「何で俺が……」
文化祭の出し物を話し合ってから一週間。俺のクラスは出店でリサイクルショップをやる事で落ち着き、ステージの出し物は合唱をする事となった。ダメ人間を素で行く者にとって出店の準備と合唱の練習など面倒な事この上ない。飲食関係じゃないだけまだマシだが、俺にとって出店がなんであれ準備というのは面倒なのだが、言い出しっぺという事で現在、商品の提供をすべく、電車に揺られ家と学校を往復している最中だ。こんな事なら無難な案を出しとけばよかったと心の底から後悔。他の連中の家にある不要なものなどたかが知れてるから仕方ないと言えば仕方ないのだが……理不尽だろ
『仕方ないでしょ~、リサイクルショップって言ったのきょうなんだから』
『自分の発言を呪いなさい』
幽霊二人の言う通りだ。リサイクルショップの案を出したのは俺で不用意な発言をしたのも俺。ぐうの音も出ない。ちなみにだが、我がクラスの実行委員は男子が瀧口。女子の方が名も知れないモブ。女子の方、すまんな。名前覚えてないんだ
「はぁ……」
そんなこんなで今日何回目かになる一時帰宅になるのだが……
「このままバックレるか」
面倒だ。このままバックレてしまうとしよう。どうせ一歩学校を出てしまえば見てる奴などいない。俺の場合、いても早織と神矢想花の幽霊二人だけ。サボりを暴露されたところで知る人間はごく一部。怖いものなど何もないのだ
『ダメだよ~、ちゃんと参加しなきゃ~』
『そうよ、恭様。高校入学初の文化祭なんだからちゃんと参加しなさい』
口うるさい幽霊達だ。俺がめんどくさがりだっての知ってるクセに
「ふぅ……」
体育祭、文化祭と学校が一丸となって取り組む行事などサボるに限る。瀧口みたいなリア充は青春を謳歌するために準備期間から開催当日まで労働に勤しめばいいが、俺みたいにめんどくさがりはこんな時こそサボるべきだ。世の中には適材適所という言葉があってだな、文化祭とか体育祭なんて瀧口のようなリア充にこそ相応しいのであって俺みたいなダメ人間には相応しくないのだ
『次は熊外~、次は熊外~』
いかにしてサボろうか考えているところで車内アナウンスが流れた
「サボるか……」
俺は電車を降りたら家には戻らずそのままバックレるぞと固く心に誓い、出入り口周辺へ移動
『熊外に到着しました。お降りの方はお忘れ物ないようご注意ください』
目的の駅に到着し、電車を降りた俺は真っ直ぐ改札口へ向かった
改札を抜けるとどうしてだろうか何とも言えない解放感に包まれた。学校から遠ざかったからなのか、それとも、これから思う存分サボれるからなのか……とにかく、学校を離れ、見張りがいなくなったらこっちのモンだ
「よっしゃ、サボるか」
風の行くまま気の行くままってね。俺は足早に北口へ……
「あれ? グレー?」
迎えませんでした。背後から聞き覚えのある声がし、振り返ると……
「あ、茜……それに、真央……」
手提げバッグを持った茜と真央が立っていた
「うむ! そうでござるよ! 恭殿の真央でござる!」
「グレーの茜だよ」
この人気声優はいつから俺のものになったんだよ……つか、俺は誰のものでもないぞ……
「はいはい。それで? 二人はこれから収録か何かか?」
声優がどんな格好で収録に行くかは知らん。平日の昼頃駅をうろついてる事から多分収録だろうと俺が勝手に判断しただけだしな
「うむ。その通りでござる。拙者と茜はこれから同じアニメの収録に行くのでござる」
「帰るのは夕方頃になる予定だよ。琴音ちゃんにもそう伝えたしね」
誰も聞いてない。収録だろうと雑誌の取材だろうと好きにしてくれ
「そうか。じゃあな」
俺は話を切り上げ、早々にその場を後にしようとした
「グレー待って!」
「待つでござる!」
「何だよ……俺はこれから当てのない旅に出るところなんだが……」
茜と真央は女だから振り払おうと思えば振り払えるのだが、この二人、妙に力つえーから振り払えねぇ……
「旅になんて出ないで拙者達の仕事を手伝うでござる!」
「同僚がグレーに会いたがってるんだよ!」
コイツら……他の声優に俺の事話してるのかよ……言いたかねぇが、外部に漏れる事考えろよな……そこそこ人気のアニメだったらラジオだっあるってのに……ラブコメアニメだったら恋バナとか出てくるんだぞ……人気声優が高校生とはいえ、男と同棲してるとかスキャンダルになるし、声豚が黙ってねぇだろうに……俺は知らねぇぞ? この前みたいにストーカーに狙われてもよぉ
「俺はこれから旅に出るんだ。声優と関わってる暇なんてない」
本当は文化祭準備が嫌で逃げ出すだけなのだが、真実を言うと琴音を呼ばれ、強制的に家に連行。その後、必要なものを持たされ、学校に送還される未来しか見えない。苦しい言い訳だが、旅に出るという事で誤魔化すしかない
「恭殿は拙者達を置いてどこかへ行ってしまわれると?」
「え? グレー私達の前から勝手にいなくなるの? そんなの許さないよ?」
