飛鳥の飯を取りに行ってから部屋に戻った俺達。腹が減っては戦は出来ないという事もあり、飛鳥には飯を食わせた。俺?俺は適当にパンがあったからそれで済ませた
「ふぃ~、食べた食べた~」
「そうかい。んじゃ、洗濯ものをランドリーに持ってくか」
「え? ランドリーなんてあるの?」
「ああ。って言うか、洋服部屋と大浴場があるんだからランドリーくらいあるって」
自分で言っといてなんだけど、ランドリーと大浴場って何の因果関係もないよな
「そ、そうなんだ……」
「ああ。本当は帰り道の途中にあったから寄ってもよかったんだけどよ、飛鳥が腹空かせてたらマズイと思ってあえてスルーした」
「そ、そっか……そんなに私のお腹の音うるさかったかな?」
腹の音? 飛鳥は何を言ってるんだ?
「いや? そんな音は聞こえなかったぞ? ただ、俺が飛鳥と同じ状況で拾われたら洗濯より飯を優先させてほしいと思ったからそうしただけで」
「そ、そう……聞こえてなかったらいいんだ」
腹の音が仮に聞こえたとしても俺は言わない。言ったらここにいる女性陣にドヤされそうだし
「っと、ランドリーの前に飛鳥のスリッパを出さなきゃな」
風呂に行く時はとりあえず零のスリッパを仮で使わせてもらった。その零だっていつ帰ってくるか分からない。それにこれは俺の予想だが飛鳥はここに住むと思う
「さっきはルームメイトの人のやつを借りてたもんね。さすがにその人のを借りっぱなしっていうわけにもいかないよね」
「事情が事情だから文句どころか飛鳥の家族を何のケアもせずに放りだした会社に対して烈火のごとく怒り狂うと思うぞ」
零の事だから文句どころか飛鳥の家族を放り出した会社に対して怒り心頭になるだろう。そんな姿が目に浮かぶ
「そうなんだ……でも、私その人と会った事すらないのに人の為に怒れるだなんていい人だね」
いい人か……零は多分、状況や境遇が違ってもただ一点。“理不尽に見捨てられた”という理由があるだけで初対面どころか見ず知らずの人の為に怒る
「いい人かどうかは別としてだ。状況や境遇が違ってもソイツはとある理由から飛鳥や飛鳥の家族の為に怒る。俺にはそんな気がする」
「そっか。それより早くランドリーに行こうよ」
「だな。話してると込み合う」
飛鳥のスリッパを用意が出来たところで俺達は部屋を出てランドリーへ。
ランドリーで飛鳥の服を洗濯し終えた後、部屋に戻ろうとしたところでホームレス連中を連れた琴音&母ーズと鉢合わせ、一旦住まいへと向かった。そして、ホームレス連中の諸々を用意した後でソイツ等を風呂場に叩き込んだ後の流れは飛鳥の時と同様に俺が住んでいる十四番スクリーンへご招待
風呂・飯・洗濯が済み、スマホで時刻を確認すると時刻は十三時。爺さんがここに来るまで後二時間となっていた。そんな時だった……
「ひまー!!」
ホームレス連中の中にいた一人の男児が騒ぎ出した。部屋に入れた時は室内を走り回っていたが、さすがにそれも飽きたらしい
「我慢しなさい! とりあえず新しく住む場所とお父さんのお仕事が決まるまでの辛抱だから!」
暇だと騒ぎ立てる男児を叱りつける母親。飛鳥には父親の新たな職に宛てがあるって言ったが、他の連中には何も言ってなかったな
「だってー!! ひまなんだもん!」
ただ待っているってのは子供にとってはさぞ退屈だ。俺も経験があるからその気持ちは痛いほど解る。で、母親の方も何とかしてやりたいと思っていてもそれが出来ないから歯がゆい思いをするってのも理解出来るぞ
「あたしもひま!」
「ぼくも!」
「わたしも!」
「おれも!」
男児が駄々を捏ねた事をキッカケに他の子も騒ぎ出す。騒いでないのは中学生や高校生と一部小学生だけだったが、おそらく気持ちは同じだろうな。暇だと騒ぐ子供を宥める母親は大変だ
「恭クン……」
子供達が騒ぎ立て、それを宥める母親の様子を飛鳥は不安を感じたようだ。琴音達もオロオロしている。父親も琴音達と同じだ
「はいはい。分かってるよ。子供達を大人しくさせればいいんだろ?」
「そうだけど……」
「俺も暇してたところだ。ここにいる子供達纏めてゲーセンに連れてってやるよ」
爺さんが来るまで後二時間。それまで俺も暇だからちょうどいい
「そ、それは嬉しいけど……恭クン」
「何だ?」
「ここにいる子供達を遊ばせてあげられるほどお金あるの?」
飛鳥の不安は尤もだ。バイトをしてない高校生である俺の懐じゃ子供達を遊ばせる金なんてない
「子供達全員を遊ばせられるほど俺は金を持ってない」
「え!? それじゃあ、どうするの?」
「タダで遊べるゲーセンがあるんだよ」
「た、タダで遊べるゲーセン!?」
飛鳥は今日何度目か分からない驚嘆の声を上げた
「ああ。タダで遊べるゲーセンだ。飛鳥も行くか? プリクラもあるぞ?」
女子である飛鳥を釣るエサがプリクラってのは些か単調過ぎるか?
