朱莉さんと二人で物置部屋の整理という名目で東城先生の恥ずかしい動画を見せられた。その恥ずかし動画鑑賞会も東城先生が呼びに来る前に終わり、荷物の用意が終わった東城先生が呼びに来た頃には恥ずかしくて先生の顔をまともにみれなかった。そんな事があり、昼食のカルボナーラを摂っている今─────
「どうしたの恭ちゃん?顔赤いよ?」
「そうですよ? 熱でもあるんですか?恭君?」
「物置部屋を出てきてから様子が変だよね? 何かあった? 恭クン」
女性陣にめっちゃ心配されていた。何でこうなったんだろうなぁ……とりあえずここに至るまでの経緯を振り返るか
朱莉さんと物置部屋を整理という名の動画鑑賞会が終わってすぐ─────。
「恭的にどうだった? 藍の恥ずかしい動画を見た感想は」
動画鑑賞会がやっと終わり、目の前にはニマニマと笑みを浮かべる朱莉さん
「感想を求めないでくれませんか? とてもじゃないですけど恥ずかしすぎて感想なんか言えません」
よく言うと東城先生の意外な一面を知れた。悪く言うと健全な高校生たる俺にとっては精神衛生上非常によろしくない担任の姿を見た。それしか浮かばなかった
「え? どこが恥ずかしかったの? ねぇねぇ」
おちょくっとんのか? このオバハン? 目の前にいるオバハンをぶん殴りたいという衝動をグッと堪え、努めて冷静に対応した俺。爺さんや親父だったらマジでぶん殴ってるところだ
「どこが恥ずかしかったかはノーコメントで」
「釣れないなぁ~、教えてくれてもいいのにぃ~」
それを教えると動画の内容を全部話す事にもなり、自分で自分の首を絞める事にも発展しかねない
「嫌ですよ。恥ずかしすぎますし」
「ぶ~! ケチ!」
ケチとかそういう問題じゃない。羞恥心に関わる問題だ
「ケチで結構」
「ぶ~! ぶ~!」
「いい歳して子供みたいな事しないでください。それより、女性陣は荷物整理は順調に進んでるんでしょうか?」
朱莉さんがぶー垂れ始めたところで俺は話題を変えた。面倒な事が嫌いだが、面倒な女はもっと嫌いなのが俺だ。例えば、すぐ泣く女とかな
「さぁ? さすがにもう終わってるんじゃない? こっちは二人だけどあっちは三人なんだから」
物置部屋を整理するのは俺と朱莉さんの二人だけ。荷物を詰めるのは闇華、飛鳥、東城先生の三人。三人いりゃすぐに終わる。そう思っていた。そこへ─────
『お母さん、恭ちゃん、お昼出来たよ』
ドアをノックした後に外から東城先生の声がした。どうやら荷物を詰め終わった東城先生達は俺達を呼びに来ず、昼食の用意をしていたらしく、その昼食が出来たから呼びに来たようだ
「分かった。すぐ行くから藍は先に降りてて」
『うん。お昼はカルボナーラだから』
東城先生が物置部屋の前から離れていく足音がした。この時の俺は東城先生の顔をまともに見られるのか?それだけしか考えられないでいた
「カルボナーラだって、恭」
「みたいですね」
「伸びると悪いから下に降りよ」
「そうですね」
昼食のメニューがカルボナーラという事で俺達は居間へ向かう事に。
居間にやって来た俺と朱莉さん。昼食で居間に集まっているという事は闇華と飛鳥がいる。ここは東城先生の実家だから当然、東城先生もいる。あの東城スペシャルムービーを見た俺が件の東城先生と鉢合わせしたらどうなるか─────
「どうしたの? 恭ちゃん?」
東城先生の姿を見ただけで顔が熱くなった。念のために言っておく。異性として意識したとかじゃない。それとは別の事で意識した
「べ、別に、何でもないぞ」
「それならいいけど」
東城先生には俺が顔を合わせられない理由なんて毛ほども想像出来ないだろう。っていうか、その理由を知ったら悶絶するに違いない
東城先生に呼ばれて居間に来た俺は彼女の顔をまともに見る事が出来ず、そのまま昼食タイムとなり、未だに東城先生の顔をまともに見れないでいる。
「恭ちゃん、熱でもあるの?」
原因はアンタの恥ずかしい動画を見たからだよ!とは言えず俺は……
「力仕事して身体が火照っただけだから気にすんな」
物置部屋の整理という建前を上手く使い、適当に誤魔化した
「「「ふ~ん」」」」
納得がいかないと言った感じで東城先生だけじゃなく、闇華と飛鳥もジト目で見ていた。コイツ等はどうやら俺と朱莉さんが人には言えない事をしていたと思ってんな?
