高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

人は知らず知らずのうちにストレスを感じているようだ

公開日時: 2021年3月15日(月) 22:00
文字数:4,006

 ヤンデレ共の言い争いに巻き込まれたくない一心で談話室へ逃げてきた俺はその後、件のヤンデレ共に見つかり管理人室へ強制連行。誰のものなんだと問いただされたが、法的な事を言って難を逃れ、今に至る。


「はぁ……これからかくれんぼの再会を打診するのかと思うと気が重い……」


 自室は瀧口と愉快な仲間達が占拠してると思った俺は零達にバレぬようこっそり談話室へ来ていた。辺りを見回すと同級生達が楽しそうに雑談をしたり、トランプをしたりと自由な時間を過ごしている。俺は同級生達を眺めながら面倒なかくれんぼを再びするのかと憂鬱だった。問題は教師陣と琴音にどう打診するかだ


「せめて見つけた時の商品がありゃ打診しやすいんだがなぁ……」


 藍達教師陣と琴音はおじゃんになったレクをもう一度やりたいと言えば何とかなる。だが、同級生達はどうだ?かくれんぼだとはいえ、薄暗い建物内を歩き回ろうと言ってOKを出す奴はいない。それなりの対価は必要になってくる。エサで釣る作戦は最初から破堤してるのだ


「商品かぁ……」


 普通高校だったら引率で来ている教師達が担当している教科の単位を商品にすればいいが、星野川高校は通信制高校。レポートさえ提出してれば簡単に単位は取れるし、そのレポートだって穴埋め式。教科書を見て必要な語句を書けばいいという簡単なもの。灰賀女学院は分かんねぇ。生徒の過去から察するに星野川と同じだと思う。単位に商品価値がないのなら別の物を用意すればいいだけの話だが、欲しい物なんて人によって違い用意しようがない


「どうしたものか……」


 考えた結果、何もいい案が浮かばなかった俺は管理人室へ向かった。自分の部屋でもよかったんだが、瀧口と愉快な仲間達による占拠がまだ続いてると思うととても戻る気にはなれなかった




 仕方なしに管理人室へ戻ってきたのだが……


「ご主人様ぁ~、想子は寂しゅうございましたぁ~」

「お兄ちゃぁ~ん、零ね?お兄ちゃんの事だ~い好き!」


 リビングに着くなり神矢想子と零が抱き着いてきた。んで、残りの連中は────


「兄さ~ん、闇華いい子にしてたよ~」

「恭クン、幼馴染の私を置いてどこ行ってたの?」

「恭ちゃん、いけない子。お姉さんを置いて行くなんて……悪い子にはお仕置きが必要かな?」

「恭! 義姉ちゃんはお前が帰ってくるのを待ってたんだゾ!」

「恭くん、お帰り」


 闇華は幼児退行してて飛鳥は俺の幼馴染になってて藍は大人の魅力溢れる大人のお姉さんにジョブチェンジ。由香は義姉のままだが、アホの子系じゃなく、あざとい系に転身。琴音だけはいつも通り。意味が分からない。


「どうなってんだよ……」


 監禁系のホラゲだとキャラ崩壊はよくある展開だ。言明は避けるけど、一瞬の油断が命取りの場所に閉じ込められ、自分の理解を大きく超えた存在に狙われ、醜い人の本性が垣間見える。精神が壊れても無理はない。所謂キャラ崩壊というやつだ。悪い方へのキャラ崩壊じゃないから逃げはしねぇが、頭は痛い。


『あ、あはは……大変な事になっちゃったね~、きょう』

『こればかりは怒る気にならないわ。頑張りなさい、恭様』


 嫉妬で怒り狂うかと思ってた早織と神矢想花もこれには苦笑い。かくれんぼの打診よりも先に零達をいつも通りに戻すのが先になってしまったようだ。


「ご主人様ぁ~、想子に構ってください~」

「お兄ちゃぁ~ん、零も~」

「闇華も~」

「恭クン、私もいいかな……?」

「お姉さんの事はもちろん構うよね?よね?」

「義姉ちゃんもだゾ☆」


 考える前に零達を何とかする方が先かと思い、琴音に目を向けると……


「恭くん……私は構ってくれないんだ……」


 泣いていた。


「マジかぁ……」


 俺は考えるのを止めた。こうなった原因?かくれんぼ再開の打診?どうでもいいや……。零達は人に依存する傾向にあった。かくれんぼだってスクーリングの一環で爺さんからは再開させろと言われてるが、強制ではない。どうとでも言い訳はつく。俺がない頭で考える事など何もない




 管理人室が混沌と化してからしばらく。零達と雑魚寝をしていたが、ふと目を覚まし、スマホで時間を確認すると十三時と表示されていた。腹が減るわけだ。他の生徒が来なかったところを見ると昼食は自分達で何とかしたと見える。俺はというと……


「平和って素晴らしい……」


 現在進行形で現実逃避の真っ最中。最初はリビングだったが、零達が一緒に寝たいと言い出し、寝室に移動したところと寝息を立てているところ以外は進展なく、未だに彼女達は俺にべったり。幽霊二人組も最初と同じく今回ばかりは嫉妬する気も起きないって事で苦笑を浮かべたまま成り行きを見守っていた。今はつかの間の休息。思う存分現実逃避を楽しんでいるのだ


『お疲れ様、きょう』

『とんだ災難だったわね、恭様』


 いつもなら嫉妬で怒り狂うはずの早織と神矢想花が珍しく労いの言葉をかけてくる。明日は槍の雨か?


