりに決心はついたらしい。

 

「……コウマ、身体は大丈夫なの?」

「ああ。晩飯に生姜焼き食ったし」

 

 心配そうに尋ねるスズメの言葉を淡々と返すコウマ。

 

「確かにたんぱく質は疲れた身体に持ってこいですけど……それとこれとは話が変わってきますよ」

 

 愚魔狩のことはてんで素人な生井でさえも心配そうだ。たった今彼ら三人は、1人の男子大学生から受け取った電話を元に、真愚魔の位置を割り出したところだった。

 

――楠山担くすやま かつぐくん……。まさか取材をした子が真愚魔とコンタクトをとれていたなんて……しかも……緊急な状況だって言うのに無言の電話をスピーカーにして教えてくれるなんて。

 

 生井は愚魔についてはついこないだコウマとスズメに教えてもらったばかりである。しかし、独自に愚魔や愚魔狩について取材をしていたルートもあって、今回の情報提供につながった。

 

「それよりスズメ、さっき言ってた協力してくれそうなやつってのとは連絡ついたんか?」

 

 走り出した軽自動車の中で、コウマが呟く。スズメは苦笑いを一つしながらハンドルを切る。

 

「……まあ、そこに関してはさすがの一言よね。堅海大に行く前にソイツ拾わなきゃいけないけど……まあ戦力にはなると思うから許して」

「……ああ。俺らだけで勝てるとは思ってへん。でも勘違いすんなよ。あの真愚魔を屠殺るのは、俺や」

 

 真夜中の国道を走る。堅海大まで3分とかからない猛スピードで、車を走らせる。

 

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 高虎エマは、独りで走っている。神生かみうの様子を見に行くことも考えたが、むしろ彼女を危険にさらすような予感がして気が向かなかった。

 

――合流するなら田場たばさん? 釘塚さんたちのいる警備室? いや、でもさっきの無線での慌てよう……警備室がまともに拠点として残っているかは怪しいしな。

 

 大学内の道を把握しているとは言え、エマの不安は全く消えない。なぜなら、電撃の真愚魔との戦いに、満身創痍の橘さんを一人残してしまったこと、そして……電撃の真愚魔の正体が――友だちであった岩城陽介いわき ようすけであったことに、気づいてしまったからである。

 

「ヨウスケ……くそッ!!」

 

 なんで? という疑問は沸いてこなかった。彼の言う通り、端から自分が餌魔えまだと知っていた上で近づいたと知って、むしろ納得している自分がいたからである。かれこれ5分は走っていた。大学の出口が見えてきたところで、1人の男の影が見える。

 

「エマ!」

「クッスー! よかったッ!」

 

 自分を呼ぶ声に反応し、すぐさま楠山のもとへと駆け寄るエマ。

 

「……大学出るべきかとか色々考えたんだけど、やっぱお前のこと心配でよ……」

 

 それもそうか、とエマは笑う。一般人の楠山からしたら、自分も同じように一般人なわけだ。

 

「クッスーは優しいよね」

 

 涙も溢れてきていたが、笑いながら思い出す。ナオコ、クッスー、そしてヨースケ。4人で過ごした数か月の日々は、エマにとっては確かに代えがたい思い出だったからだ。

 

「すまん、なんか……俺が変なこと言っちまったせいでヨースケ怒っちまったみたいでよ……」

 

 筋肉をつけた大きな身体はバツが悪そうに縮む。なおのこと小さな笑いが止まらないエマは……途端に暗い表情に変えた。

 

「……違うよ。元から私のせいなの」

 

「えっ?」

 

 楠山の浮かべた疑問符に応えるように、エマは続けた。

 

「……もともと、私とナオコが仲良くなって、たまたま授業で同じグループになったヨースケとクッスーでよくつるむようになって、勉強会とかもするようになって……でもさ……あいつ……私が……うぅ」

 

 涙があふれてたどたどしくなるエマを見ていても、楠山は何のことかわからない。

 

