陰陽醒戦ブライトネス!

-戦鬼伝×陰陽道外伝-
鈴奈
鈴奈

十四

公開日時: 2021年5月21日(金) 20:00
文字数:1,079

 直江たち鬼人警官が何者かによって全滅したことを知ったのは、年が明けてすぐのことだった。


 居間に入ると、聡一郎の妻が、嗚咽を漏らし震えていた。隣にある狭い仏間から、吼えるような光の泣き声が、はじめて聞く聡一郎の高い嗚咽が、黒い液体のように流れ込んできた。いつもは橙色に灯る電球が弱弱しく点滅して、ひどく暗く感じられた。


そっ……と襖に指を挟み、隙間から物間を覗く。真っ暗な部屋に、仏壇の燈篭だけが灯っていた。光は畳に額をこすりつけていた。浅い爪が、畳の目に食い込んでいた。聡一郎は光の背中を抱きしめて、涙でぐしゃぐしゃの瞼を押しつけていた。


「俺が……俺が、センニュウ捜査に、行くの、やめたから……俺が、もっと、ちゃんと、一緒に、一緒にいて、それで……!」


 もし――もしも、時間が戻るなら――……!

センニュウ捜査に行くのを辞めるだなんていわない。

 もっと、見まわりだって、保護施設にだって一緒に行って、それで、皆と一緒に戦う。命がけで守る。

 水原に「いつも送ってくれてありがとな」って言う。

 前田に「直江にもっと正義を叩き込んでくれ」って言う。

 千田に「顔可愛いから髪伸ばせ」って言う。

 

 それから、直江に、直江と、もっと、もっと……!


大切だった。影宮家の人たちと同じくらい。温かかった。大好きだった。

もし、もう一度、会えるなら。もしも、時間が戻るなら―……!


その時。

光の右手中指の石が、赤く輝いた。

小さな蕾が膨らみ、そしてゆっくり、花弁の先端が開こうとしたのを、幸輝は見た――。


「しっかりしろ、光!」


大きな手のひらが、光の肩を、ぐっと起こした。

聡一郎は、とめどなく涙を流し、涙で濁る光の瞳をずんと見据えた。


「後ろを向くな! 悔しいのは俺も同じだ。だが、どんなに過去を振り返っても、直江たちは帰ってこない! お前は、俺たちは、これから俺たちができることをやって、前に進んでいくしかねぇんだ! あいつらは、もういない……! だが、あいつらの好きだったところも、あいつらの想いも、全部、全部残っているだろ! それが、あいつらの形見だ! お前は、あいつらの形見を継いで生きろ! あいつらと共に、前へ進め……進んでくれ、光……!」


「うっ……う……うぁ……うぁあああああああああああああああああああ!」


 光のぐちゃぐちゃの顔面が、聡一郎の胸の中に、勢いよく飛び込んだ。

太い肩に縋りつく右手は、もう花弁も、蕾も、咲いていなかった。

 

 

――強く。

 

強く、ならなければ――。

 

もう二度と、こんな辛い涙を、誰かの瞳から流させないように。

皆が笑顔で生きていけるように。

 


幸輝は一人、胸の奥に、未来の形を強く、深く、刻みつけた。

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