じりりりりん! じりりりりん!
何の前触れもなく俺のスマホが鳴る。着信画面を見ると『親父』と表示されており、何もなければ『応答』をタップするのだが、今は食事中だ。悪いとは思いつつ『拒否』の方をタップした
「恭君、電話、誰からだったんですか?」
「親父から」
「出なくてよかったの? 恭クン?」
「今は食事中だからな。長くなる可能性もあったから今は切っただけだ。後で折り返すさ」
爺さんからゴールデンウィークに実家へ帰れと言われた。なんでも親父から話があるらしい。親父からの話がどんなものかは知らない。もしかしたら大した話じゃないかもしれないし、重大な話かもしれない。それは神のみぞ知る
俺は早々にカルボナーラを平らげ、“ごちそうさん、物置部屋に行ってくる!”と居間にいた全員に言い残し、物置部屋へ
物置部屋に来た俺は電話帳から親父の番号を呼び出し、電話を掛けた
1コール──────────
『もしもし、恭か?』
親父は1コールで出た。声のトーンがいつもと違うが……余程重要な話なのか?
「ああ。さっきは電話に出れなくて悪かったな。今藍ちゃんの実家に来てて電話があった時に飯食ってたんだ」
『飯食ってたなら仕方ない。それより本題に入っていいか?』
「ああ」
『恭、五月二日の土曜日、家に帰って来い』
五月二日の土曜日。ゴールデンウィークの初日だ。爺さんが親父から話があると聞かされていたからゴールデンウィークのどこかで実家に帰るつもりではいた。だから家に帰って来いと言われても思う事は特にない
「それはいいけど、話でもあんのか?」
『あ、ああ、まぁ、そうだな』
何とも煮え切らない親父。話があるのは爺さんから聞いてて知ってる。それを考慮して親父の反応。何かあるに違いない
「話があるってならその話の触りだけ今聞きたい」
『あ、いや、そうだな……恭、実はな─────』
親父の話を聞いた俺は答えに困り果てる事になった
「恭、随分変わったね」
「「「え?」」」
お昼を終え、その後片づけを終えたお母さんがお茶を啜りながら唐突に呟いた。お母さんがお昼ご飯の後片付けをしてたのは本人曰く『やってもらってばかりじゃ悪い!』という理由で。その後片づけも終わり、今はみんなでお茶を飲んでいる。
「藍達が驚くのも無理はないか。会わないうちに大きくなったし。でも、それだけじゃない。恭は変わったよ」
お母さんが言う変わったの意味が理解出来ない。そりゃ昔に比べると背が伸びた。身体つきもしっかりしてきた。でも、お母さんが言う変わったというのはそんな安直なものじゃないと思う
「恭ちゃんだって成長してるから変わるのは当たり前でしょ。背丈だって伸びるし身体も大人に近づいていく」
私の答えを聞いたお母さんは深い溜息を吐き、一呼吸置く
「藍、私が言ってるのは背丈がどうとか、身体がどうとかじゃないよ。心……もっと言うなら他人に対しての認識だよ」
他人に対しての認識……お母さんは何が言いたいの?