「えっと……うん、多分……エマちゃんのことはヨウスケも……というか、もともとヨースケとナオコが仲良かったんだよ? だからさ……そんなに気にすることじゃないって」

 

 どうにか取り繕ってくれている楠山に対しても、自分が餌魔えまだから、とはどうしても打ち明けられなかったエマ。

 

「とりあえず、ほら……逃げようぜ。ヨウスケに見つかったら何がどうなるかわかったもんじゃないだろ? ほら……あの例の記者の言ってた悪魔かもしれないわけだしさ」

 

 

 

「誰に見つかったら、何がどうなるかわかんないって? なあ……クッスー」

 

 急かす楠山の視界に映る、漆黒の身体。片手に刀、肩にかかったスーツの切れ端。

 

「……まずいよ……逃げようエマちゃん」

「……ッ!」

 

 エマは電撃の真愚魔の方を向いて目を見開いた。

 

――あの刀、肩にかかったスーツの切れ端。どっちも橘さんのだ。

 

 

 

 

 

 胸に残った僅かな希望でさえも、簡単に打ち砕く目の前の真愚魔。

 

 橘に教えてもらった一週間が脳内を駆け巡る。

 

 だから、だからこそ、エマは向き合うことにした。

 

「……ごめんクッスー。私、逃げらんない」

 

 思い出すのは、橘の言葉。

 

『お前は強くなる。これからの愚魔狩の未来を背負って立つ存在だ』

 

「やっぱ私の居場所は……ここかもしんない」

「な、なに言ってんだよ」

 

 そうは言いつつも、楠山はどこかで諦めていた。真愚魔を真っ直ぐ見つめるエマの目が据わっていることに気づいていたからだ。

 

 

 

「……わかった」

 

 楠山も真愚魔に向き合う。

 

「……なら俺も逃げないよ。友だちとして……君の居場所は守らないと」

「マジイケメン。高校時代モテてたでしょ」

 

 エマの冗談に楠山は顔を赤らめる。

 

「冗談よ」

 

 一歩、また一歩と距離を縮めていく。圧力式助魔器アシストポンプの準備は完全にできており、いつでも武器に魔力を込める用意はできている。

 

――祓魔ふつまふだを使えば一時的な防御は可能。魔爆弾ボマーを上手に使って撹乱かくらんし、近づく。何が有効打かはわかんないけど……傷口に刀は刺さってた。橘さんより力は劣るけど、対魔力は私の方があるらしいから、しっかりと魔力を込めて刺せば刺さるかもしれない。肩の傷口は快復し始めているから……。

 

 分析を始めるエマ。この分析法も、戦い方も、すべて橘に教わったモノだ。

 

――やってやる! できる!!

 

 

 アシストポンプから魔力を抽出し、魔爆弾に込めた。電撃の真愚魔の右腕めがけて投げる。

 

 ぜる音――しかし右腕でしっかりとガードしている真愚魔に効いている様子は見られない。しかしその間に祓魔の札が足元に貼られており、真愚魔は一歩進もうとしても進めなかった。

 

――結界のお札みたいなもんか?

 

 真愚魔が分析する間にも、エマは次の一手を打っている。含魔銃の弾丸を2.3発肩に打ち込む。ほとんど外れているが、それでも動きは封じ込めている。手ごたえはある――エマの中にも僅かに希望が見えていた。

 

「なあエマ……何か勘違いしてねえか?」

 

 電撃の真愚魔の発した言葉に、エマは一瞬固まった。

 

「別に……俺はお前の髪の毛一本でも食えれば……簡単にこの大学敷地内全部を吹き飛ばせるくらいのパワー手に入るんだぜ」

 

 そうか、と彼女が思うより早く、電撃の真愚魔の腕が伸びている。

 

「エマ!!」

 

 楠山が思わず走る――しかし、到底間に合う距離ではない――と二人が思ったそのとき、1人の人影が飛び込んできた。

 

「!!?」

 

 直後に現れる無理をしたエンジン音――エマや楠山の視界に色々な情報が映り込むより早く、二人が気づいたことがあった。

 

――あれ?

