高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

heightの正体が明らかにってマジで声優だとは思わなかった

公開日時: 2021年2月6日(土) 23:49
文字数:4,144

「heightの奴、本当に来るのかよ……」


 heightに『リゾートホテルに来ているのならそこの玄関ロビーに来てくれ』とメッセを飛ばし、五分と経たずに『オッケー! 玄関ロビーだね! すぐ行くよ!』と返信があり、俺はスマホと貴重品だけ持って部屋から飛び出し、待ち合わせ場所に来ている。尤も、heightが素直にここへ来る保証はなく、下手したら来ないという可能性もある


「そもそもが彼女だか彼が本当に声優やってるのかすら怪しい……」


 誰もいないロビーで一人ぼやく。俺のグレーもそうだけどheightというはあくまでもスペースウォーというゲーム内の名前でキャラだって同じだ。画面内で行動しているのが女だったとしてもそれを操作している人間がキャラの性別と直結しているとは限らない。世の中にはネカマ、ネナベというものが存在し、女キャラを動かし、チャット上では女そのものだったとしてもリアルでは男。ネナベはその逆バージョンで────って、今はそんな事どうでもいいか


「そもそもネトゲで知り合っただけの奴に守ってほしいとか言うなよな……」


 本気にしたわけじゃない。ただ、文章の感じからマジでヤバいんじゃね?と思っただけの話。それだけだ


「はぁ……、それにしても遅いな……」


 女の準備には時間が掛かる。頭では理解しているけど、実際に待たされると文句の一つも言いたくなる


「コンビニで時間潰すか」


 今の俺にとってコンビニとは砂漠のオアシス、人類の生み出した英知と言っても過言じゃないくらい有難いものだ。まさかこんな朝早くに目が覚める事になるとも人と待ち合わせをする事になるとも思ってなかったからな。それに、heightはまだ来なさそうだし


「そうと決まればコンビニ行って十分後くらいに戻ってくればいいだろ」


 いつ来るかも分からないheightを待ってるのに飽きた俺は踵を返しコンビニへ行こうとした時だった


「え、えっと、ぐ、グレー?」


 背後から俺のプレイヤーネームを呼ぶ女性の声がした


「はい?」


 声のした方へ振り向くとそこにいたのは────────


「や、やっほー……」


 盃屋真央と同等の人気を誇る女性声優の高多茜たかだあかねその人だった


「や、やっほー……」


 盃屋真央と同じ人気声優の登場に思わず彼女の真似をしてしまった俺だが、この展開は予想してなかった


「え、えっと、キミがグレーであってるのかな?」


 おずおずと俺がグレーである事を確認してくる高多茜の顔からは不安の表情が浮かぶが、俺はそれどころじゃなく、中坊の時から一緒に遊んできた親しいネトゲ仲間がまさかの人気声優という事実に内心かなり戸惑っている。


「は、はい、俺がグレーですけど……」


 目の前にいる人気声優の口から自身のプレイヤーネームが飛び出してくるみょうちきりんな展開に戸惑いつつ、自分がグレーである事を明かす。ラノベとかじゃネトゲのオフ会に参加したギルメンが主人公を除き全員女の子でしたという展開にそんなご都合主義な展開あるわけないと突っ込みを入れていた。まさか自分がそんな展開に見舞われるとは今の今まで思ってすらいなかったけど


「よ、よかった……」


 緊張の糸が解けたのかホッと胸を撫で下ろす高多茜に俺は何がどうよかったのかと問いかけたかったが、それをここで聞くほど俺は空気を読めない人間じゃなく、喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ


「一応、リアルで会うのは初めてなんで自己紹介から始めませんか?」


 とは言っても俺は彼女を知ってる。さっきも言った通り高多茜は盃屋真央と同等の人気声優でおまけに某何でも教えてくれる先生に盃屋さんの名前を入れて検索し、下にスクロールしたところにある検索結果画面にて検索キーワードや表示ページに関連性の高い検索キーワードが表示される機能で候補に彼女の名前と顔写真が表示され、嫌でも目に入るからな。高多茜と入れて検索したかは聞かないでくれ


「そ、そうだね。じゃあ、改めまして、高多茜です。スペースウォーではheightって名前でゲームをさせて頂いてます」


 そう言って頭を下げる彼女からはheightっぽい印象は微塵も感じられず、どちらかと言うと清楚な大人の女性という印象の方が強かった。ゲームとリアルは別だからその辺は割り切らなきゃいけないんだろうけど、彼女の口からグレーという単語を聞くとどうしてもheightを意識してしまう


「は、灰賀恭です。ゲーム内じゃグレーって名前でプレイさせて頂いてます」


 高多さんに倣い俺も頭を下げる。いくらheightとグレーが親しい仲でも高多茜と灰賀恭は初対面だから必要最低限の礼儀というのは必要だ


「「…………」」


 自己紹介が済み、和気あいあいとした雰囲気とはならず、俺達の間には気まずい沈黙が流れる。俺に関して言えばheightとは親し気に話せるけど、高多茜とはそうもいかない。彼女は年上で俺のような一般高校生からすると雲の上にいる存在。ゲーム内の感じをそのままというわけにはいかない