「ぷ、プリクラ!?」
「あ、ああ……その他には音ゲーやレースゲーとかもあるぞ?」
「い、行く!」
「そ、そうか、じゃあ、家族に一声掛けて来い。何なら連れてきてくれても構わない」
「わ、分かった! すぐに言ってくるから待ってて!」
「あ、ああ」
そこからの飛鳥の行動は早かった。自分の家族に声を掛けた後、他の子とその家族にも声を掛けて回った。それが済んだ頃、俺の周りには……
「「「「ゲーセン!!」」」」
子供達が俺の足に纏わり付いていた。
「はいはい、ちゃんと連れてってやるから」
今までの生活でゲーセンに行った事のないであろう子供達は目をキラキラさせ、中・高生組と母親達は訝し気な目で俺を見ていた。子供達はともかく、中・高生と母親達には目にものを見せてやるとしよう
「恭クン! 早く行こうよ!」
目を輝かせていたのは子供達だけではなく、飛鳥もだった
「はいはい。んじゃ出発するからちゃんと付いて来いよ?」
「「「「「分かった!!」」」」」
子供達と飛鳥は元気よく返事をし、中・高生と母親達は相変わらず。テンションの差が激しい連中を連れゲームコーナーがある三番スクリーンの前へ
俺は学習する人間だ。三番スクリーンの前へ来た途端に飛鳥から向けられる視線。その視線が何を言いたいのかはすぐに解かった
「言っとくけどここがタダで遊べるゲーセンな」
「私まだ何も言ってないよ?」
言ってる! 思いっきり言ってるよ! 『本当にここがタダで遊べるゲーセンなのか?』ってな!
「口じゃ何も言ってなくっても疑いの目を向けられたら誰だって言わんとしている事くらい解るっつーの!」
「それって私の事を理解したと取っていいのかな?」
「そう取ってもらって構わない。とりあえず中へ入れば解る」
飛鳥の他に文句を言いたげなのは何人かいた。そんな連中を黙らせるために扉を開け飛鳥達を中へ入れる
「恭クン、ここって……」
「土足OKだからスリッパあるいは靴のままでいい」
「分かった。そういう事なら遠慮なく先へ進ませてもらうよ」
「ああ」
飛鳥は一足先に先へ進む。それに続く子供達。最後に中・高生と母親達と俺
「「「「…………」」」」
最初に進んだ飛鳥、それに続いた子供達、最後に進んだ中・高生と母親達は皆一様に固まっていた。入ってみると目の前に数々のゲーム機が並んでいるとは予想出来ないから当たり前か
「どうした? そんなところに突っ立って。望み通りタダで遊べるゲーセンだぞ? 嬉しくないのか?」
俺は琴音の入居が決まった時に来ているから今更。飛鳥達は今日が初めてだから仕方ないか
「いやいや! 何!? このゲーム機の数!? どれもこれも家庭用ゲーム機じゃないよね!?」
「ああ。ゲーセンに置いてあるものばかりだな」
「服といい、お風呂といい恭クンってお金持ちなの!?」
「案内した時にも言っただろ? 俺じゃなくて爺さんが金持ちなんだって。風呂はともかく、服やここにあるゲームは爺さんの友達が面白そうってだけの理由でくれたんだよ」
もっと言うと零と闇華が持ってるスマホも爺さんの友達が面白そうだって理由だけでくれたから金持ちの道楽ってのは理解出来ない
「きょ、恭クンのお爺さんって一体……」
「俺に聞くな。金持ちと年寄りの道楽なんて俺には理解不能だ」
今のところ俺に迷惑が掛かってないからケチの付けようがない。つか、あの爺さんがする事で俺が本気で迷惑だと思う事なんてほとんどない
「そ、そうなんだ……で? ここのゲームって本当にタダで遊べるの?」
「ああ。ゲームを始める時にスタートボタンを押すだけで始められるからな。金は一切掛からないぞ。試しにどれかプレイしてみろ」
「う、うん……」