――真愚魔の腕が、弾かれてるッ!?

 

 エマがその腕を見ているとき、その1つの人影が声を発した。

 

「……俺の助手エマに触んなや」

 

 

 

「あ、ああ……」

 

 

 エマは思わず震えた。気だるそうな関西弁、汚いプリンヘアとなった金髪。自堕落じだらくを極めたような服装。頼りなさそうに見える細身の身体に隠れた、鍛えられた肉体。地味な色の日本刀。

 

「コウマさん!!」

 

 声の正体、人影の正体、そのすべてに気が付いた楠山は、走っている足を止めた。

 

「……あの人、エマの言ってたバイト先の」

「君が楠山担くんだね! 早くこっちに避難して!!」

 

 聞いたことのある声――自分が電話をかけた生井ダイトの声だと気づいた楠山は、さっと後ろを振り返る。

 

 そこには、生井と、背の高い美人と、機関銃を二本構えた男が立っていた。なんだかよくわからないが、声のする方へさっと逃げる。

 

「君の連絡のおかげで助かったわ。私は蜂野スズメ。感謝する」

「あ、はい……」

 

 

 背の高い美人に話しかけられ困惑する楠山の元に、自分と同じくらいの体躯の男が近づく。機関銃を構えているので恐ろしい風貌だ。

 

「おっ、こらこら。スズメさんに惚れようたってそうはいかないぞ! なぜならこのオレ、芳泉透里ほうせん とうりがスズメさんを愛しているからな!」

「黙れホーセン。早くコウマのサポート行ってこい。私はエマちゃん助けに行く」

 

「へ、へい!!」

 

 鼻の下を伸ばして走っていく芳泉という男。蜂野スズメが楠山に一瞬笑いかけ、彼女も走っていった。

 

「……さ、車の裏に逃げよう」

「は、はい」

 

 生井に言われ、楠山は車の裏に逃げ込んだ。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 コウマと対峙する電撃の真愚魔は笑った。

 

「ははっ、二階から飛び降りたときのケガは大丈夫だったの?」

 

「おい、おしゃべりは嫌いって言うたはずや。あんときにな」

 

 真愚魔はまた笑う。コウマの顔に笑みは一切ない。

 

「……まあいいさ。君はエマを守っているつもりだろうけど、そうはいかないよ。みんなみんな、エマを守るやつは俺が殺す。エマを守るのは俺だけでいい」

 

――あのスーツ、5段の橘さんか。

 

 コウマも顔と名前と来ているスーツは知っていた。深い青色のスーツの切れ端を見て、彼が殉死じゅんししたことを察する。

 

「……エマを守る? えらい大層なこと言うてるけどな」

 

 コウマは刀を抜いた。

 

「……追い詰めてピンチにさせて、コイツの大切な人殺しといて動揺させといて、ようそんなこと言えたな!」

 

 

――降魔術、紅蓮閻魔ぐれねんま

 

 刀身は赤くなり、炎が燃え盛った。

 

「こ……コウマさん!」

 

 エマから出た言葉を聞き、コウマは少しだけ振り返り、左目を流して笑った。

 

 

「大丈夫や。エマ……独りでよう頑張ったな」

「うぅ……うう……」

 

 涙ぐみながらも首を横に振るエマ。

 

――頑張れなかった。私一人でなんて……橘さん死んじゃったみたいだし……神生さんもどうなったかわかんないし……結局私死にかけてるし……。何も……何もできなかったよ。

 

「もう大丈夫や。あとは任せぇ」

 

 そう言葉を吐き捨てるように言って、コウマは踏み出した。

 

 

 

 

 電撃の真愚魔の肩の傷は癒え始めていた。しかし、電撃の真愚魔自身にとって、そんなことはもはや気に留めていない。

 

「この愚魔狩さえ殺せば、餌魔えまが手に入る。餌魔えまが手に入れば……俺は最強の真愚魔となれる! ふはは……たかぶるゥ!!」

 

 距離を詰めるコウマに対して、満面の笑みで迎え討つ電撃の真愚魔。

 

罵詈罵詈バリバリ――」

 

 彼が左手に光を込める――が、そこに降魔こうまつるぎ切先きっさきが届く。

 

獄烙浄土ごくらくじょうどッ!!」

 

 その切先から燃え上がった炎が左手を焼き尽くし、光の球を炎の中に包み込んでしまった。

 

――なんだってんだ!?

