美弥の問い掛けに、コクンと小さく首を縦に振った美愛(に乗り移ったかもしれない少女の亡霊__以下、少女の亡霊)。
「あなたは、いつもエレベーターに憑りついているのですね?」
「うっ……ううっ……ぅああああああ!」
低い呻き声と美愛の叫び声が入り混ざっているように聞こえてくる。
少女の亡霊は、美愛の身体に入り込んだかもしれないと、美弥は直感で感じたようだ。
彼女は本物の霊媒師ではなくて、霊感が強いだけの少女でこの状況をどうにかしたくてもできないのだ。
霊感が強い美弥は幽霊と会話はできるが、憑依した人の身体から霊を出す方法は知らない。
「美愛、ごめんなさい……。わたしが無理に誘ったから……」
しゃがみ込むと沙希は美愛(もしかしたら憑依した少女の亡霊かもだが)に謝る。
「美愛ちゃんなら、右手を上げて欲しいの」
二人の声が混合して聞こえている美弥は、できる限りの事を試してみる。
美弥の声が聞こえないのか少女の亡霊(本当は美愛)は、消え入るような声でぽつりと語り始めた。
「……しは、ずっと…………ってた……長い間……ここにいる……生きて………かわか……なくて……ううっ……うっ……たい……」
横たわっていた身体をゆっくり起こして、ゆらりと身体が動き始める。
虚ろな瞳でじっとどこかを眺めているようにも見え、不気味さを増しているけど、瞳にはたまに宿す光は生きている人間のように見えた。
「わたしでは無理かもしれない。霊媒師ではないから、どうにもまね事したって、美愛ちゃんの身体から抜け出す気配がないの……」
そう言いながらも美弥は、制服のスカートのポケットから数珠を取り出した。
彼女には、唯一頼れる先輩がいるのだが、彼女は簡単には協力はしてくれない事は、美弥がよく知っている。
ジャラン……と一回数珠を手の平で擦って音を鳴らした。
その時、美愛(少女の亡霊)は耳をふさいだ。
美弥はそれを見逃しはしなかった。
もしかしたらいけるかもしれないと思ったからだ。
お経を上げる事はできないが、ジャラジャラと数珠を手の平で擦って音を鳴らし続ければ、美愛の身体から抜け出してくれるのではないか? 美弥は微かな望みにかける。
美愛(少女の亡霊)は、その場に仰向けになって耳をふさいだまま身体を左右にもがき始めた。
「あなたには、帰るべき場所があるはずです。その少女を苦しめるのはやめてくれませんか?」
美弥は、その場にしゃがみ込んで優しく美愛の左肩を撫でると、左右にもがいていたのが嘘のようにおとなしくなった。
「美愛ちゃん、わかる?」
とり憑かれさせないように、ジャラジャラと数珠を手の平で擦りながらも、ぐったりしている美愛に問い掛けると、小さく首を縦に振ったので、少女の亡霊は抜け出したと思ったら安心したのか、美愛の身体を優しく抱き上げて微笑んだ。
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