東城先生の飽きれた声がリビングに響いた後、時計を見ると七時半を回っていて零・闇華・東城先生の三人は大慌てで支度し学校へ。俺はというと東城先生と同じタイミングで学校に行くのはマズイという事で時間を少しずらして登校する事になり、現在学校へ向かっている最中だ
「あの爆破予告を送り付けた奴恨むぞ……」
爆破予告を送り付けた奴が妙な感じの予告を送り付けなきゃ俺は誤解される事なく平和な朝のひと時を過ごせたはずだった。が、ニュースの爆破予告『俺を 企業を絶対に許さない。明後日の昼に爆破してやる』っていうカード付怪文書のせいで誤解され、気が付けば零・闇華・東城先生は遅刻寸前まで追い込まれたというわけだ
「はぁ……こんな事ならマジであの怪文書の空欄埋めるんじゃなかった……」
プランBで登録している俺は自分の学年の登校日である月曜日と水曜日以外に木曜、金曜も登校しなきゃならない。毎日学校に行かなきゃならない東城先生よりかはマシだけど
「人に聞かれたら誤解されるから人前で言うのは止めとくか」
今朝のニュースでやっていた妙な爆破予告の事は考えたくもない。世間を騒がせているって事は今朝見たやつの他にまだあるかもしれない。それも同じようなものだったらと考えると警察官じゃないのに気が重くなる
「マンガじゃあるまいし、高校生は大人しく勉強だけしとくか」
誤解している時に東城先生の友達に警察官がいるような話をしていた気がするが、面倒な事に自分から首を突っ込む程俺は愚かではない。爆破予告の事は一旦忘れ、学校へ急ぐ事にした
学校へ着いた俺は昨日と同じように職員室へ向かう。昨日は自分のクラスと教室が分からなかったからっていう理由だった。今日はプランBに登録している生徒がどこに行けばいいか分からないから聞きに行く
「こんな事なら家にいる時に聞いとくんだった……」
昨日は東城先生VS闇華の戦いや俺の失言、脱走疑惑といろいろあり学校の話をする暇なんてほとんどなかった。で、今朝は今朝でカード付怪文書のおかげで誤解されて昨日同様学校の話なんて出来やしなかった
「昨日の事は……人災一割、自業自得九割で俺が悪いとして、今朝の怪文書はマジでふざけんなよ……」
根に持ちたくはない。しかし、あのピンポイントな怪文書はマジで何なんだ?と思う。
「やっべぇ……今朝の事に関して嫌な予感しかしない」
今朝の事を思い出すと身が震える。マジ嫌な予感しかしない。
「とりあえず適当な先生とっ捕まえて教室の場所聞こ……」
今朝の一件は忘れる事にし、俺は職員室に入り、適当な先生を……
「おはよう。恭」
捕まえる前に東城先生に捕まってしまった
「お、おはようございます。東城先生……」
「うん。おはよう。プランBの生徒が行く教室は一〇四の教室だから」
東城先生、俺はまだ何も聞いてないんですけど……
「そうですか、ありがとうございます」
東城先生に今日集まる教室を教えてもらった俺は一〇四の教室。職員室に入ってすぐの教室に向かおうとする
「待って。恭」
「何でしょうか?」
教室に向かおうとしていた俺は東城先生に引き留められてしまった。俺何かしたっけ?
「今日のお昼頃に警察の人が恭に話を聞きに来るから」
「はい?」
東城先生、何を言ってるんですか?俺は警察のお世話になるような事した覚えなんてないんですけど?
