李夜伝

恋して、愛して、裏切られて散っていく。復讐、愛憎、悲恋の中華ダークロマンス
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六 決意

公開日時: 2022年11月20日(日) 00:48
文字数:1,112

 鄧家とうけでは娘の結婚式の準備をしていた。

 花嫁の赤い衣をまとった日利ひりは、鏡の前で得意げにほほえんだ。

 めしつかいがそろって日利をほめたたえた。

 

「おきれいですよ」

 

 父親がおごそかにせきばらいをした。

 

「いいか。おまえはわが家の代表だ。つつましく永達えいたつさまにつかえなさい。皇族こうぞくの妻はそう甘いものではない。みやこに行ってもつねに学び……」

「わかってます。お姉さまよりはうまくやれる自信がありますわ」

 

 部屋のすみでは、質素な平服へいふくを着た夜糸やしが、まばたきもせず日利をにらんでいた。

 日利は夜糸のおそろしい瞳を見てもさっぱり動じなかった。

 

 

 みやこ洛都らくと

 皇宮こうきゅうの見上げるほどの大きな門の前には、大勢の見物人が集まっていた。

 豪華な馬車がとまり、はなやかな赤い服の日利がおりた。そのあとにつづく、べつの地味な馬車から両親と夜糸やしがおりた。

 門の前で、人夫がかつぐ輿こしに乗った永達えいたつが、ほほえみを唇にはりつけ日利を待っていた。すまし顔の日利が永達の輿に乗ると、輿は門のはるか先にある儀式用の宮殿きゅうでんへ運ばれた。

 ちょうど近くを永達の側近の李遠りえんが通りがかった。今日は宮中の警備にかりだされていた。

 李遠は遠まきに永達たちの結婚式をながめた。

 

「あんなやつのためにむだな税を使いおって」

 

 ふと、彼は鄧家の面々を見つけた。夜糸の両親が夜糸にきびしい口調でなにか言っていた。

 

「夜糸。行くわよ」

 

 夜糸は日利と永達が乗った輿を凝視したまま動かなかった。

 

強情ごうじょうな子だね。一人で帰りなさい」

 

 両親は夜糸を残してその場を去った。

 李遠は夜糸に近づき、軽く拱手きょうしゅして声をかけた。

 

「妹どののご婚礼にお祝いもうしあげる」

 

 夜糸はみじろぎもせず、李遠には反応しなかった。

 大勢の人びと。がく。歓声。はなやかな輿。永達のとなりにいる、はれやかな妹の姿。

 憎しみの目でそれらをながめ、夜糸はぼそりとつぶやいた。

 

「殺す」

 

 李遠はみるみる笑顔になった。夜糸に近づき、彼女の耳元に顔をよせてささやいた。

 

「ならば行動しなさい」

 

 夜糸がすこしおどろいて李遠を見たが、彼はすぐに歩み去っていった。

 

「あの人……、なに?」

 

 夜糸は李遠の大きな背中を見送った。



 歩きながら、李遠はうれしさのあまりしのび笑いがとまらず口をおさえた。

 あの目。あの憎しみ。なぜ自分がひかれるのかわかった。まるでかつての自分の目のようだからだ。

 なにか試練をあたえたい。育ててやりたい。もし自分とおなじ種類の人間なら、壁があれば成長できるはずだ。

 育てあげられたら永達を殺すこまとしても利用できるかもしれない。

 

 

 日利をめとり、永達ら夫妻は宮中を出て郊外の豪邸ごうていに引っ越した。

 日利はそこでぜいたくなくらしをしていると聞く。両親はかかさず仕送りをした。

 夜糸は二人の結婚式以来、一歩も自室を出なかった。

 

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