高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

ツンデレ系女子との同棲?ルームシェア?が決定した

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:24
更新日時: 2021年2月14日(日) 02:46
文字数:6,930

「アタシが住む場所ってどこなの? 早く教えなさいよ!」


 ツンデレ系女子を拾った俺、灰賀恭は女に何て説明したものかを考えていた。ここは素直にお前の住む場所はデパートの空き店舗であるここだと言うべきか、それとも、行けば分かるとお茶を濁すべきか……その前に聞いておく事があるんだけどな


「住む場所を教えるのは全然構わない。その前に聞いておく事が一つある」

「聞いておきたい事? 何それ? あっ! まさかアタシのスリーサイズ聞きたいんじゃないんでしょうね?」


 この女、このまま捨てて行こうか?誰もお前のスリーサイズに何て興味ないっつーの!


「いや、俺が聞きたいのはどうしてここで座り込んでいたかだよ」


 母親が蒸発し父親が借金を押し付けて失踪。これだけ聞いても彼女が家なき子だというのは容易に理解出来る。ただ、駐車場はシャッターが下りていて出入口も俺が鍵を開けるまで閉まっていた。ガラスを割って入るという方法もあるが、いくら閉店し人がいない建物だったとしても立派な不法侵入だ。そんな入れもしない建物の前で体育座りをしていた理由が俺としては気になった


「別に深い意味なんてないわよ。ただ、駅に行くと汚いホームレスのおっさん達がいるでしょ?そんな場所に行くのが嫌だっただけ。それより! 早くアタシが住む場所に案内しなさい!」


 案内しなさい!と言われてもなぁ……どうしたものかなぁ……


「あー、うん、すぐに案内するわ」


 彼女が借金取りから逃げて今日で何日目になるのかは知らないが、ワクワクした表情を浮かべながら目を輝かせているところを見ると屋根の付いた場所で寝るのは久しぶりなんだと思う。


「すぐに案内しなさい! アンタの仕事場になんてアタシは興味ないのよ!」


 彼女はこの後に『全く! 仕事は紹介出来ないとか言っといて仕事場に長居させるなんて信じれないわよ!』と付け足した。どうやら女はここに住むとは欠片も思ってないようだ


「案内するのはいいけどよ、とりあえず中に入らないか?さすがに寒い」

「中へ入った途端にアタシに変な事しないでしょうね?」


 女はジト目で俺を睨んできた。俺は寒いから中へ入ろうと言っただけなのに疑われるなんて心外だ


「しねーよ! 寒いから中へ入ろうって言っただけだ! 他意はない!」

「ふーん、どうだか?男なんて所詮ヤラシイ事しか考えられないからアンタも同じよ!」


 この女、今すぐにでも見捨ててやろうか?


「神に誓ってヤラシイ事なんてしない!」

「……………」

「本当だって!」

「どうだか」


 本当にこのまま見捨てようか?


「本当だっつーの! 俺の目を見ろ! これが嘘を吐くような目に見えるか?」


 今日初めて会って信用しろと言うのは些か無理のは解る。俺だって初対面の人間なんて信用半分、疑い半分で接する。それでも信じてもらえなければ話が前に進まない


「見えるわ。中へ入った瞬間アタシにエッチな事をしそう。それにアタシはまだどこに住むか聞いてない」


 エッチな事をするか否かは置いといてだ、女の言う通り俺は住む場所について女に何一つ話していないのは事実。正直に話しても信じてもらえないんじゃないか?と疑心暗鬼になっている部分が俺の中にあるから仕方ないと言えば仕方ない


「住む場所について正直に話せば信用するってのか?」

「そうね。アタシがこれからどこに住むのか話してくれれば少しは信用するわ」

「その言葉に嘘はないな?」

「ええ、ないわ。だからさっさと話しなさい!」


 正直に話したところで信じてもらえるとは到底思えない。しかし、いずれは話さなきゃならない。それを考えるといつ話ても同じ事


「分かったよ、アンタが住む場所がどこなのか正直に話すよ」


 隠し通せないと観念した俺は女に全てを話す事にした


「ふんっ! 最初からそうしなさいよね!」


 まるで俺が悪いような言い方だが、ハッキリ言ってしまえば勿体ぶった俺が悪い。こればかりは反論の余地はなかった


「ここだよ……正確にはここの八階だ。信じられないとは思うけどな」

「………………う、嘘でしょ?」


 信じられないといった目で俺を見る女。今日ここに連れて来られたばかりの俺だって実際に八階に行くまでは信じられなかった。実際に行ってみて信じられるかと聞かれれば答えはNOだ


