高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

爺さんは勝手に入居者を増やしていた

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:27
更新日時: 2021年3月6日(土) 20:06
文字数:3,917

「じゃあ、手っ取り早くここに来た理由から話してもらおうか」


 爺さんと共に外へ出てきた俺は早速本題を切り出した。四月の終わり。限りなく五月に近い時期とはいえ外はまだ寒い。こういう話は手っ取り早く済ますに限る


「祖父との語らいをせずに本題とは……恭は相変わらずせっかちじゃのう」

「爺さんと語らいを始めると長くなる。それに、語らいとか言って口から出るのは下ネタばかり。だったら聞きたい事を聞いてからの方がいいだろ」


 本題を聞く前に疲れたくないというのが本音だが、それは黙っとくか


「せっかく星が綺麗じゃというのに……まぁいいわい。儂が来た理由を話すとするかのう」

「そうしてくれ。来る前は迎えを寄越すとか言ってたクセにそれが急に変更になったんだ。何かしらの理由があるんだろ?」

「まぁの。空き店舗の話をするためというのもあるのじゃが、本題は恭。お前、ゴールデンウィークになったら一度実家に帰れと言いに来たのじゃ」


 ゴールデンウィーク? 夏休みじゃなくて?


「ゴールデンウィーク? 夏休みじゃなくてか?」

「ああ。ゴールデンウィークじゃ。お前の父から話があると言っておってな」


 親父が話? 何だ?


「親父が俺に何の話があるのかは知らんが何でそれを爺さんが? 親父が直接俺に伝えればいいだろうに」

「まぁ確かに恭の言う通りじゃな」

「だろ? 余程の事がない限り話を聞きたくないだなんて我儘言う年でもねーし」


 いくら親の保護が必要な年齢を脱していないとはいえ物の分別は付いてる


「まぁ……なんじゃ。お前の親父ではなく儂から伝えた方がいい事もある」

「そういうもんか?」

「そういうもんじゃ」


 親父が何でゴールデンウィークに帰って来いと言ってるのかは謎だ。爺さんにその理由を聞いたところで教えてはくれないだろう


「とりあえずゴールデンウィークに一度実家に帰ればいいってのは分かった。次、失業者の仕事内容についてだ」


 普通の失業者達だったら俺は仕事の内容を聞くだなんてしない。失業者達の中に飛鳥の父親がいる。万が一の事を考えて失業者達の仕事内容については俺も聞いておく必要がある


「専属のトラックドライバーを雇ったんじゃからトラックドライバーに決まっておろう。メインとなる仕事はここへものを運ぶ仕事じゃがな」


 ここにものを運搬するだけの簡単なお仕事だったら雇うのは一人でよくない?何で複数っつーか、会社一つ分の人数が必要なんだよ?


「だったら一人雇うだけでよくない?体調を崩したとか諸々考えても二人でいいはずだろ?何だって会社一つ分の人数を雇ったんだよ?」

「バカタレ。ここに届けるものを積み、それを運搬し、運搬してきたものをここに運び入れる。軽いものじゃったら一人でも可能じゃろうが、重いものじゃったら一人では無理じゃろう。それに、車の運転というのは恭が思っとる以上に疲れるものなのじゃ。複数雇うのは当たり前の事じゃ」


 俺は車の運転を甘く見ていた。考えてみればそうだ。車の運転は常に安全を気にしながらするもので当然、神経を使う。それが運搬となると尚更だ


「俺が悪かった。確かに爺さんの言う通りだったわ」

「分かればよい」


 いつも口を開けば下ネタしか言わない爺さんだが、こういう時ばかりは自分の倍生きてきて経験も豊富だと感じさせられてしまう


「んじゃ、最後、飛鳥達の住む場所はどうするんだ?アイツ等は支え合える人がいる以外は零とほぼ同じと言っても過言ではない状況だぞ?」


 最初に会った時の零は家族に捨てられたと言っても過言じゃない家なき子。その一方で飛鳥は家族という支え合える存在がある家なき子。同じ家なき子でも支え合える人がいるのといないのじゃ大分違う


「ふむ……言われてみれば零ちゃんと飛鳥ちゃんの境遇は家族の有無を除けば似とるかもしれん。今の状況を考えると恭が心配するのも解かる。まして、明日から飛鳥ちゃんと他二名が同居人としてここに住むだなんて口が裂けても言えんのう」


 今この爺さんはなっつった?明日から?同居人が増える?しかも三人?


「おい、爺さん」

「何じゃ?」

「同居人が何人増えるか言ってもらっていいか?」


 同居人が増えるのは別に構わない。最近だと男女比がおかしいからそろそろ男子の同居人も欲しいと思っていたところだ。その前に、同居人が増える事自体聞いてないぞ


「恭、人の話はちゃんと聞くもんじゃ! ここに住む同居人は三人! 一人は飛鳥ちゃん! 後の二人は中学三年生の……」

「中学三年生の?」

「中学三年生の男の娘と女の子じゃ!」


 男子キター!! これで女ばかりの生活から解放される!


