闇華さんから特大の爆弾を落とされた後、俺と零はビックリしてつい大声を上げてしまった。まさかいきなり告白されるとは思ってなかった。そんなわけで現在、俺達は三人そろって部屋へ戻る途中だったりする
「あの……」
「何ですか? 恭君?」
「くっつき過ぎじゃね?」
「そうですか? 私的にはまだ遠い気がするんですけど?」
俺は今闇華さんにこれでもかというくらい密着されている。そりゃもう右腕に胸が当たるのなんのって
「いや、くっつき過ぎだって! 胸当たってるし!」
「ふふっ、当ててるんですよ?」
引きこもっていた中学時代では一回も言われた事のない言葉、男なら誰しもが一度は言われてみたい言葉。それを躊躇いなく放つ闇華さんは最強だ! うん、間違いない
「いやいや! 当てられても困るって! 俺そういうのに免疫ないんだから!」
笑え! 俺氏! 中学時代は女子のと交流などゼロである! 童貞を拗らせた勇者である!
「あら、それは好都合です! これからは私だけ見るようにするのは簡単ですね」
闇華さんが何を言ってるのか分からない。さて、俺に密着しすぎている闇華さんは置いといて、さっきから一言も喋ってない零はというと……
「……………………」
ジト目で俺を睨んでいた。うん、怖い
「れ、零さん?」
「何よ?」
「お、怒ってらっしゃいます?」
「別に!!」
零は俺達から離れ、ドスドスと足音が聞こえそうなくらい豪快な足取りで進んでいってしまった。俺には何を怒っているのかサッパリ理解出来ない
「何を怒ってるんだ? 零の奴?」
「さぁ?」
俺も闇華さんも零が起こってた理由がサッパリ分からず零の後を追う形で部屋へと戻った
「……………………」
部屋に戻っても零のご機嫌はナナメのまま。零が何に怒っているのか全く理解出来ずにいた
「零さん、何を怒っているのでしょうか?」
「さぁ?」
俺と闇華さんは遠目で零を見つめ怒っている原因を模索してみたが、原因は全く掴めず。
「ったく、何だってんだ?」
「あっ! もしかして!」
「闇華さん、何か分かったのか?」
「ええ! 零さんが怒った理由はこれしかありません! 私に任せてくれませんか?」
闇華さんは零が怒った理由が分かったらしく、任せてくれとまで言ってきた。それに引き換え俺は未だに零が怒った理由が分からずにいる。だったらここは任せるしかない
「分かった、闇華さんに任せる。その間に俺は電話してくるわ」
「はい、行ってらっしゃい」
零を闇華さんに任せ、俺はスマホを持って部屋を出た。
部屋を出た俺は零と闇華さんを拾ったという事、家具について相談するために親父に電話を掛けようとするも……
「何て言えばいいんだよ……」
親父の務める病院の番号を呼び出したまま何て言ったらいいものかと頭を抱えていた
「一人暮らし初日に女子を一人拾い、二日目で女子をもう一人拾いましたってか?」
現状をそのまま伝えたとしても作り話としか思えない。俺が親父の立場だったら作り話じゃないかと疑う。そんな状況を口頭で説明して信用してもらえるだろうか?
「間違いなく無理だろうなぁ……」
親しい友人がいない俺でも第三者から同じ話をされたら信じない
「ダメ元で言ってみっか」
『女を連れ込めたら褒めてやる』と親父は昨日電話した時に言っていた。その前に『女を連れ込む度胸のない』とも言っていた。ここからは俺の勝手な解釈になるが、親父的には俺が女を連れ込むことを望んでいる。むしろ連れ込んで一線を越えるまで。だったら女の一人や二人拾ったと報告したところで何の問題もない!
「親父め!俺をヘタレと言った事を後悔させてやる!!」
勝手な解釈をした上で何も問題はない、むしろ好都合と判断した俺は親父の職場に電話を掛けた
1コール……
2コール………………………
『はい、こちら伏古総合病院受付でございます』
親父に賭けた時とは違い2コールで受付嬢が出てきた
「リハビリ科技師長灰賀の息子で灰賀恭といいます。リハビリ科をお願いしたいんですけど」
『はい、リハビリ科ですね。ご用件を伺ってもよろしいでしょうか?』
「一人暮らしの件で電話したと灰賀に伝えて頂ければ分かると思います」
これが問い合わせなら『〇〇の件なんですけど』と言っているところだが、今回の俺は問い合わせをする為に電話したわけじゃない。むしろ家具の事を問いただし、女を二人ほど拾ったと報告する為に電話したんだ。分かると思うで伝わるだろ
『分かりました。只今リハビリ科にお繋ぎ致しますので少々お待ちください』
「はい」
受付嬢がリハビリ科に取り次いでくれている間、スマホからは待機音が流れた。それを聞きながら待つ五分
『よぉ、どうした? 恭』
電話口から能天気な声がした。
「どうしたじゃねーよ。一人暮らししたら家具の類が一切なかったから電話したんだよ」
能天気な親父を怒鳴り散らしたいという気持ちをグッと堪え、家具がない理由を聞く事に
『家具とついでに食材ならもうすぐ届くぞ?』
親父のこの言葉を聞いた瞬間、時が止まった。家具がもうすぐ届く?食材も?は?だったら……
「だったら先に言え!」
『悪い悪い、言わない方がいいってお前の爺さんに言われてたからな! それより、六番スクリーンはもう見たか?』
口では悪いと言ってるが反省の色が全く見えない親父。コイツはいつかシバく!!