「信じられないと思うが本当だ。俺はここの八階に住んでいる」

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 女の大絶叫に思わず俺は耳を塞ぐ。いや、叫びたい気持ちは分かるよ?俺だって叫んだし


「さ、叫びたい気持ちは解る! しかし、本当なんだ!」


 自分も一度は通った道なので同じことをする人の気持ちは解らんでもない。さすがにデパートの空き店舗に住んでますだなんて信じられないよなぁ……


「そ、そんな事言われても信じられるわけないでしょ! バカも休み休み言いなさい!」


 女の言う通りデパートの空き店舗が住む場所だなんて言われても信じられない。俺だって他人から同じ事を言われたらこの女と同じような事を言う


「確かに信じられないよな……」

「当たり前よ!! だってここはデパートじゃない! 去年の冬に閉店してその後、工事の車があったから工事してたのは知ってるわ! だけど工事をしたからといって人が住めるわけないでしょ!」


 俺が知ってるのは閉店した事だけだ。工事していたというのは俺の住まいである十四番スクリーンを見れば一目瞭然。本来あるはずの座席が全て撤去され、代わりにキッチン、風呂、トイレと個室が八個あれば嫌でも工事したんだと痛感させられる


「そこに実際俺は住んでるんだけど……まぁ、実際に見た方が早い。とりあえず中へ入るぞ。」


 どれだけ説明したところで信用してもらえるわけがない。ならば実際に見てもらおうと思った俺は女を店内に入れる事にした


「分かったわ……」


 女はデパートの空き店舗に住んでいるだなんて奇想天外な話を聞いたというのに妙に素直だった。何か悪いモンでも食ったか?


「やけに素直だな」

「住む場所について話してくれたら信用するって言っちゃった手前、信用しないわけにもいかないと思っただけよ! それより早くアンタの部屋まで案内しなさい!」


 女を先に入れ、俺は後に続く形で入り、ドアに鍵を掛けた。いくらここが八階建てで居住スペースがシネマコンプレックスのスクリーンだからと言って不審者が入ってこないとも限らない。


「戸締りも済んだ。行くか」


 ドアに鍵が掛かっているのを確認した俺は動かないエスカレーターがある場所まで進もうと──────


「ま、待ちなさいよ!」

「何だよ?」


 出来なかった。エスカレーターがある場所まで行こうとしたところで女に腕を掴まれたからだ


「ア、アタシこんな薄暗い場所を進むだなんて嫌なんだけど?」


 昼間でも薄暗いと感じた店内。それが夕暮れ時になったらただでさえ薄暗い店内がなおの事薄暗くなるのは当たり前。そんな店内を進むのが怖いと思うのも嫌だと思うのも当然と言えば当然だ


「嫌だと言われても住んでる場所は八階だから進まないと辿り着けないだろ?あ?もしかして薄暗いのとか苦手なのか?」


 デパートの空き店舗とか廃校になった学校の校舎とかは不思議とお化けでも出るんじゃないか?と邪推してしまいがちだ。それはそれとして、さっきまで強気だった彼女が急に弱音を吐いた事で俺はちょっと意地悪で女を煽ってみた。するとどうだろう?


「そ、そそそそそそそそそそそそんなわけないじゃない! あ、アタシに苦手なものなんてないわよ! た、ただ、薄暗い中で転んだら嫌だなぁとは思ったけど!」


 彼女はこれでもかと言うくらい動揺していた


「それなら俺が何かする必要なんてないな」


 怖いなら怖いと素直に言えばいいのにと思いはしたが、本人が怖くないと言うなら俺が気を遣う必要などないだろう。動揺する女を余所に俺は歩き出そうとした


「ま、待ちなさい!」


 歩き出そうとした俺は女に呼び止められた。今度は何だ?苦手なものなんてないとか言っておいて実は薄暗いのは苦手ですってか?


「何だよ?」

「ま、迷子になるといけないから手を繋ぎましょう!」


 この女はいきなり何を言い出すんだ?こんなデパートの空き店舗で人は俺と女の二人だけ、商品を陳列していた棚は撤去され、明るかったらずっと先まで見えるそうな状態で迷子になる事なんて全く! これっぽちも! ないと思うんだが?


