高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

今日の俺は相当疲れていたらしい

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:30
更新日時: 2021年3月19日(金) 02:05
文字数:3,755

「何でたかがパートに正社員が注意出来ないような環境になってるんですかねぇ……」


 神矢想子の雇用形態を聞き、東城先生やセンター長である武田先生が止められない。呆れてものも言えない


「仕方ないでしょ。注意したら教員歴の長さを盾に一言った事が十にも二十にも倍になって帰ってくるんだから」


 東城先生の主張は高校生の俺からすると言い訳にすらなってない。大人なんだから自分達はちゃんと雇われている身。神矢は猫の手であり、臨時であると理解させるという事が大事なんじゃないのかと思う


「だからってなぁ……」


 今回ばかりは辛口コメントをさせてもらうが、今の東城先生達は情けない。この一言に尽きる。先輩風吹かせてるからなんだってんだ


「ねー、ねー、恭お兄ちゃんと藍お姉ちゃんはさっきから何のおはなししてるの? あすかも仲間に入れてよ!」


 俺達が長く話していたせいで飛鳥は仲間外れにされていると思ったのか頬をリスのように膨らませ、こちらを睨んでいた


「あー……飛鳥は本当に可愛いなって藍お姉ちゃんとお話していたところだ。飛鳥を仲間外れにしたわけじゃないぞ?」


 現状で神矢の名前を出すと飛鳥は再びパニックに陥ると思い、適当に誤魔化した。それにしても……零達を含め、他の連中にどう説明したものか……


「ほんと? あすかかわいい?」


 キラキラした視線が今の俺には痛い……嘘を吐いてるからかもの凄く罪悪感を感じる


「ああ、可愛いぞ。なぁ? 藍お姉ちゃん?」


 俺は飛鳥が向けてくる子供の眼差しに耐え切れず東城先生へ話を振る


「うん。飛鳥は可愛いよ」


 てっきり無茶振りでアタフタするかと思われた東城先生だったが、そんな事はなく、普段通りの態度で平然と答えたのは意外だった。幼い頃に俺と遊んでいたのもあってか子供の扱いに慣れているようだ


「ほんと!? あすかかわいい?」


 リスのように頬を膨らませ私不機嫌ですと言った飛鳥の顔が一気に明るくなる


「うん。ねえ? 恭お兄ちゃん?」

「あ、ああ、もちろんだ!」

「やったー!」


 可愛いと言われた事が余程嬉しかったのか満面の笑みを浮かべる飛鳥。身体こそ大人だが、精神的には子供。そんな飛鳥の表情を見てこの表情を曇らせたくないと思う俺がいる。そんな俺の気持ちを察したのか東城先生がふとこんな事を言い出した


「子供っていいね。ねぇ? 恭?」

「全くだ」


 東城先生の言葉には素直に同意せざる得ない。子供はいい。笑顔を見て朗らかな気分になる


「恭お兄ちゃんはこどもすきなの?」

「まぁ……嫌いじゃない」


 子供が好きなのか? という質問は例え飛鳥の精神が大人であっても素直にうんと答えられない。だからお茶を濁して答える


「じゃあしょうらいはあすかが恭お兄ちゃんとけっこんしてあげる!」


 うん。ちょっと待とうか? 飛鳥さんや、何で子供好き=結婚の話になるのかな? 俺は理解出来ないよ


「あー、うん。飛鳥が大人になったらな」


 子供の提案を無碍にするわけにはいかず、俺は世のお父様方が使う常套句で回避を試みる


「うん! やくそく! あすかがおとなになったら恭お兄ちゃんはあすかとけっこんしてね!」


 回避……出来たのか? とりあえずは回避成功という事にしておこう


「ああ、飛鳥が大人になって俺との約束を覚えていたらな」


 子供の記憶力を侮ってはいない。しかしだ。子供から大人に成長するにつれて忘れてしまう場合だってある。今は元に戻った時に忘れてくれているのを素直に願おう


「うん!」


 お茶を濁す形で終わらせられてよかった……と思ったのもつかの間。殺気を含んだ視線を我が担任から感じ、恐る恐るそちらを向くと……


「恭。後でお説教だから」


 冷ややかな目で俺を見つめる東城先生がいた。しかもサラッと恐ろしいワードを呟いた


「わ、分かりました……」


 東城先生の凍てつく視線には逆らえず俺は大人しく従うという選択をせざる得なかった



 飛鳥の精神が子供に戻ってしまった以上、通常通りに授業を受けるのは不可能だと判断した東城先生の指示により、俺と飛鳥は早退を指示された。単位?東城先生曰く今回の件は学校側に全面的な責任があるって事で公欠扱いにしてくれたから問題ない。


「えへへぇ~、恭お兄ちゃんといっしょだぁ~」


 身支度を済ませ、学校を出た俺は琴音に早退する旨と加賀を迎えに寄越してほしいという旨を伝え、現在、加賀を待っている。そういえば阿由菜さんのパートや娘達の学校の件についてと車の話を忘れていたが、それはまた今度だ。今は一刻も早く家に帰るのが先決だ