「だから今日のお昼頃に警察の人……といっても私の高校からの友達なんだけど、その人が恭に話があるらしくて来るから」
「俺何も悪い事してないんですけど……」
東城先生が何を言ってるのか本格的に分からなくなってきた。分かったのは今日の昼頃に警察の人間が来るって事とその人が東城先生の高校からの友人である事ぐらいだ
「恭は何も悪い事はしてないよ。でも、今朝家で奇妙な爆破予告の空欄を埋めて読んだでしょ? その事で話があるって言ってた。どうして読めたか教えてほしいんだって」
「は、はあ……」
ニュースでチラッと見た爆破予告は『俺を』の後が空欄になっていてその後が『企業を絶対に許さない。』という恨み節。後は『明後日に爆破する』と書いてあった。ニュースで見たのはこれだけだから具体的な場所までは分からない
「あと、今までに届いた予告状も解読してほしいとか言ってたよ」
俺の名前は灰賀恭! 星野川高校に入学して早二日。早くも自分が高校生なのかと問いたくなりました
「東城先生? 俺は探偵でもなんでもないんですけど……」
「うん。知ってる。でも、探偵でも何でもない恭が今朝のニュースに出てきた暗号解読出来たの?」
「あんなカードを添えられたらそう読んでくれって言ってるようなものですから」
「それを警察の人の前で説明して。私はこれからその事をセンター長に言ってくるから」
センター長の机に歩いていく東城先生の背中をじっと眺めながら俺は警察の人には具体的に説明しなきゃならんのかと考えると憂鬱になった。
東城先生がセンター長の元へ向かい、そのまま突っ立ってるのもどうかと思い、俺は一〇四の教室の空いてる席を探し、座る。隣の席と前の席にはすでに誰かのカバンが置いてあったが、俺が座った席は幸いまだ誰もカバンを置いてなかったのは助かった
「あっれ~? 灰賀君じゃん! 何? もしかして俺と友達になりたくて隣に来ちゃった感じ?」
前言撤回。さっきまでいなかった隣の席の主。それが厄介な事に内田だった事に絶望しか感じない
「いや、たまたま空いてる席に座っただけの偶然だ」
「何だよぉ~、俺と友達になりたくて隣に来たんじゃねーのかよぉ~」
ありのままを伝えたら内田があからさまに落ち込んだ。昨日といい、今といい、何なんだ? コイツは……
「偶然隣の席だって言っただけで友達になりたくないとは一言も言ってない」
「そっかー、じゃあ俺と友達になってくんね?」
内田のようにファッションに気を使い、学校外の友達が多そうな奴が俺のように趣味はゲームで引きこもっていた過去を持つ人間と友達になりたがる意味は理解不能だ。が、特に拒否する理由もない
「俺でよければ」
「んじゃ、今から俺らは友達っつー事でよろしくな! 灰賀クン!」
「ああ、よろしくな。内田君」
高校入学して初めての友達が内田になるとは思わなかった。人の縁っつーのは不思議なものだ
内田と友達になった後、先生が来るギリギリの時間まで男同士の話をして過ごした。てっきり入学式の日に来ていた琴音達の事を聞かれるものだとばかり思っていた。実際は好きな彼女が出来たらどんなデートしたいかとか恋愛の話しかしてない。
「はい。HR始めるよ」
時間になり入って来たのは担任である東城先生。入学式の日から今日までマジで東城先生とのエンカウント率高いけど、偶然だよな?
東城先生が教室に入って来てHR開始。日直……といっても今日は自分のクラスじゃないから東城先生の独断と偏見で先輩と思しき人が日直をする事になり、そこからは出欠の確認という自分のクラスじゃない事以外は変わり映えしない始まりとなった。
「東城先生ってマジでクールだよなぁ~。灰賀クンもそう思わね?」
HRが終わり、空き時間。隣の席に座る内田がいきなり俺に意見を求めてきた
「まぁ、あまり表に感情を出すタイプではないだろうな。クールかどうかは知らんけど」
幼い頃に東城先生と一緒に遊んでましたとか、幼い俺が結婚しようとかは当たり前だが、同じ部屋で寝食を共にしてますとは口が裂けても言えなかった
「もしかして灰賀クンって東城先生に興味ない感じ?」
「何でそう思うんだよ?」
「普通あんな美人が担任だったらテンション高くなるのに灰賀クンは興味なさそうだったから」
「別に担任が女だろうと男だろうとどうでもいいだけだ」
俺にとって担任が男か女かとか、イケメンとか美人とかってのは興味ない。所詮生徒と教師の関係からは抜け出せないんだから
