「昨日は本当に大変な一日だった……」
零達がやらかしてくれた日から一夜明け、火曜日。ルームメイトに監禁され、危うく身体に女性五人分の名前を彫られるという最悪の事態を回避した俺は久々に平穏な休息を満喫していた。マジ休息大事。
「恭クン……恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クンキョウクン……」
平穏な休息だと思った?残念! 狂った飛鳥にひたすら甘えられる休息だよ! チクショー!!
「飛鳥、甘えんのは構わねぇけど、頬擦りしすぎじゃないか?摩擦熱で着火しそうだぞ?」
「いいよ、着火しても」
「いや、よくはねぇだろ」
何でこうなったかは昨日、俺が零達に霊圧を分けてすぐの事だった────────────────
『全員にいき渡ってよかったね~! お疲れ、きょう!』
零達に霊圧を分け与えた俺はお袋から労いの言葉を掛けられた。
「お疲れって、別に霊圧を流すイメージしながら零達と手を繋いだだけで大した事はしてない」
初めて霊圧の譲渡をし、体力をごっそり持ってかれると思っていた。そんな俺の予想に反し、体力を持っていかれるなんて事は全くなく、ピンピンしている。マンガとかじゃ力を譲渡するシーンでは体力を消耗するシーン、譲渡した相手が悲惨な末路を辿るシーンとかあるけど、アレって嘘なのか?
『それもそうだね!ところできょう』
「んだよ?」
『誰の手が一番握り心地よかった?』
お袋は何を聞いてくれちゃってんでしょうかねぇ……
「誰のって別にそんなコイツの手って柔らけぇなぁとか考えて握ってなかったから誰が一番だなんてそんな……」
大体、好きなタイプの女性は?と聞かれて俺は具体的にこんな人とは答えない。そんな事考えて生きてないからな
『え~! 考えなかったの~! つまんな~い!』
面白くない!お袋の顔にはハッキリとそう書かれていた
「つまらなくて結構。小・中と異性に縁がなかったんだ。それに、恋愛とも無縁だった俺が女に対して“この子の手柔らかいなぁハァハァ”なんてアホな事考えるわけないだろ」
俺の個人的な意見だが、女に縁がなかった人間は二通りに別れると思う。一つ、異性に優しくされたり、スキンシップを取られたりすると邪な事を考える奴。もう一つ、異性に優しくされたり、スキンシップを取られても全く興味を示さない奴。俺は後者だ
『少しはそういう事考えようよぉ~……ほらぁ~、零ちゃん達だって……』
お袋が零達を一瞥し、釣られて俺も同じ方向を見る。
「恭……アタシの身体には何の興味もないの?」
「恭君、私って魅力ないですか?」
「恭くんからしたら私なんておばさんだもんね……興味ないのも無理はないよね……私なんて……」
「恭ちゃん、もしかして女の人に興味ない?」
「恭クン、そうならそうと言ってくれればよかったのに……格好も口調も男で相手したのに……」
とんでもない勘違いをし、ネガティブ思考に陥った零達がいた
『きょうが男にしか興味ないから零ちゃん達落ち込んじゃったよ?』
そんな零達に同調するかのようにニヤケ顔のお袋。
「俺は! 女に興味が! ないんじゃなくて! ただ異性と付き合うとか、恋愛話に慣れてないだけだ! 断じて男しか愛せないとかそんなのじゃない!!」
さっきも言ったが、小・中と女に縁のない生活……と言っても単純に交流が少なかっただけなんだが。とにかく、女に縁がない生活を送っていた俺に浮いた話なんてあろうはずもない。当たり前だよな、そういう生活を送ってこなかったんだから
「本当かしら?本当は女に興味なんて微塵もないんじゃないの?」
「恭君、私なら大丈夫ですよ?たとえ恭君が女の子に興味なくても。そんな恭君でも私は愛せますから」
ネガティブ思考に陥っている零と闇華から向けられる哀れみの視線。
「恭くん、男の子にしか興味ないなら私が大人の女の魅力を教えてあげるね?」
「恭ちゃん、私が見てない間に変わり果てて悲しいよ……」
「恭クンがどんな性癖を持っていても私はずっと側にいるよ?辛かったらいつでも相談してね?」
勘違いしている琴音達から向けられる生暖かい視線。こうしてみると同じ歳組みの零達はネガティブ、琴音達年上組みは勘違いと俺にとってはどっちも面倒だとは思うものの、意見が分かれるのだとある種関心もしてしまう。
「俺は女にしか興味はねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
俺はこの日、拘束され、名前を彫ると迫られた時以上に叫んだと思う。
と、霊圧を分けた後であった俺ホモ疑惑の話は置いとくとしてだ。話はこの日の夜まで飛ぶ。
「今日は大変な一日だった……」
寝る時間になり、布団に入ったはいいが、飛鳥に盛られた薬でグッスリ寝ていた俺は寝付けず、駐車場に寝そべり一人星空を眺めていた。何で一人かって?零達がグッスリ眠ってるからに決まってるだろ! 言わせんな!
『だねぇ~、お母さんも疲れたよ~』
お袋は俺の頭上を漂い、能天気に言う。特に何もしてないのに一体全体何に疲れるって言うんだ?