ハイライトのない二人の目が俺を捕らえる。そういやコイツらも闇華同様ヤンデレだったな……正確には闇華のヤンデレが移ったと言った方が正しいのかもしれんが。最近そんな素振り見なかったから忘れてた
「ちげーよ。お前達と同じく夕方には戻る。ちょっとしたプチ旅行に行くんだよ」
まだどこへ行くか決めてないけどな。これを言うと茜と真央の仕事場に強制連行されそうだから言わない。せっかく平日の昼間が自由なんだ。邪魔されて堪るか
『本当は文化祭準備サボるだけのクセに~』
『物は言いようね』
黙ってろ幽霊二人組
「なら拙者達と一緒に来るでござる!」
「もう連れてくって言っちゃったんだから来てよ。来ないと許さない」
「あのなぁ……」
強引な女共だ。俺が学校に行ってたらどうするつもりだったんだ? いや、実際学校なんだけどよ。出店に出す品物取りに戻るだけで授業じゃないから別に二人の仕事場に行くのは構わねぇ。面倒事さえなければ
「グレーは黙って私達に付いて来ればそれでいいの!」
「そうでござるよ! 拙者達と一緒に来るでござる! キャストスタッフ一同恭殿に会いたがっている故」
うわぁ……嫌な予感しかしねぇ……なんかこう、金はあるけど住む場所に困ってますとか、家で夜中に不気味な物音が鳴って困ってますとか、収録中に不可解な事が起こって困ってますとか……挙げればキリがねぇぞ……
「はぁ……わかったよ。行きゃいいんだろ? 行きゃよ」
「うむ!」
「そうだよ!」
「はぁ……」
こうして俺は人気声優二人に捕獲され、彼女達の仕事場へ行く事になってしまった。お、俺のサボりライフが……この二人結構強引なんだな。事情も聞かずに連行するだなんて
強引声優二人に連れられ、やって来たのはとあるスタジオ。どうやらここで茜と真央の出演するアニメの収録が行われるらしい。らしいのだが……
「俺は動物園のパンダか……?」
先程から出演者とスタッフにガン見されてるのは何でだ? 通ってる学校以外は普通の男子高校生なんだが……というか、早く収録始めたらどうなんだ?
「や、やりづれぇ……」
特に何かするわけじゃないが、やりづらい。職場見学ってこんなに居心地悪かったか? 何のアニメ収録するかすら聞いてねぇしよぉ……表の扉には作品名とキャスト一覧表貼ってあったが、見る間もなくここへ放り込まれたからちゃんとは見てねぇ。確かホラー系統のアニメだったと思うが……なんつったかなぁ……
『動物園のパンダみたいだね~』
『別に珍しくもないでしょうに……自分達だって高校生だったのだから』
のほほんとした早織と眉間に手をやり、溜息を吐く神矢想花。いつも通り幽霊二人組は他人事だ。しかし、神矢想花の言う事は正しい。俺は通っている学校と住む場所、その他を除けば普通の高校生。珍しくも何ともない。なのにどうして揃いも揃って俺を見るんだ?
「勘弁してくれよ……」
溜息交じりに呟きアフレコブースにいる茜達に目をやると皆真剣な表情で台本を開き、何かをメモしていた。スタッフの方へ目をやると誰も何も指示している様子はない。多分、先輩声優から何かアドバイスを貰ってメモを取っているかアドリブでも書き込んでるのだろう。そう思っている時だった
「じゃあ、本番始めまーす」
監督らしき男性から本番開始の指示が出た。出番がある声優がマイク前に立ち、出番のない声優は後ろにあるソファーに掛ける。テレビでアニメ特集とかしてる時によく見る光景だ。新鮮さはあまり感じない
「帰りてぇ……」
アニメ好きにはパラダイスなこの状況。俺にとっては特に思う事はない。これなら家に帰ってゴロ寝でもしてた方が百倍マシだ。そう思っていた時だった
「な、何だ!?」
「ま、またなの!?」
「も、もういや……」
妙なタップ音が鳴り始めた。監督らしき男性が驚嘆の声を上げ、女性二人の内、一人は男性と同じ反応を示し、もう一人は頭を抱えてしゃがみ込む。他のスタッフやキャストも頭を抱えてしゃがみ込んだり、蹲ったりと色々だ。その中には真央と茜の姿もあった
『変だね……来た時は気配すら見せなかったのに……』
『恭様がいるなら尚更警戒するのが普通なのだけれど……』
俺を除く生者全員がビビってるってのに……この幽霊二人組は冷静だ。俺は怖いとかじゃなく、帰りてぇなと思っていたところでこの騒ぎだからな。何がどうなっているか全く状況を把握できてない。情報量が多すぎてパニックになっている暇がないのだ。早織と神矢想花の口振りから察するに出たのは幽霊らしい
「またオカルト話かよ……」
夏休みの真央身体ジャック事件とこの前の凛空パパ暴走事件以来のオカルト騒動。文化祭準備をサボった罰がこれとか笑えねぇよ……
「今日は厄日かよ……」
収録に携わる人間が全員パニックに陥ってる中、俺は天井を見上げそっと呟いた
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