「わぁ、不気味だね」
口で言うほど沙希は怖がっていないところか、状況を楽しんでいるようだ。
「だね。来て早々に言うのもなんだけど、帰ろうよ」
やはりというか、美愛は尻込みをする。
「大丈夫。美弥という心強い存在がいるから」
この手の話が好きだとうだけあって、余裕な笑みを浮かべているのは沙希だ。
当然というか類は友を呼ぶではないが、美弥も全然平気そうな顔をしている。
この二人と一緒にいると心強いだろうなとは思っていた美愛だったが、やはり目に見えないというのが恐怖を感じさせるのだ。
「さてと、のんびりしていられないから現場に行ってみよう」
そう言って沙希が歩き出したので、普段は先生しか利用しないエレベーターへと移動してきた。
「いいよね、先生はこれで移動して楽をしてさ」
一階にいるので上ボタンを押したら、誰もいないのでさほど待たないうちにエレベーターが到着した。
「一緒に乗ったら怖くないよ」
沙希の手に繋がれて美愛は小さく頷いた。
4という数字を押すと古いエレベーターの仕様なのか、ガガガと不気味な音を立てながら上がっていく。
途中で止まったらシャレにならない。
美愛は繋ぎ返す手に力をいれている。
(どうかこのまま目的の階までいきますように)
エレベーターが止まる時も、若干の揺れがあったがどうにか無事目的の階へ止まったのでエレベーターのドアが開いた。
年季が入ったエレベーターというのは、静まり返った夜ほど不気味さが増す事がない。
「みんな降りたね。ねぇ、美弥。エレベーターの中には例の少女はいた?」
4階へ着いてからさっそく沙希は美弥に聞いたのだが、全然感じなかったと平然とした表情で美弥は答えた。
「噂は噂でしかないんだよ。って事で、そのエレベーターの少女の霊はいなかったって事でいいよね?」
霊感がなくて怖がりの美愛は、沙希の手をほどこうとはせずに霊感が強い美弥に聞いた。
「ちょっと待って。今、すごく感じたんだけど。あのね、エレベーターに映りこんでいるの」
「えー? やだやだやだやだ! めちゃ怖いじゃん!」
「大丈夫。わたしと美弥がいるから」
怖がる美愛の背中を優しく撫でながら沙希は言う。
「あれ? おかしい。エレベーターから移動したっぽい」
唯一霊感が強い美弥は、何かを察したのか辺りを見渡す。
沙希も美愛の異変に気が付いたらしい。
自分にしがみついている美愛が、どこかうつろ気な眼差しで見つめているような気がして、身体を揺さぶってみた。
「美愛? ちょっと、美愛? 美弥、どうしよう?」
「あまり身体を揺さぶらないほうがいいかも。ちょっと集中するからね」
瞼を閉じた美弥は深呼吸を数回繰り返すと、瞼を開けてから美愛を床へ寝かせたのだ。
「そこにいるんですね?」
横たわる美愛は、意識を無くしているのか瞼を閉じたままピクピクと左手の指先を動かしている。
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