 

 電撃の真愚魔は動揺する。炎による火傷のダメージなど些細なものだったが、自らの攻撃をことごとく打ち消されてしまうような感覚に、一抹いちまつ焦燥しょうそうを覚えた。

 

「……ぐぅ」

 

 火傷はすぐに治癒した。それでもすぐに動き出せない真愚魔。

 

――実力で言えば図書館で戦った愚魔狩よりも、さっきの刀使いよりもずっと上。Around20アラウンド20で戦った時は半分不意打ちだったから何とか先手こそ打てたが、相当な手練れだな。

 

 警戒している。しかし、それはコウマとて同じこと。

 

――あの電撃技は喰らえばしびれと痛みでほとんど動けへんようになる必殺技。釘塚サンの組んだ討伐隊もおそらく壊滅状態や。一手でも読み違えたら簡単にやられる。初見ちゃうのがマジで救いやわ。

 

「コウマッ! 助けに来たぞ!!」

 

 野太い男の声。コウマのサポートとしてスズメが呼んだ愚魔狩、芳泉透里ほうせん とうりが走ってきていた。コウマは振り返らずに左手で応える。

 

「芳泉さん言うたっけ? 実力はどないなもん?」

「正直、まだ1級だ」

 

 スズメの同級生である彼は、まだ段を持っていない。

 

「まあスズメが呼んだってことはそこまでザコちゃうんやろ。頼むで」

「ああ。スズメさんの株を下げないためにも……尽力する」

 

 芳泉が動き出した――両方の太い腕が機関銃を持っている。真愚魔の右腕側から回り込み、銃口を向ける。そこから放たれる魔力を込めた弾丸。彼が持っているのは、改造含魔機関銃かいぞうがんまきかんじゅうといったシロモノだ。

 

 続いてコウマは真愚魔の左腕側へと回り込む。

 

――降魔術、『蛇尾蛇尾蛙鞍だびだびあぐら』!

 

 召喚されたかえる型の愚魔の口から蛇が2匹。真愚魔の足めがけて地を這う。

 

――両方に意識をかれなきゃならんのは厄介だ!

 

 もはや人の理を外れた真愚魔にとって、多少の攻撃は喰らおうが何も問題がない。ガードもせずに、機関銃から放たれる弾幕を背中で受け止める。

 

――マジかよバケモンめ! ザコ愚魔はこれでだいたいハチの巣だってのに!

 

 驚く芳泉の存在など意に介していない真愚魔。左手を地面に置き、構える。

 

暴流渡雷神愚ボルトライジング!」

 

「跳べッ!!」

 

 コウマの声に反応しさっとジャンプする芳泉。コウマも同じく跳んでいた。地を這う蛇が電撃を受け、身を引き裂かれている。ここで気づく。コウマは空中でガードがとれないということを。

 

九連チューレン!!」

 

 真愚魔の狙いはコウマだ。ビリヤードのキューを出し、白い球を含めた10のボールを空中に浮かべている。

 

――“改造”含魔機関銃を舐めてもらっちゃあ困るぜ!!

 

 芳泉は自身の対魔力を弾丸に変え、ノーモーションでのリロードを行う。通常の対愚魔7ツ道具たいぐま7つどうぐ含魔銃ガンマガンは、魔力を込めた弾丸を弾倉マガジンに込め、発射している。しかし芳泉だけはその“魔力込める”という動作をパスできるのだ。メリットはそれだけではない。

 

――“追尾ついび含魔機関銃がんまきかんじゅう!!