「珍しいな。二人が怒りもせずに労ってくれるだなんて」

『そりゃ、こうなった原因知ってるからね~、怒りたくても怒れないよ~』

『そうよ、恭様。同情はしても怒りはしないわ』

「原因?幽霊が~とか、霊的な何かが~とか言わないだろうな?」


 俺は早織と神矢想花をジト目で睨んだ。もしそうなら今すぐここを出る。スクーリングに来てまでオカルトチックな騒動には巻き込まれたくない


『言わないよ~。零ちゃん達がこうなったの原因はこの館そのものなんだから』

『正確には長時間閉所にいた弊害ね』


 この館が原因?長時間閉所にいた弊害?二人が何を言ってるのか理解出来ない


「詳しく話を聞こうか」

『詳しくって言っても話せる事は特にないんだけど、そうだねぇ~、きょうに解りやすく言うなら監禁系ホラゲのテンプレが起きたってところかな~』

『もっと言うなら仲間が次々と徐々に狂い始めたってところね』


 二人の言葉で俺は零達がこうなった原因を何となくだが察してしまった。若干ホラゲと状況は異なるがな


「要するに怖いと思う場所に長時間いて感じてたストレスが爆発したって事か?」

『そだよ~。きょうは引きこもりだったから閉所にも暗闇にも慣れてるだろうけど~、零ちゃん達や他の子は違ったみたいだね~』

『恭様達が寝てる間に見てきたけど、瀧口君達も似たり寄ったりだったわ』


 早織と神矢想花の言ってる事は理解出来る。意識してるしてないは置いとくとしてだ、薄暗く窓もない空間に閉じ込められたら期間関係なしに精神がおかしくなる。閉じ込められただけならまだしも同級生達は教師が神隠しに近い形で姿を消すという一種の恐怖体験をし、教師陣や琴音は生徒達を守らなきゃと気を張っていたに違いない。ストレスしかない空間にずっといたら精神が狂っても不思議じゃない。ただ、キャラが崩壊するほどかと聞かれれば俺は違うと思う


「出ようと思ったら出られるだろ。それに、まだ三日目だぞ?明日には家へ帰れるのにどうして……」


 このスクーリングは三泊四日。今日は三日目で明日には帰れるというのにどうしてだ?


『確かにきょうの言うように出ようと思えば出られる』

「だったら────」

『けど、連絡手段を取り上げられてる状態で外に出ようと思う?』

「え?スマホって返却されてなかったのか?」

『うん。きょうのスマホは藍ちゃんが持ってたけど、他の子達のはまだ返されてないよ?』

『付け加えるなら他の子達のスマホはこのベッドの下よ』


 どこから突っ込んだらいいんだ……。スマホが返却されてないところか?隠し場所が超古典的なところか?


「どこから突っ込めばいいんだよ……。同級生連中がおかしくなるのは理解出来た。だが、教師陣や琴音はいつでも外界との連絡可能だろ?おかしくなる意味が理解出来ん」


 閉所に閉じ込められ、外界と連絡する手段がない同級生達がおかしくなるのは理解出来る。だが、いつでも外界と連絡可能な教師陣や琴音がおかしくなる意味が解からん。


『そんなの抵抗するよりも身を任せた方が楽だからに決まってるじゃん。人間は楽な道を選ぶ生き物だよ~?おかしくなった生徒を元に戻すより自分達も一緒になっておかしくなった方が楽だから藍ちゃんや琴音ちゃんもおかしくなったんだよ~』

『生徒の引率────ましてや普通の生徒より一癖も二癖もある子達の引率よ?ストレスが溜まらないわけないでしょ』


 関わりこそ少ないが俺もその部分は認める。同じクラスの山田なんて大人しく椅子に座ってられない。自分の気に入らない事があればすぐに『この学校辞めたいんです』と言う。俺は彼がごね始めたらうるせぇなくらいにしか思わないが、彼とそれを止める教師はそうじゃない。本人は『またやっちゃった……』と内心では落ち込んでるだろうし、教師はそういう子だと頭では理解してても内心じゃ『またコイツかよ……』と思ってるかもしれない。他にも面倒な奴は大勢いる。星野川高校はそういった面倒な連中の集まり。まともに見える奴でも何かしらは抱えているのだ。女学院の方は知らんけど


「今までの話を纏めるとだ、生徒も教師も溜まりに溜まったストレスが爆発した結果、おかしくなったって事でいいか?」

『それでいいよ。正直、星野川高校限定で言えばいつかは爆発すると思ってたしね』

『女学院の方も同じようなものだと思うわ。零さん達を見てたら解るでしょ?』

「ああ、嫌って程にな」


 灰賀女学院の方は零と闇華を見てると解かる。星野川高校とは違い、女学院の方は心の闇が深そうな連中が多い。パッと見は大人しそうだったり人当りが良さそうでも心の中はドロドロなのかもしれない。もしかしたら零達と同じく人への依存心が強いのかもしれない。教師連中は過去が過去なだけに深く踏み込めず、生徒連中は我慢を強いられて生きてきただろう奴が多い。互いに気を使ってきたのだとしたらいつか抱えていたものが爆発する。それが今だってだけで。


「恨むぞ……爺さん……」


 俺は天井に向かって爺さんへの恨みを溜息と共に吐き出した

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