飛鳥と子供達を遊ばせてる間、母親の一人との話をした。その話も終わり時間を確認すると時刻は現在十四時半。爺さんとの電話中に確認したのを最後に時刻を確認しておらず、気が付いたら後三十分で爺さんが来てしまう
「そろそろ子供達と飛鳥に声掛けて切り上げないとマズイよな……」
爺さんと会うだけなら俺と失業者達だけでもいい。むしろ飛鳥を始めとする子供達には退屈だろう。職場と住まいの説明を受けるだけなんだからな
「飛鳥はむしろここで子供達と遊んでくれてた方がいいか」
俺も人にどうこう言えるほど大人ではないが、スーパーの空き店舗の件もある。失業者達の再就職先の話がメインになるのは予想出来るけどその後の話もしなきゃならないから同席せざる得ない
「とりあえず飛鳥に子供達と母親達の面倒を頼んで爺さんを迎える準備でもするか」
爺さんが来る事は琴音達にも言ってない。何も知らない琴音達の前に見ず知らずの老人が現れたらきっと困惑するだろう
「頼むのはいいとして、この状態じゃあな……」
目の前にはゲームに夢中な子供達と飛鳥。その傍らで井戸端会議をしている母親達。とてもじゃないが、ものを頼める状況じゃない
「爺さんが来るまで後三十分もねーってのに……」
子供達と母親達の面倒を飛鳥に頼もうにも当の本人はゲームに夢中で話ができる状態じゃない。その上母親達は話し込んでいる。ん?ゲームに夢中?話し込んでいる?
「別に黙って抜け出してもよくね?」
ゲームに夢中の飛鳥と子供達。話し込んでいる母親達。俺がいなくなったところで何も困る事なんてないな。
その結論に至った俺の行動は早かった。文句言われるのを覚悟で三番スクリーンから抜け出し、走って十四番スクリーンへ向かった
「はぁ、はぁ、ま、マジで、た、体力、つ、つけないと、や、やばい……」
十四番スクリーン前で息切れ。今日二度目の後悔をした
「じ、爺さんが来るのを琴音達に急いで伝えなきゃな……」
息を整えながら住まいのドアを開け中へ
「何か騒がしい……それに、心なしか靴が多くなってるような……」
飛鳥達を遊びに連れ出した時はもう少し静かだったし靴もそんなに多くなかった。しかし、帰って来てみたらどうだ?出入口まで聞こえる笑い声、多くなっている靴。微かに臭うアルコール臭。明らかに変だ
「何か嫌な予感がする……」
背中を嫌な汗が伝う。それと同時に俺の本能が『今すぐここから逃げろ!』と警告を告げている
「き、気のせいであってくれよ……」
嫌な予感がしたものの、ここで逃げ出したら後が面倒だと思った俺はリビングへと向かった
リビングに入った途端に俺の嫌な予感はものの見事に的中。案の定地獄絵図が完成していてその中心にいる人物は……
「やっほー! お爺ちゃんじゃよ☆」
俺の爺さんだった。しかも、ちゃっかり俺の席に座ってやがる……
「来るの早くね? つか、何してんの?」
「何って酒盛りに決まっとるじゃろ。恭、お前、頭悪くなったか?」
酒盛りしてんのは見れば分かる
「そんなの見れば分かるわ! じゃなくって! 何でもう到着してんのかって聞いてんだよ! 予定じゃ十五時だろ!?」
俺がゲームコーナーで確認した時の時刻は十四時半。後三十分あった
「恭、時間を確認してみるのじゃ! 今何時じゃと思っとる!」
「何時って……」
爺さんに言われた通りスマホで時刻を確認する。俺が確認した時は十四時半だった。そこから時間が経って十五時だったら圧倒的に俺が悪い
「…………」
「…………」
時刻を確認した俺は言葉を失った。予定の時刻を過ぎてはいない。ただ……
「何で二十分前にいんだよ!!」
時刻は現在十四時四十分。爺さんが来ると言っていた時刻よりも二十分前
「そりゃ恭が将来結婚する女を見に来たからに決まっておろう! 指定した時間に訪ねたら関係ない人間には席を外させるじゃろ?」
