高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

俺はいつから分け隔てなく人を愛せる人間になったんだ?

公開日時: 2021年2月9日(火) 23:28
文字数:4,209

 神矢想花をお袋に任せ、ベッドへダイブした俺はいつの間にか寝てしまったらしく、気が付いたら外も部屋の中も真っ暗。さすがに腹が減ったので書置きを残し、スマホと財布、カードキーを持って部屋を出た。気付いた時に身体の節々に痛みを感じたのは出かけた時の恰好で寝たからで筋肉痛ではない事を祈りたい。んで、現在、ここに至るまでの経緯を思い出していたというわけだ。浜辺に来たのは邪魔が入らないと思ったからだと言っておこう


「零達には後で話すって言っといて俺が気が付いたら全員寝てんだもんなぁ……」


 俺が気が付いた時、部屋も外も真っ暗。スマホで時間を確認してみると午前三時と表示されており、部屋が暗い理由は分かった。午前三時じゃみんな寝てて当たり前だ。起きているとしたら夜勤の人間とニートゲーマーくらいだ


『午前三時じゃ大抵の人は寝てるよ~。きょうと真央ちゃんはいろいろと疲れてただろうから仕方ないけど~』


 俺と真央限定で言えば本当にいろいろあった。一日自由だって言われてやっと肩の荷が下りたと思った矢先、真央が神矢想花に身体を乗っ取られ、俺はそれをどうにかしようと奮闘。本当にとんでもない一日だった。それよりも気になった事が一つある


「真央が初めて家に来た時みたいに少しネットで検索かけて原因が見つかるとかならまだしも、今回は全くの原因不明。神矢想花の男嫌いな理由は何となく分かったけどよ、真央を乗っ取った目的や灰屋真央と名乗った理由は分からず終い。オマケに俺が寝た後、どうなったかすら分からねぇままと分からない事だらけだ」


 俺は神矢想花が何をしようと危害さえ加えるような真似をしなければそれでいい。口では真央の身体を乗っ取った理由や灰賀真央って名乗った理由を知りたい的な事を言ったが、内心じゃ別に知りたくもないと思っている。知りたいとすればお袋がどうやってヒス神矢を言いくるめたかくらいだ


『それはお母さんが話すよりも本人に聞くしかないんじゃない?きょうがどうしても知りたいって言うならの話だけど~』

「別にどうしても知りたいってわけじゃないから遠慮しとく」


 神矢想花と話していると精神がゴリゴリ削れて疲れるし


『そう~?』

「ああ。それより、お袋はどうやって神矢想花を真央の身体から追い出したんだよ?」


 相手が男の俺だったせいかお袋に任せた時点ではかなりヒステリックだったと思う。そんな彼女をお袋はどうやって……


『追い出す……というか、憑く人を変えたというか……と、とりあえず今後想花ちゃんはよっぽどの事がない限り真央ちゃんに危害を加える事はしないってお母さんと約束してくれたから大丈夫だよ~』


 俺としては面倒だからよっぽどの事があっても真央に危害を加えないでほしいところなのだが、お袋は聞き捨てならない事を言ったのは気のせいか?


「真央に危害を加えないのならいいんだけどよ、お袋」

『ん~?何~?』

「さっき憑く人を変えたって言わなかったか?」

『うん、言った~』

「え?神矢想花って真央にとり憑いてたんか?」

『そだよ~、あの時は身体を乗っ取ったって表現が正しかったから言わなかったけど、正確にはとり憑いてたって言い方が正しいの~。っと、その話は置いといて、想花ちゃんなんだけど、あの廃墟に帰ったところで居場所なんてないって言ってね?でも、あのまま真央ちゃんに憑いたままだと男嫌いが治りそうになかったからさ~、だから─────』

「それ以上言わなくていい。つか、言うな」


 嫌な予感しかしない俺はお袋の言葉を遮り、その先を言うのを未然に防ごうと─────


『え~! 何で~! 別にいいでしょ~?想花ちゃんもきょうに憑く事になったんだから~』


 出来なかった。ええ、分かってましたとも。曾婆さんがいる廃墟に居場所がないってのは初めて聞いたし真央に憑いたままだと男嫌いが治らないままだなんてのは知らん!本人の気持ち次第だしな。神矢想花と直接話をしたお袋が真央よりも俺の側にいた方がいいと判断したとしても咎めはしない。本人の承諾も得ないで勝手に決めるのはどうかと思うけどな


「言わなくていいって言ったんだが……。っていうか、あの男嫌いがよく承諾したな」


 筋金入りの男嫌いである神矢想花が俺にとり憑くだなんて天変地異の前触れか?


『うん。とり憑く前にきょうなら男嫌いの想花ちゃんでも愛してくれるし今までの男性ひとと違ってめんどくさがって見捨てるだなんてしないよ~?って言ったら……』

「言ったら?」

『涙を流しながら本当に見捨てない?私を一人にしない?って聞いてきた~』

「ほう。それでお袋は何て答えたんだよ?」

『時と場合によっては突き放すと思うけど基本的にきょうは困ってる人を見捨てないよ~って答えた~』


 お袋は柔和な笑みを浮かべながら答えた。この母親は人が寝ているのをいい事に随分とない事を……。


「お母様?どこをどうやったら俺が神矢想花を愛する話になるんでしょうか?」

『ん~っと、初対面で見ず知らずの零ちゃん達を拾っちゃうところを見てたら?』


 母よ、零達や母娘、加賀達を拾ってようやくシアターだった場所を埋められはしたけどまだ余ってる場所が多いって事実を知らんのか?