遠慮がちにレースゲームの機体がある方へ向かい、これまた遠慮がちにスタートボタンを押す飛鳥。それをハラハラしながら見つめる子供達と母親達。そして……
「恭クン! 恭クン! 本当にタダで遊べるよ!」
座席に座っている飛鳥が手を振って来た。それをキッカケに子供達は各ゲームの元へ散り、自分の遊びたいゲームを見つけて遊び始めたのだった
「あ、あの……灰賀さんでよろしかったでしょうか?」
飛鳥や子供達が遊び始め、それをぼんやりと眺めていた時、一人の母親が俺の元へやって来た
「はい、そうですけど?」
「少しよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。ここじゃなんですし休憩スペースにでも行きましょうか?お子さんの手前外へ出るわけにはいかないでしょうし」
「はい」
さすがに今いる場所では満足に会話が出来ない。俺は母親と共にA列の十七番から二十五番だった場所を少し歩いたところにある部屋へ
「ここなら多少の音は仕方ありませんが、普通に話す分には問題ないでしょう。それで? 話があるんですよね?」
ゲーセンもだが、音がうるさいのは仕方ない。この部屋は外からの音が全く聞こえないというわけではないにしろ会話する分には申し分ない静けさだ
「ええ。まずは私共だけではないにしろ勝手に住み着いてしまって申し訳ありませんでした」
俺に勢いよく頭を下げる母親。飛鳥から聞いて事情を知っているから怒る気はしない
「別に構いませんよ。貴女達だって会社から見捨てられて住む場所に困っていたんだ。不法侵入と言ってしまえばそれまでですが、俺は何も気にしてませんから」
むしろこの人達が住み着いてくれたおかげで俺はトラックの運転免許を持っていてホームレスになった人間なんてピンポイントな探し物をしなくて済んだ。段ボールハウスの数にはドン引きしたが、感謝している
「で、ですが……」
「いいんですよ。貴女達が住み着いていてくれたおかげで俺は妙な探し物をしなくて済んだんですから」
「みょ、妙な探し物ですか?」
「ええ。俺からしてみれば妙な探し物ですが、貴女のご主人からすると再就職先って言った方が正しいかもしれません」
「さ、再就職先!?」
この母親も飛鳥と同じ反応を示した。気持ちは解からんでもない
「ええ。再就職先どころか住む場所も決まっていると思いますよ?」
爺さんの事だから会ってすぐに採用するだろうし、住む場所も確保していると思う。我が祖父ながら破天荒な人だ
「え!? 住む場所も決まっているんですか!?」
「確証はありませんが……」
住む場所がない人達にとっては無責任な話だが、爺さんが住む場所を確保していると思うだけで確証はない。用意してないならしてないで家に住まわせればいい話だから俺的には悲観するものでもなんでもない
「か、確証はないって……それじゃあ、職が決まっても意味ないじゃないですか!」
母親の言う通り住む場所がないんじゃ職が決まっても意味はない
「住む場所が用意されてなかったら貴女達は家に住むしかありません」
「はい?」
え? 何? そのポカンとした顔? 琴音達から聞いてないのか?
「もしかしてここに案内してきた人から聞いてませんでした?」
「え、ええ、私が聞かされたのは灰賀さんに拾って頂いて職に就く事が出来たって事で住まいの事は何も……」
あるぇ~? いつの間にか俺が職の世話した事になってるぅ~? おっかしいぞぉ~?
「それを言った人が誰かは知りませんが、俺は住む場所を提供しただけで職の世話なんてしてないんですけど……」
「え?」
「え?」
この後、俺と母親の間を沈黙が支配した。
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