自分がゴミ箱へ放り込んだ手紙をご丁寧にも回収した奴がいたとしたらどう思う? 俺はソイツをストーカー認定するだろう。
「何で捨てたはずの手紙があるんだ?」
風呂から上がり、部屋に戻ると零と闇華がテーブルを挟んで座っていた。俺は向かい合う形で座ると捨てたはずの手紙が置かれている理由を尋ねた
「何でって恭が封も開けずに捨てたからでしょ!」
俺のものをどうしようと零には関係ない。俺が貰った手紙を封も切らずに捨てようと零には何の関係もないのだ
「俺が貰った物をどうしようと俺の勝手だろ? それを捨てて何か問題でもあんのか?」
そもそも、捨ててあるものを拾うなって話なんだけどな
「恭君、その手紙はお義母さんとお義姉さんが書いたものじゃないんですか?」
「だったら何だ?」
「い、いえ、何でもありません……」
「そうか。それより、捨てたはずの手紙が何であるのか聞かせて貰おうか」
俺が手紙を捨てた時は封を切らなかった。回収された手紙を見る限りじゃ封を切られた感じはなく、回収したのが闇華なのか、零なのかは不明だが、ゴミ箱から回収した後も封を切らずにテーブルの上に置いたみたいだ
「そ、それは……」
手紙を回収した理由の説明を求めると何故か言いよどむ闇華。回収したのは闇華じゃないのか?
「それは何だ? 闇華が回収したわけじゃないのならそれはそれでいい」
今話しているのは闇華だ。しかし、話をしているからと言って手紙を回収した実行犯とは限らない
「私も零ちゃんも回収したくて回収したわけじゃありません……」
闇華の言い分に零はコクリと頷く。好き好んでゴミ箱に放り込んだ手紙を回収したのではないとしたら何のために……
「じゃあ、何の為に回収したってんだよ?」
コイツ等は他人が捨てたものを回収する趣味でもあるのか?
「別にアタシ達だって好きで回収したわけじゃないってのはさっき話したわよね?」
「ああ」
「恭がお風呂に行ってる間に藍のところへアンタのお父さんから電話があったらしいのよ」
「それで?」
「それで詳しい事は分からなかったけど、慌てた様子で手紙を探していてアタシがそれをゴミ箱の中から見つけた。さすがに捨ててあったんだからまた捨てようとしたら藍が『恭ちゃんのお父さんがその封筒は重要なものだって言うから捨てないで』って言ったから仕方なくテーブルの上に置いておいたの」
なるほど、捨てた手紙を回収させたのは東城先生もとい親父だったか
「事情は分かった。で?その東城先生はどこに?そういや琴音や飛鳥、双子もいないようだが?」
昼飯の後片付けをしているとしたら時間が掛かり過ぎているし俺は食うものを頼んだ覚えがない。晩飯の準備と言えばそれまでだが、今の時間から準備するか?
「あの子達なら藍に連れられて一階の東玄関に行ったわよ?」
東城先生が琴音や飛鳥、双子と共に玄関に行った意味が分からない。何か届けてもらう物あったか?
「玄関?何で?」
「知らないわよ。何でも急遽お客さんが来るから出迎えに行くって言って琴音達を連れて行っちゃって何も聞かされてないもの」
東城先生の知り合いでいきなり来る客……千才さんくらいしか思いつかない。
「そうか……東城先生にも付き合いってのがある。その辺には触れないでおいてやるか。さて、俺に行ってゲームコーナーでゲームでもするか」
夕飯まで大分時間がある。それまで寝てるのも退屈なのでゲームコーナーにてゲームをと思い立ち上がった時だった
「悪いけどそうはいかないよ。恭ちゃん」
琴音や飛鳥、双子を引き連れ玄関に行っていた東城先生がいた
「何でだよ? 夕飯まで大分時間がある。だったらゲームコーナーに行ってもいいだろ?」
夕飯直前なら止められても文句は言わない。だが、今は夕飯前。俺がどこで何をしようと勝手なはずだ
「よくないよ。恭ちゃんはこれから話し合いをするの。だから、悪いけどゲームは諦めて」
話し合い ?そんなの誰とするんだよ?
「話し合い? 俺には話し合う相手も話し合う事もない」
「いいや、あるよ。今から相手を連れてくるから待ってて」
俺が言葉を発する間もなく東城先生は出入口の方へと歩いて行った。
「恭くん……」
東城先生を待っている間、琴音が俺を見る目は悲しみの色に染まっていた。どうして悲しそうな目で俺を見つめるのかは全く理解出来ない。琴音を悲しませるような事をしたか?
