郊外の永達のやしき。
寝室で、永達がはだかの女とねそべっていた。
「はあ」
「どうしました? 殿下」
「退屈だ」
「子育てすれば退屈なんて感じなくなりますよ」
「あ?」
「……あのね、わたし殿下の子をはらんだみたいなんです。だから約束どおりわたしと……」
永達は女を寝台からなげおとした。女は腰をうち、腹をおさえうずくまる。
「うっ……」
「そなたが勝手におちただけだろう」
女は涙をぼろぼろながし、はだかのまま寝室から出ていった。すれちがいざま、李遠が入る。
「李隊長? こんなところまでなんの用だ?」
「殿下、おのぞみの宝物を買うのに金がたりません」
「もうか。では妻の実家の鄧家にねだれ」
「鄧家は太子妃への毎月の仕送りの金だけで汲々としているようです」
「やくたたずめが。では母上にねだる」
「杜夫人さまは陛下からの旧情は深くも、このごろはご寵愛がへりふところがさみしくなったのでは?」
「そうでもない。父上の寵愛をとりもどしたそうだ。最近母上につかえた宦官のおかげでな」
「宦官の?」
宦官とは、生殖器を切除し、後宮の妃たちに仕える官吏のことだ。
「そやつの私有地のおもしろい『遊び』のおかげで若返ったとか」
「『遊び』?」
「若い女を集めて『遊ぶ』んだとか。どんなのだろう。おもしろいのなら私も行こうか。……おい、もうよいだろう。さっさとでていけ」
永達にそっけなく言われ、李遠はけわしい目をして寝室をあとにした。
李遠は廊下を歩きながらひとりごちる。
「『遊び』とはなんだ? 調べよう」
もし永達がその『遊び』とやらに行くのであれば、ついていけば彼を殺す隙もあるかもしれない。
「若い女を集めて『遊ぶ』か。あの女のことだ。どうせろくなことではない」
若い女といえば、鄧家のあの娘の所在がゆくえしれずになっているらしい。
どこかに売られる前に、官吏でおじの鄧通閔のもとから脱走したという。
鄧通閔は若い娘にだしぬかれたまぬけな男として、宮中でものわらいにされていた。当然通閔はかんかんでいる。
「あの娘も夫人の宦官の私有地とやらに流れついていれば、……いや、そんな偶然があるはずないか」
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