「朱莉さん、私は昔の恭君を全く知りません。ですから昔の恭君はこんなだった! とは言えません。なので昔の恭君と今の恭君ではどう違うのか詳しく教えてください!」
「闇華ちゃんの言う通りです! 昔と今の恭クンじゃ何が違うんですか?」
闇華ちゃんと飛鳥の言う通り昔の恭ちゃんと今の恭ちゃんじゃ何が違うのかハッキリ教えてほしい
「藍がお茶を入れてる間、闇華ちゃんと飛鳥ちゃんの自己紹介が終わった時、二人と藍を含めて恭が現在住んでる場所に同居している。そう言ってたよね?」
「「はい……」」
「うん。それがどうかしたの?」
私がお茶を入れている間に恭ちゃんと闇華ちゃん達は一緒に住んでいるという事を話してたんだ……
「住む場所は広すぎるから空いてる部屋を提供すれば何の問題もない、飛鳥ちゃん家のお父さんの仕事はお爺さんがたまたまドライバーを探していたから紹介したまで。全て偶然だって恭は言ってたけど……藍達は恭の口から自分達がどんな存在なのかって聞いた事ある?」
お母さんが何を言いたいのか理解出来なかった。自分達がどんな存在かだなんて聞いた事がなかったから
「私はないよ。闇華ちゃんと飛鳥は?」
「わ、私もないです……そ、それより、闇華ちゃんは? 私達より長く恭クンと一緒に住んでるなら一度くらい自分達がどんな存在かって聞いた事あるでしょ?」
「飛鳥さん、残念ながら私も零さん、琴音さんも恭君からどんな存在かだなんて聞いた事がありません……」
私達は恭ちゃんと一緒に住んでるにも関わらず自分達がどんな存在かを本人の口から聞いた事がなかった。
「私も恭と話している時に飛鳥ちゃんが今の家に住み始めた経緯と父親の再就職に至る経緯を聞いたよ。住む場所に関してはさっき言った通り広すぎるから提供した、仕事に関しては祖父が探していたから声を掛けたって言ってた」
住む場所と飛鳥の父親が再就職した経緯はさっきも聞いた。だけど、それが何だと言うんだろう?
「それはさっきも聞いたよ。それが何だって言うの?恭ちゃんは部屋が余ってるから、広すぎるから提供してくれた。仕事の事だって恭ちゃんのお爺さんが人を探していたから失業中だった飛鳥のお父さん達を紹介したんでしょ」
恭ちゃん本人からすると全て偶然。私はともかく、零ちゃん達はその偶然で今の居場所を確保し、人並みの生活を送る事が出来ている。
「そうだね。でも、考えてみるとおかしいと思わない?藍にしたって闇華ちゃん、飛鳥ちゃんにしたって恭が強く断れば家なし、金なしのままだったんだよ? でも、恭はそれを断らなかった。闇華ちゃんや他の子がどうして恭と一緒に住む事になったかまでは知らないけど、普通は何かしらの見返りを求めると思う」
お母さんの言っている事は正しかった。家主は恭ちゃんだから私の同居も闇華ちゃんと飛鳥だけじゃなく、零ちゃん達の同居も断ろうと思えば断れた
「あ、朱莉さんは何を言っているんですか? 恭君は私達を助けてくれたんですよ!? それのどこがおかしいって言うんですか!?」
「闇華ちゃんの言う通りです! 恭クンは優しいから私達を助けてくれたんです!」
闇華ちゃんと飛鳥の言う通り恭ちゃんは昔から優しかった。見ず知らずの人に手を差し伸べるのは今も昔も変わってない。幼い頃に人助けをした理由を聞いた時だって『困ってる人がいたら助けるのは当たり前だよ!』なんてあどけない笑顔を浮かべて言ってた
「そうだね。恭は確かに優しいよ。でも、何で自分達を住まわせてくれるのかって事を聞かないといずれ取り返しの付かない事になると思うよ」
お母さんの言う取返しの付かない事とは何なんだろう?恭ちゃんが変わったって言うのと何か関係があるのかな?私はそれが気になっていた
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