親父との電話が終わり、部屋に戻った俺の目に飛び込んできたのは意外な光景だった
「お、お腹空いた……」
「や、闇華! しっかりしなさい!」
空腹によりグッタリしている闇華さんとそれ膝枕する零。そういえば風呂に入ってから飯を食わせるって言ったの忘れてた
「…………どうしたらいいんだよ」
親父に電話して家具と食材がもうすぐ届くと知らせたいのだが、空腹でグッタリしている闇華さんとそれを膝枕する零に声を掛けづらい俺はただ黙って家具と食材が届くのを待つか、闇華さんと零に一応、知らせるかを悩む。
「れ、零さん……わ、私はも、もう、ダメです……先に逝きます……」
「だ、ダメよ! 闇華! 生きなさい! お願いよ! 生きて!」
「零さん、私は貴女と過ごした日々、楽しかったです。これでもう思い残すことはありません……」
「な、何言ってるのよ! 闇華!」
「さよならです零さん」
「や、闇華ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
家具と食材が届く話をすべきか否かを悩んでいる俺を余所に勝手に始まった茶番劇は最後、零がグッタリした闇華を抱きしめ、叫ぶという形で幕を下ろした。
「闇華さんはともかく、零の機嫌が治ったようで何よりだ」
勝手に始まった茶番劇に続きがあるのなら見てみたいような気もしなくはなかったのだが、家具と食材が届く話はもちろん、電話に関しての話もあるので放置するというわけにもいかない
「零、闇華さん、ただいま」
「「──────!?」」
何だ? その幽霊でも見たような顔は?
「声かけただけなのに幽霊でも見たような顔されんのは非常に不愉快なんだけど?」
せっかく人が朗報を持ってきたと言うのに……
「音もなくいきなり現れるからでしょ!!」
「そうですよ! 恭君!」
何?その俺が悪いみたいな感じ?
「何?俺が悪いの?」
「うん!」
「その通りです!」
零さん? 闇華さん? 二人して俺の事イジメて楽しいですか?俺泣いちゃいますよ?
「お、俺が悪かった。そんな事より、家具と食材がこれから届くらしいぞ」
「「本当!?」」
「あ、ああ、さっき電話したらそう言ってた」
「これで外食生活ともおさらば出来るのね!」
「よ、ようやくご飯にありつけるんですね!」
零と闇華さんの反応はそれぞれ違ってはいたものの喜んでいるのには変わりなく、俺も外食生活とおさらば出来る事に内心かなり喜んだ
「家具と食材のオマケとして携帯会社会長の名刺も一緒に届くらしい。それに伴ってだ。二人の写真を撮らせてくれないか?」
「「写真?」」
「ああ、何でも携帯を買う時に必要らしいんだ」
携帯を買う時に必要だというのは多分、嘘ではない。俺が実際に聞いた話では零と闇華さんの写真を親父に送れば爺さんに話を付けておいてくれるものでその写真の使用用途は俺も把握してない
「へぇ~、そんな事言って本当はアンタがオカズにするんじゃないの?」
疑り深い零は俺がオカズに使うと思っているようだが、闇華さんの方は……
「きょ、恭君が言ってくれればいつでも抱かせてあげますのに……」
頬を染め、何やらとんでもない事を言っている
「二人とも勘違いし過ぎだっつーの! 本当に携帯を買う時に必要なんだよ! 大体! 俺は恋人でもない女を抱く趣味も同じ部屋に住んでる女をオカズにする趣味もねぇよ!」
俺だって男だ。零と闇華さんの身体に興味がないわけじゃない。それに過ちを犯さないっていう自信もない。が! 二人が想像してる事をするつもりは毛頭ない! 出来ればしたいけど!!