 

 

 その弾丸は対魔力そのものであるため、より多くの魔力を使えば追加効果を機能させられる。芳泉の魔力によって追尾性能を付け加えた弾丸は、空中に浮いた9つの球を一つも外さずに撃ち落とした。

 

「!!?」

 

 咄嗟とっさに振り返る電撃の真愚魔。芳泉を視認した直後、彼が思ったのは、“この場を離脱すべき”ということであった。

 

「待てッ!」

 

 逃げ出した真愚魔。いな、彼が向かっているのはエマのいる方向である。すぐにコウマと芳泉が後を追う。

 

「エマちゃんに手は出させないわ!!」

 

 スズメが割って入る。真愚魔がエマを視認するよりも早い彼女の登場に、芳泉は次の一手へと出た。

 

――スズメさんに手を出したら許さねえッ! “爆撃ばくげき含魔機関銃がんまきかんじゅう!!

 

 芳泉の機関銃から弾丸がぐ発射される。真愚魔の身体付近にて炸裂さくれつする弾丸。さすがにこの一撃には足を止める真愚魔。

 

――畜生、やっぱ右肩やられているのがデカいッ!!

 

 そう考えた真愚魔。そのスキを――降磨竜護は逃さない。

 

「ふんッ!!」

 

 右肩から腰にかけて斜めに一太刀加えるコウマ。刀が通るのは、無論コウマが高濃度の魔力を刀に込めているからである。

 

「ぐぁあ……クソッ!」

 

「降魔術ッ! 燈籠蟷螂とうろうかまきり

 

 刀身から召喚した愚魔――燈籠蟷螂とうろう。人間大のカマキリの姿をした愚魔だ。コウマは真愚魔に休む暇を与えない。

 

 

 召喚された愚魔、燈籠蟷螂は真愚魔に向かい合い、カマキリ特有の威嚇の動作を取る。

 

「さあ……どんどん追い詰めたんで」

 

 正面に燈籠蟷螂、左側にコウマ。右側に芳泉という1VS3の状況が出来上がる。彼ら2人と一体の愚魔の後ろには蜂野スズメも構えており、真愚魔がエマを喰らうためには相当骨が折れる、といった状況だった。

 

 正面から燈籠蟷螂が鎌のような前足を振るう。小さく、かつ最短距離を最速で首を斬りに来ていた。

 

「ふんッ!」

 

 左腕でガードする真愚魔。これくらい屁でもない――が、この愚魔に意識を割いている場合ではないというのが彼の正直な感想であった。

 

――動きが速いが機械的。しかし、理にかないすぎて油断の間が無い。暗殺者アサシンのように淡々と俺の弱点を狙ってくる。

 

 燈籠蟷螂の分析を行う真愚魔。しかしその思考を、芳泉の機関銃による弾幕が邪魔をする。

 

「ぐっ!!」

 

 弾幕の向こう側から芳泉が声を発する。

 

「コウマ! クロス組んで真愚魔狩り取るぞ!」

「ああ! ハナからそのつもりや!!」

 

――チッ!

 

 舌打ちを一つした真愚魔。左手を握り、振り下ろす。

 

 

「!?」

 

 芳泉は首に違和感を抱いた。次の瞬間、身体の制御が効かなくなったかのように倒れ込む。

 

「芳泉ッ!?」

「多分なんかの攻撃だ! 痺れて動けないッ!」

 

 コウマも距離を取り、警戒の色を見せる。

 

――痺れに特化した攻撃か? 芳泉が話せていることを見るからに、甚大なダメージを負ったわけとはちゃうみたいやけど……。

 

 ふと視線を上にあげたコウマ。そう、ボロボロになった燈籠蟷螂が宙に舞っているからである。

 

 まずい――そう思った彼だが、遅かった。上へと視線を外した瞬間に、真愚魔の左腕が目前あと2.3mのところまで来ている――――

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