「はしゃぎ過ぎて道路に飛び出すなよ?」

「うん!」


 実年齢は俺より飛鳥の方が年上なのだが、今の飛鳥を見てると自分に妹が出来たんじゃないかという錯覚に陥る。主な原因は飛鳥の言動によるものが大きい


「あの女を叩き出すか、それとも再起不能にするか……」


 神矢想子を星野川高校から叩き出すにはアレを黙らせられるほどの人物を用意するしかない。だが、ぞんな人物が……いるにはいるな。俺の身内に一人。それは最終手段としてだ。再起不能にするとは言ったものの、どうしたらいいのやら……


「婆さんに頼めばアイツを叩き出すのは簡単だ。だが……」


 神矢想子を星野川高校から叩き出したとしても自分達が安全になったというだけで別の学校に常勤あるいは非常勤として赴任し、同じ事を繰り返さないとも限らない。


「アイツの考え方を変えない事には同じ事の繰り返しだぞ……」


 星野川高校から出て行ってくれるのなら俺や飛鳥にとってこれ以上ないってくらい有難い。


「叩き出すのは止めとして、再起不能にする方向で考えるとしてだ。奴の精神ないし考え方を破壊するにはどうするかだよなぁ……」


 俺は心理学専攻でも何でもないただの高校生だ。そんな俺に人の精神を破壊する方法なんて分かるわけもない


「結局は打つ手なしって事か」


 全くないというわけではない。ただ、今まで爺さんと婆さんの力を当てにし過ぎていたところが少なからずあった。今回の件に関しては誰にも頼らず俺一人で解決するべきだ


「何が打つ手なしなんだ? クソガキ?」


 聞き覚えのある声、覚えのある呼ばれ方。俺は声のした方向を向く


「加賀か……」


 そこにいたのは加賀。雇われの身でありながら敬語を使わず、“クソガキ”だなんて呼ぶのは一人しかいない


「おう。飛鳥嬢ちゃんが大変な事になったって聞いて迎えに来て見りゃ想像以上の変貌でビビったぞ……」


 ビビったという割には動揺しているように見えない


「その割には動揺が見られないんだが……」

「“あっ! 加賀おじちゃん!”って言われた時点で“ああ、こういう事か”って察した」

「そうか。察してもらって何よりだよ」


 加賀から事態を察した理由を聞いて納得がいく。俺は飛鳥が加賀をどんな風に呼んでたかなんてのは全く分からない。しかし、会って開口一番が“加賀おじちゃん”だなんて衝撃的過ぎる。どんな状態になったかなんて聞くまでもない


「そんな事よりも早く乗れ」

「あ、ああ、悪い」


 俺と加賀は車に乗り込んだ。車はすぐに発車し、三十分程度で家に到着。飛鳥と俺は加賀に一言礼を言い、琴音の待つ部屋へと向かった


「どうしたの?」


 部屋の前に着き、飛鳥はなかなか部屋に入ろうとしない俺を首を傾げキョトンとした顔で見る。俺が現在進行形で困っている事など知らぬ存ぜぬ。そう言ってるようにも捉えられた


「別に何でもない。さぁ、琴音お姉ちゃんが待ってるだろうからさっさと入るか」

「うん!」


 琴音が発狂するか否かは運否天賦に任せ、部屋へと歩を進める。自分が生活する部屋に入り、いつも顔を合わせている人間に会うってだけなのに運に頼る日が来ようとは夢にも思わなかった。こりゃ飛鳥の両親に過去を聞く必要があるな


「た、ただいま~……」

「たっだいまぁ~!」


 帰りが遅くなるって伝え忘れた夫のような俺と元気な飛鳥。俺らのテンションの差は歴然。方や暗く、方や明るい。俺は何も後ろめたい事をしてないのに何で帰宅するだけでこんなにビクビクしなきゃならないんだ?


「お帰り、恭くん、飛鳥ちゃん」


 出迎えてくれた琴音はいつもと同じだった。まるで何も聞いてないかのように


「あ、ああ、ただいま、琴音」

「ただいま! 琴音お姉ちゃん!」


 琴音があまりにもいつも通り過ぎて俺は若干の不安を覚える。琴音に限って無関心だとは思わない。俺の予想でしかないが、飛鳥がいなくなった瞬間、あるいは夜あたりに抑えていた何かが爆発しそうだ。それは琴音だけじゃない。東城先生もだ


「うん、おかえり。ご飯出来てるけど、恭くん食欲ないんだったよね?」


 普段と変わらない様子の琴音。変わらなさ過ぎて怖いくらいだ


「ああ……悪いが俺はちょっと具合悪いから寝てていいか?」


 朝から食欲がなく、学校に行ったら行ったで飛鳥が子供返りしてしまった。前者は単なる夏バテと言ってしまえばそれまでだ。後者は洒落にならない。下手したら一生このままって可能性もある


「うん。あっ、おにぎり預かるよ」

「悪いな……」

「ううん。飛鳥ちゃんが大変な事になって疲れてるでしょ? それに比べればこんな事なんでもないよ」


 靴を脱ぎ、今朝コンビニで買ってきたおにぎりを琴音に預け、リビングへ向かう。リビングへ着いた俺は畳んであった布団を敷き、毛布を頭から被った。保健室で散々寝たというのに布団に入ってから五分もしないうちに意識は夢の中だってんだからビックリだ

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