馬車の外。
一本道。畑にはさまれている。
夜糸のおじの鄧通閔と、その従者たちがのんびりしていた。
長旅だったので、みなつかれている。
突然、馬車から娘の悲鳴があがった。
「どうした」
通閔らはおどろき、馬車へかけつけた。
馬車の中では春桃が泣き、夜糸がたおれていた。
「おい! これはどういうことだ!」
通閔は春桃をどなりつけるが、春桃は泣きじゃくり、
「お嬢さまが布をのみこんでしまわれたのです。わが身をおなげになり……。私はとめたのですが……」
通閔や従者たちはばつが悪そうにした。
彼らのようすをちらちら見つつ、春桃は泣きじゃくりながらつづけた。
「おねがいです。お嬢さまをすぐにこの地にうめてください」
「なぜ?」
「お嬢さまはおっしゃいました。死んだあとは広い大地に帰りたいと。そんなささやかな、ささやかな、ねがいさえはたされなければ、あまりにあわれではありませんか」
「それは……」
「皇族にとつぐため人生をかけて努力をしたのですよ。なのに横から妹さまにその栄誉をとられて。あげく両親からもすてられて。おじさまには非人あつかいされ売られてしまうのですよ」
従者たちはあわれみの目を夜糸の死体にむけた。
「お嬢さまのおなげきのほどはたいへんなものでした。お嬢さまのお身体がくさらないうちに、すぐにうめてください。おねがいです」
「旦那さま、お嬢さまがかわいそうだ」
「そうです。うめてやるくらいしましょうよ」
通閔はうろたえた。このままでは従者たちへの自分のメンツがたたない。
「しかたがない。おまえたちも穴ほりを手伝え」
通閔は従者をひきつれ畑に入り、
「おい、そこの農民。農具をよこせ」
と、農民にむかって横柄にめいじた。どんどん馬車からはなれていく。
春桃は馬車の前でぼうぜんする御者にも、泣きながら声をかけた。
「御者の方もおてつだいください。馬は私が見ていますから。お嬢さまをあわれにお思いなら、一刻もはやくお嬢さまを埋葬してください」
「あ、ああ」
言われるがまま、御者は通閔たちのほうへむかった。
畑では通閔と農民がもめている。
「農具を借りたいなら税を安くしろ!」
「なにをぉ。私をだれだと思っている」
通閔も従者も御者も、全員馬車からはなれた。それを見て、春桃は御者の席にとびのった。馬の手綱をおもいきりひく。
馬がいななき走り出した。馬車が動きだす。
「あ! こらまて」
通閔たちが気づいて追いかけようとする。だが馬車はすぐに道のむこうの林にはいり、彼らからは見えなくなった。
農民が通閔たちをかこみ、農具でおそいかかった。
「悪徳官吏め! とりたてた税をかえせ!」
「うわ! やめろ! やめてくれ」
林の道。
馬車が猛烈ないきおいで走る。
馬車の中から夜糸がさけんだ。
「春桃、もういいわ。とめて!」
「とめかたがわかりません」
「手綱をひくの! おもいっきり。あぶみに体重をあずけて!」
春桃が馬のあぶみをふみ、ぐいっと手綱をひいた。馬はいなないて急にとまり、馬車はたおれた。
林に夜糸と春桃の悲鳴がひびいた。
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