両手に花とはよいものを二つ同時に手に入れる事の例え。 または二人の女性を伴っている事の例え。ネットで両手に花と検索するとこう出てきてバカな俺でもそうなんだと納得出来る。それを踏まえてだ、今の俺は両手に何なんだろうな?
「恭、美少女に囲まれて嬉しいでしょ?」
「こんな事をするのは恭君だけなんですからね?」
「恭くんは幸せ者だね」
右側を零、闇華、琴音の三人に包囲され
「恭クン……」
「恭ちゃん……」
「恭……」
左側を飛鳥、東城先生、由香に包囲され挙句の果てには……
「灰賀君、先生の胸はどう?気持ちよくない?」
「灰賀殿、拙者もいるのを忘れないでほしいでござる……」
右手後方をセンター長、左手後方を盃屋さんに包囲され、俺は美少女、美女によってサンドイッチ状態。普通の男子高校生ならば泣いて喜ぶハーレム状態なんだけど俺にとっては幼い頃に経験済みなので特に嬉しくも何ともなく、むしろ……
「動きづらいんですけど……」
身動きを取るのに不自由な事この上ない
『きょう~、美少女、美女に囲まれてそれはないんじゃないの~?』
お袋は冷ややかな視線を向けながら言う。確かにデリカシーに欠けるところがあったのは認める。しかし、俺がこんな反応しか出来なくなった原因の一旦はお袋、アンタにあるんだぞ?
「何よ! アンタはアタシ達に囲まれて嬉しくないの!?」
「そうですよ恭君! せっかく女性に囲まれてるんですから少しは喜んでください!」
俺の感想に対し、最初に不満の声を上げたのは零と闇華。女性に囲まれて喜ばない男がいるとしたらソイツはゲイか女に興味がない奴だ。俺はそのどちらでもなく、恋愛対象は女性でちゃんと興味もある。嬉しいか否かで聞かれればもちろん、嬉しい。
「嬉しいには嬉しいし、内心喜んでるさ。今まで引きこもりだった俺がこんないい女達に囲まれてるんだ、嬉しくないわけがない。ただ、この手の事に慣れ過ぎてしまって新鮮味がないってだけで」
慣れとは恐ろしいもので、幼い頃から意図してないハーレム状態を経験している俺にとっては今みたいな状況になったところで何も思いはしない。いや、しなくなったと言った方が正しいか
「恭くんってモテてたの?」
「俺がモテる?琴音、寝言は寝て言うものだぞ」
俺は生まれてこの方モテた事なんて一度もない。そんな俺が何でハーレム状態に慣れているか……それは────────
『きょうのバカ……』
俺の横でヘソを曲げてるお袋が原因だ
「モテないとか言ってる割に恭クンは女の子の扱いに慣れてたり今の状況に全く動揺してないよね?どうして?」
飛鳥の疑問に答えるには俺の過去を話さないといけなくなってしまう。旅行に来てそんな疲れる事なんてしたくないんだけどなぁ……
「あー、それは機会があれば話す」
本当は過去の事についてあんまり話したくはなく、出来る事なら墓場まで持って行きたい。黒歴史ってわけではないものの、それくらい話したくない
「恭ちゃん、過去に彼女いた事あるの?」
泣きそうな顔で東城先生はとんでもない爆弾を落としてきた。そんな事言ったらどうなるか?答えは簡単だ
「恭の彼女がどんな人だったのか興味あるわね」
「ソウデスネ、キョウクンノカノジョサンハドンナヒトダッタノカワタシモシリタイデス」
「先生も興味あるなぁ……灰賀君、どんな娘と付き合ってたの?」
「灰賀殿の彼女の話! 拙者是非聞きたいでござる!」
「恭クン話すよね?」
ある者は怒りに震えながら、ある者はハイライトを消しながら、またある者はこちらを射抜かんばかりの視線を向けながら、ある者はキラキラした目をしながら、ある者は真顔でと反応は分かれるも俺の彼女(空想)に興味深々なご様子
「あのなぁ……」
俺は深い溜息を吐き、現実逃避の為、ここへ来たばかり事を思い出す
数分前。琴音の着替えを待っていた俺はプール内全体を見回していた
「やっぱホテルのプールは家のと違って規模が違うな」
手早く水着に着替えた俺は琴音を待っていた。男性は海パンに履き替えるだけだから大して時間は掛からない。だから男子である俺の方が早く着替え終わるのは言うまでもなく、対して女性は上下に水着を着なきゃならない為、男性の倍とまではいかないものの、どうしても時間が掛かる。水着に限らず女性の準備というのは時間が掛かるものだから待たされるのは仕方ない。
「まぁ、当たり前だよな……。家のは映画館を改装しただけの市民プール擬きでこっちは最初から泳ぐためだったり遊ぶために造られたものなんだから」
聞く人が聞くと映画館を改装し、プールに造り変えたって話を聞いただけでも驚きそうだ。改装されたところに住み、そこで生活している俺は慣れもあってか別にそれがすごい事だとは思わないけどな
「それにしても琴音の水着かぁ……」
琴音の水着は家で見慣れていて失礼な話、見るという事に関しては今更だ。それでも楽しみなのは琴音に女としての魅力があるのが一つ、もう一つは俺だって男だ。女性の水着姿には興味があるって事だ
「お、お待たせ……」
「俺も今来た────」
琴音の水着姿を想像しながら待っていると背後から琴音の声がし、振り返ると言葉が出ず、見惚れてしまった
「あ、あんまり見られると、は、恥ずかしいよ……」
東城先生もだったが、琴音も顔を紅くしてモジモジしてる。俺の周りに集まる女は見つめられる→モジモジするという流れがデフォルトなのだろうか?
