「美弥、本当にあの亡霊はいなくなったの?」
沙希も一緒に傍にしゃがみ込む。
「多分、美愛ちゃんからはいなくなったわ。だけど、のんびりしていられない。美愛ちゃんが動けるようになったら、早いとこここから出ていこう」
「そうだね。ねぇ、美愛。ここがどこだかわかる?」
沙希の問いかけにコクンと頷く美愛。
「あのね、わたしはどうして美弥ちゃんの腕の中にいるの? 何が起きたの?」
だいぶ意識がはっきりしてきた美愛は、瞳をぱちくりとさせて不思議そうな顔をしている。
どうやら、何が起きていたのかなんて全然覚えていないみたいだ。
「美愛は、恐怖のあまりに失神しちゃったの。わたしも反省したよ。本当、ごめんね……」
申し訳なさそうに沙希は誤った。
「ううん。そっか、わたしは失神しちゃってたんだ。それにしても、どうして美弥ちゃんに抱かれているのかな?」
美愛は美弥の腕の中から二人を交互に見つめた。
「美弥がとても心配して、揺さぶるのも悪いからってずっとそうしていたの。でも、もう大丈夫なんだよね?」
沙希が聞くと何度も大丈夫と笑顔で答えたので美弥は、そっと美愛の身体を起こしてあげた。
「あとは自分で立ち上がれるから大丈夫。付き添ってくれてありがとう」
「心配したけれど、意識取り戻して本当によかった。肝試しは、これからは沙希と二人でしようと思うの」
美弥は美愛に起こった事は黙っているつもりなのか、あえて憑りつかれていた事へは触れずに話題を少し変えた。
エレベーターの中でも特に会話もなくて三人は黙ったままだった。
一階についてから、沙希が何かを思い出したように言った。
「さっき美弥が言っていた事考えていたんだけど、美愛さえよかったらまた参加してくれると嬉しいけれど、苦手な人を無理強いさせるのは、本当にいけない事だってつくづく痛感したっていうかさ。だから、美愛を誘わないでこれからは二人で、エレベーターの少女については調べるつもり」
「ごめんね、わたしが二人の足を引っ張ったみたいになってるよね。本当にわたしは倒れただけなのかな?」
美愛が鋭いところを突いてきたので、二人はドキリとしたのだが、ここは敢えて顔には出さないように心がけて沙希は、元はと言えば自分が興味あるだけで、巻き込んだのがいけなかったんだし、美愛は責任を感じることないと宥めた。
「あのね。やっぱりずっと黙っておきたくないから話すけど、美愛ちゃんは少女の霊に憑りつかれていたの。それで、わたしは何とかしようとして、できるだけの事をしてみたら偶然にも霊が嫌がる事をしたみたいで、無事に美愛ちゃんに戻る事ができたってわけ」
これまでの事を短く話をまとめて美弥は、美愛に正直に話した。
「えええええ? わたし、憑りつかれてたのぉぉぉぉ? でもでも、今はもう大丈夫なんだもんね?」
美愛は、正直に話してくれた美弥に半ば泣きそうな顔をして聞いた。
「大丈夫。だって、もういつもの美愛だもん。美弥も安心していいんだよ。だけどそろそろ家へ帰らないと、心配性のママのほうが怖いからね」
幽霊が怖くないという沙希は、どうやら母親の存在のほうが怖いらしい。
沙希の言葉で、三人は学校から出て途中まで一緒に帰る形になった。
「じゃ、ここでね。またあした」
「「じゃあね、またね」」
こうして十字路で別れて美愛は、こっそりと音を立てずに家の中へと入って行く。
両親はすっかり爆睡しているようで、小さな物音でも起きてくる様子はなかった。
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