高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

夢の中に入る方法は簡単だった

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:35
文字数:4,283

『どうしたものか……』


 俺への思いと決意を一通り口にした由香は再び泣き出した。現状慰める手段はなく、ただ黙って見ているしか出来ない。それが歯がゆいか?と聞かれると答えに困る。


「恭……恭ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」


 俺の名前を呼びながらベッドに顔を埋め泣き続ける由香。本当にどうしましょうかねぇ……


『とりあえず由香は後回しにするか』


 慰める手段を持たない俺は由香を後回しにし、部屋を出て親父の寝室へ向かった。


『親父のヤツ、夏希さんと一緒に寝てんのかな?』


 親父の寝室へ向かう途中で俺は小学生の頃を思い出していた。あの頃はすでにお袋と親父は別々の寝室で寝ていた。つってもお袋の寝室は俺の部屋だったりする。お袋曰くむさ苦しい親父と寝るよりも俺と寝ていた方がよく眠れるらしい。それに、親父も親父で仕事で疲れてるのに毎晩毎晩プロレス技を掛けられてくない。別々で寝てた方が平和だと言っていた。うん、夫婦って不思議だ


『お袋とはよく分からん夫婦生活だったけどさすがに夏希さんとはちゃんとした夫婦生活送ってるだろ』


 俺はお袋にプロレス技を掛けられた事ないから親父の言ってる事は全く理解出来なかった。まぁ、気か付けば寝間着がはだけていて首筋に鬱血の跡があった。なんてのは何回かあったけどな


『とりあえず行ってみるか』


 こう言っちゃなんだがお袋と夏希さんは違う。喋り方から顔つき、考え方に至るまで全てが違う。当然、寝相もだ。だから一緒に寝てプロレス技を掛けられるだなんてのは早々ないだろう。



 なんて思っていた時期が俺にもあった。配偶者が違えば生活が改善される。その通りだと思う。人にはそれぞれ生活リズムというものがあり、結婚とはその生活リズムを合わせる事に等しいと俺は思う。なんだけど、これはなぁ……


「恭君……」

「ふがっ! ほへはほふはふぁい!」


 親父の寝室に入ると夏希さんの豊満な胸で窒息しかけている親父がいた。これ、なんてラブコメ?


「ふぁふひ! ふぁふぁふぇ! ふぉへはほふふぁふぁい!」


 やっべ、親父が何て言ってるかわかんねーや


『とりあえず、言えるのは由香よりも酷い状況だって事だな』


 未だ夏希さんに抱きしめられながら何かを必死に訴えている親父だが、これはこのまま放置しよう。俺にはどうにも出来ん



 親父を見捨てた俺は寝室を出た。こんな時だけ幽霊で助かったと心の底からそう思う。


『きょ~う~!』

『oh』


 寝室を出てビックリ!そこには笑顔を張り付けたお袋がいた


『きょ~う~! な~んでお母さんに黙ってこんなところにいるのかな~?』


 そう言うお袋の顔こそ笑顔だが、オーラは怒気を含んでいる。人ってガチで怒ると笑顔が顔に張り付くんだな。初めて知った


『な、何でって、お、親父達の様子を見に来たからに決まってるだろ?』

『それでも一言声掛けてくれてもいいでしょ~?な~に~?この後エッチなお店でも行くつもりだったとか~?家にはお母さんを始めとする魅力的な女の子がたくさんいるのに?』


 お袋、零を始めとするならまだしも何で自分を始めとしたんだ?それに、アンタは女の子って歳じゃないだろ?