「ったりめーだ! 今回は専属のトラックドライバー探しなんだから旦那達には関係ある話でも子供と女にゃ関係ねーからな! 後! ここに住んでる住人にも! つか! 俺はまだ結婚とか考えてねーから!」
親父はともかく、爺さんのこういう突拍子のない行動には困らされる
「え? 考えてないの? せっかく許嫁とか見合いとか用意したのに?」
「俺はどこから突っ込めばいいんだよ……」
爺さんの用意周到さには怒りを通り越して呆れてしまう。俺は許嫁と結婚する気も見合いをするつもりも全くないんですけど……つか、そんな事したら俺はどんな目に遭うか……
「突っ込む? そりゃ、お前、突っ込むって言ったら場所は一つしかないじゃろうて」
「あ、うん。それ以上言わなくていい。って言うか、俺が拾ったホームレス集団どうすんだよ? 専属として雇ったのか? ついでに、連中の新しい住まいについても聞いておきたい」
爺さんにこれ以上喋られたら下方向に話がいきそうだと感じた俺は話をすり替える事に
「あやつらは全員儂のところで引き取る。住む場所もちゃんと用意してあるわい。全く、少しは祖父の下ネタに付き合ってもよかろうて」
「その下ネタがガチのやつだから話をすり替えたんだよ! 言わせんな!」
爺さんの下ネタはマジでシャレにならない。まだ胸は何カップが好きだ?とかならいい。が、このジジイの口から出る下ネタは……これ以上は言わないでおこう。俺のイメージに関わる
「詰まんね」
「詰まんねー言うな!」
このジジイ……今は男達もいるからいいとして、その男達がいなくなったらここには多数の女性と俺だけになるのを忘れてないか?
「全く……恭はノリが悪いのう」
「ノリが悪いも言うな」
下ネタにノリとか必要なのか? ん?
「お前のノリが悪いのはどうでもいいとしてじゃ。ここに住んでいるっていう娘っ子達はまだ帰らんのか?」
娘っ子達というのは零達の事か?
「娘っ子達ってのは零達の事を言ってんのか?それだったら俺は何時に帰るかなんて知らねーぞ」
「せっかく零ちゃん達に会えると思って期待しとったのに……まだ帰らぬか……」
「今日は平日で学校があんだから当たり前だろ。それより、そろそろ聞こうと思ってた事があんだけどよ」
「何じゃ? 儂のスリーサイズなら教えんぞ」
「んなモン俺だって知りたかねーよ! 何が悲しくてジジイのスリーサイズなんて聞かなきゃなんねーんだよ!! じゃなくて、入ってくる時に靴が増えてたから爺さんの他に誰か来てんのか聞きたかっただけだっつーの!」
全く、何で俺がジジイのスリーサイズなんて聞かなきゃならんのやら……オエッ、想像したら吐き気が……
「冗談を真に受けるでない」
「シャレにならん冗談を言わないでくれ」
「それはそれとしてじゃ。儂の他に誰か来ているかじゃが、儂の専属使用人達が来ておる」
「ふーん、専属の使用人がねぇ……はい?」
入った時に靴が増えてるとは思った。まさか専属の使用人達が来ているとは思わなかったぞ……
「儂の孫は耳まで遠くなったか? 専属使用人達が来ている。そう言ったのじゃ」
「いや、それは聞いた。何で専属の使用人達を連れてきたんだよ?」
「何でって、今日はここに泊まるからに決まっておろう」
「初耳なんだけど」
「今言ったじゃろ。買い取ったはいいが、使い道のない空き店舗の話もあるしのぅ」
再就職先の事で頭がいっぱいになって忘れていたが空き店舗の話もあった。
「そういえばそんな話もあったな。再就職先の話で忘れてたわ」
「儂的にはむしろそっちがメインじゃったんだが……して恭よ」
「何だよ?」
「儂がいきなり泊まるって言った事に関して突っ込みはまだか?」
突っ込み待ちすんなよ……
「部屋は余ってるから別に泊まっても構わない」
「じゃろうな。それにしても若い娘っ子はまだかのぅ?」
この爺さん、真面目な話が終わったら若い女の話かよ……婆さんに殴られっぞ?
