近野美愛は、高校へ入学しても未だに友だちができずにいた。
別に友だちがいなくても平気と、美愛はボッチ飯をしているとクラスメイトの安藤沙希に声をかけられた。
「ねぇ、一緒にお昼食べてもいい?」
ご飯が口の中いっぱいのため返事する代わりに美愛は、こくんと小さく頷いた。
「よかった。わたし、安藤沙希って言うの。近野さんだよね」
ご飯を食べている時に話しかけて来るので、慌てて水筒のお茶で流し込んでから美愛は、
「そう。わたしの苗字を覚えているんだね。近野美愛だよ」
と、答えた。
苦手な笑顔で。
それを気にしないのか、沙希は美愛の向かいの席にどかりと座って、お弁当箱を広げ始めた。
「わたしもぼっちだったんだけど、やっぱり誰かと一緒のほうがお弁当って食べていておいしいよね」
「そうかもね。わたしは人見知りするから、自分から声をかけるなんてしないけれど、安藤さんが声をかけてきて、一緒に食べるのも悪くないって思ったよ」
自分で作った形の悪い玉子焼きを器用に箸で切り裂いて、食べやすい大きさにすると口の中へ頬張った。
「偉いな、自分で作ってくるんでしょ?」
「うん。朝早くから作っているの。おかげで、授業中は眠くてたまらない。安藤さんはコンビニで買ってきたの?」
「そう。作るのって面倒くさくて。だけど、わたしも頑張って作ってこようかな。周りが女子しかいないから、手抜きでもいいかなとは思っているけどさ。それより、ここの学校の噂話って知っている?」
ランチパックを手にとり、パクパクと2、3口、口の中へ入れて食べながら聞いてきた。
「噂話? わたしは聞いた事ないな」
「ふふ、そうなんだ。ここの学校って元は病院だったんだって。だから、出るって噂だよ」
沙希は嬉しそうに話す。
「出るって……、やっぱり、そういう事なの?」
ご飯とおかずを交互に食べながら美愛は聞いた。
たぶん、顔が引きずった笑顔になっているはず。
「ビンゴ! 幽霊が住み着いているとかいないとか。わたし、そういう話が大好きなの。でね、突然だけど、近野さん、ミステリーって好きかな?」
「どちらかというと、そういうの苦手なの。映画とかでも贋物ってわかっていても目を伏せちゃう」
想像しただけでも、美愛はブルブルと震えた。
「あら、そうなんだ。可愛い。てか、そのいわくつきの話で、ちょっと確かめたいんだけど、一人ってやっぱり心細いじゃん?」
「まぁ、そう、だよね。心細いだろうね。わたしはそういうの苦手だから、誘うなら他の人にしてね」
「そうだよね。ちょっと他の人にも聞いてみるね」
こうして昼ご飯を食べ終えると、午後一番の授業のあとに、沙希は美愛以外のクラスメイトにも學校七不思議の話をして誘っているが、誰一人としてその誘いに乗ってくれる人がいないらしい。
このまま、わたしのところに誘いに来ないように祈っていた美愛だったが、この思いはむなしく、翌日にも沙希から誘われることとなってしまったのだ。
しかも、今度は、考えてきたのか、沙希は霊感が強い親友がいるから心強いと言ってきたのだ。
それを言われると、美愛は断れなくなってしまった。
突然、ミステリーが好きかと誘われて、半ば強引に友だちになったと言ってもおかしくはない。
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