『んなとこ行くか! 幽霊の身で行っても空しいだけだ!』


 何が悲しくて幽霊の身でそんな店に行かなきゃならないんだか……お袋の想像力というか、妄想力には呆れる


『ふ~ん、幽霊の身じゃなかったら行くんだ~?』

『揚げ足を取るな! 俺の歳考えろ! 後五年は早いだろ!』


 お袋の言うエッチなお店とは俗に言うキャバクラの類なのだが、未成年である俺は入った瞬間叩き出されるのは言うまでもない。中には歳誤魔化して行ってる奴もいるだろうけど、そんな事をしてみろ。闇華に問いただされ、零に怒鳴られ、琴音、東城先生、飛鳥には滾々こんこんと頭を説教をされる未来しか見えない。


『そう言うって事は五年経ったら行くんだ~?』


 変だな……年齢的な話をしただけなのに五年後に俺がキャバクラに行くって話になってるぞ?


『行きません! ああいう店は俺みたいな不愛想な奴じゃなくて爺さんみたいな見境なしにフラグを立てる男が行くもんなんだよ! 俺はただ気になる事があったから戻って来ただけだ! それに、声を掛けようとしてもお袋いなかっただろ?どこに行ってたんだよ?』


 家を出る時にお袋はいなかった。生身じゃないから書置きも出来ず、結果として黙って出てきてしまった。そこは素直に悪いと思う


『お母さんは今の家がどんな感じなのかな?って徘徊してたんだよ~。それで戻ったらきょうがいなかったから霊圧辿ってここに来たの~』


 霊圧って人探せるんだな


『さいですか』

『うん~。それより、きょうの気になる事って?』

『親父達がちゃんと寝れているかどうかだよ』


 零達を放置して一人で来た時に見た親父達はとてもじゃないが見ていられなかった。自分を殴った挙句、半ば絶縁を言い渡したにも関わらず俺の心配をしていた。そんな姿を平然と見てられるほど俺は大人でも鬼畜でもない


『ふ~ん、ほぼ絶縁状態だったのに恭弥達の事が気になったんだ~。きょうは優しいね~』


 優しい……そんなんじゃない。ただあのまま苦悩され、泣かれていても夢見が悪いだけだ


『別にそんなんじゃねーよ。ただ夢見が悪いなと思っただけだ』

『そう。それで?改めて様子を見に来てどうだった?』


 優しく微笑むお袋は全てお見通しと言った感じだ。全く、この人には……母親には敵わない


『どうだったって由香は泣き続けていただけだし、親父は夏希さんの胸で窒息しかけていた。それだけだ』


 由香の方は出来る事なら慰めたいと思った。親父は……女の胸で死ねるなら本望だろう


『そう。ねぇ、きょう』

『何だよ?』

『お母さんと再会した日の事、覚えてる?』


 唐突に何を言い出すんだ?お袋と再会した日?そんなの忘れるワケがない


『ああ。夜中にトイレに立った俺の背後からいきなり話しかけてきたんだよな?それがどうかしたのか?』


 お袋と再会した日はちょうど神矢のせいで飛鳥の精神が子供になっていた時期だ。忘れられてくても忘れられない


『あの時さ、お母さんいきなりきょうに話しかけたよね?』

『ああ、最初は爺さんのイタズラかと思ったぞ……』


 あの時は本当に爺さんのイタズラかと思ったが、そんな話をして何になる?お袋が何を言いたいのか分からない


『あ、あはは……。それでね、きょう』

『何だよ』

『恭弥は放っておくとして、由香ちゃんとお話出来るって言ったらどうする?』

『は?』


 由香と話が出来る?お袋は何を言っているんだ?


『だ~か~ら、由香ちゃんとお話出来るって言ったらどうするって言ってるの!』

『いや、言ってる事は解かる。俺が解からないのは大した霊圧もない由香と話が出来るってところだ』


 俺にはお袋みたいな芸当は出来ない。お袋曰く人より霊圧が高いらしいが、その使い方だって碌に知らない俺が由香と話が出来る?何かの冗談だろ?


『あっ、そっか! きょうにはまだ説明してなかったね! お母さんウッカリ!』


 お袋、それ割と重要だからな?