「何もないところで迷子に何てなるかよ。そんな事より早く行くぞ」


 何もないところで迷子になる奴がいたとしたらソイツは別の意味で天才だと思う。


「ぐすっ……」


 いきなりみょうちきりんな事を言い出したかと思えば今度は泣き出した。怖いなら怖いと素直に言えばいいものを……素直じゃない奴。そんな素直じゃない奴を見捨てられない俺も俺だ


「はぁ……」


 素直になれない奴を見捨てられない自分に嫌気が差したからか思わず溜息が出てしまった


「な、何よ! アタシの事素直じゃない奴だって思ったでしょ! そうよ! アンタの思った通りよ! どうせアタシは──────」

「俺の名前はアンタじゃない。恭。灰賀恭だ」


 女の言葉を遮り、俺は自分の名を名乗る。本当はどこぞの家庭教師みたいに服の袖か手を差し伸べてやるべきなんだろう。残念だったな! 俺はお袋より若い異性と話すのなんて小学生以来なんだよ! そんな気の利いた事が出来るわけねーだろ! バーカ!


「い、いきなり何よ! 自己紹介なんてしちゃって!」

「別に。ただ、いつまでもアンタって呼ばれるのが気に入らなかっただけだ」


 同じ部屋スクリーンに住むとは限らないにしても、同じ建物内で生活する。それに当たりいつまでも互いにアンタ呼ばわりだと何かと不便になる。気に入らないとは言ったけど、本当はただ早いうちに名乗っておいた方がいいと思っただけだったりする


「そう。でも、アンタが名乗ってアタシが名乗らないわけにはいかないわね。いいわ! 耳をかっぽじってよーく聞きなさい! アタシの名前は津野田零つのだれいよ!」


 津野田零……名は体を表すとはコイツの為にある言葉なんだな。氏名と性格が完全に一致してる


「津野田零……なるほど、道理で素直じゃないわけだ」

「ちょっと! それどういう意味よ!」

「そのままの意味だ」

「喧嘩売ってるなら買うわよ?」

「喧嘩は売ってない。ただ、津野田さんの氏名が正確にそのまま出てるなと思っただけだ」


 素直じゃない性格に氏名が津野田零。これを解りやすく解説すると津野田零→つのだれい→『つのだれい』の『の』と『だ』を『ん』と『で』に変え『い』を取る→ツンデレ。我ながら分かりやすい解説だ


「はぁ?アタシの性格と氏名に何の関係が……あっ……」


 どうやら津野田さんは俺の考えていた事が解ったらしく、何かに気が付いた顔をから徐々に真っ赤になった。


「アンタねぇ! だぁ~れがツンデレですってぇ~!」


 俺は何も言ってないのに勝手に答えに辿り着いた挙句俺に掴みかかってきやがった


「俺は何も言ってねーだろ! つか、苦しい!」

「アンタが変な事言うから悪いんでしょ!」

「勝手に邪推したのは津野田さんだろ! 俺は悪くねぇ! つか! マジ苦しいから離せ!」


 津野田さんをツンデレだとは思った。でも、それを口に出して言ってはいない。口に出さずともある程度親しければ理解してもらえると言うのは傲慢だ。俺と津野田さんは今日あったばかりで親しいと言える間柄でもないんだけどな!それでも俺が『津野田零』という名前からツンデレに行きついたのをすぐに見破ったという事は彼女は俺と会うずっと前に名前関係で揶揄われたんだろう


「離してほしかったらアタシの事は零って呼ぶ事! いいわね! その代わり、アタシはアンタを恭って呼ぶから!」

「わ、解った! 解ったから離せ!」

「ふんっ! 解かればいいのよ!」


 やっとの思いで零から解放された俺。今日一日でコイツに何回掴まれたよ……全く、素直じゃない性格といい、すぐ掴んでくるところといい、典型的なツンデレキャラじゃねーか


「はぁ、はぁ、こ、これじゃ部屋に着く前に体力使いきっちまう……」

「恭が余計な事言うからでしょ!」


 この女ァ……マジで見捨てとけばよかった……


「わ、悪かった……」


 息を整え終わった俺は零を見捨てておけばよかったと後悔しはしたものの、今更見捨てるわけにもいかず、二人仲良く動かないエスカレーターを八階まで歩く事を選んでしまった。


「暗いわね」

「ああ、暗いだろ」

「今って夕方よね?」

「ああ、夕方だな」


 八階に辿り着いた俺と零はエスカレーターの時同様に二人仲良く目の前の現状を観察していた。探索する前にも思った事だが、営業していた時は人がいて電気も点いてた。それが空き店舗となった今じゃ人で賑わっていたシネマコンプレックスも薄気味悪い空間でしかない