「悪い、似合ってるもんでつい見とれてた」
琴音の水着は青を基調としたビキニ。普段の彼女を色で例えるのならピンクか水色なのだが、そのイメージを払拭する程度には似合っている
「あ、ありがとう……」
「おう」
と、客観的に見てここまでは付き合いたてのカップルに見えなくもないやり取りだっただろうし騒動に巻き込まれ続けた俺へ神様がくれたご褒美だと舞い上がりかけていた。
「あら、恭も来てたのね」
そんな舞い上がりかけていた俺を現実に引き戻したのは零の声だった。声のした方を見るとそこにいたのは────────
「やっほー、恭クン」
「来るなら来るって言ってくださいよ、恭君」
「恭ちゃん、偶然だね」
「恭、お義姉ちゃんが恋しくなったの?」
「灰賀殿!お久しぶりでござる!」
「灰賀君達も来たんだ~」
飛鳥達だった。蒼と碧を除くと同居人が勢揃い。偶然とは恐ろしい
「まぁな。ゲーセンでとんでもないもの見たから気晴らしにと思って来たらプールの前で偶然琴音に会って一緒に来たんだ。な?琴音?」
本来なら嘘を吐く必要などなく、有のままを言えばいい。そうしないのは後ろめたさからではなく、単純にこの後の展開を考えてだ。正直に琴音と二人で過ごしていて暇になったからだなんて言ってみろ、飛鳥と盃屋さんはともかく、零達が何て言うか……。それはさておき、肝心の琴音に目を向ける……
「そうそう。私も部屋で暇しててプールに行こうと思って歩いてたら偶然恭くんと会って一緒に来たんだよ」
上手く話を合わせてくれた。理由は分からないけど話を合わせてくれるのに越した事はない
「まさか零達も来てたとはな」
「本当、偶然ってすごいよね」
俺と琴音は偶然鉢合わせした体で話を進める事に。俺に関して言えば飛鳥の置手紙で前もって知ってはいた。だから零達がプールにいるんだろうなというのは認識していた。鉢合わせするとは思ってもみなかったけどな
「私達も恭クンに会えるとは思ってなかったよ」
打ち合わせをしてないのに話を合わせてくれる飛鳥マジ女神。琴音と二人きりだったのもそうだけど、飛鳥を部屋に連れ込んだ事がバレたら俺は無事じゃ済まず、何をされるか分かったものじゃない。これは彼女なりの気遣いだとしたらデキる女とは飛鳥みたいな女を言うんだろうな
「本当にな」
それから少し話した後、飛鳥達は琴音を連れてプールへ。俺はビーチチェアに座り、飛鳥達の遊んでる姿を眺めるといった感じで自由な時間を過ごす事となった。だが、忘れちゃいけないのが休憩時間だ。体温調整や施設の点検と言った観点から市民プールやホテルのプールには十分程度の休憩時間が設けられる。その休憩時間に事は起きた
「何で俺を取り囲むんだ?」
休憩時間を知らせるチャイムが鳴り、一旦上がった零に俺はビーチチェアから強引に立たされ、囲まれる。どうして強引に立たされたのか、どうして囲まれたのか……その理由が分からない。分かっているのは彼女達がプールから上がったばかりで髪と身体が濡れているって事だけだ
「べ、別に理由なんてないわよ!」
そう言って顔を逸らす零は心なしか耳まで真っ赤にしているように見える
「私は恭君の側にいたいと思っただけですよ?」
対して闇華は零のみたいに顔は紅くなく、普段通り。顔色に関して言えば琴音達も同じで紅かったのは零だけ。囲まれた方からすると意味不明なんだけど?
そんなこんなで今に至る。
「恭ちゃん、大人しく吐いた方が身のためだよ?」
「吐けって言われてもなぁ……。つか、由香は俺の中学時代を見てきたんだから知ってるだろ?」
忌々しい話だが、由香と俺は同じ中学だ。尤も途中から俺は学校に行ってなかったから知らないと言われる可能性だってあるのは重々承知の上。さて、どう答えるか……
「あたしが知ってるのは学校での恭だけでプライベートの事は何一つ知らないよ」
さ、最悪だ……。その通りだから反論の余地はないにしてもこれは最悪と言わざる得ない。それを言ったらどうなるかなんて目に見えてるだろ……?正解は────────
「「恭?」」
「恭君?」
「恭ちゃん?」
「灰賀君?」
「恭くん?」
「「「「「大人しく言いなさい!!」」」」」
六人の修羅が生まれるでした
「灰賀殿!観念してくだされ!」
前言撤回。六人の修羅と一人の野次馬が生まれるだったわ
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