「家が広すぎて部屋が余ってるってから拾ったり引き取ったりしてるの知ってるよな?」

『うん、知ってるよ』

「それと愛とは関係ないって思うのは俺だけか?」

『そうじゃない?普通なら家が広すぎて部屋が余ってるからって見ず知らずで初対面の人なんて住まわせたりしないし』


 お袋の言う事は正論そのもの。普通の感覚の持ち主なら家が広く部屋が余ってるからといって見ず知らずの人間を家に上げ、挙句住まわせたりしない。やっぱ俺は世間一般の人と何か違うのか?


「そこを突かれると返す言葉もねーけど、見ず知らずの人を拾うのと愛は関係ない」


 零達を拾ったのは善意であり、愛情の類は一切ない


『え~! 関係ないのぉ~?』

「ねーよ! 零達を拾ったのはあくまでも俺の利害に合致したからだ!」

『きょうからするとそうかもだけど~、零ちゃん達……特に零ちゃん、闇華ちゃん、琴音ちゃん、飛鳥ちゃん、真央ちゃんからするとそうでもないと思うよ~?』


 何やら厭らしい笑みを浮かべるお袋。言いたい事は解るが、それはもう聞き飽きた


「はいはい、零達からするとそうかもしれませんね。で、話を戻すけど、何でない事言っちゃうかな?」


 お袋と愛について議論するつもりは毛頭なく、話を戻す


『ない事じゃないでしょ~?それに、想花ちゃんは心から男を嫌っているってわけじゃなくて単に寂しかっただけなんだよ』

「は?」


 神矢想花が男嫌いじゃなくて寂しかっただけ?この母親は何を言ってるんだ?


『だ~か~ら~! 想花ちゃんは男性に裏切られ続けたからああなっちゃったの! 本当はものすごく寂しがり屋なの!』

「あぁ、そうなの?んで?」

『お母さん同様きょうからの愛情が必要なんだよ!』


 知らんがな


「あー、うん。裏切られ続けたら愛情とか温もりとかは喉から手が出るくらい欲しいだろうな。で?それと俺と何の関係が?え?神矢想花は男嫌いなんだよな?だったらとり憑くのは男の俺よりも零や藍ちゃんといった同性の方がよくね?」


 もうこの際だ。神矢想花の男嫌いという設定は忘れよう。男嫌いを差し引いても彼女は俺とじゃなく、同性の零や東城先生と一緒にいた方がいいと俺は思う


『甘い!甘いよ! 想花ちゃんが今必要としているのは父性なんだよ! その父性を惜しみなく注げるのはきょうだけなんだよ!』


 この母親は何言ってんだ?


「ごめん、何を言ってるのか全く分からん」

『はぁ……、きょうは本当に女心とお母さんの気持ちが分かってないなぁ……』


 あ、これ帰っていいやつだ。女心が分からないってのは認めるが、お袋の気持ちを入れる意味が分からない


「そうか。それじゃ女心を勉強するために部屋戻るわ」


 分からない事は人に聞いたり調べたりするに限る。女心勉強のために部屋へ戻る俺は間違ってない


『も~! 女心とお母さんの気持ちを知るなら近くにいる方がいいでしょ~! きょうのバカ!』

「理不尽すぎるだろ……」

『とにかく! きょうなら想花ちゃんを任せられるの!側にいてあげて! いい?』


 何もよくない。何もよくはないんだけど……駄々を捏ねられると面倒だ


「俺からしたら何もよくないんだが……それで解決するのなら好きなだけ俺の側にいろよ。お袋も神矢想花もな」


 面倒になった俺は考えるのを止め、常日頃から一緒にいるお袋と父性を必要とする神矢想花を側に置く事にした。


『さすがきょう! そう言ってくれるとお母さんは信じてたよ!』

「はいはい。ところで肝心の神矢想花はどこにいんだよ?」


 部屋を出てここへ来るまで神矢想花の姿はない。側に置くのはいいとしても本人の姿がなければ意味がないのだ


『今呼んでくるから待ってて!』

「呼んでくるって……」


 お袋は行き先も告げずどこかへ行ってしまった。


『連れて来たよ!』


 どこかへ飛んで行ってから少ししてお袋が戻ってきた


「おう、遅かった─────」


 俺はお袋の隣にいる美人を見た瞬間、言葉を失う。見とれていたとか、惚れたとかではない。お袋は神矢想花を呼んでくると言ってどこかへ行ったのに連れて来たのは百人の男性が見とれてしまうのではないかと思うくらいの美人。言葉を失った俺の気持ちが分かるだろ?


『ど、どうも……、きょ、恭様……』


 目の前にいる美人は誰だ?何でモジモジしてる?恭様?


「ど、どうも……」


 美人登場で思考が追い付かない……この女性は誰だ?


『きょ~う~、想花ちゃんに見とれる気持ちは解るけど、お母さんも忘れないでほしいなぁ~』


 美人を凝視していると我が母からお声が掛かる。見とれてたんじゃなくてこんな人俺の知り合いにいたかと思って観察してただけなんだが……


「は?想花?誰が?」

『この子』

『は、初めまして……神矢想花です……』


 あー、うん。神矢想花だったのね。俺納得


「は、初めまして、灰賀恭です」


 真央の身体を乗っ取ってた時と何もかも違う。喋り方や雰囲気、俺の呼び方……全て違いすぎて目の前にいるのが本当に神矢想花なのか疑わしくなるのは気のせいではない。


『きょ、恭様! 私の初めてを貰ってください!!』

『お母さんの初めても貰ってよ! きょう!』


 この二人は何を言っているのだろうか?


「ごめん、何言ってるか分からない」


 疲れているんだと自分に言い聞かせ、俺は踵を返して部屋へ戻った。神矢想花の話は気が向いた時にでもじっくり聞くさ

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