荘園。
真っ昼間の家畜小屋の裏は、人気がなく、かげがのびている。
土ぼこりや家畜の糞によごれた夜糸が、あせびっしょりでかげに入った。
「ふう。つかれた。あつい。こっそり休憩ましょう。……あら? 夏桑じゃない。いたの?」
「おう夜糸」
夏桑が本を手にし、家畜小屋の壁によりかかり、しゃがんでいた。
「本を読んでるの?」
「ああ。おら字が読めねえっつったら、東園の劉さんが絵の本をかしてくれたんだ」
「へえ。粋な人もいるのね」
「夜糸も見てみろよ。きれいな女がいっぱい描かれてて楽しいべ」
「美人画ね。どれどれ、……!」
「でも女にのっかってるこの丸いのはなんなんだ? 男みてえにも見えるが」
「……夏桑、この本はすてるわよ。いますぐ」
「え? なんでだ」
「いいから」
「この本は劉さんのとっておきらしいぜ。すてたら悪いべよ」
「こどもがこんな本を見ちゃだめ」
「おらこどもじゃねえ。こんななりだがおまえとそんなに歳は変わらねえよ」
「いいからすてるの! もやしなさい。南園に送られるわよ! それから劉さんからもう二度と本をかりちゃだめ!」
「……? なんでそんなに怒ってるんだ?」
このあと、本はすぐに燃やされたのであった。
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