夜の荘園の長屋。
農民たちと夏桑、夜糸がざこねしていた。
みなつかれはて、死んだように眠っている。夏桑などは、があがあと大きないびきをたてている。
夜糸だけは眠れずに、しきりと首をおさえていた。
「はあ。首が寒くて眠れない。これも春桃のせいよ」
夜糸は爪をかむ。
「ううん。それだけじゃないわ。髪を切ることになったのも、もとはといえば日利のせいね。全部あの子のせいだわ」
夜、郊外の永達のやしき。
日利の部屋の前に、永達がやってきた。
「白環、いるか? ひさびさに相手をしてやろう」
部屋の扉から、ちらりと日利が顔をのぞかせた。
「すみません。今日はちょっと」
「なんだ。私の好意をむげにするのか? それになぜ頭巾をかぶっている?」
「すみません」
日利はすぐに扉をしめる。
部屋の中で日利が頭巾をとると、彼女の髪はそられ、丸ぼうずになっていた。
「永達さまにも怒られたじゃない。もとはといえばお姉さまが『あれ』を私の髪の油にまぜたせいで丸ぼうずになるはめになったのよ。全部お姉さまのせいだわ……」
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