『ウッカリじゃ済まないような気もしなくはないが……とりあえず話を続けてもらっていいか?』


 お袋のテンションに付き合っていたら精神的に持たない


『うん! でね?でね?由香ちゃんとお話出来るって事なんだけど、やり方は至ってシンプル! 寝ている由香ちゃんの頭に触れるだけ!』

『やり方はシンプル且つ簡単だが、それをした結果どうなるんだ?今の話じゃ由香と話が出来る気がしないのだが……』


 今の話を聞いて手放しで喜べる奴はいないだろう。何しろ幽霊すら見た事がないであろう生身の人間と会話する方法を聞いて返って来た答えがこんなのじゃどんなに頭がいい奴だって理解不能だ


『これをした結果、由香ちゃんの夢の中へ入れます!』


 勢いよく手を挙げるお袋の姿を見て思う。最初に結論から言えと


『それを先に言ってほしかった……』

『とにかく! 由香ちゃんの部屋へレッツゴー!』

『へいへい』


 張り切って二階へ上がるお袋の後に続き俺は由香の部屋へ向かった。



 部屋の前に着くと嗚咽どころか物音一つしない。さすがにもう寝てるか


『静かだね』

『だな。さすがにもう寝てるんだろ』


 今が何時かは分からない。普通に過ごしていれば明日も学校だから寝ていても何ら不思議はなく、静かなのが当たり前だ


『じゃあ、張り切って行ってみよっか!』

『はいはい』


 本来なら声のボリュームを落とせと咎めるところだが、今の俺達は幽霊。どれだけ大声を出そうと他人に迷惑を掛ける心配など皆無。こういう時に幽霊でよかったと思う


「恭……」


 部屋に入ると案の定由香は寝ていたのだが、目元を見ると薄っすら涙の跡があった


『……………』


 そんな由香をお袋は顔から表情を消し、無言で見つめていた。それに同調してなのか、雰囲気も冷たい物になっていたのは気のせいか?


『お袋?』

『────!? さ、さっさと始めよっか!』


 一瞬ハッとし、いつもの表情、いつもの口調に戻るお袋だが、俺はさっきの由香を見つめていた時の表情が頭から離れない。


『あ、ああ、それよりもさっきの─────』

『さあ! 早く終わらせて早く帰ろー! おー!』


 取り繕うような感じで元気に振る舞ってどうしたんだ?


『そ、そうだな、早いとこ終わらせて帰るとするか』


 俺は何も聞かず、教えられた通り由香の頭に触れた。何で無表情で見つめていたかは帰る時に聞けばいい


『あっ、きょう』

『なん────』


 お袋に呼ばれたが、返事をする前に何かに吸い込まれる感覚に陥り、気が付いたら……


『何だここは?』


 よく知っている場所……実家俺の家のリビングにいた。だが、大きな違いがあった。その一つ目というのが……


『何だってここはお前の家だろ?何だ恭、最近彼女が出来てボケてきたのか?』


 目の前で新聞を読んでいる親父だ。それだけじゃない、現在彼女いない歴=年齢の俺に彼女が出来たと言っている。何なんだ?


『俺に彼女なんていねぇよ。つか、ほぼ絶縁状態だったのによく気安く話しかけられるよな』

『は?俺とお前が絶縁?恭、お前本格的にボケたか?』


 何言ってんだ?コイツ?と言いたげな目で俺を見る親父。そっちこそ何言ってんだ?


『ボケてねぇ! 俺はアンタをゴールデンウィーク中に殴っただろ! 過程は飛ばすが、結果的に完全にじゃないが、ほぼ絶縁状態になっただろ!』


 俺の言葉に親父は心底理解出来ないといった表情になり、顎に手を当てて考える素振りを見せた。そして────────


『ゴールデンウィーク?ああ、俺と夏希が再婚するって伝えてそこから恭と由香ちゃんの交際がスタートしたんだよな?』


 みょうちきりんな事を言い出した。


『は?交際?』


 この時、俺は夢の中じゃなく並行世界パラレルワールドに来たんじゃないかと本気で思った

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