「えっと、グレー……」


 気まずい沈黙が流れる中、意外な事に口を開いたのは高多さんの方だった。


「な、何でございましょうか?」


 未だに高多茜=heightという方程式が成り立たない俺は思わず変な返し方をしてしまう。こればかりは好き好んでした事ではなく、言うならば不慮の事故だ。使い方があってるのかどうかは知らんけど、とにかく!俺の望んだ返事ではないとだけ言っておこう


「ぷっ、何それ?」


 そんな俺の返し方がツボに入ったのか、高多さんが噴き出す。これで少しはこの何とも言えない空気が変わればいいけど……、実際は一介の高校生と人気声優の密会にも似た逢瀬おうせだ。彼女はともかく、俺の方はどうしても緊張してしまう


「何って聞かれたって俺も分からないですよ。ついでに言うなら未だに高多さんがheightだって事も信じられないですし」


 高多さんがheightだなんて未だに信じられない。それは彼女も同じだと言われればそこまでなのだが、ネットで知り合い、実際に会うというのは相当のリスクを伴う。何度も言っているようにネトゲならキャラの性別が現実の性別とは限らないというのが一つ。もう一つはゲーム上では下心などない素振りを見せても対面すると実は下心アリアリでしたって事がある。以上の事からゲーム上でどんなに親しくてもリアルの対面となると相当リスキーなのだ


「そうだよね……私はキミがグレーだって一目見た時から分かったし、信じたんだけどな……」


 ゲームしてる時もだけど、見ず知らずや初対面の人間が言う事を簡単に信じるなよな……。


「何で一目見て俺がグレーだって分かった上に信じたんですか?もしかしたら無関係な人間かもしれないのに」

「私の願望って言ったら変だけど、最初にキミを見た時にこの人がグレーだったらいいな、この人なら信じられるし信じたいって思ったからだよ」


 俺のどこにこの人なら信じられるし信じたいと思える要素があるのやら……。何はともあれ疑ってばかりじゃ話は進まない。とりあえずグレーとheightしか知らない話を持ち出してみるか


「そりゃどうも。ところでスペースウォーでも言ってましたけど、盃屋さんと同じ状況になったら守ってくれるかって聞いたのはどうしてですか?」


 高多茜が本当にheightならこの話を知らないわけがない。彼女はどう返す?


「言葉通りだよ。って言っても灰賀君には何の事やらって感じだよね……」

「それはそうですよ。貴女の置かれている状況を何一つ聞いてないんですから」

「にゃはは……、おっしゃる通りです……」


 高多さんは頭を掻いて苦笑いを浮かべる。heightの時もリアルでも“にゃはは”って笑い方は変わらないのかよ


「とりあえず移動します?ここじゃなんですし」


 早朝とはいえここは玄関ロビー。重たい話をされるのならその場所はここじゃない方が絶対にいい。問題はどこにするかだ


「そうしよっか。でも、その前に……」

「その前に?」

「敬語は止めてよ。スペースウォーの時みたいに砕けた感じで接してくれないかな?heightの時みたいにさ、ね?グレー」


 ネットとリアルは別なんだけどなぁ……、本人がそう言うならいいか


「分かり────分かったよ」

「うん!」

「んで?この後の話はどこでするんだ?」


 話し方や接し方よりも大事な事────それはこの後の話をどこでするかだ。俺の部屋には飛鳥がいるから無理でカフェやレストランは営業してないから言うまでもなく無理、コンビニは論外。となると残る選択肢は高多さんの部屋のみ……


「えっと、出来る事ならグレーの部屋に行きたいんだけど……ダメ……かな……?」


 年上の女性────それも人気声優に上目遣いで見つめられたらダメだと言える男はいない。俺もこの仕草にはグッとくる。しかし、俺の部屋には飛鳥がいる。彼女に見つかったら何を言われるか分かったものじゃない。それを除いても監視用モニターがあり、このホテル内全域の様子を随時チェック可能。当然、高多さんの部屋も例外じゃない。そうした面からも俺の部屋は無理だ


「俺の部屋に来るのは構わないけどよ、他の人に見つかって困るのは高多さんの方じゃないのか?」


 声優という立場上、異性との付き合いは考えなきゃならない。同業者に見つかったらどうなるかは分からず、何とも言えない部分はあり、具体的に断言は出来ないにしろこのホテルで働く一般人に見つかったらと思うと悪い展開になる未来しか見えない。特に男の部屋に行っただなんて知られてみろ、同業者の中にも騒ぎ立てる奴の一人や二人いるだろう。と、なると残る選択肢は一つ……


「た、確かに……私がグレーの部屋に行くと社長や他の声優仲間が騒いじゃうか……」


 顎に手をやり、高多さんは唸る


「高多さんが俺の部屋に来て騒がれるなら俺が高多さんの部屋に行けばいい。万が一見つかっても適当に言い訳すりゃいいだけだからな」


 俺の場合は霊圧ぶつけて適当に黙らせるだけだから楽だ。高多さんの部屋に行った理由だってなぁなぁにすればいいしな


「ぐ、グレーがそう言うなら私は構わないよ」

「なら決まりだ」


 高多さんの部屋で話をする事に落ち着き、彼女の部屋へ移動する事に。これからされる話の内容は不明だけど、粗方想像はつく。人気声優なら一度は通るであろう道の話だ

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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