「他の階も暗かったから何も言わないけど、元シネマコンプレックスが真っ暗いと気味が悪いわね」

「正確には薄暗いが正解なんだが、まぁそうだな。薄気味悪くはある」

「まぁいいわ。早く恭の部屋に行きましょう」

「だな。いつまでもここにいたって仕方ない」


 俺は最初と同様にスマホの明かりを点け、零を連れて十四番スクリーンの前に向かった。


「そうだ、部屋に入る前に言っとく事があるんだった」

「何よ?」

「ちゃんと靴脱いでから入れよ」


 本当は長ったらしく説明しようとも思った。しかし、零もこの場所が元デパートである事くらいは知っていたのでその辺はカット。


「どうしてそんな事言われなきゃいけないのか分からないけど、住む場所を提供してもらってる立場からすると逆らえないわ。いいわよ」

「分かってもらえて何よりだよ」


 零は靴を脱いで入れという俺の言葉に終始頭に?マークを浮かべていた。


「着いたわね。ここから靴を脱げばいいの?」

「いや、中へ入ってからで構わない」

「分かったわ」


 目的地である十四番スクリーンの前に到着したところで零から靴を脱ぐ場所の確認。俺は親父の残した張り紙を見るまではスクリーン内も土足OKだと油断して転んだ。そんな俺よりも零はしっかりしている


「まぁ、何だ……? 何もないところだが、中へどうぞ」

「お邪魔するわ」


 来た時同様に入口の扉を引き、零が中へ入った事を確認してから俺も中へ入り扉を閉める。


「ちょっと待ってろ。今電気点けるから」

「ええ」


 電気のスイッチは最初に来た時に確認済みだから探し当てるのに時間はそう掛からなかった。それにしても、部屋の広さもだけど、万が一ここの電球が切れた時はどうしたらいいんだよ……


「これで明るくなったな。さぁ、上がってくれ!」

「ええ、お邪魔するわ」

「どうぞ。後、靴は段差の前で脱いでくれ。それから、中へ入ったら適当なところに座ってくれて構わない。家具の類は置いてないから」

「分かったわ」


 玄関(?)で靴を脱ぎ、俺達はリビング(?)へ


「一応、ここがリビングって事になるんだけどよ……」

「何て言うか、広すぎるわ。何もないと尚更ね」

「やっぱそう思う?」

「ええ、こんな広い場所に一人暮らしだなんて贅沢にも程があるわよ」


 零の言葉で確信した! デパートの空き店舗で一人暮らしさせようって考えた親父が間違ってんだ! 俺は正しいんだ! かと言って俺が普通のアパートとかマンションで一人暮らししたらご近所付き合いとか面倒になってダレるんだけどな!


「俺も親父からここで一人暮らししろって言われた時に思った。それはそうと、住む場所は隣の十三番スクリーンでいいか?」


 一人暮らしする場所がおかしいという話は置いといてだ、俺は男、零は女で恋人でも何でもない。そんな男女が同じ空間で生活して間違いが起こらないとも限らない。零には早々に空いてる別の部屋へ移ってもらうとするか


「は? 何言ってるの?」


 間違いが起こらないようにと思い俺は零に隣の十三番スクリーンに移る事を提案した。が、しかし、零はコイツ何言ってんだ?と言わんばかりの視線を向けてきたのだ。え?俺がおかしいの?


「いや、付き合ってもない男女が広いとはいえ同じ部屋に住むのはマズいだろ?幸い部屋はたくさんあるから隣の部屋を提供してやるって言ってるんだけど?」

「はぁ?」


 部屋に引きこもっていた俺でも付き合ってすらいない男女が同じ空間にいたら間違いが起こってしまうんじゃないかって危機感くらい持つ。その上での気遣いなのだが、零はそんな俺の気遣いを全く理解してなかったようだ


「え? 俺がおかしいの?」

「アンタねぇ! アタシにだだっ広い部屋で一人で生活しろって言いたいの!? 自慢じゃなけどアタシ今は無一文なのよ!?」

「確かに自慢じゃねーな」

「でしょ? だから不本意ながらアタシもここに住む事にしたわ!」

「はぁ!?」


 この女は何を言ってるんだ?ここに住む?つまり、俺とルームシェアをするって事か!?


「何よ? 文句あるわけ?」


 文句ならアリアリだ。付き合ってもない男女が同じ部屋に住むとかアホじゃねーかと思う


「付き合ってもない男女が同じ部屋に住むとかあり得ねぇだろ!?」


 俺だって健全な男だ。女に対してそれなりの興味はある。


「恭に女の子を襲う度胸なんてないでしょ?」

「うぐっ! た、確かに……」


 零の言う通り俺には女を襲う度胸なんてない。


「じゃあいいでしょ? アタシもここに住むから!」

「勝手にしてくれ……」


 半ば強引に押し切られる形で零とのルームシェアが決定した。まさか一人暮らし初日に女の子とルームシェアをする事になるとは……


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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