飛鳥・茜の両者と仲直りを済ませ、時間を確認すると十三時で完全に昼過ぎ。家にいる時なら琴音か東城先生に叩き起こされ、とうの昔に起床し、何かしらの起きてる時間だけど、今は一人……とは言えないものの、彼女達の目はなく、自由気ままな生活ができ、俺は現在─────
「飛鳥ちゃん、次はどの任務行く?」
「どれが手っ取り早く経験値稼げます?」
女性二人とスペースウォーをやっていた。零と闇華、琴音と同居し始めた頃、パソコンが届き、大はしゃぎしていた事があったのを覚えている。実は零達が使っているパソコンは爺さんからの贈り物で送ってきた当人に話を聞いたところ、俺が家なき子や母娘など金と住処に困っていたり、事情によって住む場所が危ぶまれている人間を拾っている事を友人達に話し、物がないと不便だろうという事で無料で衣類やら何やらを提供してくれるという話になったらしい。俺が一人暮らしを始めた時も何かと不便だろうと物資を恵んでくれるって話だったみたいだけどな
「経験値を手っ取り早く稼ぐならこの艦隊一層って任務が手っ取り早いよ」
「なるほど……」
熱心に効率のいいレベル上げ方法を教える茜とそれを聞く飛鳥。会った時は喧嘩してたけど、今じゃ本当の姉妹みたいに仲が良く、彼女達を見ていると和む。一つ不思議なのは何で飛鳥がスペースウォーをプレイしているかだ
「何で飛鳥がネトゲなんて始めたんだっけな……」
天を仰ぎ、こうなった経緯を思い出していた
一時間前─────。飛鳥と茜が泣きながら謝ってきた後の話
「暇だなぁ……」
「「暇だねぇ……」」
仲直りを済ませた俺達は海に行ったり、プールに行ったり、島を散策したりと身体を動かす事はせず、ベッドで三人仲良くゴロ寝していた。不摂生なのは承知の上だが、夏の暑さは俺の外に出よう、せっかくの旅行だから身体を動かした遊びをしようという気を削ぎ、部屋に引きこもろうという気を湧き起こす。部屋に引きこもったところでやる事はなく、ボーっとしているだけなのだが、こうも暇な時間があると逆に苦痛だ。そんな時だった
「恭クンと茜さんが出会うキッカケになったゲームがしたい」
唐突に俺と茜の関係が始まったキッカケであるスペースウォーがやりたいと飛鳥が言い出した。この発言からご理解頂けるように飛鳥はスペースウォー初心者。当然、ゲームアカウントなど持っているわけがなく、一からアカウントを作るところから始めないといけない。それはそれとして、飛鳥はパソコン持って来てるのか?
「飛鳥ちゃんってネトゲに興味ないと思ってたのに意外……」
茜の言った事には全面的に同意する。今までの飛鳥の言動や交友関係を見ているとネトゲとは無縁で興味すら示しそうになく、それがいきなりネトゲをしたいだなんて言われたら誰だって意外だと思うし大なり小なり驚きはする
「茜に同意」
言いたい事が特に思いつかなかった俺はとりあえず茜に同意しておいた。見た目や言動、交友関係の話をするとキリがなくなり、最悪の場合は飛鳥がヘソを曲げる
「そう?私だって下に弟と妹がいるからゲームくらいするよ。ただし、携帯ゲーム機やスマホのアプリゲームだけどね」
そういや飛鳥には弟と妹がいたっけ……。何しろ飛鳥の家族に会ったのは高校入学して間もない頃に一度きりだったから忘れてた
「そうなの?」
飛鳥の口ぶりから推測するに彼女がやっているゲームは誰でも知っているようなもの。対して俺や茜がしているのはパソコンを使ってやるゲームで同じゲームではあるけど、ジャンルが違う
「ええ。最初は弟に言われてやってみたんですけどね」
携帯ゲーム機やスマホアプリゲームというのはCMで宣伝してるものもあるから誰でも購入したりダウンロードしたりすれば簡単にプレイ出来る。一方パソコンを使ってやるネトゲはネットで調べて面白そうだったらダウンロードするなりアカウントを取得したりとプレイヤーはいるものの、一般的ではない
「まぁ、携帯ゲーム機やスマホアプリゲームはCMでも宣伝してるからな。有名なアニメが元だったりするものなら敷居は低いだろうからリア充でもやってる奴はいるだろ」
飛鳥をリア充の一員としてカウントしていいものかは分からない。ただ、今はどうか知らんけど、入学当初の飛鳥はその手の友達が多く、高校入学を果たしたというのに引きこもり精神満載の俺とは対極の存在だと思っていて率直な感想を言うと決して関わり合いになりたくない人種だった
「グレー、発想が雑過ぎるよ……」
「うるさい」
「とにかく、私もスペースウォーやりたい!」
スペースウォーがやりたいと言う飛鳥を見て内心じゃ同じゲームを楽しめる仲間が増えたと喜んだのだが、問題が一つ。言うまでもなくパソコンだ
「やりたいと言われてもここには茜のパソコンと監視用モニターに繋がったパソコンしかないぞ?持って来てんのか?」
俺はスマホと着替えしか持って来ておらず、スマホの充電器なんかはホテル側が用意してくれたものだ。俺の場合は何も知らされてないから準備が不十分なのは仕方ないけどな
「あるよ。私のも恭クンのもね」
そうかそうか、飛鳥のと俺のがあるのか。って! ちょっと待て! 俺の!? 何で!?