「ああ、もう見たよ。俺一人で暮らすには多すぎる服と女モンの下着と要らんメッセージ、男のエチケットがあったな」
『ヘタレの恭にゃ無縁だと思ったが、爺さんとその友達が万が一って事もあるだろって事でいろいろと用意してくれたみたいなんだけどよ、役に立ったか?ん?どうなんだYо!』
「ああ、スッゲー役に立った。家具のついでに相談があって電話したんだ」
親父によるウザイラッパーのモノマネをスルーし、俺は本題を切り出す事にした
『相談? 何だ?』
電話越しに俺が真面目な相談をすると判断したのか親父の声がこれまでのおちゃらけたものではなく、真面目なものになる
「実はな、一人暮らししてまだ二日目なんだが、訳ありの女を二人拾った。信じられんと思うけど」
デパートの空き店舗に息子を一人暮らしさせようだなんてアホな事を考える親父でも訳ありとはいえ見知らぬ女を二人も勝手に住まわせて怒らないわけがない。
『ふーん、いいんじゃね?』
「は?」
俺は怒られる覚悟で現状を打ち明けたというのに親父から返ってきた返事は怒りでも否定でもなく如何にも適当と言った返事だった
『は?って何だ?元はデパートだった建物に一人暮らししろって言った時点で何かしらあるんじゃないかってのは予想済みだ。それに、言ってなかったがな、お前の住んでる場所の光熱費を出してるのは俺じゃない。好きにしろ』
怒られる覚悟はしていた。否定される覚悟もしていた。下手すると『得体の知れない女を勝手に住まわすな!!』くらい言われるのも覚悟していた。だと言うのに……
「いやいや! ちょっと待て! 家賃は爺さんが買い取った建物だからいいとしてだ! 光熱費を出してるのが親父じゃないっての俺初耳なんだけど!?」
家賃の面は爺さんが買い取った建物だと聞かされた時点で何も心配はしてなかった。しかし、光熱費の件は完全に初耳だった
『言ってないからな! んで? 恭、お前が拾ったって女の子二人、どんなタイプなんだ? ん?』
「どんなタイプかは俺の質問に答えてから教えてやる! それより、光熱費の話だ!」
『光熱費の話よりもお前が拾ってきた女二人がどんなタイプかの方が俺としては重要だ』
職場という事もあってか大声で女の話が出来ず、努めて平静を装っている親父の姿が目に浮かぶ
「それに答えたら親父も光熱費の話してくれるんだよな?」
『ああ、光熱費どころか恭の知りたい事全部教えてやるぞ』
親父が何のために俺が拾った女子のタイプを知りたいのかは皆目見当も付かない。が、それさえ話せば光熱費の話をしてくれるというのなら零と闇華さんには悪いとは思うけど話させてもらおう。その前に確認はするけどな
「拾った女子二人の話をすれば光熱費や諸々の話をしてくれるんだな?」
『ああ、それは約束する』
「分かった。長電話になると親父の仕事にも支障が出るだろうから簡単に話すが、初日に拾ったのがツンデレ系女子で今日拾ったのがヤンデレ系女子だ」
雑だとは思うが、親父は仕事中だ。だからこの説明である程度理解をしてくれると非常に助かるんだが……
『ほぉ~、ツンデレとヤンデレか~。なるほど』
俺の雑な説明で十分に納得したといった感じの親父。何に納得したんだ? オイ
「雑だとは思うが説明したぞ。次は親父の番だ。光熱費の事や服がたくさんある理由を説明してもらおうか」
出来ればどうして十四番スクリーンに俺を住まわせたかも知りたいところだが、仕事中の親父に迷惑は掛けられない。タダでさえすでに迷惑をかけているというのに
『分かったよ。まず光熱費に関して言えば爺さんが出してる。んで、洋服がたくさんあったり、話にはでなかったが風呂場にガウンがあった理由もついでに説明するとだな、光熱費以外は爺さんの友達連中が面白そうだからって出資したものだ。大浴場やランドリーや他のものも含めてな』
開いた口が塞がらない。いや、違う。金持ちの道楽ってのがよく分からないと言った方が正しいか。爺さんはいいとしてだ、その友達連中は何を考えているんだ!? 面白そうだからって見ず知らずのガキが一人暮らしをするために出資するか!? あり得ねぇだろ!!
「面白そうだからって出資するか!?」
『するから大量の服があったり大浴場やランドリー、その他施設があるんだろ』
「金持ちの考える事はよう分からんわ!! 友達の孫の為に出資するとか何考えてんだよ!?」
いくら金持ちだからって普通は出資しねーだろ!
『まぁ、爺さん達にもいろいろとあるんだよ。それからな、恭』
「んだよ?」
『家具や食材のついでに携帯会社会長の名刺付けといたからお前が拾ったっていう女の子二人の写真をメールで送ってくれ。俺から爺さんに話を付けておく』
「分かった。親父、ありがとな」
『キモッ!』
親父はそう言って電話を切った。オイ、俺が礼を言うのがそんなにキモイか?
「あの親父はマジでいつかシバく!」
電話が終わった俺は部屋へ戻る。零達に家具や食材、携帯の件について話をしなければならないからな
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