「ふぅ~ん……」
「そ、そんな……私、魅力ないですか?」
ジト目の零と目に涙を貯めている闇華さん。二人の反応は違えど俺の事をどんな風に見ているのかはよーく分かった
「だあぁぁぁぁ! もう! 収集つかねー!! とにかく! 二人とも携帯がないと困るだろ!?」
収拾がつかなくなった俺は携帯の有無を確認する事でその収集を図る。このまま否定し続けていても零のジト目からも闇華さんの妄想からも逃れられる気がしない
「当たり前よ! 電話もメールも出来ないんじゃ不便な事この上ないわ!」
「そうですね。連絡を取る手段がないと言うのは非常に不便ですね」
零からは拾った時に携帯は持っているけど料金を支払っていないから使えないという話は聞いていた。闇華さんの方は携帯の話が出てこなかったから持っているかどうかや使えるかどうかは全く聞いてないが、持っていても使えないだろう事は容易に予想出来る
「だろ? それが今なら二人の写真だけで簡単に手に入るんだ! な? 写真を撮らせてくれないか?」
客観的に見たら俺は変質者か女好きの変態だ。しかし、携帯がないと不便だというのもまた事実。ここは変質者呼ばわりされる覚悟で二人の写真を撮らせてもらおう
「納得いかないけど、携帯がないのは不便よね……いいわ! 写真を撮らせてあげようじゃないの!」
「私も零さんに同じです。恭君が私の写真を使ってナニをするかは知りませんが携帯がないのは不便ですからね。写真だけで手に入るなら安いものです!」
零はすんなり納得したみたいでよかったと素直に喜べる。一方の闇華さんは未だに勘違いが抜けていないようで素直に喜べない。零は言えば分かってくれる奴で闇華さんは……うん、ノーコメントで
「それじゃあ、恭! 少しの間後ろを向いて! 準備するから!」
「は?普通に写真撮るだけなんだから準備なんて要らないだろ?」
「いいから! さっさと向けー!」
「はいぃぃぃぃ!」
普通に写真を撮るだけなんだから準備は特に必要ないのだが、何故か俺は零の迫力に負け、後ろを向くハメに
「ねえ闇華、本当にやるの?」
「当たり前じゃないですか! 恭君の為です!」
後ろを向いてすぐ零と闇華さんの会話が背中越しに聞こえてきたが、何でだろう?嫌な予感しかしない
「で、でも、は、恥ずかしいわ……」
「恥ずかしくてもやるんです! これは私達の為であり恭君の為です!」
先ほどよりも嫌な予感が高まった。マジで二人とも何やってんの?
「きょ、恭の為……し、仕方ないわね! やってやるわよ!」
俺の為に何をするのか知らんけど、恥ずかしい事ならやらんでいいぞ
「その意気です! 零さん!」
闇華さん、零に変な事を教えないでくれない?
「で?最初はどうするの?」
「まずは、ここをこうして……」
こうして闇華さんプロデュースで何かが始まったのだが、何かが擦れる音とかが全く聞こえなかった俺は後ろで何が起こっているか全く分からなかった
五分後──────。
「恭! 終わったわよ!」
「もう振り向いてもらっても大丈夫ですよ? 恭君」
零と闇華さんから振り向いてもいいとお達しが出た
「やっと終わったか。全く、写真撮るだけなんだから準備なんて必要な────────」
二人の方へ振り向いた俺は言葉を失った
「どうですか? 恭君?」
「あ、あんまり見ないでよ!」
振り向いた先にはガウンをはだけさせ、胸元をこれでもかというくらいに協調させた零と闇華さんの姿があった
「何してんの!?」
いきなり胸元を強調するような恰好をしてる二人に驚くしか出来ない俺。マジで何してんの!?
「きょ、恭がアタシ達の写真が欲しいって言うからサービスしてあげようと思ったのよ! 本当はすっごく恥ずかしいだからね! 感謝しなさい!」
「ふふっ、これで恭君は夜のオカズに困りませんね」
闇華さんは駅で会った時からぶっ壊れてたからいいとしてだ! 零! お前はぶっ壊れた闇華さんを止めるべきだろ!? 一緒になって何してんの!?