「疲れたって……特に何もしてないのに何に疲れたってんだよ……」
飛鳥に薬を盛られた時、拘束された俺に対して包丁を手にした零達が迫って来た時。どちらの場面でもお袋は何もしていない。どこに疲れる要素があると言うんだ?
『む~! お母さんだって疲れたんですよ~だ!』
ふん! と別方向を向くお袋。このやり取りもお馴染みになりつつあるから特に言う事はない
「まぁ……何だ?お疲れ、お袋」
特に言う事はないとは言ったが、労いの言葉は別だ。それくらいの言葉はちゃんと言う
『うん!』
我が母ながら単純だ。ふくれっ面がもう明るくなった。
「疲れてるところ悪いんだけどよ、聞いてもいいか?」
男色疑惑を掛けられた後、その後もその疑惑が晴れる事なく突っ込みを入れ続けて聞くのを忘れていたが、俺にはお袋に確認事項がある
『ん~?なに~?』
「俺との繋がりとして零達に霊圧を渡しただろ?」
『うん、そうだねぇ~、渡したねぇ~。それがどうかしたの~?』
「いや、俺の霊圧ってお袋の話じゃ都市一つは軽く消し飛ばせるくらいあるって前に言ってたから零達も同じような事出来んのかなって思って」
実際に試した事も試そうとも思わない。だけど、自分の能力についてちゃんと聞いとくべきだ。それを他人に渡したとなれば尚更
『結論から言うと出来るよ~。ただ、零ちゃん達には霊圧の当て方を教えてないからやろうと思っても出来ないし、出来たとしてもそれは感情が高ぶった時にポッとだけどねぇ~』
お袋の話じゃ零達も同じ事が可能だとの事。しかし、霊圧の当て方を教えてないからやろうと思っても出来ず、出来たとしても感情の高ぶりで突発的にだそうだ。それって危なくね?
「とりあえず零達は都市一つ破壊しかねないってのは理解した」
俺もお袋に教えてもらわなきゃ都市一つ壊滅させていたかもしれない。
『冷静に言ってるけどきょうだって危ない時はあったんだよ~?例えばゴールデンウィークの時とか~』
ゴールデンウィーク。俺の感情に珍しく高ぶりを感じた時だ。力の話をする時は絶対に避けて通れない話。
「えっと、具体的に何がどう危なかったのか聞いてもいいか?」
あの時は親父達をボコし、零達を叩き出す事しか頭になかったというのもあるが、死んだお袋が自分の守護霊になってるだなんて夢にも思わなかった。もちろん、自分に高い霊圧があるだなんて事も
『まずは恭弥に呼ばれてきょうが実家に戻った時だけどね、あの時きょうは由香ちゃん達を無意識のうちに殺してやる。そう思ってたでしょ?』
実家に帰った時、俺は由香達を殴りはした。でも殺してやると思っていたか?と聞かれると答えに困る。彼女らを傷つけて楽しいとは思ってただけだから
「殺してやるって思ってたかどうかは別としてアイツ等を傷つけて楽しいとは思ってた」
俺はあの時に何を思っていたか正直に話す。自分の母親なんだから引きはしても離れていかないと信じて
『そっか……。きょうがどう思っていたにしろあの時に霊圧が上がったのは確かでお母さんが抑えてなかったら今頃はお家どころか熊外……ううん、女将もなくなっていた』
「マジかよ……」
あの時の状態を聞かされ俺は上手い反応が返せなかった。家一つなくなってたならまだしも街二つが消し飛んでいた。そんな事実を聞かされたら誰だって言葉に詰まる
『マジだよ~。まぁ、あの時は恭弥達に非があったから一概にきょうだけを責められないけどね~』
お袋は親父達に非があったからと慰めてくれる。その言葉にほんの少し救われはしたが、大事になっていたらと考えると楽観的にはなれなかった
「あの時は自分の物を取った奴の母親と再婚するだなんて信じられなかったんだよ」
『うん。お母さんもきょうと同じ立場、境遇だったら同じ事したと思う』
今の話であの時はお袋が俺の霊圧を押さえててくれたお陰で家も都市も無事だったと言うのは理解した。が、おかしな点があるのも事実
「そうかい。でもそれって変じゃないか?」
『ん~?何が~?』
「親父達の時で都市が壊滅するくらいの霊圧だったにも関わらず何も起こらなかった。お袋が抑えてたと言えば多分、全ての説明がつくんだろうけどよ、だったら何で神矢想子との初対決の時は揺れが起きたんだ?変じゃないか」
俺の予想じゃ神矢の一件よりも親父達の一件の方が感情は高ぶっていたと思う。だったら親父達の時に揺れが起こり、神矢の時は何も起こらなかったと言われたら納得がいく。逆なのは何でだ?
『別に変じゃないよ~。神矢想子の時はきょうの中に怒りもあったとは思う。同時に理性もね。だからお母さんはあえて霊圧を押さえなかった。きょうが学校を壊滅させないって信じてたから』
お袋よ、信じた結果、怪現象が起きたんですよ?信じてくれるのは嬉しいけどよ、神矢想子の時も抑えてほしかったよ……
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました
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