『王宮』の前。あばれまわる家畜と混乱した農民たちが、おおさわぎしていた。
西園の監荘人、王益序と、その手下たちが、ぞくぞくと出てくる。
「おまえたち、犬や家畜をはやく捕まえろ。……ぎゃっ!」
益序たちは犬にかみつかれた。
「痛い! 痛い!」
尻をかまれた益序は、泣きながら逃げまわる。農民たちは大笑いした。
「ざまあみろ」
そこへ大柄な男がやってきて、益序にかみつく犬をつかみ、地面に投げつける。
「兄上、おけがはないですか?」
「むむ、元序」
農民たちがひそひそ話した。
「東園の監荘人の王元序だ」
「益序とはえらいちがいだなぁ」
「さすが一番大きい東園をまかされるだけある」
益序ににらまれ、農民たちはそっぽをむく。
元序は犬たちをけちらしながら、益序に、
「犬がおきらいだったとは知りませんでした。わたしがおぶってさしあげましょう」
「ふん、だれが……」
言いかけたが、まわりの犬がうなりながらにらんでくるのを見て、
「あ、ああ。たすけてくれ」
益序は元序におんぶされた。
農民たちが嘲笑する。
「こしぬけめ」
「まぬけなやつ」
「いつもふんぞりかえってるくせに」
益序は顔を真っ赤にさせ、わなわなとふるえた。
元序は優越感にひたる。
たすけるそぶりを見せ、益序のメンツをつぶしてやった。
馬に乗った夜糸と夏桑は、東園へむかっていた。
「夏桑は先に例の場所へ行って」
「おう」
東園の長屋の近く。
ねぼけたみはりの農民が、西園のほうをながめていた。なにやらさわがしい。犬のほえ声や人の悲鳴がきこえる。
あちこちの長屋からも、農民たちがようすを見にでてくる。
「なんだぁ?」
そこへ夜糸の馬が走ってきた。
「ねえ、張春桃はここにいる? むこうの長屋の人にここに住んでいるときいたわ」
「は?」
「私は西園の者よ。さっきから東園中の長屋を探しているんだけど」
「なんだおまえ」
「それが大変なの。じつは……」
ある東園の長屋では、へとへとの農民たちがざこねしていた。
春桃も寝ていた。戸籍の巻物をふところにしっかりかかえている。
外から、男が血相をかえて長屋に入った。
「張春桃!」
農民たちはねぼけまなこでおきあがった。
「なに?」
春桃も目がさめた。だが、なんとなくめんどうそうなので、寝たふりをしたまま起きあがらない。
以前つかえていた主人のもとで起こったような、へんなめんどうにまきこまれたくない。
「張春桃! はやく来い! でないと俺たちみんな南園につれていかれる」
「ええ?」
農民たちはおそれ、そわそわしだした。まわりの農民たちが春桃をゆさぶる。
「おきて! 張春桃ってあんただろ」
「南園なんて行きたかないよ」
「……はあ」
春桃はしぶしぶ起きあがった。
男につれられ長屋から出た春桃は、はっとして言葉をうしない、わなないた。
目の前に、馬をつれた夜糸が立っている。
夜糸は春桃の腕をつかんだ。
「痛」
強い力。
夜糸はにっこりと、男に顔をむける。
「ありがとう。次はみんなにはやく西園に行くように伝えて。さっき言ったとおり、王さんが東園の連中はまだかと怒ってたわ。ほかの長屋の人にもはやく伝えて」
「わかった」
男はうなずき、長屋に入る。中から、その男が農民たちになにかよびかける声がきこえた。
夜糸は無言のまま、春桃の腕を力まかせにひっぱり馬に乗せた。春桃はおそろしくてされるがままだった。
東園の農民たちが、列をなして西園に移動していった。
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