「若い娘だったらどんな奴でもいいってなら今すぐ連れてきてやるよ。ついでに、人妻もな」
ゲームコーナーで遊んでる飛鳥は女。子供達の中にも女児や女子は混じってて母親達は言うまでもなく女。嘘は吐いてない
「いるんじゃったら早よ連れてこんかい! バカタレ!!」
何故キレる?
「へいへい、連れてきてやるから大人しく待ってろ」
爺さんに理不尽を感じながら俺は住まいを出た。仕事ではちゃんとしているんだろうが、若い女……いや、女の事となると理不尽になるから始末に負えない
住まいを出たところで俺はふと思い出した
「そういえば爺さんもホームレス男連中も酔っ払ってたみたいだが……新しい仕事の内容ちゃんと説明したのか?」
表にいた飛鳥の家族を含めたホームレス連中は同じ会社の社員。前の会社ではトラックのドライバーとして働いていたのは間違いないだろう。問題はそんな連中を大量に雇って爺さんは何をさせようとしてるのかだ
「爺さんの事だから無茶な事はさせないと思うが……後でそれとなく聞いておくか」
爺さんがトラックのドライバーを大量に雇って何をするつもりかは理解不能だ。そもそも俺があの爺さんのする事を理解出来た時点でアウトだと思う
「それよりも早く若い女と人妻を連れて来なきゃな」
俺の爺さんは失業者を可能な限り何とかしようとする器のデカい人だ。そんな器のデカい人でも急かす事がある。言わずもがな女の事だ。それを知っている俺は三番スクリーンへ急いだ
三番スクリーンへ入った俺は我が目を疑った
「よっしゃ! 勝ちィ!!」
格ゲーでCPUに勝ちガッツポーズをしてるのは飛鳥ではなく、俺に話があると言ってきた母親の一人。まぁ、日頃の鬱憤が溜まっていたと言えばああなっても仕方ない
「専業主婦でもストレスを溜める事だってある。きっとあの人はストレスを溜め過ぎたんだ。次行くか」
俺は自分に『ストレスを溜め過ぎた結果、ああなった』と自分に言い聞かせ飛鳥を探す
「オラオラ! 退け退け! チンタラ走ってんじゃねーよ! ヴァ―カ!!」
レースゲームの機体にて、またも豹変した母親発見。どんな生活を送ったらこんな風になるんだ?
「今度はスピード狂か……」
俺は先程と同様に見なかった事にして飛鳥を探す。その後も狂った母親は見つけたものの、飛鳥や子供達の姿を見つける事は出来なかった。
「後はここしかないか……」
一通りゲームが置いてある場所は探し尽くした俺がやって来たのは格ゲーで狂っていた母親と話した休憩室の前
「ここにいないとなると他に宛てなんてねーぞ……」
ここにいてくれという僅かな希望を胸に休憩室のドアを開けた。すると……
「あっ、恭クン!」
中心に座る飛鳥と飛鳥の周りで寝ている子供達の姿があった
「よ、よぉ……」
「どこ行ってたの?」
「爺さんを迎える準備で少し出てた」
実際、爺さんを迎える準備に外へと出たんだ。嘘は言ってない
「そっか。で、準備終わったの?」
「いや、準備する前に来てた」
来るって言ってた時刻は十五時なのに準備のために住まいへ行くといたんだからビックリだ
「ふーん。ところで、何で私達のところへ?」
「爺さんが飛鳥達とその母親達を呼んでたから呼びに来た」
「私達を? 何で?」
「さぁな。とりあえず一緒に来てくれると助かる」
「分かった。私は子供達とお母さん達に声掛けるから先に出てて」
「了解」
飛鳥に子供達と母親達を任せ、俺は外へ出た
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