李夜伝

恋して、愛して、裏切られて散っていく。復讐、愛憎、悲恋の中華ダークロマンス
退会したユーザー ?
退会したユーザー

二 逃走

公開日時: 2022年11月26日(土) 00:49
文字数:1,218

 馬車の外。

 一本道。畑にはさまれている。

 夜糸やしのおじの鄧通閔とうつうびんと、その従者たちがのんびりしていた。

 長旅だったので、みなつかれている。

 突然、馬車から娘の悲鳴があがった。

 

「どうした」

 

 通閔らはおどろき、馬車へかけつけた。

 馬車の中では春桃しゅんとうが泣き、夜糸やしがたおれていた。

 

「おい! これはどういうことだ!」

 

 通閔は春桃をどなりつけるが、春桃は泣きじゃくり、

「お嬢さまが布をのみこんでしまわれたのです。わが身をおなげになり……。私はとめたのですが……」

 

 通閔や従者たちはばつが悪そうにした。

 彼らのようすをちらちら見つつ、春桃は泣きじゃくりながらつづけた。

 

「おねがいです。お嬢さまをすぐにこの地にうめてください」

「なぜ?」

「お嬢さまはおっしゃいました。死んだあとは広い大地に帰りたいと。そんなささやかな、ささやかな、ねがいさえはたされなければ、あまりにあわれではありませんか」

「それは……」

「皇族にとつぐため人生をかけて努力をしたのですよ。なのに横から妹さまにその栄誉をとられて。あげく両親からもすてられて。おじさまには非人ひにんあつかいされ売られてしまうのですよ」


 従者たちはあわれみの目を夜糸の死体にむけた。

 

「お嬢さまのおなげきのほどはたいへんなものでした。お嬢さまのお身体からだがくさらないうちに、すぐにうめてください。おねがいです」

「旦那さま、お嬢さまがかわいそうだ」

「そうです。うめてやるくらいしましょうよ」

 

 通閔はうろたえた。このままでは従者たちへの自分のメンツがたたない。

 

「しかたがない。おまえたちも穴ほりを手伝え」

 

 通閔は従者をひきつれ畑に入り、


「おい、そこの農民。農具をよこせ」


 と、農民にむかって横柄にめいじた。どんどん馬車からはなれていく。

 春桃は馬車の前でぼうぜんする御者にも、泣きながら声をかけた。

 

「御者の方もおてつだいください。馬は私が見ていますから。お嬢さまをあわれにお思いなら、一刻もはやくお嬢さまを埋葬まいそうしてください」

「あ、ああ」


 言われるがまま、御者は通閔たちのほうへむかった。

 畑では通閔と農民がもめている。

 

「農具を借りたいなら税を安くしろ!」

「なにをぉ。私をだれだと思っている」

 

 通閔も従者も御者も、全員馬車からはなれた。それを見て、春桃は御者の席にとびのった。馬の手綱たづなをおもいきりひく。

 馬がいななき走り出した。馬車が動きだす。

 

「あ! こらまて」

 

 通閔たちが気づいて追いかけようとする。だが馬車はすぐに道のむこうの林にはいり、彼らからは見えなくなった。

 農民が通閔たちをかこみ、農具でおそいかかった。

 

「悪徳官吏め! とりたてた税をかえせ!」

「うわ! やめろ! やめてくれ」


 

 林の道。

 馬車が猛烈もうれつないきおいで走る。

 馬車の中から夜糸がさけんだ。

 

「春桃、もういいわ。とめて!」

「とめかたがわかりません」

「手綱をひくの! おもいっきり。あぶみに体重をあずけて!」

 

 春桃が馬のあぶみをふみ、ぐいっと手綱をひいた。馬はいなないて急にとまり、馬車はたおれた。

 林に夜糸と春桃の悲鳴がひびいた。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート