通信制高校────何等かの事情で中学校に通えてなかったり、普通高校に通っていたけど退学してしまったりとここに来る奴には様々な事情がある。今出したのは一つの例であり全てではない。またチラシやホームページには転入生随時募集と記載がある事から入試をクリアすれば好きな時期に転入が可能だったりする。
「何でアイツ等が……」
自己紹介が遅れたが、俺の名前は灰賀恭。星野川高校一年B組に所属する高校生。そんな俺が現在直面している問題がある。それは……
「じゃあ、由香は恭の隣の席、祐介は廊下側の一番後ろの席だから」
親父が再婚した相手の娘とその彼氏(?)が俺の所属するクラスに転入してきたって事だ。人間どう転べばこんな状況が作れるんだ?
「え、えっと……よろしく……」
俺の隣に来た盗人女……面倒だから由香と呼ぶ事にしよう。その由香が隣の席でモジモジしてる。
「はいはい、よろしくー」
ゴールデンウィークにあった一件で俺がコイツに言った事は義姉として認めない、自分が過去に犯した事を十字架として背負って生きていけって事だけで俺に関わるなとは一言も言わなかった。てっきりあの日を最後に会う事なんてほとんどないと思ってたからな。
「う、うん……」
なのに蓋開けてビックリ! 久々に登校したら転入生として俺のクラスに来たんだから声も出ない
「はぁ……どうなってんだよ……」
マジで勘弁してくれ……中学時代部屋に引きこもり、学校なんてほとんど行かなかった。結果、当時の成績じゃ普通高校に行くのは無理だって事で星野川高校を選び、同級生に会う事なんて滅多にないと思っていたらこれだ……神は俺に何の恨みがあるんだ?
「た、溜息吐くと幸せ逃げるよ……?」
「黙れ。誰と誰のせいで溜息吐いてると思ってんだよ……」
会う事のないと思っていた奴らが転入生として自分のクラスにやって来てその一人が隣の席。運命の悪戯とは恐ろしい
「ご、ごめん……」
俺の言葉に俯いてシュンとしてしまう由香。扱いづらいったらありゃしない
「謝れって言ってないだろ。それより、何でここにいるんだよ」
由香の誕生日がまだなら俺と同じ歳で高校に入学してからまだ一か月くらいだ。だというのにウチの高校に転入してきた。考えられるのは通っていた高校を退学したか、浪人して入れそうな高校を探した結果、ここになったかのどちらかだ
「あたしの通ってた高校さ……荒れてて授業どころじゃなかったんだよね……で、ちゃんと勉強したいと思って辞めたんだけど、どこの高校も五月に転入生を募集してるところなんてなかった。それで……」
「ウチの高校を親父から紹介されて来たってわけか」
「う、うん……」
コイツが高校を辞めた理由と転入してきた理由は分った。でも、何で俺のクラスなんですか?誰がクラスを決めたんですか?
「同じクラスで学年全体の人数が少ない以上関わるなって無理だ。だが、余計な事は言うな。お前が俺にした事や中学時代の深い部分、ゴールデンウイークに俺がお前を殴った事は絶対にな」
「わ、分かった」
俺の通う高校はクラスこそ三つに分かれてはいるものの、一クラスの人数は微々たるもの。三クラス合わせてようやく普通高校のクラス二つ分を超えるかどうかだ。そんな環境で特定の人間と関わらないほうが難しい。だから俺は過去の深い話とゴールデンウイークの出来事を話さないという制約を突きつけた。当然、俺も言うつもりは全くない
衝撃展開の後に始まったHR。俺は東城先生が何を話したか、今日一日の流れやその他の重要であろう話を全て聞き流し、現在……
「とりあえず校舎を見て回るとするか」
教室を出た俺は転入生二人を全力で放置し、校舎を見て回っている。元はスーパーマーケットだった場所だ。迷う事はない。何よりこのスーパーだった店舗は一階建てだから他の階に上るという事をしなくて済む。体力のない人には大変有難い作りとなっている
「まさか転入生として瀧口バカップルが来る事になろうとは……」
転入生の自己紹介とその後のHRが終わったというのに未だ現実を受け入れられないでいる俺。この学校に入学したのはある種のリセットを兼ねていた部分があったから当たり前と言えば当たり前だ
「関わらない事を祈るか」
転入してきてしまったものは仕方ないと諦め関わらないようにしよう。リア充したいなら勝手にしてくれ。俺はリア充は嫌いじゃないが、面倒なんだ
「とりあえず職員室だな」
爺さんから新校舎の具合を調べろとは言われてない。これは俺の個人的な活動だ。自分が三年間通う校舎だから不備があっては困るしな
────────職員室。
「失礼します」
扉が全開だった為、ノックせず挨拶だけ済ませて職員室内へ入る
「どうしたの? 恭」
出迎えてくれたのは案の定東城先生。職員室へ来ると毎回東城先生に出迎えられている気がするのは気のせいか?
「不備がないか確認しに来ました」
生徒の……まして高校一年生の言う台詞じゃないのは自覚している。整備した業者がいい加減な仕事をしたとも言わない
「今のところはないよ。その代わり恭にお礼を言いたいって人がいるから来てもらっていい?」
お礼を言いたい人? 誰だ?