「ちょっと待て」
「何?」
「何で飛鳥が俺のパソコン持って来てんだよ?」
俺のパソコンはデスクトップじゃなくノートだから持ち運ぼうと思えば自由に持ち運びが出来る。ただ、起動した時にパスワードを入力する必要があり、パソコンの中を見るには何らかの方法でパスワードを入手するか電気屋に行ってパソコンを初期化するしかない。前者は金が掛からないが苦労はする。後者は……何も言うまい。
「何でって恭クンの下着とか用意したの私だからだけど?」
何だその文句あるの?って顔は
「あるならあるって言ってくれればよかったのに……」
二つ上とはいえ同級生の女子に下着を見られた程度でゴチャゴチャ言ってたら家では生活していけない。飛鳥が俺の下着を見た事あるように俺だって飛鳥の下着を見た事がある。羞恥心を捨てたわけじゃないけどそんな事で恥ずかしがってなどいられないのさ
「ごめん、言い出すタイミングが掴めなくて……」
飛鳥はそう言ってシュンと顔を俯かせてしまった。命に関わるような事じゃないから別に俺は怒ってなどいない
「別にいいさ。それよりも一つ教えてくれ」
「何?」
「零達もパソコン持って来てんのか?」
零達が何を持って来ようと俺の知るところではない。旅行の持ち物など危険物以外は誰が何を持って来ようと自由でそれをどうこう言う資格など誰にもないからだ
「持って来てるよ。写真や動画撮り過ぎてスマホの要領が一杯になった時にすぐ移せるようにね」
アイツら、この旅行でスマホの要領いっぱいになるまで動画や写真を撮る気かよ……
「どんだけ写真撮るんだよ……」
「さぁ?とりあえず、これで私もスペースウォー出来るね!」
「ああ。出来るには出来るけど、まずはゲームのアカウントを作るところからだぞ?」
「分かってるよ!」
この後の流れは簡単。ベッドから出た飛鳥はカバンから自分のパソコンと俺のパソコンと延長コードを取り出し、すぐにセッティングを済ませた。そして、準備が完了するとネットに接続。スペースウォーを検索、アカウントを作成し、チュートリアルとストーリーをクリアし、あっという間にレベルを上げた。
で、現在に至る。ネトゲとは恐ろしいもので特に最初は毛嫌いしていた人間ほどハマり、抜け出せなくなる。
「なぁ、飛鳥」
俺は画面から目を離す事なく飛鳥に声を掛ける
「何?恭クン?」
すると飛鳥も同じように画面から目を離す事なく返事を返してきた
「今レベルいくつだ?」
「今でちょうど100になったところだよ」
「そうか」
一日でレベル100。俺が始めたばかりに比べるとかなり早い。当たり前と言えば当たり前でその理由と言うのが俺と茜が任務を引き受けて飛鳥がそれに付いてくるという事をしているからに他ならない。通常だと任務を選ぶのも引き受けるのも自分自身でファンタジーゲームで言うところのスタミナ、このゲームでは戦艦エネルギーというのだが、それがあっという間に減る。一人でやってたのならな
「うん。これも恭クンと茜さんが手伝ってくれたお陰だよ」
飛鳥が今言ったように一人でやったのなら戦艦エネルギーがあっという間に減り、回復まで多少の時間を要したり、人によっては同じところで手こずったりとそのゲーム初心者なりの苦労があるのだが、レベル三桁が二人もいる。初心者が受ける任務程度なら簡単にクリアでき、楽にクリア出来る上にレベルはあっという間に上がる。気か付けばレベル100ってわけだ
「こういうゲームは基本助け合いだし一緒に遊べる仲間が増えると俺も嬉しいからな」
「そうだよ、飛鳥ちゃん」
言い忘れていたけど、飛鳥はスペースウォーのアカウントを作成し、チュートリアルをクリアするとすぐさま俺のプレイヤーネームを検索し、フレンド申請を送って来た。それを俺は受理しフレンドに。同じ要領で茜のも検索し、フレンドとなった。だから茜はどの任務に行くかの相談をしていたわけなのだが、さすがに一時間もやっていると喉が渇く
「二人共コーラ飲むか?」
未だにゲームを続けている二人に声を掛ける。ちなみに何でコーラ一択なのかは語るまい……
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