「ここに来てようやく男の同居人が!! これで女ばかりの生活とはおさらば出来る! やっほーい!」


 思い起こせば零を拾ってからというもの拾うのはいつも女。気が付けば家は男俺一人という状況だった。が!! それも終わりの時が来たようだ


「男の同居人がそんなに嬉しいか? 恭よ」

「当たり前だ! 今まで女に囲まれた生活だったからな! たまには男同士でしか出来ない話とかしたいと思ってたんだよ!」

「そうかそうか。同居人が増えるのは嬉しいか、恭」

「ああ! もちろん!」

「じゃあ、仲良くするとよい。特に男の娘とはな」


 男の子の言い方に問題があるような気がしなくもないが、この際そんな事はどうでもよかった


「ああ! そうさせてもらう。んじゃ、話も終わったから戻るぞ。爺さん」

「戻る前に恭、一ついいかのう?」


 爺さんは俺の質問に答えてくれたんだ。一つくらいなら爺さんの質問に答えてやろう


「何だよ?」

「お前、何で零ちゃん達を何も言わずに住まわせたんじゃ?」


 爺さんから零達を住まわせた理由を聞かれるとは思わなかった


「別に理由なんてねーよ。強いて言うなら気まぐれだ」

「気まぐれか……」

「ああ。ただの気まぐれだ。だから零達が出て行くと言ったら俺はそれを引き留めはしない。話がそれだけならさっさと戻るぞ」

「そうじゃのう」


 爺さんとの話が終わり、俺達は家の中へ




『ただの気まぐれだ』


 恭の答えは儂が期待したものとは大きく違っておった……。零ちゃん達に何故恭と一緒に暮らしておるのかと問うたら『恭は会ったばかりの自分達を何も言わずに受け入れてくれた。そんな恭と一緒にいたいから』と言っていた。てっきり恭も同じ思いだと思っとったのじゃが……


「恭、零ちゃん達はお前に必要とされたがっとるぞ……? お前はどうじゃ?」


 恭の背中に問うてみたものの、その背中は何も答えてはくれんかった。




 爺さんとの話し合いがあった翌日である今日。俺達は爺さんの見送りで一階中央玄関まで来ていた。


「恭、零ちゃん達と仲良くな」

「ああ。つか、マイクロバス使って来てたんだな」


 昨日は飛鳥を呼びに来た時以外一階には来ておらず、外にも出てない。爺さんがマイクロバスで来てただなんて知らなかったぞ


「まぁの。失業者達は儂が預かると決めて来てた。その者達が車を持ってない事くらい予想出来ないようじゃ不動産会社の会長は務まらんわい! それにじゃ、そろそろ……」

「そろそろ? そろそろ何だよ?」

「アレじゃ」


 爺さんが指さした方向を見ると九台の大型バスと一台のマイクロバスが入って来ていた


「何だ? あれ?」

「何って大型バスじゃが?」

「んな事聞いてんじゃねーよ! 何でそんなモンがここに入って来たのか聞いてんだよ!」

「そんなの失業者達とその家族を新たな住まいに運ぶために儂が呼んだからに決まっておろう!」


 いくら何でもやり過ぎじゃね? 九台も大型バス必要か?


「いくら何でもやり過ぎだろ! せめてマイクロバス五台、大型バス五台でいいだろ!」


 大型バスが九台も走ってるところなんて俺は高速道路でしか見た事ないぞ……


「使用人達もおるのじゃ! 大型バス九台くらいでちょうどいいんじゃ!」

「んなモン知らねーよ! 大体! 会社のトップの移動がマイクロバス、雇ったばかりの連中や使用人達が大型バスでいいのかよ?」


 爺さんはこんなんでも会社のトップだ。社員達に威厳を示す必要がある。そんな人間がマイクロバスで移動だなんて社員達に示しが付かないんじゃないのか?特に飛鳥の家族を始めとする新人達には


「馬鹿者! 乗り物に会社のトップも新人もあるか! 威厳なんてものは場数を踏めば自ずと付くわい! それにじゃ! 社員達が儂を信じて付いてきてくれればそれでよい!」

「あー! そうかよ!」


 会社のトップが考える事はよく分らない。爺さんも爺さんの友達もな


「そうじゃよ! それよりも恭!」

「何だよ?」

「儂もう帰りたい」


 知らねぇよ! 勝手に帰れよ


「好きにしてくれ……俺は部屋に戻る」


 我儘とまではいかないものの、自由人な爺さんに付いて行けず俺は部屋に戻ろうとした


「恭ちゃん、最後までお見送りしようよ……」


 東城先生が部屋に戻ろうとした俺を引き留めてきた。この人は良かれと思っての行動だろうが俺と爺さんの別れはいつもこんな感じだ


「藍ちゃんは知らないと思うけど、俺と爺さんの別れはいつもこんな感じだ。これが普通なんだよ」

「恭ちゃんがそう思っていてもお爺さんがそう思ってないかもしれないよ?」


 東城先生の言ってる事は完全に意見の押し付けだ。当事者同士でそれが成立しているのに第三者が横槍を入れて今まで成立していたものを乱す。質が悪い


「どう思っているかは爺さんに聞いてくれ。俺がどうこう言えた事じゃねーからよ」

「でも、それじゃあ─────」

「よいよい。恭と儂の別れはいつもこんな感じじゃからのう」


 東城先生が何かを言いかけたところで爺さんがその言葉を遮った。珍しい事もあるんだな


「だ、そうだ。俺と爺さんはいつもこんな感じだ。疲れたからもう部屋に戻る。爺さん、久々に楽しかったよ」

「ああ、儂も孫と久々に会えて楽しかったぞ」


 今度こそ俺は爺さんに別れを告げ、部屋に戻った


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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