球技大会、午後。
卓球。通算5試合目も適当にやって、勝利した。
5連勝なんだけど、相手もあんまりやる気ないからな…。あんまり嬉しくない。
最後の試合も終わらせて、早く家に帰りたい。まあ、勝手に帰れないんだが。
しばらく休憩して、最後の試合の出番となった。
相手は、短い髪のボーイッシュな小柄な女子。
彼女、見たことあるな。
誰だっけ…?
思い出した。
夏休みに卓球部の合宿で見たことある。
ということは卓球部か…。名前は知らない。
そんなわけで、まず相手のサーブ。
ピンポン玉は、台を跳ねてから、かなりのスピードで僕の脇を通り抜けた。
0-1
ガチでやらないでよ…。
突然、声援が入る。
「純也! 頑張れ!」
後ろを振り向くと少し離れたところに雪乃が居た。
声援とか…。恥ずかしいな。
彼女(仮)の手前、1点ぐらいは取って、カッコつけるか…。
と思ったが、卓球部相手に点を取れるのだろうか…?
再び相手のサーブ。
僕は打ち返す。しかし、当然、いとも簡単に返された。
何度かラリーがあって、結局、僕は空振りして点を取られた。
0-2
今度は僕のサーブだ。
卓球部の合宿の時に、羽柴部長に教えてもらったサーブの方法を思い出す。
確か、スピンがどうとか…。
で、サーブ。
やっぱり簡単に返される。
今度も何度かラリーがあって、僕はまた空振り。
0-3
もう一度、僕のサーブ。
今回は少し長めにラリーがあって、僕が返した玉が台から逸れて点を取られた。
0-4
少し速い玉に目が慣れてきたかも知れない。
それでも、1点を取るのは難しそうだ。
待てよ!
次は卓球台のヘリを狙ってイレギュラーにするという作戦を使おう。
この卑怯な作戦を正々堂々と採用することにする。
サーブ権が相手に代わる。
相手は構える。
え? さっきとフォーム、違う…?
そして、相手は玉を打ち出した。
スピードは速くない。
ヘリ狙い作戦のチャンス!
僕はラケットで玉を返す。
えっ!?
玉は僕が狙った所とは全く明後日の方へと、台にも触れず飛んで行った。
何? 今の?
0-5
「純也! 頑張れ!」
また、雪乃の声援。
再び相手のサーブ。
さっきと同様に狙ったところとは、全く違うところに飛んで行った。
ひょっとして、めっちゃスピンかかってる?
0-6
サーブ権が僕に来た。
サーブの時からヘリ狙い作戦で行く。
僕は玉を繰り出した。
しかし、狙ったヘリにはいかず、普通に台を跳ねた。
そして、しばらくラリー。
結局、僕は返せず、点を取られた。
0-7
そして、再びサーブ。
今回は短いラリーで点数を取られてしまった。
0-8
相手のサーブ権。
さっきと同じ構え。
ということは、めっちゃスピンかけて来るな…。
さっき、玉が飛んで行った方向を逆に計算して…、ラケットをこの角度で、こっちの方を狙えばなんとか返せるか?
相手から玉が打ち込まれた。
僕は、何とか想定通りに玉を返し、相手の前にはじき返した。
相手は当然、それを簡単に打ち返す。
少しのラリーの後、僕の返した玉が相手の台に入らず、点を取られた。
0-9
もう1点も取れないのか…。
まあ、しょうがないなあ。
相手のサーブ。
今回も玉を打ち返せた。
そしてラリー。
ここで、ヘリ狙い作戦だ!
奇跡的に玉がサイドのヘリに当たってイレギュラーとなった。
それでも、相手は何とか玉を拾った。
玉の勢いは早くない。相手がいる反対側狙って玉を打ち返す。
相手は、さすがにそれを拾うことができず、僕は初めて点を取ることができた。
どや。
1-9
目標達成。
もういいや。
サーブ権は僕。
玉を素早く繰り出す。
そして、ラリーとなったが、僕が打ち返せなくなって点を取られる。
1-10
再び僕のサーブ。
そして、ラリー。
僕の返した玉がネットに上の端に当たり、勢いは落ちたが辛うじて相手の方へ落ちた。
それが手前過ぎたので、相手はその玉を拾うことができなかった。
おおっ!
もう1点取れたぞ!
2-10
そして、相手のサーブ。
僕は、もう完全にやる気が無くて、相手のスピンのかかった玉を弾くも明後日の方向へ飛んでいった。
2-11
試合終了。
2点も取れたのは望外だったが良かった。
最後の最後にちょっと気合入れたので疲れた。早く家に帰りたい。まあ、勝手には帰れないんだが。
球技大会が終了した。
後ろで僕の試合を見ていた雪乃と合流して教室に帰ろうとする。
「最後の試合、惜しかったね」
「ボロ負けじゃん?」
「でも、あの子、卓球部でしょ?」
「そうだけど…。球技大会で部員がガチでやらないでほしいんだけどな。勝負になるわけないじゃん」
などと話しつつ廊下を歩いていると、背後から僕の名前を呼ぶ声。
「武田君!」
この聞き覚えのある声は…。僕は振り向いた。
卓球部部長の羽柴先輩だ。
「さっきの試合見たよ」
「そうですか」
「実は、福島さんが武田君と試合になると聞いて、マジでやれって指示をだしたんだよ」
「福島さん?」
「さっきの試合の相手だよ。1年D組の福島来路花」
サルビア? キラキラネーム?
「ど、どうして、そんな指示を」
「君の隠れた才能を見てみたくてね」
「ボロ負けしたじゃないですか」
「いや。素人の君が福島さんから2点取るなんて、ただ者じゃあないよ。彼女は今の卓球部では3番目に強い。都の大会で女子ベスト16まで行ったしね」
「そうですか…」
どうでもいい。
「で、卓球部どう? 練習来てよ」
「いや、最近、生徒会に入って忙しいので、ちょっと難しいんです…」
生徒会は、全然忙しくないが、こういう時だけ言い訳に使う。
「そうかあ…。まあ、いつでも顔を出してよ、遊び感覚で良いから…。じゃあ」
そう言って羽柴先輩は立ち去った。
卓球より、福島さんの“サルビア”という名前のほうが気になるな。
そのやり取りを見ていた雪乃が話しかけてきた。
「それにしても、純也ってスポーツもできるんだね。勉強もできるし」
「いや。今日の卓球はたまたまだし、他のスポーツも人並みだよ」
「でも、卓球やってる純也、カッコよかったよ」
「お、おう…」
恥ずかしいな。
でも、いくらおだてられても、卓球部には行かない。
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