「そっかぁ? 担任が女で美人とか男でイケメンとか俺からすると結構重要なんだけど」
内田は結構見た目を重視する奴なんだな。俺は零達で学んでる。見てくれがどんなに良くたって性格に難ありだったらその見てくれが台無しになる事を
「見てくれが良くても性格が最悪だったり面倒だったらいざ恋人同士になった時とか疲れるだろ」
零達の事を悪く言うわけではない。ただ、零達と初めて会った時の事を思い出すと喧嘩らしい喧嘩はないにしろあまり良いものとは言えない
「確かに……灰賀クンの言う通りかも」
顎に手を当て内田は“これからは性格も重視しなきゃ……”と呟いていた
それから少しして一時間目の授業時間となり、入って来たのは東城先生。日直が授業開始の挨拶をし、東城先生から授業内容を発表される。その内容というのが……
“隣の人と向い合せで二人一組になり、簡単な自己紹介をする”
という入学したばかりの一年生に対して配慮ある授業内容だった。先生の指示で俺達は机を向い合せにした。
「えーっと、俺は自己紹介する必要あんのか?」
相手が内田や他の一年限定だったら俺の自己紹介は必要ないような気がする。だって、入学式の日にかなり目立ったっぽいし、内田とは国語、英語、数学で一緒の教室なんだし
「あー、どうなんだろ? 俺的には灰賀クンって一年じゃかなり有名人だから必要ないとは思う」
「その有名人になった理由ってもしかしなくても入学式の日が原因だったりするか?」
昨日初登校で俺はクラスメイトはもちろん、内田とも碌に話をしていない。そんな俺が有名人になるチャンスがあるとしたら入学式の日を置いて他にない
「もち! それ以外何が?」
「ないよなぁ……でもまぁ授業だし必要ないと思うがやるだけやっか」
「だな! んじゃ! 最初は俺からでいいか?」
「ああ」
話し合いの結果、内田から自己紹介する事に
「名前は内田飛鳥。趣味はショッピングで年齢は十七歳! 以上!」
へぇ~、内田の下の名前は飛鳥ってのか。よく見ると女っぽい顔してんな……。で、趣味はショッピング。それはいいとして……
「お、俺より年上だったのか……」
意外な事に内田は俺より年上だった。マジか……
「おう! ビックリした?」
「ああ、ビックリした。何?これからは内田さんって呼んだ方がいいか?」
「んいや、出来れば飛鳥って呼んでくれ! 俺も恭クンって呼ぶから!」
「分かったよ。飛鳥。これからよろしくな」
「もち!」
昨日は絶対に馬が合わないと思っていた。それが今日になって下の名前で呼ぶ仲となった。展開的には早すぎるんじゃないかとは思う。それ以上に……
「飛鳥の顔ってちゃんと見ると可愛い顔してんだな」
男色の趣味がない俺でも飛鳥の顔は可愛いと感じてしまう。それほどまでに飛鳥の顔は整っていた
「ふえっ!?」
「ぷっ、女みたいな反応だな。今まで言われた事なかったのか?」
飛鳥のように社交性が高い奴はいろんな奴と遊んでいるだろうから容姿に関して褒められたりする事もあるだろうに何を驚いているんだか
「あ、あるわけないっしょ! 男が可愛いだなんて言われても嬉しくねー!」
「だろうな。ま、今言った事は忘れてくれ。俺の妄言だ」
「う、うん……。そ、それより、次は恭クンの番な!」
「あ、ああ」
飛鳥の顔に見とれてて自己紹介の内容を考えてなかった……。適当に名前と趣味でも言うか
「名前は灰賀恭。年齢は十五歳。趣味は……ゲームかな? 以上」
自己紹介しろと言われても名前や年齢、趣味くらいしか語れるものがない。これは俺に限った話じゃないと思うけど
「質問!」
「はい、飛鳥君!」
「入学式の日にいた人達とはどういう関係ですか?」
飛鳥の質問は入学式に参加した人全員が気になっているだろう質問だった。その証拠に教室にいる東城先生以外の人が聞き耳を立ててるのが分かる
「どういう関係ってただの姉と親戚だけど」
琴音達は俺が拾ったり引き取ったりした人です! とは言えず誤魔化してみたが……信じるかな?
「もしかして恭クンっていいとこのボンボンだったり?」
「いいや、俺の親父はリハビリ科の技師だからボンボンではないな」
飛鳥の質問はあくまで『俺はいいとこのボンボンか?』って内容だから嘘は吐いてない。祖父母の事は何も聞かれてないし
「そうなの?」
「ああ。俺の家は至って普通の家だ」
一人暮らししてる家は違うけどな!
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