「サービスもオカズも要らねぇんだけど!? っつーか! 人の話聞いてたか!? 普通の格好でいいんだよ! 逆にこんな姿の写真なんて後が恐ろしすぎて送れねーよ!」
後が恐ろしいというのは言うまでもなく親父の反応だ。零と闇華さんのはだけ姿の写真なんて送った日にゃなんて言われたものか……考えただけで恐ろしい
「え? でも、恭はアタシ達の写真が欲しいんでしょ? オカズにしたいんでしょ?」
「そうですよ! 恭君は私達の写真であんな事やこんな事、そんな事をする妄想をするから写真を撮らせてほしいって事ですよね?携帯の為っていうのは口実ですよね?」
あ、うん、これ完全に俺の説明不足のせいだわ。零と闇華さんが気にすると思って余計な気を使った俺が悪いわ
「ちっげーよ! 零と闇華さんの写真を親父に送ったら爺さんに話を付けておいてくれるから必要なんだよ! 別に俺が妄想に使うから写真が必要だってわけじゃねーから!」
こんな事なら親父に零と闇華さんの写真が必要な理由くらい聞いておくんだったと心の底から後悔する俺
「「なんだ……」」
零と闇華さんは写真の使い道を聞いて露骨にガッカリしているに見えるのは気のせいだろうか?
「なんだ……じゃねーよ! 大体な! 同じ部屋に住んでる俺は写真なんて取るよりも夜這い仕掛けた方が早いだろ! ったく、二人とも可愛いんだからアホな事してんなよ!」
言動はともかく、零も闇華さんも可愛い部類には入る。零は素直じゃないし、闇華さんは危ない発言が多いけどな
「「か、可愛い……」」
二人は可愛いと言われて照れたのか湯気が出る程真っ赤になった
五分後、元の格好に戻った零と闇華さんを写真に撮り氏名と一緒に親父へ送った。それから一分と掛からず親父から『恭のタイプがどっちかは後で聞くとしてだ、今すぐに着替えて一階に行け』とメールが来たきたので俺達はすぐに着替えて一階の玄関へ
「一階に来たはいいが……ここに本当に来るのかよ?」
「ホントよね。人が来る気配が全くしないわ」
「と、とりあえず待ちましょう?恭君のお父さんの話じゃ家具はこれから届くらしいんですから」
親父に言われた通り一階に来たものの、誰かがこちらに向かっている様子もなければそんな予感もしない。そんな時だった
「作業服着た集団がこっちに向かって歩いてきてるわね」
「ああ」
「あの人達が家具と食材を持って来てくれた人達なんでしょうか?」
玄関で待っていた俺達が見たのはこちらに向かって歩いてきている作業服団体
「とりあえずドアの鍵だけ開けとくか」
ドアの鍵を開け、作業服団体の受け入れ準備を終えた俺はとりあえず団体が着くのを待った。その後、どうしても待ちきれなくなった俺は零と闇華さんの二人を残し作業服の団体に話を聞きに行ったところ、この団体は爺さんが寄越したもので家具はもちろん、俺達の生活に必要なもの一式を持ってきたらしい。ついでにインターネット等の生活に必要なものを使えるようにしてこいと言われて来た事が判明した
そんなこんなで各種点検や家具の搬入があれよあれよと終わり部屋に戻って来た俺達はというと
「とりあえず飯の前に間食だな」
親父にメールしたのを最後にスマホを見てなかった俺が時間を確認する為にスマホを開くと時刻は十五時を回っていた。多分、家具の搬入や各種点検に時間が取られたんだとは思う。それでも腹は減る
「そうね。さすがにこのまま夜まで待つのはキツイわね」
「わ、私はもうお腹ペコペコです……」
「満場一致で間食が決まったな」
少し待てば飯の時間になるのだが、我慢できず、間食を取る事にした
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