「はい」
お礼を言われる事をした覚えは全くないが、人の気持ちはちゃんと汲み取ってやるものだと思い東城先生に付いて行く事にした
東城先生に連れられてやって来たのはセンター長の席。おっと、何で校長と呼ばずにセンター長と呼んでるかをまだ説明してなかったな。この星野川高校は日本全国にある通信制高校だ。ここの正式名称は星野川高等学校女将学習センター。だからセンター長と呼んでいる
「センター長、この建物を提供してくれた灰賀君を連れてきました」
「うん! ご苦労様だよ! 藍ちゃん!」
入学式の日、遠目から俺はセンター長の姿を確認し、夢と現実の狭間を彷徨っていたとはいえ聞いてた声が女性のものだから姿形はともかく、女性だとちゃんと解っていた。解っていたのだが……
「武田先生、藍ちゃんは止めてください」
「え~! いいじゃん! 藍ちゃんって呼び方可愛くない?」
「可愛くありません」
背が小さく、顔は童顔。言動は子供っぽいとは思ってなかった。ネームプレートとスーツ姿で辛うじて教員免許を持ち、ここにいる教師達の中で一番偉いんだって解る。見た目は完全に小学生だけど
「藍ちゃんのいけず~」
「いけずじゃないです。それより、この建物を提供してくれた灰賀君を連れてきましたよ」
東城先生と武田センター長のやり取りは完全に姉妹のそれで俺はそれを黙って見ているしかなかった。そんな時、東城先生が俺を紹介するという暴挙に出た。何でこのタイミングなの?
「うん! ありがとう! 藍ちゃん!」
「だから、藍ちゃんは……もういいです」
はぁ……と溜息を吐いた東城先生。顔からは完全に諦めの色が窺える
「灰賀君」
先ほどまで東城先生と姉妹のようなやり取りをしていた武田先生の口調が急に真面目なものへ
「はい」
「この度は我が校を救って頂きありがとうございました。センター長としてお礼申し上げます」
武田先生が頭を下げる。この人、ちゃんとしてるとこではちゃんとしてんのな
「頭を上げてください。俺はただ祖父から押し付けられそうになった空き店舗を提供しただけです。礼ならここを整備した業者に言ってやってください」
俺は爺さんから押し付けられそうになった空き店舗を校舎が燃えて困っているだろう星野川高校に押し付けたに過ぎない。礼を言われる筋合いがないのだ
「で、でも、灰賀君がここを提供してくれてなかったら今頃途方に暮れてた。だから……」
「さっきも言いましたけど祖父に押し付けられそうになった空き店舗を校舎が燃えて困っていた星野川高校に提供しただけです。それでも何かしたいと仰るのなら愚痴聞いてもらうくらいでいいです」
俺の愚痴は主に爺さんの事なんだけどな
「そ、それくらいでいいなら」
「それくらいでいいんですよ。さっきのお礼は素直に受け取りますが、正直なところ学校の校舎が燃えてなければ今頃俺はこの店舗の使い道に困ってましたから」
校舎が燃えてなければ今頃俺はこの店舗を爺さんに押し付けられ使い道に困り果てていたところだというのは本当だ。何しろ自分の一人暮らししている場所が場所だからな
「そ、そうなの?」
「ええ、祖父は後先考えずに空き店舗を買う悪癖を持っています。で、押し付けられるのはいつも俺! とっとと壊して駐車場にするなり新しく分譲マンションでも建てりゃいいのにギリギリまで粘る! それが祖父なんで困ったものなんですよ」
さすがにセンター長だって仕事中だと思い、爺さんの愚痴はここで止め、ここを提供した事に関しては気にしなくていいと伝えてから教室へ戻った。
「ははっ、一遍に言われると困るよ、一人ずつ順番に聞くから。ね?」
教室へ戻った俺が見た物は今日来たばかりの転入生。瀧口祐介がクラスの数少ない女子に囲まれいる姿だった。
「転入初日にラブコメ的展開に持ってくとは……」
女子に囲まれている瀧口を見てバカバカしいと思った俺はそのまま自分の席へ
「通信制高校で女子に囲まれるだなんてイベントを拝めるとは……」
通信制高校とラブコメは無縁のものだと思っていた。それがどうだ?瀧口は転入初日でもう女子に囲まれてやがる……ヤベェ……全く羨ましくない
「一時間目の授業なんだったかな?」
女子に囲まれている瀧口を遠目に一時間目の準備をする。
「一時間目は道徳だよ」
隣から先ほどまではいなかった奴の声が
「おっ、そうだった! サンキュー」
人のものを盗んだ奴でも教えてもらったり、拾ってもらったりした時は礼を言う。それが俺だ
「べ、別に……」
礼を言っただけなのに俯かれてしまったが、俺から関わる気など皆無なのでそれを放置し、授業まで寝……
「ね、ねぇ……」
れなかった。寝れない原因? そんなの隣の奴に決まってんだろ。言わせんな
「…………」
俺は時に睡眠を優先させる男だ! その時が今なんだ! っつー事で、寝る!!
「ねぇってば」
声を掛けられるも無視を決め込む俺。コイツと同じクラス、隣の席になったとしても相手にしてやる必要はないのだ
「ぐすっ……先生に無視されたって言いつけてやる」
高校生になって先生に言いつけてやるだなんて言ってのける天然記念物を俺は初めて見たぞ……
「んだよ? 俺は寝たいんだ! 話なら手短に済ませろ」
さすがに教師にチクられたら泣かせた俺が悪い事にされそうだから仕方なく起きて話を聞く事に。マジで今日は厄日だ……
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