「お待たせ、恭ちゃん。この人達が話し合いをする相手だよ」
東城先生が連れてきた話し合いの相手は俺が知る人物達。何しろ俺はその人物達と昼間一緒にいたんだからな
「へぇ~、俺が電話に出ないとなったら次は東城先生を頼ったのか? なぁ……? 親父」
俺の前に現れたのは顔を腫らした親父、女性、盗人。所々に貼ってある絆創膏や巻かれている包帯を見ると病院に行かないまでも手当てが必要なケガだったみたいだ。いずれも俺が興味も関心もない人物達だからどうでもいいけど
「恭……お前、手紙を読まずに捨てたらしいな……」
「ああ。気が向かなかったからな。それに、病的にまで娘命になった奴の言う事を素直に聞くと思ってんのか?」
俺の話を優先させはしない。ただ娘を可愛がり過ぎて悪い事をしても叱らないのはどうかと思うってだけで
「それは……すまなかった」
「あー、うん、そうだね。もういいか? 俺は実家で溜まったストレスを発散させてーんだ」
親父達と話し合っても実家にいた時と同じで話し合いにならないのは目に見えている。茶番に付き合ってやるほど俺は優しくない
「は、灰賀……」
「きょ、恭君……」
親父の脇を通り抜け、部屋から出て行こうとする俺を悲しい顔で見る盗人と女性。親父も親父で俺を止める様子はなく、ただ黙って見つめている。
「待って! 恭ちゃん!」
誰にも止められず部屋を出て行けると思っていた時、東城先生の叫び声が部屋に木霊した。これには親父達だけじゃなく、零達も驚いたようで目を見開いて東城先生を見た
「何だよ?」
「話し合いはまだ終わってないよ?」
「終わったさ。娘命のバカ親が言った事を素直に聞く息子なんていないって言う形で決着が着いただろ。これ以上話し合う事なんて何もない」
「あるよ! 恭ちゃんにはなくてもおじさん達にはあるんだよ!!」
めんどくせぇ……
「そうか? 俺にはないように見えるぞ? それに、俺はちゃんと言われた通り実家に帰り、再婚の話も聞いた。それだけじゃなく、ちゃんと再婚していいって言ったぞ。親父達の望み通りな」
自分達の思い通りになったというのにこれ以上何を望むんだ?
「恭ちゃん、おじさん達は恭ちゃんに謝りたいって言ってた。おじさんは娘を庇い立てして話を碌に聞かなかった事を、由香ちゃんは過去に恭ちゃんの大切な物を奪い取った事を、夏希さんは娘のした事をそれぞれ謝りたいって」
「で? 謝って何になる? 別に謝らなくていい。俺の前から消えてくれさえすればそれでいい」
俺が嫌な思いをするから消えろと言っているわけじゃない。興味のない人間に関わっている時間が勿体ないから消えろって言ってるだけだ
「恭ちゃん……」
東城先生が哀れみの視線を向けてくる。目は口程に物を言うとはこの事で東城先生は口に出す事はしないが、俺を憐れんでいるのは容易に理解出来た
「何と言われようとも俺は話を続けるつもりはない」
東城先生が親父に何を吹き込まれたのかは知らない。しかし、親父と女性はともかく、盗人のした事は法的に見ると許されるものではないのは明白だ。学校という組織内だからイジメだなんて可愛い言葉で片付けられる。しかし、社会人がやったら普通に警察沙汰だ
「恭ちゃん、おじさんや由香ちゃん、夏希さんと仲直りする気ある?」
東城先生は何を聞いてるんだ?そんなの……
「全くない。つか、興味もないから」
東城先生は前提として間違っている。仲直りとは仲が悪くなっていた者同士が再び仲良くなる事だ。俺と親父の仲は大して良くないし、女性とは仲直りする仲ではない。盗人とは仲直り以前の問題だ
「恭!! アンタ!!」
東城先生が何も言えず黙り込んでしまい、ようやくこのアホみたいな茶番から解放されると思った矢先、零がツカツカと俺の方へやって来て胸倉を掴んだ
「何だよ? 零。文句あんのか?」
「あるわよ!! アンタ、よく家族を邪険に扱えるわね!! 家族に対する情ってものがないの!?」
家族に対する情か……面白い事を言うんだな
「家族に対する情ねぇ……ふっ……」
「何が可笑しいのよ!! アンタはアタシや闇華と違って家族がいるのよ!? 帰る場所があるのよ!?」
零の叫びに闇華は目に涙を貯めて頷く
「家族……帰る場所……面白い事を言うんだな」
「面白い? 何が面白いって言うのよ!! アタシは真剣に─────」
「なら教えてやるよ。俺が親父達やお前らに何を思っていたのかをな」
「な、何を─────」
零はもちろん、この場にいる全員の顔が驚愕の色に染まる。そりゃそうか
「何をって俺がどうして見ず知らずで金も家も伝手もない零や闇華、琴音を家に置き、飛鳥や双子が家の庭に迷惑な段ボールハウスを作っていても咎めなかったか? 親父が再婚する相手の連れ子が過去に自分から大切な物を奪った奴であるにも関わらず怒らない理由だよ」
本性を明らかにする時が来ただなんて言わない。今まで誰も聞かなかった事を明らかにするだけだ
「恭がアタシ達を拾った理由なら散々聞かされたわ!! 家が広くて部屋が余ってるからってね!!」
「確かにその通りだ。俺がお前達を拾い家に置いてる理由は家が広くて部屋が余ってるからだ。だが、それだけで本当に見ず知らずで金もなく、家もなく、伝手もない。オマケに仕事もないお前達を黙って家に置くと思ってんのか?」
胸倉を掴んでいた手が離れる。闇華達の顔には『わけが分からない』と書いてあるが俺にとってはここからが最高に面白くなるところだ
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